「1984年」のこと
[最初に断っておくが、「1984」のことであり、「1Q84」と混同しないように。…読み方としては、両者とも、「ichi-kew-hachi-yon」と読めなくもないが。尤も、著者の村上春樹としては、「執筆の動機として、ジョージ・オーウェルの未来小説『1984年』を土台に、近い過去の小説を書きたいと以前から思っていた」らしいし、敢えて<誤読>させることを狙っていると言えなくもない。ちなみに、小生自身は最初にこの題名を目にした時、てっきり「アイキュー84」と読むのだと思った。さすがは村上春樹だ、なんて。その後しばらくして、未来小説『1984年』を土台にしていると知って、ちょっとガッカリしたものだった。何にガッカリしたのか、うまく説明できないけれど。]
→ 富山市内某所のビルにて。窓越しに宵闇迫る光景を撮る。万感の思いを籠め。
1984(年)といって思い浮かべること、連想することは何だろうか。
まずは、やはり、イギリスの作家ジョージ・オーウェルの小説『1984年』だろうか。
原著は1949年の刊行らしいが、日本語訳は、最初は1950年代早々に出ているが、小生が読んだのは、1972年に刊行となった、新庄哲夫訳『1984年』(早川書房 ハヤカワ文庫〉で、学生時代のことだった。
記憶は曖昧だが、1975年前後に読んだ。
既に84年にもう十年弱となっていたが、それでも、二十歳前後の自分には十分過ぎるほど<未来>のことで、一定のリアリティを持っていた。
音楽に詳しい人なら、「ジョージ・オーウェルの『1984』をモチーフとしている」「デヴィッド・ボウイの7枚目のアルバムダイアモンドの犬の収録曲としての、『1984』などを思い起こすやもしれない(他にも同じ題名の曲(アルバム)がある)。
「1984年[ザ・20世紀]」によると、国際的には「柔道無差別級で山下泰裕が足を負傷しながら優勝」といった印象的な快挙で銘記されるロサンジェルス・オリンピックのあった年であり、国内的にはグリコ・森永事件が発生し、長野県西部地震があった。
極私的には、サラリーマン生活三年目を迎えており、オートバイ熱が(個人的にも日本においても)一層高まっていた。
小生が待望のナナハンライダーとなったのもこの年で、ツーリング熱真っ盛りで、関東各地へ旅して回った。
会社ではゴルフ熱が競馬熱と共にフィーバーしていて、小生も被れて仕舞っている。
また、会社では若手社員を中心に、会社の倉庫の一角で卓球が盛んに行なわれていた。
当時、ソビエト連邦では、アンドロポフ共産党書記長が死去し、チェルネンコが後任となったのだが、別にあやかったわけではないし、アカ熱に染まっていたわけではないのだが、卓球をする際、アンドロポフサーブだとか、チェルネンコスマッシュだとか、わけの分からない掛け声を投げ合っていたものである。
『1984』の世界が、というより懸念されていた架空の恐怖世界たる共産圏の筆頭の国の崩壊の序曲が始まっているという、ある意味、皮肉な年となった。
(実際、ジョージ・オーウェルの小説と絡めて世界情勢が盛んに論じられたものである。)
世界情勢に関連して言うと、経済大国日本の長期低迷傾向の始まりが翌年の1985年にあったと小生は思っている。
一般的には、90年のバブル経済の破綻が長期低落の端緒とされているようだが、どんな事件にも始まりがある。
導火線にがセットされ、火が点けられるためには、前段階が要る。
有名な「プラザ合意」が成ったのが1985年9月22日である。
理由は様々にあるが、いずれにしろ、実質的に円高ドル安に誘導する内容であったわけで、「日本においては、急速な円高による『円高不況』が懸念されたため、低金利政策が継続的に採用された。この低金利政策が、不動産や株式への投機を加速させ、やがてバブル景気をもたらすこととなる」わけである。
その後の日本経済の狂奔ぶりは語るまでもない。
導火線は点火されたのであり、適切な対処は日本の当局によっても政治家によっても打たれなかった。
日本は、高度経済成長どころか、超高度まで、極楽の高みまで登り詰め、やがて一気に地獄へ突き落とされた(日本自らの不手際もあって)。
東西の冷戦構造が崩壊し、最早、日本を経済大国として(アジアにおけるアメリカなどの防波堤として、橋頭堡として)安閑とさせておく必要はなくなっていたのだろう。
いずれにしろ、1984年はソビエトもアメリカも、そして日本もターニングポイントにあったわけである。
← トマス・ピンチョン著の『ヴァインランド』(佐藤 良明【訳】 池澤夏樹=個人編集世界文学全集2 新潮社)
日本ではさらにトルコ風呂がソープランドに名称変更となり、都はるみが引退して普通のおばさんになった年でもあった。
植村直巳さんが、「北米のマッキンリー冬季単独登頂に世界で初めて成功、その後消息を絶った」年でもある。
曲がりなりにも半年だけ、高校時代にサッカー部に在籍していた小生としては、「釜本邦茂選手が現役引退を表明」という悲しいニュースにも接した年だった。
ロス疑惑」騒動が始まった年であり、映画『お葬式』や『風の谷のナウシカ』などがヒットし、海外映画では、『アマデウス AMADEUS』や『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』が話題になっていた。
映画というと、『ゴーストバスターズ』(Ghostbusters) も1984年のアメリカ映画であり、この映画は、この年、全米興行収入第1位を記録している。
『ゴーストバスターズ』に対抗したわけでもなかろうが、日本では1984年の師走に、ゴジラシリーズの第16作めとして、『ゴジラ』が公開されている。
映画といえば、滅多に映画館に足を運ばない小生に、重い腰をあげさせた映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(Once Upon a Time in America セルジオ・レオーネ監督・脚本作品)も、製作・公開されたのは1984年である。
日本でも、1984年に封切りとなっていたのだが、小生がこの映画を敢えて観ようとしたのは、ファンとなっているロバート・デ・ニーロが主演だったからである(映画そのものは見応えがあったのだが、役の上の名前がヌードルスだったことに、何となく気抜けしたことを覚えている)。
さて、何ゆえ、1984年にこだわったかというと、今、トマス・ピンチョン著の『ヴァインランド』(佐藤 良明【訳】 新潮社)を読んでいるからである。
「北カリフォルニアの山中で14歳の娘とふたり、ジャンクにクレイジーに暮らすヒッピーおやじゾイドの目覚めから物語は始まる」のだが、話の年代設定が「1984年、ある夏の朝」というわけである(この小説の筋書きなどは、「ヴァインランド」や、「「ヴァインランド」 トマス・ピンチョン」などを参照願いたい)。
ただ、それだけの話で、本稿を綴ったのも、まあ、好奇心のなせるわざというしかない。
(10/02/24 作)
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コメント
やいっちさん
こんばんは
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」見応えのある映画でしたね〜といっても映画館でリアルタイムに見た訳ではなくDVDで見たのですがわたしにとっての1984年の映画はテリー・ギリアムの1984年版1984年「未来世紀ブラジル」こちらもリアルタイムではないのですが、ロバート・デニーロも出てます
投稿: 三日月 | 2010/02/25 00:45
三日月さん
絵文字満載で楽しいコメントです。
動くから尚、楽しい。
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」は、封切り当時に、すぐ、足を運びました。
テレビでの放映も見たし。
ロバート・デニーロ出演の映画は大概、見てるはずだけど、1984年版1984年「未来世紀ブラジル」は見てない。
拙い!
ある意味、一番、肝心な映画をミスしてる!
教えてくれて、ありがとう。
投稿: やいっち | 2010/02/25 13:58
1984年…。
そのとき、私は17歳の小娘でした。
映画は好きで、月に一本は見てましたね。
今のほうが少ないかも(笑)
ゴーストバスターズは、頭を使わない娯楽映画でよかったです。
たしか、フィービー・ケイツ主演の『グレムリン』も1984年でしょう?
とても面白かったので、おぼえていますよ。
あの頃は昭和でした……。
投稿: 砂希 | 2010/02/25 20:57
砂希さん
なるほど、『グレムリン』(Gremlins ジョー・ダンテ監督)も、1984年製作のアメリカの映画なんですね。映画館では見てないけど、今も印象的なキャラクター。
集団主義の日本人を揶揄したとか、当時、あれこれ言われたような。
小生など、単純な発想しかしないので、クレムリンをもじっていると、勝手に思っていました。
まだ、ソ連が崩壊する前だったし(ターゲットに入りつつあったけど)、自分の憶測は当然過ぎると思ってました。
この映画のことも、本文でちゃんと言及しておきたかったなー。
貴重なコメント、ありがとうございます。
投稿: やいっち | 2010/02/26 10:31