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2009/04/28

エボデボ革命!

 ショーン・B.キャロル著の『シマウマの縞 蝶の模様―エボデボ革命が解き明かす生物デザインの起源』(渡辺政隆/経塚淳子訳 光文社)を読んだ。
 物理学関係の本が続いているので、今度は生物学関係の本に触手を伸ばした。

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→ ショーン・B.キャロル著『シマウマの縞 蝶の模様―エボデボ革命が解き明かす生物デザインの起源』(渡辺政隆/経塚淳子訳 光文社)

 科学関係の本を読む際(選ぶ際)には、書き手の素性を確かめる。際物などは読みたくない。
 特に、「エボデボ革命」なんて、小生には耳慣れないキャッチフレーズ(コピー)が銘打たれていたりすると、尚更、慎重になる。

 著者のショーン・B.キャロルは、「ハワード・ヒューズ医学研究所研究員およびウィスコンシン大学マディソン校教授。進化発生生物学(エボデボ)分野のスーパースター」というから、訳者も含め、申し分ない。

 この経歴にもあるように、エボデボとは、進化発生生物学のことだ。

シマウマの縞蝶の模様 書評 本よみうり堂 YOMIURI ONLINE(読売新聞)」にもあるように、「英語の進化(エボリューション)と発生(デベロプメント)とを同時に意味するわけ」である。

 本書の内容を詳細に語ることはできないが、本書の「まえがき」から、著者自身による案内(展望)を示してもらう:
 
 

 ノーベル物理学賞受賞者のジャン・ぺランによれば、科学を発展させる鍵は、「目に見える複雑なものを、目に見えない単純なもので説明」できるかどうかだという。進化学と遺伝学の分野でなされた生物学の二大革命は、たしかにその考え方で推進された。ダーウィンの偉大な業績は、化石として残された生物種のオンパレードと現生生物の多様性を、自然淘汰が厖大な時間にわたって作用した結果として説明したことにある。分子生物学は、あらゆる生物種の遺伝的基盤は、たった四種類の基本的構成要素で組み立てられたDNA分子にコードされていることを明らかにした。古代に生息していた三葉虫の体からガラパゴス諸島に生息するダーウィンフィンチ類の嘴に至るまで、複雑そうに見える形態の起源を説明するに際してもこの考え方は大いに有効だが、完全ではない。個々の形態がどのようにしてつくられるのか、それらはどのようにして進化したのかは、自然淘汰やDNAだけでは説明がつかないのだ。
 形態を理解する鍵は、発生にある。発生とは、単細胞である卵(らん)が何兆個もの細胞でできた複雑な動物になってゆく過程である。この驚異的な現象は、ほぼ二世紀にわたって生物学が解決できない大問題だった。しかも、発生が進化と密に関係しているのは、発生が形態の変化を引き起こす胚の変化によるものだからにほかならない。ここ二〇年ほどの間に、生物学で新らしい革命が進行した。発生生物学と進化発生学(いわゆるエボデボ)の発展が、見えざる遺伝子の働きと、動物の形態と進化を司る単純な規則に関して、たくさんの新知見をもたらしたのだ。その結果わかったことの多くは、進化はどのようにして起こるかという構図を大幅に書き換えてしまったほど予想外の驚異的発見だった。たとえば、ある昆虫の体と器官の形成に関与している遺伝子が、人間の体づくりにも関与しているなどということを予想していた生物学者が、はたしていただろうか。
 本書では、そうした革命的発見と、動物界の進化に関する新しい見方について紹介する。私が目指すのは、動物の体のつくられ方を活写すると同時に、これほど多種多様な現生生物と化石生物が誕生するにあたっては何があったのかを解き明かすことである。
(中略)
 本書は、人類の歴史に関する物語でもあるのだ。しかも、人が卵から成体になるまでに辿る旅路の物語であると同時に、動物の起源からつい最近になって起こった人類の起源に至るまでの長い道程に関する物語という二つの意味で。

 上掲の転記文中に、「ダーウィンの偉大な業績は、化石として残された生物種のオンパレードと現生生物の多様性を、自然淘汰が厖大な時間にわたって作用した結果として説明したことにある」とある。
 せっかくなので、「進化生物学に課せられた最大のテーマ」である、「生物はなぜにかくも多様なのか」という問いに、最初に科学的アプローチを試みた、チャールズ・ダーウィンの言葉を『種の起源』(の末尾)から引いておく。

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← 「ミヤマカラスアゲハ (Papilio maackii)」 (画像は、「チョウ - Wikipedia」より)

 ほとんど、詩文ほどに美しいと感じる文章でもある:

 さまざまな種類の植物に覆われ、潅木では小鳥がさえずり、さまざまな虫が飛び回り、湿った土中ではミミズが這い回っている、そんな土手を観察し、互いにこれほどまでに異なり、互いに複雑なかたちで依存し合っている精妙な生きものたちのすべては、われわれの周囲で作用している法則によって造られたものであることを考えると、不思議な感慨を覚える。……かくのごとき生命観には荘厳さがある。生命は、もろもろの力と共に数種類あるいは一種類に吹き込まれたことに端を発し、重力の不変の法則にしたがって地球が循環する間に、じつに単純なものからきわめて美しくきわめてすばらしい生物種が際限なく、なおも発展しつつあるのだ。

 上掲のダーウィンの言葉の中に、ミミズが登場する。
 その周辺については、「読書拾遺(ダーウィン、ミミズ、カメ)」で書いたので略す。

 発生というと、小生などは、三木成夫(の『胎児の世界』など)のことを思い浮かべずには居られない(「三木成夫著『人間生命の誕生』」参照)、。
 これも略そうと思ったが、一部だけ、上掲のブログから転記する:

 『胎児の世界』の中で一番、ドラマチックな部分そして恐らくは三木解剖学の業績というのは、『海・呼吸・古代形象』の解説の中で吉本隆明氏が語るように、「人間の胎児が受胎32日目から一週間のあいだに水棲段階から陸棲段階へと変身をとげ、そのあたりで母親は悪阻になったり、流産しそうになったり、そんなたいへんな劇的な状態を体験する。こんな事実を確立し、まとめたことだとうけとれた。」
 海で生れたとされる生命が進化し水棲の段階から陸棲の段階へと移行する。想像を絶する進化のドラマがあったのだろうし、無数の水棲の動物が無益に死んでいったに違いない。その中のほんの僅かの、つまり水棲動物としては出来損ないのほんの一部がたまたま陸棲可能な身体を獲得したのだ。
 そんな劇的なことがあるはずがない…。が、成し遂げた個体があったわけだ。当然、両棲の段階もあったのだろうが、何かの理由があって一部の種は陸棲を強いられ、身体的な危機を掻い潜らざるを得なかったわけである。
 そのドラマを一個の卵の成長の、特に「受胎32日目から一週間のあいだに」(つまり水棲から陸棲への移行という産みの苦しみの時期に)生じる胎児の身体的大変貌を解剖学的に研究し、誰にも分かるように指し示してくれたのである。
 この惨憺たる苦心の経緯を読むためだけでも、『胎児の世界』を読む価値はある。

 三木の論は、専門家筋からは既に古くなった説として見なされているようだが、『胎児の世界』だけは一読の価値がある。

 その一方で、発生生物学と進化発生学という生物学での二大革命(いわゆるエボデボ革命)が進行していたのである。
 実際、「海部陽介著『人類がたどってきた道』」などでも書いたが、遺伝子分析の威力の凄さは、門外漢の小生も感じてきたところである。
 が、遺伝学のみならず進化学(発生学)の進展がもたらす知見は、自然の驚異を改めて感じさせるに十分過ぎるものがある。
 宇宙論でもだが、こうした進化学(生物学)でも、この十年二十年の発展ぶりは凄まじい。知的なビッグバンが起きているみたいだ!

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→ 4月7日の夕景。風景の美しさの秘密は何処にあるのだろう。

関連拙稿:
ワトソン/ベリー著『DNA』
二重まぶたと弥生人
海部陽介著『人類がたどってきた道』(続)
歌うネアンデルタール
「日本人になった祖先たち」の周辺
縄文サンバにカエルコールに(後篇)

                                    (09/04/23 作)

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