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2009/11/02

枯れ枝に止まるカラス(後篇)

 余談だが、ヘルマン・ヘッセの『荒野の狼』は、特に三十代から四十代にかけての小生の座右の書で、その時期だけでも、高橋健二訳(新潮文庫)で少なくとも三度は読んでいる

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→ この画像だけで花(植物)の名前が分かるだろうか(小生は分からない)

 そんなこともあって、決してヘッセのいい読者ではないのだが(文庫本に入っている作品だけは主に大学生の頃に読んだが)、『荒野の狼』に関連する文書として日記の断片(詩)を読めたのは嬉しかった。

 この『荒野の狼』に関連する文書で、同じく日記の断片として以下の小文が載っている:

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← ヘルマン・ヘッセの『荒野の狼』(高橋健二訳 新潮文庫)

  ある落伍者の日記から

(前略)それにしてもこれは奇妙なことだった。私は生徒時代の初恋のときから、諦めが早く、不器用で勇気がなく、内気で成功することがないのに女性たちに求愛した。私が愛した女性たちはみな、私にはあまりに魅力的で、高値の花に見えた。若者の私はダンスもせず、いちゃつきもせず、ささやかな恋愛関係を結ぶことも一度もなかった。そして長い結婚生活を通しても深い満足感を得られず、確かに女性たちを愛し必要としたが、彼女たちを避けてもいた。ところがすでに老境にさしかかる今頃になって、突然女性たちが至るところで、求めてもいないのに私の行く手に立っていて、私の昔の内気さは影をひそめてしまった。女性たちの手は私の手に、女性たちの唇は私の唇に重ねられた。そして私が住む部屋の片隅には、靴下止めとヘアピンがあちこちに落ちていた。(後略)


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→ 冒頭に掲げた植物の全体像がこれ。ゴーヤを撤去した後に、何故かこの植物が鎮座している。我輩が植えた植物が育ったのだろうか? この植物の名前、例によってかぐら川さんに教えていただいた。そう、「イヌホオズキ(犬酸漿)」である。

 老境を自覚する今になって何故か「突然女性たちが至るところで、求めてもいないのに私の行く手に立ってい」る状態になり、戸惑っているという、傍(はた)から見る限り羨ましい状況にある。
 が、本人は、だからこそ、一層、孤独を託つばかりなのだが。
 それでも、そんな状況にはまるで縁のない、野暮天の小生は羨むばかりの境遇であって(作家としての成功もあるし)、冒頭に示した詩は、だから、小生の今の心境にピッタリでもあるのだけれど、実はまるで似て非なる、というものでもあるのだ。

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← ミカンが大分、色づいてきた。今年もザルに三杯ほどの収穫が期待できそう。肥料は何も与えていないので、あまり甘くはないようだ。

 最後に、ヘッセの複雑な胸中を示す詩を同じ関連文書から転記して掲げておく:

  誘惑者

私は多くのドアの前で待ち、
しばしば少女の耳元に自分の歌を歌った。
多くの美しい女を誘惑しようとし、
時にはうまくいった。
一つの唇が私に委ねられるたびに、
激しい欲望が満たされるたびに、
喜ばしい夢想は墓場へと赴き、
私は失望して肉塊を抱くばかり。
心の奥から求めたキスは、
長らく燃えるように望んだ夜は、
やっと我がものとなった――だがそれは手折られた花、
香りは失せ、一番の醍醐味も台無しだ。
幾度も苦々しい思いでベッドから起き上がり、
満ちたりるたびに倦怠感に襲われた。
享楽から逃れ、身を焦がしながら、
夢を、憧れを、孤独を求めた。
いまいましいことに、何を手に入れても幸福感はなく、
現実という現実が夢を台無しにする!
恋い焦がれて現実から作り出し、
あれほど陶酔させてくれた夢なのに!
手はおずおずと新たな花を求め、
新たな愛を求めて私は自分を奏でる……
身を守るのだ、美しい女よ、服を緩めてはならない!
私を誘惑して苦しめよ――だが私の言いなりになどなるな。

                       Verfürer


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→ 「秋明菊 (しゅうめいぎく)」だろうか、蔵の脇にひっそりと咲いている。春から夏にかけてはドクダミの園だったのだが、そこの割って入るとは、よほどの生命力なのか。

                               (09/10/31作(11/01追記))

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コメント

 すみません。私のブログ(10/27)にも書きましたが、先日「イヌホウズキ」と書き込ませていただいたのは仮名遣いが誤っていました。「イヌホオズキ」(犬酸漿)が正しい表記です。(“ホーズキ”の長音は、「ホウ」ではなく「ホオ」です)。

 下の花は、いわゆる「野菊」です。(八重咲きのシュウメイギクもありますが、これは花枝が特徴ある別れ方をしていますし、なにより野趣がありません。)
 写真からは、ヨメナ(これもヨメナとカントウヨメナがある)か「ノコンギク」なのか区別がつきません。なんとなくノコンギクのような気がしますが、大雑把な私は野菊ですませたいと思っています(笑)。


 原石鼎、17歳のときの句.

“七草に入りたきさまの野菊かな”

投稿: かぐら川 | 2009/11/02 18:56

かぐら川さん

ネットでは、やはり勘違いして「イヌホウズキ」と思い込んで情報を書き込んでいる人も少なからず見受けられるようです。
ここがネットの怖いし、不都合なところ。
といって、知識の乏しい小生が偉そうなことは言えないのですが。

わざわざ訂正のコメントを寄せていただき、ありがとうございます。


菊…。なかなか難しいものですね。
確かに、花壇に意図的に植えたものではなく、勝手に生えてきたもの。
野菊の一種なのでしょう。

余談ですが、野菊と書くと(聞くと)「野菊の墓」を連想してしまうのは年のせいでしょうか。

投稿: やいっち | 2009/11/03 18:09

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