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2009/04/22

魔女狩り……出口なし! (前篇)

 和歌山毒物カレー事件で林被告の死刑が確定した。
 状況証拠の積み重ねでの死刑判決。
 近所のトラブルメーカーだったらしいけど、嫌われて浮いた存在になると、何かあったら、真っ先に色眼鏡で見られ、仕舞いには世間から弾き出される。

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← タンポポの黄色い花。タンポポって、名前がいい。花言葉は「思わせぶり」。昨日、写真を載せたタンポポの種(綿毛)、もう、大半が吹き飛んでいた。

 小生は判決文を読んだわけじゃないし、事件の真相を知るわけではないけれど、何か釈然としないものを感じる(無論、真犯人に対しては憤りしか覚えないけど)。

 さて、嫌われ指弾されてしまうメカニズムは、イジメとも似ている。
 一旦、イジメのターゲットにされたなら、待っているのはアリ地獄、出口なしの悲惨な状況。
 犠牲者は死ぬまで苛まれ続ける。

 事件からの連想ではない(こともない)が、「魔女」をテーマの本を読んでみた。

 田中 雅志【編訳・解説】の『魔女の誕生と衰退―原典資料で読む西洋悪魔学の歴史』(三交社)を読んだのである。

 読んでみると、魔女よばわりされ処刑された多くの人が無実の人だったことが分かる。
 告発の連鎖の凄まじさ。

 キリスト教徒でもない限りは、専門家以外は魔女や悪魔学などに関心を持つのかどうか。
 持っても、キリスト教圏の人々ほどにはリアリティを感じられないだろう。
 せいぜい、文学上の異想・奇想の類いか。

 魔女狩り…と聞いて、何か最新のヘアーのカットと思われることは、さすがにないだろう。
 グリム童話好きなら箒に乗って飛び回る魔女のイメージは脳裏に焼きついているだろうし、魔女の宅急便で馴染み(?)になっている方も多いかもしれない。

 ある年代以上の方なら、「奥さまは魔女」で魔女に馴染みになり、親しみさえ抱いているやもしれないだろうし。
 現代においては、魔女はもう怖い存在ではない?
 悪魔と並び、ドラマや映画上のそれなりに貴重なキャラクターに過ぎない?

 魔女や悪魔は日本で相当する<存在>を求めるなら幽霊? 妖怪? …いずれも無理があろう。

 悪魔学なるもののあることを知ったのは、埴谷雄高の評論やエッセイを読んでのことだったか、それとも澁澤龍彦の書を読み齧ってのことだったか、「黒魔術の手帖」か何かを読んでのことだったか、「魔女狩り」についての本を目にしてのことだったか。
 その前に、江戸川乱歩辺りに被(かぶ)れたころに、魔女や黒魔術を知り、瞑想・迷妄に誘われたのだったのかもしれない。

 やがては異端審問とか魔女裁判とか、西欧の歴史の暗部そのものと言えそうなことに気づいていった。

 古くから悪魔の概念(言葉)はあったとしても、魔女狩りと結びつくようになったのは中世になってからであり、異常なほどの魔女狩り旋風が巻き起こるのは、「時期を見ると16世紀から17世紀、さらに限定すると1590年代、1630年ごろ、1660年代などが魔女狩りのピークであり、それ以外の時期にはそれほどひどい魔女狩りは見られなかった」という。

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→ 田中 雅志【編訳・解説】『魔女の誕生と衰退―原典資料で読む西洋悪魔学の歴史』(三交社) 「基礎文献の断片的邦訳しかない現状を打開し、一歩踏み込んだ西洋精神史の理解を可能にする画期的アンソロジー。『魔女への鉄槌』(15世紀後半)、ボダン『魔女の悪魔狂』(16世紀後半)をはじめ中世末~近世の主要論書を中核に、近世の魔女概念に深い影響をおよぼした古代の古典文学や中世の教皇教書・書簡、近世に吹き荒れた魔女裁判記録、そして懐疑論者の主要著作をも収める」といった本。

魔女狩り - Wikipedia」によると:

魔女狩り(仏: Chasse aux sorcières、英: Witch-hunt)は、中世末期から近代にかけてのヨーロッパや北アメリカにおいてみられた魔女(sorcières、Witch)や魔術行為(Witchcraft)に対する追及と、裁判から刑罰にいたる一連の行為のこと。現代では、このような行為は心理学的な観点から集団ヒステリーの産物とみなされているが、現代においても前近代的な文化や古来からの伝統を重視する社会において魔女狩りに類した行為が行われることがある。

 注意すべきは、「「魔女」と称するものの犠牲者の全てが女性だったわけではなく、男性も「男性の魔女」ともいうべき形で含まれていた」という点。
 対象(犠牲者)は、老若男女を問わないし、貴賎も問わない。

 マッカーシズム(赤狩り)や文化大革命、日本では、「総括」が蔓延った内ゲバも、ある種の魔女狩りのようなものと感じる。
 あいつは赤だ、とされると、一切の弁明が効かなくなる。疑心暗鬼・猜疑心の悪循環。
 魔女狩りがヨーロッパ中世から近世の一時期、激しかったその真の理由は、ペストや宗派対立、個の確立が未熟だったこと、貧困などなど、さまざま要因が考えられつつも、定説と言えるものはないようだ。
 
 ただ、何かの切っ掛けで一端、魔女狩りの熱が高まったら、もう逃げられない。
 ブッシュ前政権が発足した時、ブッシュの対テロ戦争の名目の愚かしい政策に、あの民主主義の国、正義の国のアメリカの国民が誰も異を唱えられなかった、そんな記憶もまだ生々しい。
 テロリストの自白を得るためと称して、水責めなどの拷問をやっていたという報告書が明らかになったばかりである。
 どんなときでも冷静に、とはなかなかいかないようだ。

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← アン・ルーエリン・バストウ著『魔女狩りという狂気』(黒川正剛訳、創元社) ジェンダー分析的?
 
 ここでは、本書に載っている、フリードリッヒ・シュペー『犯罪にたいする警告、または魔女裁判について』(一六三一年)からの抄訳を一部転記する。
 著者による解説によると、「近世に吹き荒れた魔女迫害の嵐にあって、一群の医師、聖職者、法学者たちがおのれの身の危険を顧みず立ち向かった。そうした人々のなかでも、フリードリッヒ・シュペーは、勇気と義憤をもって魔女裁判の不正を痛烈に指弾したにとどまらず、数々の公正な訴訟手続きをも提言した点において、特筆に価する存在である」という。
 彼は、彼の著書などで、「人は誰でも、その罪が適法に証明されないかぎり、無罪と見なさなければならない」「拷問は完全に廃止しなければならない」「被疑者は自己弁護し、弁護人を付ける権利があり、また裁判官は弁護人を調達する義務を負う」「裁判官に固定給を支給し、それによって裁判官の独立をはかる」といった提言をしている。
 彼の考えは存命中は為政者らにほとんど、聞き入れられなかった。
 彼は、魔女術や悪魔の能力までは否定しなかったようだが、それでも、拷問の廃止など、死後、一定の影響を与えている。

 ということで、後段では、フリードリッヒ・シュペー『犯罪にたいする警告、または魔女裁判について』(一六三一年)からの抄訳を転記して示す。

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