ルシファー 冷たい火
冬、雪、家の中なのに寒い…からの連想だろうか、何故かマッチに絡む思い出が蘇ってきた。
遠い昔、小生が小学生だった頃、「真冬、雪のたっぷり降り積もった或る日、土間の脇の小屋で貯蔵してある灯油のドラム缶の傍で、四角いブリキの容器に灯油を注ぎ、新聞紙を芯代わりにして、マッチで灯油に火を点けようとしていたこと」を思い出した(註1)。
→ 「燃えるマッチ」 (画像は、「マッチ - Wikipedia」より。)
と思ったら、過日読んだ本の中に、気になる言葉があり、それが小骨のように脳裏に引っ掛かっていたようでもある。
それは、「一八三〇年代に「ルシファー」――摩擦マッチ――が登場した」という件(くだり)であり、その文言が出てくる章の題名が「冷たい火――光の秘密へ」なのである。
以下、その本では黄リンの惨禍(「燐顎(りんがく)」や「黄リン爆弾」のことなど)に満ちた歴史が簡単に触れてあった(註2)。
燐(リン)というと、やはり小学の六年生の頃だったか、鉱物に変に惹かれた時期があって、そのとき、それこそマッチの先ほどの水銀やら欠片やら何か(多分、木だった)の化石などを集めていた。そのささやかな蒐集物の中に、リンの欠片(粉?)があった。
燃えやすいという話を聞いていたのだろう、リンを家の片隅で燃やしてみたことがあった。
嫌な匂いがして、そのうち頭が痛くなったっけ。
マッチというと、童話や小説好きな方なら、アンデルセンの「マッチ売りの少女」を思い出すか、あるいは野坂 昭如の『 マッチ売りの少女』を思い浮かべてしまうか、人それぞれだろう(小生は前者も忘じ難いが、後者がやはり印象深い)。
でも、ここでは、「ルシファー(Lucifers)」あるいは摩擦マッチのことを調べてみたい。
「ルシファー」って、何?
商品名? 愛称? 章の表題の「「冷たい火――光の秘密へ」に関係する?
← 「明けの明星」 「明けの明星 - Wikipedia」によると、「キリスト教においては、ラテン語で「光をもたらす者」ひいては明けの明星(金星)を意味する言葉「ルシフェル」(Lucifer)は、他を圧倒する光と気高さから、唯一神に仕える最も高位の天使(そして後に地獄の闇に堕とされる堕天使の総帥)の名として与えられた」という(本文参照)。
ネット検索したら、すぐに疑問(の一端)が溶けた。
「マッチの世界|マッチの歴史」の「1829 (文政12)年」の項に「イギリスのサムエル.ジョーンズが摩擦マッチ、ルシファー(Lucifers)が(の?)名で販売」とある。
この摩擦マッチ・ルシファーの燃える部分の素材は分からない。
というのも、「1831 (天保2)年 フランスの化学者C.ソーリアが黄りんマッチを発明 」とあるからには、イギリスのサムエル.ジョーンズが売り出した摩擦マッチ・ルシファーの燃える部分の素材が黄リンではないことになるからだ。
「マッチの世界|マッチの歴史」によると、「1805 (文化2)年 フランスのJ.シャンセルが浸酸(しんさん)マッチ、即席発火箱(French Fire Machines )を発明 」(硫黄や塩素酸塩、ロジン等と濃硫酸を利用した)とある。
最初のマッチは、硫酸に浸さないと使えなかったというのである!
さらに前段があって、「欧州では1780年頃パリで黄りんを用いた「エーテルマッチ」が市販された。また、1786年に硫黄を軸木につけ、小瓶に黄りんを入れたマッチが市販されている」という。
いずれにしても、マッチに黄リンが使われて初めて実用性の高いマッチが量産に適するようになったと理解できそうだ。
その際、何ゆえ、「ルシファー(Lucifers)」なる名称が採用されたのだろうか。
「ルシファー - Wikipedia」によると、「ルシファー(Lucifer)とは、キリスト教の伝統で、サタンの別名とされ」、「はもともと、ラテン語で「光を帯びたもの」(lux 光 + -fer 帯びている、生ずる)を意味し、キリスト教以前から「明けの明星」を指すものとして用いられ」るという。
さらに、「ルシファーは元々全天使の長であったが、土から作られたアダムとイブに仕えろという命令に不満を感じて反発したルシファーは神と対立し、天を追放されて神の敵対者となっ」て、サタンになったとか、いろいろな話があるらしいが、ここでは深入りしない。
→ オリヴァー・サックス著『タングステンおじさん―化学と過ごした私の少年時代』(斉藤 隆央【訳】 早川書房)
ただ、サタンはともかく、「ルシファー(Lucifer)」とは、「光を帯びたもの」とか、「明けの明星」を指すものとして用いられたことを知っておけばいいのだろう。
それにしても、黄燐の毒性・危険性を鑑みると、別名がサタンである「ルシファー(Lucifer)」の名をよくぞ使ったものである(註2)。
黄燐マッチを売り出したイギリスのサムエル.ジョーンズには余程、先見の明があったというべきか、それとも、文明の利器は、誰しも当初は光の面しか見ないし期待しないが、いざ使い始めてみると、光に影のあるごとく、黄燐マッチも火であり光であり毒でもあったということか。
ものがマッチだけに、どうしても火遊びに堕しやすいということ?
それでも、これで出だしの思い出話に繋がったのだから、本稿はこれでやめておく。
蛇足・短足:
「安永元年(1772)に平賀源内はゼンマイを使用した火打石と鉄を用いた刻み煙草用の点火器を発明」したという(「ライターの歴史、日本で最初のライターは? - ライター大図鑑」)。
日本最初のライター…と言えるかどうか分からない。微妙。
(註1)「マッチで灯油に火を点けようとしていた」…けれど、これは上手く行かなかった。
(註2)黄燐禍については、「黄燐マッチは毒性が強く、殺人や自殺などに使用された事もあっりました。さらに、移動中の摩擦や衝撃による火災事故も頻発した」など、「マッチの発明-マッチの歴史- マッチの館」を参照。さらに黄燐は爆弾にも使われたようである。
参照:
「マッチ売りの少女はなぜ死んだのか」(永井俊哉氏サイト)
『マッチ売りの少女』(野坂昭如:著、米倉斉加年:絵 大和書房)
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