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2009/01/18

フランケンシュタインショック!

 二ヶ月ほど前、「フランケンシュタインと出産の神話(前篇)」や「フランケンシュタインと出産の神話(後篇)」なる記事を書いた。

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← メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』(山本 政喜訳 角川文庫) (画像は、「松岡正剛の千夜千冊『フランケンシュタイン』メアリー・シェリー」より。シェリーの小説『フランケンシュタイン』理解については、この書評が相当程度、参考になる。文学夜話的な面白みに満ちているのだが、文学史に詳しくなくとも、ジョージ・ゴードン・バイロン卿を巡る男女四人物語、そして「1816年のジュネーブ郊外のディオダディ荘が世界文学史を変えてしまった」話は是非に知っていたほうがいい。単に好奇心であっても。)

 エレン・モアズ著の『女性と文学』(青山誠子/訳 研究社)などをネタ元に、横山泰子が、小説『フランケンシュタイン』で作者のメアリー・シェリーという女性が描きたかったのは、通常考えられているようなことではなく、実は、「母性不安と結びついた「出産の神話」である」という説を紹介していたので、小生には目新しい説なので、ちょっと採り上げてみたのである。

 小説『フランケンシュタイン』についての基本的な疑問についても(素朴すぎて誰も触れていない?)、上掲の記事の中で書いている。

 が、こんな小文を綴っておきながら、内心忸怩たる思いがあった。

 前篇後篇とブログの記事にしては長めの文を綴っておりながら、実は、メアリー・シェリー著の小説『フランケンシュタイン』を久しく読んでいなかった。

 多分、実際に読んだのは中学か高校時代…、あるいはもっと遡るかもしれない。
 下手すると小中学生向きのダイジェスト版しか読んでいないのではないか。

 映画などのドラマは、いろんなふうに翻案された作品を見ているが、原作のほうは、ずっと遠い昔、一度、読んだことがある程度だった(はずだ)。

 なので、今週初め、図書館にCDなどの返却に立ち寄った際、帰りにふと思い立って、そうだ、この際、シェリーの『フランケンシュタイン』を読み返しておこうと、物色し借りたのだった。
 その際、ついでなので、エレン・モアズ著の『女性と文学』か、横山泰子の著を読みたかったのだが、生憎、タイトルを失念していて、図書館でいざ借りようとしても借りようがない。

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→ 廣野由美子著『批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義』(中公新書)

 が、廣野由美子著の『批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義』(中公新書)が見つかったので、こちらのほうを借りることに。
(実は、ほんの二年ぶりなのだが、オリヴァー・サックス〈Sacks,Oliver〉【著】『タングステンおじさん―化学と過ごした私の少年時代』(斉藤 隆央【訳】 早川書房)を借りることが出来て、ホクホクしていて、その日はもう他には何も要らない、なんて思っていたのだ。が、ふと、『フランケンシュタイン』を読まなくっちゃと思われてしまったのだ。この『タングステンおじさん』は、刊行されて5年余りだが、読むのは今回で通算4度めとなる。小生の垂涎の書なのだ。)

 批評の類は余り読まないし、まして批評理論(の本)なんて、小生には無縁の分野なのだが、まあ、今回は小説『フランケンシュタイン』をより深く読み込みたいという思いがあっての、試みなのである。

 まずは借りてきたメアリー・シェリー著の小説『フランケンシュタイン』だが、さすがに面白く、家庭の雑事などの合間を縫ってだが、それでも、火曜日に読み始めて木曜日には読了してしまった。

 読み始めてすぐに気付いたのだが、あれ、この小説、少年時代などじゃなく、比較的近年に読んだようだぞ、小説の筋立てとか文の調子などが、ああ、数年前に読んだとしか思えない記憶に鮮明に刻まれている、そんなふうに思えてならなかったのである。
 読み進めていくと、やはりそうだ、十年にもならない前に読んだばかりだ、という確信が沸くのだった(← 我ながら情けない)。

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← オリヴァー・サックス【著】『タングステンおじさん―化学と過ごした私の少年時代』(斉藤 隆央【訳】 早川書房)

 フランケンシュタイン(の作った<怪物>)のおぞましさもさることながら、この小説自体、様々な小説や作家や思想家らの影響をモロに受けている…というより、ごった煮的な小説で、まさに継ぎ接ぎ的な作品なのである。
 が、フランケンシュタインがその<怪物>の肉体に命を与えたように、シェリーはこの小説に命を与えている。
 批評理論からすると、いろんなことが言われうるし、解釈の余地が十分にありそうなのだが、それはそれとして、この小説『フランケンシュタイン』は生きている作品なのである。
 ストーリーもプロットも分かっているのに、最後まで読ませてしまう力がある。

 どんな批評理論や方法論などが駆使されて研究されていくのだろうが、命自体は分析されないだろうと小生なりに確信させられた。
 もう一歩…二歩、シェリーが踏み込んでいたなら、あるいは悲劇の文学メルヴィルの『白鯨』の域に達していたかもしれない。
 それほどの象徴性をさえ帯びたかもしれない、そんなことを思いつつ読んでいた。
 小生にとって、フランケンシュタインショック、あるいはメアリー・シェリーショックなのだった。

(但し、廣野由美子著の『批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義』はまだ読み始めたばかりである。)

                                 (09/01/16作)

 その後、17日になって廣野由美子著『批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義』(中公新書)を読了した。
 小生、批評とかはあまり読まない。まして批評理論の類いは興味がない…いや、なかった。
 でも、本書を読んで俄然、興味を抱いた。
 本書が面白いのか、題材の力なのか、必ずしもはっきりしないけど。
 
 それにしても、「フランケンシュタイン」を19歳の女性が書いたことに、一層のショックを受けている。
 現代の批評理論からの多彩な分析に十分、耐えうる、小説としての厚みを持った作品を19歳の女性が書いた。
 当時の男尊女卑や不倫などとんでもない中の自立への戦い、妊娠、出産…死産。早熟な知性と肉体にとんでもない閃きが炸裂したのだろう。
                                 (09/01/17 追記)

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コメント

小生、数年前にたまたまTVでみた、
この映画
http://plaza.rakuten.co.jp/mirai/diary/200409090000/
で「フランケンシュタイン」原作を
読みたくなって文庫本を買いました。
んがあ...ツンドクのままでした。○| ̄|_

今回ご紹介頂いている他の本も
是非読んでみたいです!!

ありがとうございました!!

投稿: Kimball | 2009/01/18 11:39

Kimballさん

フランケンシュタイン関連の映画は昔、結構、あって、小生もそれなりに観たけど、最後に見たのは学生時代…三十年ほど前かも。

「フランケンシュタイン【Mary Shelley's Frankenstein】1994年・米」
ロバート・デ・ニーロ主演のこの映画、ロバート・デ・ニーロファンの小生、見逃している。

映画は映画でいいけど、小説、さすがの傑作です。
読んで後悔しない。

これが19歳の作品だなんて、ショックです。
メアリー・シェリーショックです(← これを表題にしようかと迷った)。

投稿: やいっち | 2009/01/18 17:09

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