「コンゴ・ジャーニー」へ
レドモンド・オハンロン著の『コンゴ・ジャーニー 上』(土屋政雄/訳 新潮社)を読み始めた。
新聞の書評でベタ褒めだったし、内容に惹かれて早速、図書館に予約。
ようやく昨日から読み始めることができた。
← レドモンド・オハンロン著『コンゴ・ジャーニー 上』(土屋政雄/訳 新潮社)
「コンゴの密林に幻の恐竜を探して――。カズオ・イシグロ絶賛の桁外れの探検記!」なんてキャッチコピーが付いている。
「コンゴ川上流の湖に恐竜が棲息しているというピグミーの言い伝えに誘われて、英国人旅行記作家が全財産をなげうつ旅に出た。アメリカ人動物行動学者とコンゴ人生物学者を道連れに、賄賂を毟られても、下痢や呪術で死ぬ目にあっても、奥地へ、奥地へ――。」といった本。
二人の学者(ら)を伴ってとあるが、率いるレドモンド・オハンロンは、「1947年英国生まれ。オックスフォード大学文学部卒業。「タイムズ文芸付録」の編集記者を経て英国を代表する旅行記作家に。1984年『ボルネオの奥地へ』(めるくまーる)でデビュー」ということで、旅行記作家。
とにかく旺盛な探検欲である。
旺盛というより獰猛なほどの探究心。本書だって旅の冒頭で早速、マラリアの洗礼を受けて死に損なう。
でも、そんなものは彼にはただの挨拶程度なのだろう。
以下、勝手な感想を綴るので、この本のちゃんとした書評をしている頁を以下に示しておく:
「asahi.com(朝日新聞社):コンゴ・ジャーニー [著]レドモンド・オハンロン - 書評 - BOOK」
「イギリスの旅行記作家レドモンド・オハンロンのアフリカでの旅を描いた『コンゴ・ジャーニー』は、アフリカが抱える諸問題から目をそむけず、かつ、われわれが抱く“神秘とロマン”がまだかの地に残っていることを教えてくれる希有(けう)な本」で、「著者のコンゴ行きの目的が、コンゴ川上流の湖に棲(す)むという幻の恐竜モケレ・ムベンベの探索」だという設定。
「この本のすごいところは、これらの荒唐無稽(こうとうむけい)に思える“幻想”のアフリカが、著者が旅をした1990年ごろの“現実の”アフリカとまったく同じフィールドの中で描かれていることだ。一党独裁体制にある社会主義政権(当時)の役人の腐敗と、親類を殺した魔術師との戦いの話を著者は同じ視線で見つめている」という本。
アフリカは、旧人類そして新人類の発祥の地である。
現生人類もアフリカに生まれほんの僅かな集団でアフリカを後にし、世界へ散っていった(多分、何波もそんな営為があったのだろうが、多くは死に絶え、唯一の集団が現代の人類に続いたのだろう)。
日本は人口が減りつつある。
子どもの出生率が減っているとか。
子育てしつつの仕事が難しいとかいろいろ困難があるとも仄聞する。
でも、条件の違いがあっても、戦後の混乱期だって乗り越えた。
何か日本人としての生活力、その前に生命力の衰えを危惧せざるを得ない気がする。
あるいはもっと端的に性的なパワー、繁殖力の衰退なのかもしれない。
欧米も一部はそのようだ。
その一方、イスラム諸国はドンドン人口が増えている。アメリカで黒人系の大統領が誕生したことが話題の一つになっているが、思うに、ひと時の黒人勢力の脅威より、遥かに圧倒する勢いでイスラムパワーがアメリカの国内外で増しつつあるのだろう。
(アメリカの中の)黒人勢力でさえ、既成勢力に過ぎないかと思わせるほどのイスラムパワー。
あるいは(日本を除く)アジアパワーの脅威。
経済的に安定したり、人種的に保守的になっていくと、法律や制度や既得権で身を守っても、最後は生命力で新興勢力に圧倒されるのは時間の問題なのではなかろうか。
金融工学を駆使して利益を独占しようと、最後の足掻きを白人らが行い、それが見事に惨め過ぎる失敗に終わった。
世界の経済が再生するのは間違いないとしても、それは今度はアメリカ主導ではなく、アジアかイスラムか、トルコやイラクなどか、中南米かロシアか、いずれにしても思いも寄らない勢力の勃興が一層、歴然としてくるに違いない。
アフリカは欧米などの介入で部族対立がシビアーだったり、ほんの一握りの権力者が利益を独占し、圧倒的大多数が貧困に喘ぎ、飢餓に瀕し、病気の脅威に晒されている。
世界のどんな地域より、アフリカ(の中の一部なのだろうか)は悲惨な状況に喘いでいる。
それでも、あるいはだからこそ、世界に散って行った人々が隘路に迷い込み、生命力の枯渇に深刻に悩む状況に追い込まれても、あるいはだからこそ逆境に耐えて(将来に渡って、そんな危機は何度も襲来するに違いない)、そのときはアジアの人々が居るし、南米の人々が居るし、インドや中国、イスラムの人々が居るし、それでもダメなら混沌の大陸アフリカの人々が新たに違うイブの集団として世界に散っていく、そんな潜在する未曾有の力を蓄えている、そんな気がする。
共倒れして先進諸国の大半が疲弊し衰退して、(やはり)最後はアフリカに残っているクラスター群の中から別の新・新人が現れるのを待つしかないのか。
現代はその岐路にあるような気もするのだが。
小生などアフリカのことなど何も知らない。
どれほど辛酸を舐める状況にあるかなど、日本のマスコミは伝えてくれない。
日本は悲しいかな、資源を求めて、白人の勢力と闘うか競合するかは別として、アフリカの戦闘地域の矛盾を拡大し、増幅する勢力の留まるのだろう(申し訳程度にODAなどで目先を糊塗するのだろうが)。
日本の深い森。日本に人跡未踏の森があるのかどうか。
小説にしても、例えば、泉鏡花の『高野聖』で、人里離れた山奥を商人が命からがら旅する場面などで、道なき道の恐怖を感じさせてくれたものだが、そんな<深い森>にしたって、たとえば『コンゴ・ジャーニー 上』に描かれるジャングルに比べたら、内庭の戯れにしか思えなくなる。
参考に、泉鏡花の『高野聖』から一節を:
何しろ体が凌(しの)ぎよくなったために足の弱(よわり)も忘れたので、道も大きに捗取(はかど)って、まずこれで七分は森の中を越したろうと思う処で五六尺天窓(あたま)の上らしかった樹の枝から、ぼたりと笠の上へ落ち留まったものがある。
鉛の錘かとおもう心持、何か木の実ででもあるかしらんと、二三度振ってみたが附着(くッつ)いていてそのままには取れないから、何心なく手をやって掴(つか)むと、滑(なめ)らかに冷(ひや)りと来た。
見ると海鼠(なまこ)を裂いたような目も口もない者じゃが、動物には違いない。不気味で投出そうとするとずるずると辷(すべ)って指の尖(さき)へ吸ついてぶらりと下った、その放れた指の尖から真赤な美しい血が垂々(たらたら)と出たから、吃驚(びっくり)して目の下へ指をつけてじっと見ると、今折曲げた肱(ひじ)の処へつるりと垂懸(たれかか)っているのは同形(おなじかたち)をした、幅が五分、丈(たけ)が三寸ばかりの山海鼠(やまなまこ)。
呆気に取られて見る見る内に、下の方から縮みながら、ぶくぶくと太って行くのは生血(いきち)をしたたかに吸込むせいで、濁った黒い滑らかな肌に茶褐色の縞をもった、疣胡瓜(いぼきゅうり)のような血を取る動物、こいつは蛭(ひる)じゃよ。
誰(た)が目にも見違えるわけのものではないが、図抜(ずぬけ)て余り大きいからちょっとは気がつかぬであった、何の畠でも、どんな履歴(りれき)のある沼でも、このくらいな蛭はあろうとは思われぬ。
肱をばさりと振(ふる)ったけれども、よく喰込(くいこ)んだと見えてなかなか放れそうにしないから不気味ながら手で抓(つま)んで引切ると、ぷつりといってようよう取れる、しばらくも耐(たま)ったものではない、突然(いきなり)取って大地へ叩きつけると、これほどの奴等が何万となく巣をくって我(わが)ものにしていようという処、かねてその用意はしていると思われるばかり、日のあたらぬ森の中の土は柔(やわらか)い、潰れそうにもないのじゃ。
ともはや頸(えり)のあたりがむずむずして来た、平手で扱(こい)て見ると横撫(よこなで)に蛭の背(せな)をぬるぬるとすべるという、やあ、乳の下へ潜んで帯の間にも一疋(ぴき)、蒼(あお)くなってそッと見ると肩の上にも一筋。
蛭の夜襲。これでも小生のような臆病者を怯えさせるに十分である。
それが、まあ、コンゴの奥地ときたら!
ジャングルもだが、そもそも政情不安自体が旅人には脅威である。
魔術が生き、呪術師が力を持つ。
森(密林)というとガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』も言及しておかないとならない。
ジャングルの混沌は、そこに生きる人間の血の混沌でもある。
見通しなどまるで利かず、一度読んだだけでは何がなにやら分からず、十年ほど経って再読してこの小説の凄みを堪能できた。
→ レドモンド・オハンロン著『コンゴ・ジャーニー 下』(土屋政雄/訳 新潮社)
一方、レドモンド・オハンロン著の『コンゴ・ジャーニー 上』は、あくまで旅行記であり、小説仕立ての面白みはないが、その点、現実へ真っ向から飛び込んでいくだけに、筆者は饒舌と皮肉と冷静と知識とで一寸先の展開などまるで分からぬ面白みがある。
といいつつ、まだ、昨日から読み始めたばかり。
この先、どうなることやら、楽しみ(なような怖いような)。
(09/02/03作)
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