『白鯨』と『復讐する海』と(前篇)
(一年ほど前に読んだばかりなのになぜか)再読している最中の、フランク・シェッツィング著『知られざる宇宙 海の中のタイムトラベル』(鹿沼博史/訳、大月書店)の中に、ハーマン・メルヴィルの書いた大作『白鯨』に関連する話が載っている。
→ ナサニエル・フィルブリック著『復讐する海 捕鯨船エセックス号の悲劇』(相原真理子訳 集英社)
ハーマン・メルヴィルの『白鯨』では、悲運の老船長エイハブの捕鯨船に白鯨(モビー・ディック)が体当たりを食らわせ、乗組員もろとも海に沈めてしまった、というあたりで話が終っている。
しかし、この小説にはモデルとなった悲劇的な事故があり、しかも、捕鯨船の沈没も悲劇だが、生き残った乗組員のその後の運命も一層、過酷且つ悲惨なものだった。
沈没する船と運命は共にせず、取りあえずは助かった乗組員たちだが、生き延びての大海原での漂流も過酷な試練だった。
その一部始終を書いたナサニエル・フィルブリック著『復讐する海 捕鯨船エセックス号の悲劇』(相原真理子訳 集英社)という本がある(小生は未読)。
エドワード・ズウィック監督の手により、映画化もされたようだ(映画については、「CIA☆こちら映画中央情報局ですエドワード・ズウィック監督が「白鯨」の元ネタ実話「復讐する海-捕鯨船エセックス号の悲劇」を映画化!! - 映画諜報部員のレアな映画情報・映画批評のブログです」や「見てから読む?映画の原作 【映画】エドワード・ズウィック、ナサニエル・フィルブリックの「復讐する海」を映画化?」を参照のこと)。
人間が海を漂流する悲惨さについては、例えば、インディアナポリス号の悲劇に言及する形で語っている拙稿「はだかの起原、海の惨劇」を参照願えればと思う。
← ハーマン・メルヴィル著『白鯨―モービィ・ディック〈上〉』(千石 英世【訳】 講談社)
本稿後半部の転記文を一読すれば察せられるように、エイハブ船長のモデルは、エセックス号のポラード船長。
「メルヴィルは、エセックスの号の乗員であった一等航海士の手記を熟読、 彼の息子にインタビューしたりもしている。 また、「白鯨」執筆後のことであるが、ポラード本人とも会見している」とか(典拠未確認)。
「モビー・ディックこと白鯨にもモデルがい」て、「モカ・ディック(Mocha Dick)という白子の鯨」で、「1810年頃、チリ海岸沖モカ島近辺で発見され、1859年に捕鯨されるまで、 数十年間、捕鯨船とバトルを繰り広げた海獣」だとか(典拠未確認)。
→ フランク・シェッツィング著『知られざる宇宙 海の中のタイムトラベル』(鹿沼博史/訳、大月書店) 本書については、拙稿「知られざる宇宙 海の中のタイムトラベル」を参照のこと。
ナサニエル・フィルブリック著の『復讐する海 捕鯨船エセックス号の悲劇』(相原真理子訳 集英社)は、「1819年、ナンタケット島を出航したエセックス号はクジラに襲われ、乗組員は漂流、生還したのは数名にすぎなかった。『白鯨』のもととなったアメリカ捕鯨史上最悪の悲劇を再現」ということで、メルヴィルの『白鯨』の後日談という側面もありそう。
メルヴィルは何ゆえ、この一層、陰惨な後日談を小説に仕立てなかったのか。
しかし、そうしなかったことこそが、『白鯨』をその文学的象徴性の高さや精神性からして、世界文学の域に至らせる可能性をもたらした…、あるいは、陰惨なカニバリズム的現実をドキュメントするより、「白鯨」とのエイハブ船長の格闘を描き切ると決めたその判断にこそメルヴィルらしいと言うべきか。
(後篇へ)
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