『宇宙を織りなすもの』の下巻を先に読みます
またまた宇宙論関係の本に手を出した。
ブライアン・グリーン 著の『宇宙を織りなすもの 下』(青木 薫 訳 草思社)である。
(そう、お気づきのように、下巻である。予約しているのだが、上巻は順番待ちで、下巻のほうが先に来てしまった。まあ、上巻は下巻のための序論というつもりで、とにかく手にした本を読みたかったのだ。)
→ 家の近所の畑(数年前まで我が家の田圃だった)に咲いていたタンポポ。動植物の宇宙も際限のない広がりと繊細さや優しさに満ちている。
確か中学生になった頃には、宇宙の本に夢中になっていたはず。
(海底の神秘とか、生命の何とかとか、数の不思議とか、ガキ向けの科学の啓蒙本の類い。小説も、所謂、純文学の類いには関心が向かず、推理小説よりSF小説ばかりを選んで読んでいた。)
小学校の6年か中学生になりたての頃、アポロの快挙もあり、宇宙熱は高まっていて、月への関心を小生も抱くようになった。
組み立てキット式になっている天体望遠鏡を買ってもらい、せっせと組み立て、夕方になるのを待ちきれず、家族総出で庭に出て、月を眺めた。
その時に眺めた月の表面の模様の鮮明さは勿論だが、とにかく月の神々しさに圧倒された。
もう少し、素直で単純な人間だったら、そのまま、科学少年になっていたかもしれない(実際には、科学のセンスは欠片もなかったし、そもそも人間がひねくれていて、紆余曲折し蛇行を重ね、後戻りさえ繰り返し、哲学の魅力に取り憑かれるようになってしまう)。
月に何冊か読む本のうちの一冊は科学関係で、一年の間には必ず天文学関係の本を加えている。
それがある時期から宇宙論関係の本が退屈に思えてきた。
なんとなくだが、宇宙像が基本的に出来上がっていて、あとは細部の造作をどうするか、という議論に終始しているような印象を抱いていたのだ。
せいぜい、ブラックホールなどに興味を惹かれるくらい。
が、それは素人の全くの無理解、とんでもない誤解だった。
← ブライアン・グリーン 著の『宇宙を織りなすもの 下』(青木 薫 訳 草思社)
専門家の間では、まさにひも宇宙論など、アインシュタインの相対性理論と量子力学との統合を目指す熱い試みの真っ最中だったのだ。
ただ、ひも宇宙論は、ほとんど数学というか数式の遊びに近く、実験的裏付けがほとんど(あるいは全く)なかった。
ただ、他には(若干の例外はあるが)、相対性理論と量子力学とを整合性を以て統合しえる理論の候補がなった(今も)。
なので、今の所、純然たる理論に留まっているとはいえ、さまざまな実験や観測データをあまりにうまく説明できるため、魅力的過ぎて、(一部から懸念の声を挙げられようとも)単なる数学の玩具とは言い切れないわけである。
が、そこへ朗報が飛び込んできた。
宇宙を観測する衛星を使って、これまでにないデータを蒐集しつつあるし、さらに重い素粒子を観測する施設が昨年からいよいよ稼動し始めた。
従来の施設の能力では、生み出しえなかった加速力で素粒子を衝突させ、理論的には想定されているが、今までは観測の網に掛からなかった素粒子が、あるいは観測されるやもしれない。
そうした重い素粒子の中には、超ひも理論で存在が予測されているものも、観測されるかもしれない。
となると、今まではただの理論に留まっていた超ひも理論が実験で一定程度、裏付けられることもありえるわけである。
→ リサ・ランドール著『ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く』(向山信治/監訳 塩原通緒/訳、日本放送出版協会)
ブライアン・グリーン 著の『宇宙を織りなすもの 下』の中でも、著者のブライアン・グリーンは実験(観測)の結果をワクワクドキドキしながら待ちわびていると書いていた。
念のため、本書の内容は出版社の説明によると:
「時間も空間も伸び縮みする」とは、いったいどういうことなのか?「宇宙は膨張している」とは、宇宙の何が膨張しているのか?あるいは、「宇宙は一枚の膜かもしれない」「量子力学を使ってテレポーテーションが成功した」「ブラックホールを作る実験を行う」など、耳を疑うような物理学の主張は、いったい何を意味しているのか?そして最も重要なことだが、それらの物理学の成果は、私たちの時間と空間に対する見方をどう変えるのだろうか?『エレガントな宇宙』の著者ブライアン・グリーンが、現代物理学による探究の成果を、一望のもとに描き出す。
転記文の中にある、同じくブライアン・グリーンの手になる『エレガントな宇宙』(林 一・林 大訳、草思社刊)も小生は読んだ。
その感想は、下記に:
「『エレガントな宇宙』雑感」
← 四日前の夕刻、玄関先で月影を撮る。遠い昔、小生に宇宙(論)への関心を持たせたのは、月だった。
超ひも理論についての本は、ミチオ カク (著)の『アインシュタインを超える―超弦理論が語る宇宙の姿』(講談社ブルーバックス)が初めてだったはず。
その時は、素粒子が「点」ではない、という点には当然と思いつつも、「ひも(ストリング)」状のものの振動の諸相がさまざまな素粒子として現象しているという考えに、あまりにうまく話が出来すぎていると思った。
が、今のひも理論はさらに進化している。
「『エレガントな宇宙』雑感」の中で、小生は次のような感想を書いている:
超ひも理論というのは、究極の素粒子をひも状と想定することで、素粒子(ひも)の「内部自由度」を確保し、従来の量子力学では乗り越えようのなかった障害を、少なくとも理論的には回避できると気付いたわけである。
が、同時にその「内部自由度」を一定の枠に収める根拠が見出し難く、理論は、まさに数学的な空想の理論になりかねない危険性と隣り合わせなのだということは、多くの識者に指摘されていることである。
それでも、このひも理論がもたらす「思弁」は、とてつもなく面白い。宇宙を考えアトムを考える上で、理論的な対称性の追究と美的な整合性をのみ頼りに、どこまでも考えていく人間のドラマを見ているような気がするのだ。まさにエレガントな宇宙像を、つまり、深いところで人間の探求と理解に応じて、その美的な真の姿を垣間見せてくれるはずだという信念が、科学者にはあるのだ。
→ そろそろ丑三つ時という刻限に部屋の小窓を開けて月を拝み撮り。月影清かだったけど、小生の腕前ではこれがせいぜい。月を見て妖しい気持ちになるって、変?
以下は、『エレガントな宇宙』からブライアン・グリーン自身の言葉:
宇宙に目を据え、これから出会うあらゆる不思議を予期するとき、私たちはまた、振り返って、これまでにたどってきた旅に驚嘆せざるをえない。宇宙の根本法則の探求は人間特有のドラマであり、人間の頭をめいっぱい働かせ、精神を豊かにしてきた。重力を理解しようとする自分自身の営みを生き生きと描いたアインシュタインの言葉――「切実な望みを抱き、自信と疲労を交互に感じつつ、最後に光のなかに出る、不安を抱きながら暗闇のなかを探った歳月」――は、間違いなく、人間の奮闘全体を表現している。私たちはすべて、おのおのの仕方で真理を旅し、おのおの、なぜ私たちはここにいるのかという問いに答えを望む。人類が説明の山をよじ登るとき、おのおのの世代は、前の世代の肩の上にしっかり立って、勇敢に頂上を目指す。いつか私たちの子孫が頂上から眺めを楽しみ、広大でエレガントな宇宙を無限の明晰さで見渡すことがあるのかどうか、私たちには予測できない。ただ、おのおのの世代が少しずつ高く登るなかで、ジェイコブ・ブロノフスキーが述べたことを実感する。「どの世代にも、転換点がある。世界の一貫性を見る、そして、表現する新たな仕方がある」。そして、私たちの世代が新たな宇宙観――世界の一貫性を表現する新たな仕方――に驚嘆するとき、私たちは星々に向かって延びる人間の梯子に梯子を付け加えて、自分の役割を果たしているのだ。
← ブライアン・グリーン著『エレガントな宇宙』(林 一・林 大訳、草思社)
リサ・ランドール著の『ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く』(向山信治/監訳 塩原通緒/訳、日本放送出版協会)を読んだ時もだが、『エレガントな宇宙』を読んでも、そして、本書『宇宙を織りなすもの 下』を読んで一層、超ひも理論が今、一番ホットな関心の渦中にあると実感させてくれた。
宇宙論もだが、宇宙像も今、激変の時を迎えつつあるのだ。
さて、実験は超ひも理論(M理論)を一部でも実証するのか。
関連拙稿:
「ピーター・アトキンス著『ガリレオの指』」
「ジョイス…架空のイメージとの遭遇(序)」
「黒星瑩一著『宇宙論がわかる』」
(09/04/13作 09/04/18アップに際し、タンポポの画像追加)
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コメント
こんにちは。初めまして。
宇宙論わたしも興味があり読ませていただきました。
手際よい記事で大変勉強になりました。
なんといっても人間は宇宙の子(ゴミ(^_^;))、確かな死生観を持つためにも宇宙論は絶対に必要ですね。
奈良にお住まいなのですね。
わたしのブログは雑多なことを書いているものですがのぞいていただいたら嬉しいです。
投稿: KOZOU | 2009/04/24 16:51
KOZOU さん
宇宙論は今、激動の最中にあり、昨年から始まった新施設の稼動で、待望の(あるいは意想外の)実験データが集まるかもしれない。
専門家は勿論、アマチュアも固唾を呑んで結果の分析と公表を待っているはず。
なお、小生はブログの冒頭にもあるように、富山在住(富山生まれ)です。
KOZOU さんは、創作もされているんですね。
今、創作欲の高まっている感じが伝わってきます。
投稿: やいっち | 2009/04/25 09:42