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2010/02/13

ネコとネズミとペストの関係

 蓮実香佑著『おとぎ話の生物学 森のキノコはなぜ水玉模様なのか?』 (PHP新書)を読んでいたら、興味深い記述に何度も出合った。
 その一つについては、昨日、触れておいた。

Wain_cat

→ 画家ルイス・ウェインの描いた擬人化したネコ (画像は、「ネコ - Wikipedia」より。ルイス・ウェインの愛すべき、しかし悲劇の世界については、拙稿(「ルイス・ウェインの猫(その1)」や「ルイス・ウェインの猫(その2)」)を参照されたし。)

 今日は、違う話題を採り上げてみる。
 ペストとネズミ、ならぬネコとの関係である。

 ここでいうペストとは、全人口の三割が命を落としたという、14世紀のヨーロッパで大流行した、「罹患すると皮膚が黒くなる事から黒死病」とも呼ばれる、あのペストである。

 ペストという病気(伝染病)は、「ペストは元々齧歯類(特にクマネズミ)に流行する病気で、人間に先立ってネズミなどの間に流行が見られることが多い。菌を保有したネズミの血を吸ったノミ(特にケオプスネズミノミ)に人が血を吸われた時にその刺し口から菌が侵入したり、感染者の血痰などに含まれる菌を吸い込む事で感染する。人間、齧歯類以外に猿、兎、猫などにも感染する」という。

 この14世紀のヨーロッパで大流行したペストの流行の原因については、一般に、「(14世紀)当時、モンゴル帝国の支配下でユーラシア大陸の東西を結ぶ交易が盛んになったことが、この大流行の背景にあると考えられている」という。
1347年10月(1346年とも)、中央アジアからイタリアのメッシーナに上陸した。ヨーロッパに運ばれた毛皮についていたノミが媒介したとされ」、「1348年にはアルプス以北のヨーロッパにも伝わり、14世紀末まで3回の大流行と多くの小流行を繰り返し、猛威を振るった」という。

 ところで、蓮実香佑著『おとぎ話の生物学 森のキノコはなぜ水玉模様なのか?』 を読んでいたら、下記の記述に遭遇した:

 人に忌み嫌われるネコの習性は、歴史上、大きな悲劇を招く結果となった。中世ヨーロッパでは「魔女狩り」と称して、多くの無実の人々が死刑に処された。その影で、悪魔の手先とされたネコも大量に虐殺されたのである。
 しかし、それは悲劇の序章にすぎなかった。その後、中世から近世にかけてヨーロッパではペストが大流行し、無数の人々が病に倒れることになったのである。ペストの伝染源はネズミである。このペストの蔓延は、ネコを殺しすぎたためにネズミが大繁殖したことも原因の一つであると考えられているのだ。実際に、人々がネコを飼いだした頃にペストの流行も収まったと言われている。(p.75-6)

Africanwildcat

← イエネコの原種とされるリビアヤマネコ (画像は、「ネコ - Wikipedia」より)

 素直な小生、へえーと感心した。
 が、「ペスト - Wikipedia」(「ペストと魔女狩りの関係」の項)には以下の記述が見受けられる:

中世ヨーロッパでは、魔女狩りによって、魔女の手先だとされていた猫を大量虐殺した。そのためにネズミが大発生し、ネズミによって運ばれたペスト菌によってペストが大流行してしまったという説がある。しかし、これは誤りである。魔女狩りは、中世ではなく、近世17世紀の事件である。 ただし魔女狩りについてはペスト禍が去った後、欧州社会が何とかして人口を急速に回復させようとした方策のひとつであるとの説もある。前記がペストの原因をそれ(魔女狩り)とし、後記はペストの結果をそれ(魔女狩り)としたものである。これは伝統的に避妊、堕胎、嬰児殺しの専門的知識を有し、民衆に対して実践していた産婆を徹底弾圧することを狙いとし、彼女たちを魔女として排斥しようとした、とするものである。

 そうか、「ペストの蔓延は、ネコを殺しすぎたためにネズミが大繁殖したことも原因の一つである」というのは、著者の蓮実香佑氏の認識不足なのか…。

 が、「ペスト - Wikipedia」から引用文中にある、「魔女狩りは、中世ではなく、近世17世紀の事件である」というのは、時代的に妥当なのか、いささか疑問である。
魔女狩り - Wikipedia」によると、「もともと民衆の間から起こった魔女狩りは15世紀から18世紀までにかけてみられ、全ヨーロッパで最大4万人が処刑された」という。
 なるほど、ヨーロッパでペストが大流行した14世紀ではなく、魔女狩りは15世紀から18世紀までにかけてみられたという研究成果が出ているようだ。
魔女狩り - Wikipedia」では、「魔女狩りは、中世ではなく、近世17世紀の事件」というが、魔女狩りのピークが近世17世紀、ということか。

2010_0210071003tonai0013

→ 昨日(11日)の夜半、台所の勝手口のドアを開けて、雪景色を撮ってみた。こんな雪の中、せっせと新聞配達したのだ。

 しかし、肝心なのは、忌み嫌われることの多かったネコが、魔女狩りの横行と平行して虐殺されるようになったのか、あるいは、人への虐待より先んじていたのか、そもそも、ネコの虐殺の実態はいかなるものだったのか、この点の歴史研究の成果が分からないと、話を先に進められない。
 蓮実香佑氏の著書からの転記文の末尾に、「実際に、人々がネコを飼いだした頃にペストの流行も収まったと言われている」とあるが、忌み嫌われていたはずのネコが、一体、いつ頃、どういう契機でヨーロッパの人々に飼われだしたのか、実態(ヨーロッパにおけるネコの歴史)が分からず、諾否のしようもない。
 ま、いずれ、何かの折に関連の研究書を探してみることにしよう。


関連拙稿:
魔女狩り……出口なし! (前篇)
魔女狩り……出口なし! (後篇)

                             (10/02/12 作)

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コメント

 過去の歴史を見るとネズミは度々大発生している。原因はいろいろで、自然現象もあるが、畑作その他の開発が引き金になることもある。
 日本の宇和島地方の例では、戦後、食糧難により段々畑の芋作りと煮干しイリコの製造が急速に盛んになった事が原因になった。
 昭和24年夏から大増殖、駆除にもかかわらず規模が拡大、26年には推定80万匹に。薬剤、天敵、捕獲など様々の物が試されたが、どれもあまり効果が出なかった。結局、若者が都会に出て段々畑の耕作をやめた。昭和36年にようやく終息した。
 駆除したネズミの数は11年で86万1871匹。天敵として導入された猫は4392匹、薬剤による中毒死が多かった様である。
 鼠も、イナゴも大発生すると、対策は文字通り無駄な抵抗になる。といっても、何もしない訳にも行かない。
 中国では20億匹だそうだ。しばらく引越しをしてほとぼりが冷めるのを待つほうが良い様な気もする。

投稿: なる | 2010/02/26 14:42

なるさん

いろいろ教えていただき、ありがとうございます。


ネズミは(少なくとも古代ギリシャの昔から、多分、もっとずっと以前から)人間との深い関わりを持ってきたようです。
家畜とも関わりが大きいし、穀物とも。

やたらと繁殖力が強いから、人間にとっては、害獣であると同時に、ある意味、もっとも身近な小動物でもあったりする。

ネズミの歴史、なんて本があるかどうか分からないけど、ネズミと人間との関わりをテーマにした研究は、きっと相当にあるでしょうね。
まだまだ探求すべきテーマです。

投稿: やいっち | 2010/02/26 20:32

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