水は万能の溶液 ? !
水は万能の溶液で、水で溶けないのは「金(きん)」だけだ。
また、「金(きん)」は、王水でしか溶かすことはできない。
なんて<俗説>を聞いたのは、中学生の頃だったか、あるいは高校の理科の授業で、だったろうか。
この如何にも尤もらしい説を鵜呑みにしたわけではないが、ことの真偽を当時、確かめたわけでもない。
← 昨日の日記にも載せたこの写真。「雨垂れは岩をも穿つというけれど、万能の溶液である水は、さすがで雪をも溶かす!」なんてト書きを付したけれど、後で、んん、水は万能の溶液というテーゼは鵜呑みにしていいのか、という疑問が湧いた。なので、本稿を急遽、書きおろしたのである。
ただ、我が耳には正しそうに聞こえたし、「金」を溶かす王水に興味を持ったり、それ以上に、「水は万能の溶液」という断定調の、何処か箴言にも似た表現に真理らしき響きを感じた、のは確かである。
だからこそ、文献に当たったり、誰かに訊ねたり(間違っても、そんな<箴言>をのたまわった先生に確認する)なんてことはしなかったのだろう。
大急ぎで確認しておくと、まず、「金(きん)」は、王水にしか溶けないというのは、間違いのようだ。
その前に順番として、「王水」とは何か。
「王水 - Wikipedia」によると、「濃塩酸と濃硝酸とを3:1の体積比で混合してできる橙赤色の液体」で、「多くの金属を溶解できることから分析化学での試料調製・貴金属塩の製造・ガラス器具の精密洗浄などに用いられ」、「酸化力が非常に強く、通常の酸には溶けない金や白金などの貴金属も溶解できる」という代物。
この「王水」は、「西暦800年前後に、イスラム科学者アブ・ムサ・ジャービル・イブン=ハイヤーンにより、まず食塩と硫酸から塩酸ができることが発見され、それを濃硝酸と混合することで王水が開発された」というから、それほど(思ったほど)古くからの溶液ではない。
容易に想像が付くように、錬金術との絡みが深い。
「十字軍を通じて中世ヨーロッパに伝えられ、錬金術師たちに注目され、銀以外いかなる金属も溶かし込む事から"aqua regia"(王の水)と名付けられた」という。
では、金は王水だけしか溶けないという説が間違いだとして、どんな溶液に溶けるのか。
例えば、シアン化物水溶液やヨードチンキにも溶けるという。
他にも金を溶かす溶液はあるようだが、ここでは深入りしない。
では、「水は万能の溶液」という<箴言>は、どんなものだろう。
間違い?
時間の長短をさえ等閑視するなら、正しいと言っていいのか。
小生は、我輩が高校3年生だったころ、学校の教頭の同窓生つながりで哲学者の西谷啓治さんの講演を聴いたことがある。
高校の体育館に全生徒が集められて拝聴したのだった。
その思い出については、「西谷啓治と水の哲学と富高生時代の思い出」に譲るとして、ただ、この時の講演で、古代ギリシャの哲人タレスの水の哲学の説明を聞いて、啓示に近い感銘を受けたことは改めて銘記しておく。
「人類にとって最も身近な物質」だが、「宇宙全体から見ると液体の水として存在している量は少ない」という水。
「すべての既知の生命体にとって、水は不可欠な物質」!
タレス曰く、万物の根源(アルケー)は、「水」。
さらに、「水は万能の溶液」という<箴言>。
生命の源である水、そして海。
この両者のテーゼ(?)が相俟って、さらには高校生の自分の乏しい知識と当時の常識が錯綜して、小生をして遥かなる瞑想へと誘(いざな)ったわけである(瞑想の彼方へ飛び去ったまま、とうとう、我が脳味噌はそれきりこの世へ還ってきていない)。
金が水に溶けないかどうかは別にして、他にも水には溶けない物質はあるようだ(「水 - Wikipedia」の「化学的性質」の項を参照)。
→ ガストン・バシュラール/著『水と夢 物質的想像力試論』(及川馥/訳 叢書・ウニベルシタス 898 法政大学出版局) 拙稿「バシュラール『水と夢』の周辺」参照。
まあ、水には水の不可思議があり、性質がある。
水について語るだけでも一冊の本以上のことがある。
実を言うと、小生にこんな駄文を書かせたのも、水の力、能力のせいなのである。
昨日の日記に書いたように、水は雪をも溶かすことに感動した、ただそれだけのことだが、それだけ雪掻きにウンザリしていたという、タネを明かせば情けないばかりの現実が裏にあるのも事実。
ああ、降雪の日々よ、早く去ってくれ!
(10/01/02 作)
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コメント
掲示板に書き込みましたが、見る方いないようなので、コメント欄に書き込んじゃいます。
以前「サハリン島」について書いていらっしゃったので、村上春樹の新作を
お読みになられたかと思い、気になってのぞきました。
お読みになられたら、下記のサイト非常に面白いですよ。
私も国見さん同様、考古学や民俗学に興味あります(少々程度ですが)
http://sakhalin.daa.jp/1q84/1q84sankouindex.htm
投稿: Taku | 2010/01/03 14:04
掲示板に書き込みましたが、見る方いないような
ので、コメント欄に書き込んじゃいます。
以前「サハリン島」について書いていらっしゃったので、村上春樹の新作を
お読みになられたかと思い、気になってのぞきました。
お読みになられたら、下記のサイト非常に面白いですよ。
私も国見さん同様、考古学や民俗学に興味あります(少々程度ですが)
http://sakhalin.daa.jp/1q84/1q84sankouindex.htm
投稿: Taku | 2010/01/03 14:07
Takuさん
掲示板へのレス、年を越してしまい、申し訳ございません。
興味深いサイトを教えていただき、ありがとうございます。
>以前「サハリン島」について書いていらっしゃったので、村上春樹の新作を
お読みになられたかと思い、気になってのぞきました。
多分、チェーホフの『サハリン島』についての雑文かなと思います。
しかしんがら、情けないことに、村上春樹の新作はまだ読んでいません。図書館での貸し出しの順番は、まだ来ないようです。
リアルタイムに読めないのは残念だけど、慌てなくてもそのうち読めばいいかな、と。
噂される続篇が出る前には読みたいものです。
投稿: やいっち | 2010/01/03 21:08
今年もやいっちさんのブログファンです。よろしく。
毎日お忙しくて大変ですね。
新年は大雪、私も那須で大雪にみまわれました。
雪かき疲れますよね。
でも、新年の雪は万葉集に
新(あらたし)き 年の始めの 初春の 今日降る雪の
いや重(し)け吉事(よごと)
に詠まれているように良いことがきっとあるように。
願っています。
どうでもいいのだけれど、水は万能の溶液?この題名にものすごい違和感、でも、やいっちさんの気持ちよくわかります。
確かに水は多くの物質を溶解して水溶液を作りますが、
水は溶媒としてはすごいけど万能とは??
金は王水にも溶けます。ちなみに、銀は(希・濃)硝酸か熱濃硫酸に溶けます。
雪を水で溶かすというよりは雪の融解熱を水が吸収して、雪を水に戻す。溶解というよりは、状態変化でちょっと違うと思うのですが。
投稿: さと | 2010/01/04 17:25
さとさん
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
大晦日からの雪、今は小休止ですが、明日からまた大雪(しかも風も)という予報も。
まあ、年初に厄落としを済ませる…と思いたいです(期待を籠めて)!
那須はこちらよりずっと寒いのでしょうね。
温泉など近くのあるのでしょうか。
旅してみたいものです。
題名の「水は万能の溶液 ? !」は違和感を抱かれて当然だろうと思います。
そもそも実際には違うわけだし。
それに水が雪を溶かすってのも、変なのは重々承知です。
ただ、根雪などに苦しめられていて、そこに新雪が積もるのがうんざりなので、理屈の上での本末転倒は承知しつつも、自分が雪掻きしない間でも、新雪のうちの多少でも溶けることに、頼もしさに近いような、ささやかな感動を覚えたので、こんな駄文を綴ってみたのです。
雪は純白…でも、魔物でもある。
早く、雪景色を綺麗! と感動できるような状態になりたいものと願っています。
投稿: やいっち | 2010/01/04 21:08