風雲急を告げるも波穏やか?
日中の、父母との、掛け替えのない、けれど、時に辛気臭くもある、綺麗事も感傷もこれまでの自分の世界(の中の神経網)も見事なまでにズタズタに引き裂かれ、想像力の翼の骨がひしゃげてしまうばかりの中、そんな日常に釣り合って余りあるオースターの筋金入りの文体に、辛うじて創作の心の余命を保てているような気がする。
そう、ポール・オースターのことである。
→ 25日(水)の夕方近くの空。いかにも風雲急を告げるかのような空模様で、翌日は雨が雪になり、かと思うと晴れてみたり、春の気まぐれな空を思い知らされた。そんな中、病院と家とを往復したり、母のための訪問入浴を試したり、父の退院の見通しが付いたり、変化の少なからぬ日でもあった。
二週間ほど前の日記「「トゥルー・ストーリーズ」へ!」で書いているが、小生は今、ポール・オースターがマイブーム。
この日記を書いた時点で、四冊目のオースター本を手にしていた。
最初に手にしたのは、『幻影の書』(柴田 元幸訳 新潮社)で、この本でオースターの世界に魅せられ、早速、二冊目として『ムーン・パレス』(柴田 元幸訳 新潮社)を読み、ますます深入り、三冊目の『偶然の音楽』(柴田 元幸訳 新潮社)を手にした頃にはもう彼の虜になっていた。
四冊目は、小生としては初の彼のエッセイ集である『トゥルー・ストーリーズ』(柴田 元幸訳 新潮社)を夜毎、読んでいた。
日中はいろんなジャンルの本を日常の雑事の合間にちびりちびりと読み、夜、ひと段落付いて自分の時間に多少なりとも没入できると、オースターの世界に紛れ込んでいく。
このエッセイもこれまでこんなユニークなものは読んだことがないと、頁を捲る手がもどかしいほど。
物語の展開に何度も偶然を持ち込むのは、安易だとかご都合主義だとか言われそうだが、オースターは臆面もなく偶然の機会を持ち込む。
それこそ、「偶然の音楽」なんて本を書くくらいで、偶然の符合に人生の不可思議を積極的に見出している。
← ポール・オースター著『シティ・オヴ・グラス』(山本 楡美子/郷原 宏訳 角川書店)
四冊目の『トゥルー・ストーリーズ』を読み終える前に、五冊目として『シティ・オヴ・グラス』(山本 楡美子/郷原 宏訳 角川書店)と六冊目としてオースター初のエッセイ集である『空腹の技法』(柴田元幸/畔柳和代訳 新潮社)を予約しておいて、五冊目はあっさり読了。
今夜辺りからこの六冊目の『空腹の技法』を就寝前の楽しみとして、ちびちび読んでいくつもりでいる。
最初にオースターの本を借りたのは、2月2日。それが、二ヶ月にもならないうちにオースターの本を6冊も手にしているとは。
一昨日だったか読了したオースターの記念すべきデビュー作『シティ・オヴ・グラス』を読んで感じたのは、ストーリー展開の上手さや意外性もさることながら、ある種の虚無の感覚。
アメリカの都会にあって、それが砂上の楼閣に過ぎないという、茫漠たるニヒリズムのようなものを感じさせる。
この『シティ・オヴ・グラス』については、小生などが感想文を書くより、例えば下記がいい:
「livre-footballポール・オースター『シティ・オヴ・グラス』書評」
ここには結語だけ引用させてもらう:
このようにオースターの『シティ・オヴ・グラス』は刊行当初ミステリの範疇に入れられていたことが信じられないほど抽象性に達した作品である。(信じがたいことにエドガー賞の候補にもなっていたという。)登場人物は同姓同名の分身たちによって固有のアイデンティティを奪い去られて記号へと還元され、さらにこの作品自体も『ドン・キホーテ』という古典的な作品に自らの分身を得てその抽象性を増している。その美しさに触れることこそ『シティ・オブ・グラス』を読む醍醐味ではないだろうか?
6冊目の『空腹の技法』はできるだけゆっくり読み進めるつもりだが、以後もまだまだオースターワールドを楽しんでいきそうである。
→ ポール・オースター/〔著〕『空腹の技法』(柴田元幸/畔柳和代訳 新潮社)
日常と言えば、入院して三週間を経過した父だが、来週辺り、退院できそうである。
四週間ほどでの退院というのも、小生ら、近親者が嫌がる父を説得して、早めの診察と治療を半ば強制させた結果なのだと思う(父は、入院したら二度と病院から戻って来れないと覚悟していた節がある)。
父の退院は、話し相手のない母には特に朗報だろう。
小生にしても、家と病院とを洗濯物などを抱えて右往左往していた日々に一旦は区切りがつく。
ただ、父母との生活は待ちわびたものとはいえ、決して夢のようにはいかないだろう。
気を引き締めて行かないと、潰れそうである。
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