「ねずみ浄土」の周辺
昨日、アップした「少年マガジンとボクの黄金時代」の中で、「死霊と語る夜」やら「深山ねこ岳修行」、「地底のねずみ浄土」あるいは、「土蔵の中の密議」や「火煙できつね落とし」などなど、民俗学などの文献に当たって調べてみたくなるような話を採り上げている。
← 27日、夕日が家の軒先に没していく…間際の輝き。
いずれも、もう少し掘り下げておきたい興味深い話である。
「地底のねずみ浄土」という題名だったかどうかは忘れたが、地底にねずみたちの棲家があって…云々という話を昔、聞いたか読んだかした朧な記憶がある。
ここでは、「地底のねずみ浄土」について若干のことをメモしておきたい。
冒頭に示した拙稿では、『少年マガジンの黄金時代 特集・記事と大伴昌司の世界』(編者: 週刊少年マガジン編集部 講談社)からとして、画像と共に以下のト書きを転記している:
畑のまん中や野原の草かげに、ひょっこりあいた異様なあなをのぞき見ると、そこには、想像もできない世界があった。黄金にかがやく宮殿や水晶をしきつめた道路に、無数のねずみがいる。人間と同じ服を着て、人間と同じ生活をしている。とめどなく黄金小判のあふれるうすや、とりきれない果実。
地底の世界にすむねずみたちは、豊かな毎日を送っていた。たまに人間が落ちると、きずのなおるまで地底においてくれる。
地底になにがあるか、まだはっきりわからない。むかしの日本人は、ここに豊かな世界があって、地上人の侵入をはばみながら生活している者たちがいると考えた。「ねずみ浄土」もその一つだ。(ねずみ浄土の分布する地方=東日本の各地。)
→ 「地底のねずみ浄土」(南村喬之 ペン画) (画像は、『少年マガジンの黄金時代 特集・記事と大伴昌司の世界』(編者: 週刊少年マガジン編集部 講談社)より。)
初めて読んだのはいつのことだったか覚えていないが、ジュール・ヴェルヌの書いた『地底旅行』(窪田 般弥訳 創元SF文庫)を(無論、子供向けに書き直されたり、漢字にふり仮名の振ってある本だったが)読んで、マジに地下にはそんな世界がありえるのだと信じていた頃もあるが、多分、「ねずみ浄土」の話を読んだりしたのはさらに幼い頃だったはず。
そういえば、アーサー・コナン・ドイルが書いたSF小説『失われた世界』(The Lost World ロストワールド)なども、子供向けの本で小学生の頃に読んだっけ。
小説では、「失われた世界は、平原に屹立する巨大な台地にあった」ということだが、小生の中で勝手に地底の中に巨大な空洞があって、そこに秘められた世界がある、というイメージに変わっていたものだ。
どうやら、小生の記憶のほうに空洞があるようだ。
← 『少年マガジンの黄金時代 特集・記事と大伴昌司の世界』(編者: 週刊少年マガジン編集部 講談社)
曖昧な記憶を頼りにネット検索したら、「おむすびころりん - Wikipedia」という頁が浮上してきた。
この頁の冒頭に、「おむすびころりんは、日本のおとぎ話の一。「鼠の餠つき」「鼠浄土」「団子浄土」などともいう」とある。
ああ、これだ!
「あらすじ」によると、以下の通り(後半は、端折った。「こぶとりじいさん」などの昔話と同じような展開で、筋書きは想像が付くと思うし):
おじいさんが、いつものように山で木を切っていた。昼になったので、昼食にしようとおじいさんは切り株に腰掛け、おばあさんの握ったおむすびの包みを開いた。すると、おむすびが一つ滑り落ちて、山の斜面を転がり落ちていく。おじいさんが追いかけると、おむすびが木の根元に空いた穴に落ちてしまった。おじいさんが穴を覗き込むと、何やら声が聞こえてくる。おじいさんが他にも何か落としてみようか辺りを見渡していると、誤って穴に落ちてしまう。穴の中にはたくさんの白いネズミがいて、おむすびのお礼にと、大きい葛篭と小さい葛篭を差し出し、おじいさんに選ばせた。おじいさんは小さい葛篭を選んで家に持ち帰った。
家で持ち帰った葛篭を開けてみると、たくさんの財宝が出てきた。
炭坑や特に金鉱など、地下をドンドン掘り下げていくという現実が一方にはある。
そこにあるのはリアルな厳しい現実。
あるいはモグラの穴やアリの穴、鍾乳洞、洞穴などなど。
それはそれとして、地下・地底への尽きない好奇心は昔からあったものと思う。
浦島太郎の竜宮城だって、海の底という設定だが、人間界の地平とは次元を一つ低いほうへ潜っているのは同じなような気がする。
→ ジュール・ヴェルヌ著 『地底旅行 改版 』(石川湧訳 角川文庫)
人が死んだらあの世へ行く。浄土へ行くというけれど、追い詰められていくと、もっと具体的なイメージを描きたくなる。
死者は火葬で葬られることもあれば、土葬も結構、多いようである(註)。
人が死ねば土になる。
あるいは火に掛かって風になるのか。
土からは雑草も生い茂ってくるが、稲もできれば畑で野菜も採れる。
土から植物が、命が生まれ土によって育まれる。
大地への畏敬の念は、われわれが想像する以上に深い真摯なものだったのだろう。
土の下は死の世界でもあり、豊饒なる命の世界でもある。
昔話で、人によっては宝を得る人が居るし、惨めな末路を辿る人も居るというのも、当然の話なのだろう。
考えてみると、人の多少なりとも知りえた地下世界など、地球のほんの表層でしかない。
その表層だって踏破したわけではないのだろう。
地下には何があるか、実のところ、まだ人間は何も分かっていないのかもしれない。
(註)「葬送のこと、祈りのこと」あるいは「埋葬について、あるいは死の形」参照のこと。
(09/01/29 作)
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