芽吹きの春あれこれ
「春になると…spring has come!」:
春になると大気に透明度が減ってくる。月影も朧になってくる。その原因は湿度であり、大気の動きが活発になることであり、湿度が高いこと風が吹くことに相関して大気中の埃や塵、花粉、微生物が舞い上がり、舞ったまま漂ってしまいやすいことにあるのだろう(素人考え)。
仮に昔の人が春先の大気の霞(かすみ)の原因の(大きな?)一端が花粉だということを知ったら、風雅なことだと思うのだろうか。月影に花粉の紗が掛かって艶冶(エンヤ)だと、しみじみ黄昏(たそが)れるのだろうか。
鼻水が垂れ目が痒くて苦沙弥が出て止まらなかったりして、風流を気取るところじゃないのだろうか。
「春爛爛の巻」(ネコもの短編):
あのね。猫は、何よりも精神生活ってのを大切にするんだ。広さなんて、関係ないね。最初に、ここが縄張りだと思ったら、そこが縄張りで、その外の世界のことなど、関心を払わないんだ。そこそこに居心地のいい、居眠りや寝そべる場所、時折は日向ぼっこが出来て、雨とかを凌げて、できれば外敵の心配もない空間が確保されれば、もう、満足なんだね。決して、贅沢じゃないんだよ。ちょっとグルッと縄張りを見て回ったら、後は、ひたすら居眠りさ。人間が見て広い狭いなんて、関係ないのさ。
猫族は、夢を見るのが大好きなんだよ。寝ていて、夢をみたりして、何かの拍子に目が覚めて、ここは何処? あたいは誰? あの目の前にぶら下がっていて、ほとんど口の中だったはずの餌は何処に消えたの? 今にも肩を抱っこできそうだったあの麗しの姫君は何処なの? って表情をしばしばするけど、まあ、それだけ寝ていて夢に戯れているのが好きなんだって証拠なんだね。
「春、爛漫 それとも 春、爛爛」:
春、爛漫である。もう、東京では桜が五分咲き以上、印象からしたら満開に近い。
こんなに早くていいのかって、心配性の小生は感じる。何か、気象異変が生じているんじゃないか、異常に早い桜の開花は、その鮮やか過ぎる警告なんじゃないかって、思ったりするのだ。
(中略)
閑話休題:
ところで、ある日、ラジオで誰か女性タレントが「春、爛々」と言っていたという。すぐに傍にいた人に春、爛漫だよと訂正されたらしいが。
確かに間違えではある。年を取っても意気軒昂として眼光が鋭い人の目の輝きを「目が爛爛と輝く」なんて、表現するわけだろう。
でも、「春、ランラン」のほうが五感として、生きがいいような感じもある。何だか弾むような若さを感じる。そのうち、「春、爛爛」で通用するようになったりして。
「山笑ふ・花粉症・塵」:
木の芽も芽吹き始め、山の根雪も溶け始め小川などに注ぎ込まれていく、木の幹や枝だって固く身を凍らせていたのが緩み始めているようで、木石さえ、開放的になりつつある。町を行く女性も薄着になってきて、マフラーで襟元をガードすることもないし、分厚いコートで身を包み込むこともなくなってきている。春うららというか、春爛漫というより、春爛々といった感じなのである。
なのに、花粉症が。
朝日や夕日を浴びて、山の森などが赤っぽく見えても、それは陽光を浴びて山が微笑んでいる。暖かな日光のお蔭で寒気から解放されて火照ってさえいるように見える、そう、山が笑っているように見えるはずが、実は溢れ返るほどの花粉のせいで赤茶色なのだとしたら、情ないことこの上ない。
山が笑うが、暖かな時節の到来で笑っているのではなく、下界の多くの人々が困る様子を高見の見物して笑って(嘲笑って)いるのだと、意味合いがまるで逆転しかねなかったりする。山、花粉で装う。人、外出を控えて不貞寝する。
「ステファニー・バレンティン:顕微鏡下の美」:
小生は、微生物(特に原生動物)の顕微鏡写真を見るのが好きだが(生物の勉強は苦手だったが、教科書などにミジンコやらアメーバなどの顕微鏡写真を見つけると、意味もなく見惚れてしまうのだった)、時代は更に電子顕微鏡による拡大像をも存分に見せてくれるようになった。
花粉症の蔓延は憂鬱だし、科学技術が時に思いもよらない副作用も齎すこともあるが、時にこうした形で科学技術の恩恵に浴することができる、その点は(小生にとっては)慶賀すべきことである。
「松川にて」:
いつの頃からか、春というと、新陳代謝という言葉を思い浮かべてしまうようになっていた。新鮮な細胞がドンドン芽吹き、圧倒するような速さで増殖し成長する。その勢いに押し出されるようにして、俺のような無能な人間は、隅っこへ、枠の外へと追い詰められていく。
土の匂いが鼻を突く。草木はムンとするほどの生命力を溢れさせている。冬の間は姿を見せなかった虫たちが、あちこちで蠢きだす。
なのに、俺の唇は乾き、腰は痛み出し、足取りは重くなる。
[画像(写真)は全て、家の庭や畑の植物を撮ったもの。親戚の子が小学校に入学した記念の写真も載せようと思ったが、まあ、それは想像に任せることにした。体力の衰えを自覚するものには、生命力の横溢というのは眩しくもあり、気鬱の種でもありえるとは、ちょっと前までは夢にも思わなかった。 (09/04/08 記)]
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