母さんのあの菅の笠、どうしたでせうね!
「高岡市福岡地域の菅笠を後世に 技術保存会が発足」
水曜日の夕方、食事の準備をしつつテレビ(北日本放送)の音を聞いていたら、「菅笠(すげがさ)」の話題が聞こえてきた。
まあ、それだけだったら、ただ聞き流すだけなのだが、なんと、富山は菅笠作り生産量が全国で一番なのだとか。
→ 日和裕樹〈にわゆうじゅ〉著『福岡町の菅と菅笠』(福岡町カルチャー文庫) (情報は、「『福岡町の菅と菅笠』『台網から大敷網へ』 - 能登のうみやまブシ」より。)
菅笠を作っている地域が県内にもあるって話は仄聞したことはあるが、まさか、富山が菅笠生産量全国一位の特産品だったとは知らなかった。
しかも、昨年、仕事の関係であの周辺を何度となく車で通った地域だ。
まあ、富山県の産品で全国一番のものは他にもあるし、最初は漫然と聞いていた。
が、夕食の準備を終え、食事し始めたら、雑談の中で、母が子供の頃、作ったことがあるし、親戚の者が作るのを終日、飽くことなく眺めていたとか、自分でも作ったことがある、なんて話になり、テレビのミニ特集に一層の興味を持って視聴することになった。
話を先に進める前に、そもそも「菅笠」とは一体、どんなものか。
(「笠 - Wikipedia」を覗いてみたが、あまり詳しい記述はなかったので、今回は「Wikipedia」は参照できなかった。菅笠の技術保存会などは、「Wikipedia」などのような媒体を積極的に活用したらどうだろう。)
今の若い人にはあまり縁のない物品だろう。
お遍路さんの被っている、あの笠だと言えば、多少はピンと来るかも(「体験的・遍路百科 【菅笠】」参照。但し、お遍路さんの笠と菅笠と材質や形状に異同があるのかどうか、小生、調べ切れなかった)。
一般に笠の種類はいろいろあるが、富山の伝統の「菅笠は2種類あり、男性用のものは富士笠、女性用はそれよりももうちょっと小ぶりで市女笠とよばれ」ているとか。
「菅笠(すげがさ)」によると、「笠(かさ)は雨や雪、直射日光を防ぐために頭に被る道具で」、「本格 すげ笠(菅笠)」によると、「「スゲ」という植物で作られた笠の総称をすげ笠と呼びますが、特に民謡・舞踊では、農民・漁師の役に用いる物を「すげ笠」と呼び、町人笠とは区別を」するとか。
なお、菅笠の笠骨は竹であり、テレビでは、この笠骨を作る人が今やたった一人となっているという。
伝統の技術の継承の上では、危機的状況 ? !
最早、民芸品の扱いのようだ。
「菅笠(すげがさ)」によると、矢張り富山は(菅)笠の本場と見なされているようである。
なんと、本場高岡市福岡には「菅笠の館」があるとか!
また、「福岡町の菅田(すげた)と菅干」が、、「砺波平野の散居村」、「黒部川扇状地」、「平村の茅場(かやば)と茅刈り風景」、「氷見市の大敷網(おおしきあみ)」などと共に、「農林水産業に関連する文化的景観・重要地域に選定」されたとか。
(ちなみに、余談だが、「菅笠)を英訳すると、「sedge hat」で、駄洒落っぽい!)
何ゆえ、「菅笠」のことがテレビで話題になったのか、単に富山が生産量一番というだけのことではなさそうだった。
どうやら、菅笠(すげがさ)作りの技術保存会が発足したとかで、その関連で特集となったらしい。
「富山新聞ホームページ - 富山のニュース 高岡市福岡地域の菅笠を後世に 技術保存会が発足」から一部、転記させてもらう:
全国シェア九割を占める高岡市福岡地域の菅笠(すげがさ)を後世に残すため「越中福岡の菅笠製作技術保存会」が三十日に発足し、高岡市のふくおか総合文化センターで設立総会が開かれた。菅笠の生産者など会員約三十人が地域の伝統工芸伝承に向け意識を高め、会長には菅笠の笠骨製作技術者の木村昭二さん(高岡市福岡町大野)が選ばれた。
福岡地区の菅笠は、加賀藩が藩財政を支えるために生産を奨励し、十七世紀後半には「加賀笠」の名で全国に出荷された。ピーク時には福岡地域で菅笠作りに携わる家が七十― 八十軒あったが現在は五、六軒で、笠製作者の平均年齢が八十歳を超えるなど後継者の育成が急務になっている。加えて、材料のスゲは年々入手しにくくなっている。
そう、母のお里は高岡なのである。
だから、菅笠の話題になると、俄然、口が滑らかになる。
今はともかく、往時は高岡のある地域の(と特定しなくてもいいのか?)どの農家でも当たり前に作っていたらしい。
今は菅笠のニーズも減って、「笠製作者の平均年齢が八十歳を超えるなど後継者の育成が急務になっている」し、その前に、「材料のスゲは年々入手しにくくなっている」という。
父の話によると、材料のスゲを作るのは、泥田での作業になり、なかなか大変なのだとか。
尤も、母に拠ると、田植えの要領で、ちゃんとスゲの苗を植えれば、ちゃんと育つし、収穫も難なくできるというのだが。
要は、ちきんと最初から作る、そんな作業がニーズの減少もあって、敬遠気味になっているということなのだろう。
調べてみると、もともとは「菅はどんな陰地でもよく育つので、水田の不適地にも栽培できる利点があった」から、スゲ作りが盛んになったという事情もあるようだ。
なるほど、水田ができるくらいならスゲより稲作に傾くのが自然なのかもしれない。
父の話によると、往時は(あるいは今も?)、東北三大祭りに準ずる山形の花笠まつりのための出荷も多かったとか(典拠、未発見)。
また、上掲の転記文中に、「福岡地区の菅笠は、加賀藩が藩財政を支えるために生産を奨励し、十七世紀後半には「加賀笠」の名で全国に出荷された」とあるが、なるほど、県の西部に当たる高岡などは加賀藩の影響が大きかったわけで、その一端でもあるのだと分かる。
実際、「富山新聞ホームページ - 富山のニュース 菅笠飾りで地域に愛着 高岡市福岡町地域の住民が児童に作り方指導」といったニュースも地元(富山)では流されるほどなのである:
高岡市福岡町地域の住民が講師になり、児童に郷土の歴史や文化を教える「寺子屋サロン」は十八日、同市のさくら会館で菅笠(すげがさ)を使った正月飾り作りを行い、参加した児童が特産品に触れて地域への愛着を深めた。
(中略)
直径約二十センチの小さな菅笠を土台にして、松や梅、ササなどの造花と紅白の繭玉を、配置に気を配りながら、針金や接着剤で飾り付けた。
さらにネット検索してみたら興味深い情報が得られた:
「別冊☆大阪百科☆ニュース - ☆大阪百科☆ニュース掲示板」
どうやら、「YOMIURI ONLINE」からの引き写しらしい(但し、元の頁は既に削除されている)。
このサイトから一部、転記する(太字は小生の手になる):
菅笠 名産地「深江」復活へ
きょう苗植え東成菅笠を編む保存会のメンバーら(大阪市東成区で)
かつて、旅装束に欠かせなかった「菅笠(すげがさ)」の産地として知られた大阪市東成区の深江地区で、素材の菅の栽培を復活させる取り組みが始まる。最盛期には海外にも輸出されていたが、昭和戦争後、次第に菅田が廃れ、菅細工職人もいなくなった。住民有志で発足した深江菅田保存会は14日、「歴史的な遺産を後世に」と地区内にある市立公園の一角に苗を植え、菅田を復活させる。
深江の菅細工の歴史は古い。古代、低湿地だった深江では良質の菅草が豊かに自生していたことから、大和の氏族である笠縫氏が移り住み、菅笠を作ったのが起源とされる。
江戸時代には伊勢参り用の道中笠の一大産地となり、「摂津名所図会」には「深江村及び隣村に多く莎草(さそう)(菅草が莎草の一種)をもってこれを造る。只深江笠と稱(しょう)して名産とす」との記録が残る。
しかし、昭和戦争後、区画整理や宅地開発で一帯に広がっていた菅田は激減。技術を継承しようとする有志ら以外に菅笠を作ることもなくなった。伊勢神宮で20年に一度行われる祭事「式年遷宮」に献納している御笠の菅も、すべて富山県から取り寄せている。
「伊勢神宮で20年に一度行われる祭事「式年遷宮」に献納している御笠の菅も、すべて富山県から取り寄せている」ほどに由緒ある菅であり菅笠なのだ!
となると、原料のスゲ作りの段階から菅笠作りまで、その技術の全ての継承が強く望まれるのも当然と思うしかない。
福岡町における菅笠作りについては、下記が詳しい:
「第6回 農家の手仕事 ~菅笠作りとソウケ作り~ 日和祐樹」
…なんてことを書いたけど、悲しいかな、小生には麦藁帽子ならあっても菅笠を被った記憶がない。
でも、家に菅の笠があったことは覚えている。
あるいは、今も残っている?
ああ、母さん、母さんのあの菅の笠、どうしたでせうね!
参照:
「第6回 農家の手仕事 ~菅笠作りとソウケ作り~ 日和祐樹」
(福岡町における菅笠作りについて非常に参考になる。)
「笠菅 (カサスゲ)」
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コメント
大阪市東成区を中心に町の魅力を探すブログを作ってます。
東成区の菅細工や菅田保存についても紹介していこうと思ってます。
よかったら一度見に来て下さいね^^
http://blog.goo.ne.jp/tamazou_kun/
投稿: たまぞうくん | 2009/06/08 23:44
たまぞうくんさん
来訪、コメント、ありがとう。
写真が一杯の、地元の熱気の伝わるサイトですね。
菅細工や菅田保存で知り合えるなんて、ブログを続けていて嬉しく感じる瞬間です。
投稿: やいっち | 2009/06/09 22:15