綿きせて鉢の小菊をいとほしむ 水落露石
水落露石という名の俳人の、今日4月10日(このメモ書きがアップされる頃には昨日になってるだろうが)は命日である(1872年3月11日生まれで、1919年に47歳で亡くなられている)。
といっても、小生は名前さえ、今日初めて知った方。
→ 『露石句集』(装丁・君嶋真理子 解説・坪内稔典 ふらんす堂) 「2009.1.30刊行」というから、出たばかり!
俳人とある以上、まずは作品を鑑賞してみたい。
ネット検索しても、句の載っているサイトにはなかなか出合えない。
最初に見つかったのは、「4月「魚島(うおじま) とびきりの桜鯛をやりとり」 Food Library - くいだおれ大阪 食のライブラリー」なるブログで、「水落露石が魚島の鯛を詠んだ句」ということで、以下の句が載っている:
鯛料る春の灯や臺所 露石
この頁で分かったのは、「露石」とは、「八代目水落庄兵衛さんの俳号」であり、「正岡子規が提唱した新俳句運動に共鳴し、子規と親交を結び、子規から「俳諧の西の奉行」と称えられたほどの明治大正期大阪を代表する俳人であり、あらゆる教養を身につけた船場の旦那衆」だったということ。
下記の頁に簡潔に記されている:
「思文閣 美術人名辞典 水落露石」
俳人。幼名義一。12才で家督をつぎ庄兵衛を襲名。別号聴蛙亭。俳句は20才頃から始め正岡子規に師事。中川四明らと京阪満月会を興し、大阪俳壇の先覚者と目された。子規を畏敬し、又蕪村について造詣深く子規庵で蕪村忌に天王寺蕪を送る。後に蕪村句集を筆写し、富岡鉄斎筆の蕪村像を付し『蕪村遺稿』として出版し関心を深めた。子規歿後は碧梧桐と親しく「海紅」同人となる。多著あり。大正8年(1919)歿、48才。

← 職探しにハローワークへ。でも、呆気なく沈没。その帰り、桜見物と洒落ようと思ったけど、そんな気分じゃないね!
咲く花と萎れし我と水面かな (や)
次に見つけたのが、これから紹介するブログ。
「出版社ふらんす堂のHP 『露石句集』 水落露石句集」にて幾つかの作品を詠むことができた。
夏目漱石との奇遇といったエピソードが同集に載っている。
以下の両人の句が紹介されている:
名乗りたる小さき春の夜舟哉 漱石
夜の桜の鎬とぞなる 露石
ふと、露石という俳号は、あるいは漱石と無関係ではないのでは、なんていかにも素人っぽい想像がされてしまうのだが、さて如何。
漱石と露石が同じ舟に乗り合わせた事情について、下記のサイトが参考になる:
「第二章(9)」(この頁の中の、夏目漱石の項)
明治二十九年四月。四国の松山から熊本の五高に赴任する途中に、船の中で九州俳譜行脚を志していた大阪の俳人、水落露石と出会い、一緒に水天宮に詣でている。
以下、『露石句集』からの露石の句の数々を味わってみたい:
薮かげにはづかしげなる野梅かな
天の川清くして且浅かるべく
掬ぶ手に山蟻はひぬ岩清水
逢ひみしは夢なりけるよおぼろ月
新酒くんで鬼貫が句を誦する哉
綿きせて鉢の小菊をいとほしむ
山寺も人こそ集へ涅槃の日
大木の桜のもとやすみれ草
ビードロに金魚吊せし軒端かな
麦の雨春も名残りと成りにけり

→ 母校(小学校)の校庭の桜も満開。結構、育っていた桜の木。ってことは、我輩が通っていた頃に、既に植えられていたのだろうか。樹齢を知りたい!
咲き誇り空に映えるも眩しかり (や)
水落露石については、やはり、上掲書を刊行した同社のブログ(ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko)での紹介が読んでいて楽しい:
「ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko 12歳で家督をつぐ」:
「小間物問屋に生まれた露石は商業高校を卒業後、漢字、英語、画事(絵画のことか)茶道、謡曲をそれぞれの師について学」び、「十二歳で家督をつぎ、庄兵衛(八代目)を襲名」、「やがて子規を知り虚子を知り漱石などと交流をもつようになる」。
抜き書きすると味気ないが、「蛙好きの露石が、知友の蛙の句をあつめて「圭虫句集」を刊行し、上巻を子規が下巻を碧梧桐がそれぞれ序文を書いている」というエピソードが紹介されていて面白い。
さすが、別号聴蛙亭だという露石だけのことはある。
ここには断片的に転記させてもらったが、是非、全文(決して長くはない)を読んでもらいたいと思う。
← あんな痩せた土壌なのに、ムスカリが日々、育つのに感動するばかり。4年前、「ムスカリの花」という季語随筆を綴った際、「ムスカリは小さな紫の小花が穂状に集まって一つの花となっている、可憐なもの」という一文を引用したことがある。
ムスカリの肩寄せ合って風に揺れ (や)
「子規門短冊」でも露石の句を一つ、見つけた:
ふねの衆に提灯かせはうき寝鳥 露石
「「俳句読本」に掲載した俳句集[冬の部]」にて見つけた句:
京は時雨嵯峨は夕日に竹を伐る 水落 露石
「一生青春 一生勉強(とらいの紅葉京都旅行) 京都旅行2日目 11月28日」にて:
秋日和鉈豆干しぬ詩仙堂 水落露石
「俳句人名ーみ 水落露石」にて:
住の江や神輿を洗ふ夏の月 露石
「”春夏秋冬” No.1426 高砂百合」にて:
白百合やおのが花粉の黄によごれ 水落 露石

→ 家の裏庭の隅っこにポツンと咲いている。恐らく、この花に目を留めるのは小生だけだろう。
春の陽を受けて流してうららなる (や)
ネット検索をしていたら、句が載っているわけではないが、坪内稔典氏の手になる、以下の興味深いメモを発見した:
「ikkubak 2006年3月25日 」
こんど、近辺の人たちと「露石の会」(幹事・水上博子)を始めた。大阪・船場の俳人、水落露石の自筆句集を読む会である。露石は子規、漱石、虚子、碧梧桐などと交わった関西の新俳句の先達。達筆の字を判読する探偵気分を楽しんでいる。参加したい方はどうぞ。
ちなみに、「浮世絵師総覧・その他」なる頁には、「大阪の露石から文鳳の帝都雅景一覧を贈つて呉れた」とあって、子規と露石との交わりを示すエピソードが紹介されている。
3年前には、「露石の会」(幹事・水上博子)が始まり、句集が年初に刊行されている。
今も愛されている俳人だと分かっただけでも、メモした甲斐があったというもの。
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