三木たかしさん死去から昭和歌謡のことなど
「「津軽海峡・冬景色」「時の流れに身をまかせ」など多くのヒット曲を生んだ作曲家の三木たかし(みき・たかし、本名渡辺匡〈わたなべ・ただし〉)さんが11日朝、岡山市内の病院で死去した。64歳だった」:
「asahi.com(朝日新聞社):「津軽海峡・冬景色」 作曲家・三木たかしさん死去」
→ 月曜日、所用があって街中に出かけた帰り、川縁で佇む雄姿に遭遇。沈思黙考している? 魚影を狙っている? …まあ、身投げを考えてないことは確か。飛び込んでも、なかなか沈まないだろうし。…鳥が溺れたら、浮かばれない ? !
「作曲家の船村徹さんに師事し、67年に「恋はハートで」(泉アキ)で作曲家デビュー。77年には「思秋期」(岩崎宏美)や「津軽海峡・冬景色」(石川さゆり)で日本レコード大賞中山晋平賞を受賞した。その後も故テレサ・テンさんの「つぐない」「愛人」「別れの予感」や「夜桜お七」(坂本冬美)、「ふり向くな君は美しい」「アンパンマンのマーチ」など日本歌謡史を飾る多彩なヒット曲を送り出した」という方。
64歳とは、あまりに若い。
「これまでに発売されたシングルの総売上枚数は6,821万枚で作詞家歴代1位」だった、作詞家(小説家、詩人)の阿久悠(以下、例によって、敬愛の念を籠め、敬称は略させてもらいます)も2007年8月1日に70歳で亡くなられている。
石川さゆり「津軽海峡・冬景色」 や崎宏美「思秋期」、沢田研二「勝手にしやがれ」、ピンク・レディー「渚のシンドバッド」、ささきいさお「宇宙戦艦ヤマト」、新井満「ワインカラーのときめき」、などなど彼が作詞してヒットした曲は数知れない(ちなみに、ここに挙げた曲名は、1977年12月5日付けのオリコンシングルチャートで、上位100位までに1チャートインした阿久悠作詞の楽曲である)!
バブル前後に亡くなった作詞家や作曲家の名前だけ挙げてみると、例えば、猪俣公章(1993年)や服部良一(1993年)、浜口 庫之助(1990年)などがいる。
遠藤実は2008年に亡くなられたが、ヒット曲というと、雪椿(小林幸子、1987年6月) あたりが最後なのではなかろうか。
彼らに代表される音楽は、大きくは昭和歌謡と理解していいものと思う。
昭和が平成になっても、彼らは活躍したが、彼らに限らず、昭和に活躍した演歌や歌謡曲の作詞家も作曲かも歌手も、平成に入って、目立たなくなってしまった。
昭和が平成になった頃、バブル経済の真っ盛りで、風船が思いっきり弾ける直前の時期でもあった。
昭和歌謡が一体、どんな音楽かを小生如きが性格付けするのはおこがましいが、一つ言えるのは、幅広い年代層に愛されたし歌われたし、知られていたということ。
歌手の名前を聞けば、顔を見れば、曲を耳にすれば、年代を問わず知っていたし、共通の話題にもなりえた。
幻想だったのかもしれないが、中流層が育ちつつあり、誰もが似たり寄ったりの生活(水準)を送っているかのようだった。
曲も、作詞の専門家が作詞し、作曲の専門家が作曲し、歌の専門家が歌う。
若い人が歌う青春の歌も、青春の時期をとっくに終えた人が、物語を綴るようにして作詞しメロディを付した。
そこには物語があり、虚構があったわけだけど、年上の人が若い人の口(姿)を通じて表現することで、人間的社会的膨らみができて、年代層を問わない愛唱歌足りえたのだろうと思う。
昭和64年(1989年)に美空ひばりの歌う「川の流れのように」(作詞:秋元康 作曲:見岳章)が発表され、すぐに愛唱されると共に、長く愛される歌ともなった。
川の流れに流されたのは、昭和という時代だったことを象徴するかのような歌でもあった。
この2年前、昭和(戦後)を代表し象徴する俳優の石原裕次郎も亡くなっていた。
米ソ(東西)の冷戦構造が崩れ、社会主義政権が崩壊した当の旧ソ連以上に、ソ連を敵視し、あらゆる(軍事)戦略を対ソ連を機軸に組み立てていたアメリカが一時、途方に暮れた時代でもあった。
そのアメリカが、次の敵(乃至、ターゲット)に選んだのは(少なくともその内の大きな一つは)、日本だった。日本の対米黒字がアメリカにおいて大きなウエイトを占めていた。
アメリカの冷戦構造時代(特にレーガン大統領時代)に肥大化した双子の赤字の責任の多くを日本が負わされることになった。
← 日曜の夕方、空に飛行機雲が三本、交差するのを見た。そこに我が家の電線も仲間入り。
日米構造協議があったり、プラザ合意があったりして、巨額な公共投資を約束させられ、コンピューターも日本独自のソフト開発はダメ出しを喰らい、ウインドーズの台頭へ繋がっていった。
今日の日本が貧富の格差に呻くようになったが、中流幻想が崩され、貧富の格差の増大へと突っ走る契機がバブルの崩壊だった。
バブルに浮かれる一方で、日本の足元がトコトン崩されていった。
第二の敗戦とまで称されるほどの深甚な事態に陥っていったのだ。
バブル経済が崩壊した社会を反映するかのように、音楽シーンも激変した。
決して音楽シーンが寂しくなったわけではないが、どんなヒット曲も、ある年代層にだけ知られる、そんなマニアックなものとなった。
百万枚の売り上げがあっても、ある年代から上の人たちは、全く知らないというのも、珍しくなくなったのだ。
市場調査(マーケットリサーチ)が徹底してか、ヒットを狙う曲もターゲットを絞って作られるのだから、当然過ぎる結果なのだが、貧富の格差の増大と平行して、享受する文化も分断化し細分化していくようになった。
昭和歌謡は、バブル経済の破綻と共に、昭和の終わりと共に、あっという間にメインのステージから消えていった。
演歌も歌謡曲も、歌う歌手の歌唱力や魅力は昭和に活躍した人たちに決して見劣りしないけれど、ヒットし受ける土壌自体が痩せ細ってしまっていて、大ヒットは見込めなくなってしまった。
ヒットしても、若い人には見向きもされない。
若い人の曲が年輩層には音楽には思えないように、年輩層に受ける曲は若い人には眼中になくなってしまった。
そもそも昭和という時代は、世代を超えた経験・体験・事件があった。なんといっても敗戦があったし、どん底からの這い上がりという<ロマン>があった。
是非はあっても、右肩上がりの経済があった。アメリカ(のホームドラマに見られるリッチな生活)への憧れがあった。
少ない老人、より多い中年、もっと多い若年層と見事なピラミッド構造でもあった。
大人の作る曲に不満があったり、表現しきれていないという不満があっても、音楽(に限らないが)シーンを作るのは、大人の世界の仕事だったし(大人(親)に権威があって)、若者に付け入る余地は少なかった。
しかし、老人が増えたと同時に権威も失墜して、音楽(を作る)という牙城も若者の手に渡ってしまったのだ。
→ これも、日曜日の光景。爆音が轟く。川を遡上して飛行場(富山空港)へ向かうのだ。…ということで、今日の写真(画像)は、空を飛ぶもの三題!
無論、それが悪いとかどうとかいう問題とは別である。
それぞれが自分の好きなように表現することが悪いはずがない。
ただ、その代わり、年代を超えて共有する昭和にはあった(かのような)幻想は、見事に潰え去ったと感じるロートルがここにいるというだけの話である。
歌謡曲(演歌)関連拙稿:
「「公園の手品師」の時代、再び」
「「石原裕次郎と啄木と」追記など」
「演歌という時代」
「松原のぶえと蒼い月のこと(演歌三題)」
「日野美歌さんのことから(他:大塚文雄篇)」
「歌うことと歌われるもの」
「無言坂…早く昔になればいい」
「香西と久世と無言坂」
(09/05/11 作)
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