月長石…ムーンストーンは妖しく光る
過日、久世光彦著の『早く昔になればいい』(新潮文庫)を読んでいたら、文中、(少なくとも)三度、「月長石」という言葉が使われていることに気づいた。
それなりのイメージというかオーラを発散している言葉であり、物象だとは思うけれど、必ずしも長くはない小説に三度も使われると、ちょっと気になってしまう。
← 「ムーンストーン(月長石)」((c)KAGAYA) (画像の出典は、「天然石図鑑 ムーンストーン(月長石)」より。本画像は、天然石・アクセサリーショップ「アクエリアスステージ」の許可を得た上で転載したものです。)
小説家に限らず、表現にこだわるならよほどのことがない限り、(やや)珍しい言葉は比喩として複数回は使わないはず。
時に目障りになりかねない。
でも、同氏は敢えて何度となく使っている。
もしかしてエッセイか何かでこの「月長石」を巡っての思い入れなどを語っているのではなかろうか。
久世の小説やエッセイは何冊か読んでいる(以下、例によって敬愛の念を籠めて敬称は略させてもらう)。
富山や小生の母校とも縁のある方なので、せっかくなので「月長石」の周辺を探ってみることにした。
といっても、実物の月長石は手元不如意な小生には入手は難しい。
多分、あくまでネットなどを通じての情報摂取に終わるだろう。
→ 「ムーンストーン(月長石)」((c)KAGAYA) (画像の出典は、「天然石図鑑 ムーンストーン(月長石)」より。本画像は、天然石・アクセサリーショップ「アクエリアスステージ」の許可を得た上で転載したものです。「天然石図鑑 ムーンストーン(月長石)」の中の「天然石のおはなし」は、是非、読んでもらいたい。)
「月長石 - Wikipedia」によると、「月長石(げっちょうせき)は、ムーンストーン(moonstone)とも呼ばれ、長石類(サニディンあるいはアノーソクレース)の外観の美しいものが宝石類に分類されたものである」とか。
やはり名称が気になる。
同上の頁によると、「そもそもの語源は、透明度の高い長石類にカボション・カットを施すことによって得られる青や白の光沢を月光に見立てたことによる。特に青色のシラー効果をもつものを「ブルームーンストーン」と呼んでいる」という。
「ブルームーンストーン」のほうが、文章の種類・ジャンルによってはイメージが広がるかもしれないと思えたりする。
でも、同氏は少なくとも上掲の小説の中では「月長石」で通していた。
「月長石 - Wikipedia」にはさらに、「古代からムーンストーンには、悪霊を祓い、予知能力を高め、ストレスを和らげ、愛をもたらすと信じられていた」とも書いてある。
あるいはこの古来より月長石に寄せられたイメージ…魔術性が、月長石の決して派手ではないが、たおやかで穏やかなのだが、妙に怪しくも光るようである特徴と相俟って、「月長石」という石あるいはその言葉・名称の放つイメージにこだわっておられたのだろうか。
生憎、肝心の本は図書館に返却してしまったので、本文でどのように「月長石」が使われているのか、転記の形で示すことができない。
ムーンストーン(月長石)の実物(画像)はなかなか見ることが叶わない。
それに引用した文中にある「シラー効果」が分からない。
下記のサイトなど参照:
「天然石図鑑 ムーンストーン(月長石)」
この頁に拠ると、「ムーンストーンは長石のいくつかが層状に重なって形成されており、この構造が光を特殊な形で分散、反射させることで独特の青色から白色の光を放っています」とある。
どうやら、これが「シラー効果」のようだ。
← 「ブルームーンストーン スターシェイプペンダント」 (画像は「【楽天市場】 【極上天然石屋】ブルームーンストーンスターシェイプペンダント(小) No.3:極上天然石屋」より。) 「月長石」のいい写真(画像)になかなか出会えない。…そんな中、「天然石図鑑 ムーンストーン(月長石)」が秀逸!
「天然石・パワーストーンの意味辞典 ムーンストーン」がさらに詳しい。
ここにも、「ムーンストーンは正長石と曹長石の二つが交互に重なり合って薄層を作り、これを研磨すると光が互いに干渉し合い反射するため、真珠を思わせる柔らかい光“シラー効果”が見られます」とあるので、やはりこの「シラー効果」こそが、ムーンストーンの特徴であり命のようだ。
この頁の冒頭付近にこのようにある:
月の光を宿したようなムーンストーンは、古くから神秘的な力を秘めた石として人々に愛されてきました。『月』は女性性の象徴であり、そのエネルギーを持つとされるこの石は、女性をサポートしてくれる力にあふれています。
この中の、「『月』は女性性の象徴であり、そのエネルギーを持つとされるこの石は、女性をサポートしてくれる力にあふれています」という文言の意味するところがあるいは久世の小説に大切だったのか。
小説の語り手がどうにも忘れられない女は気が触れてしまって、望まれれば誰とでも寝る女になってしまっている。
あまりに哀れなので兄が自分の手で…。
語り手もその女を<愛し(語り手自身が女を他の連中と示し合わせて輪姦することが愛することならば…)>、しかも、自分が孕ませてしまっていたことに後年になって、 自分と瓜二つの男を帰郷した際に見かけることで気づく。
むしろ、そのことで忘れていた(しかし決して忘れられるはずもなかった)あの頃のことを思い出してしまうわけである。
自分も無実ではなくむしろ罪を犯した、でも、その女を実は愛していたのだと思う(思いたい)ことで免罪を乞う。
否、勝手に自分で自分を免罪しようとジタバタしている。
そのためにも、女には「月長石」が必要なのである。
いや、「月長石」を叙述の中で頻繁に使うことで、昔の罪から逃れようとしている…、そんな風に思えるのだが。
→ 久世 光彦 (著)『早く昔になればいい』(新潮文庫) (画像は、「Amazon.co.jp: 通販サイト」より) 「しーちゃんは町の大きな家の娘で、二十歳を過ぎているけれど静かに狂っていた。十四歳の私は、赤い椿のようにきれいなしーちゃんが大好きだった。でもしーちゃんは、好きだと言われれば誰にでも喜んで体を開く。だからある夜、私もしーちゃんの熱い脚の間で望みを果たした。しーちゃんは次の夏、狂ったまま死んでしまった―。胸の奥底に残る甘くせつなく恐ろしい恋の記憶の物語」…。昔はこういうことが間々あったそうな。(関連:「無言坂…早く昔になればいい」)
ところで、久世は小説の「月長石」をどんな色合いとして思い浮かべていたのか。
多分、小説の当該箇所を調べればいいのだろうが、分からない。
「ブルームーンストーン」なのか、「オレンジムーンストーン」なのか。
さて、どうだろう?
参考:
「天然石図鑑 ムーンストーン(月長石)」(ホームページ:「天然石・アクセサリーショップ「アクエリアスステージ」」 左記サイト様には、天然石の画像の使用を許可していただきました。感謝しております。)
「天然石・パワーストーンの意味辞典 ムーンストーン」
「月長石 - Wikipedia」
「無言坂…早く昔になればいい」
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コメント
本文にあるように、「ムーンストーン(月長石)」((c)KAGAYA)の画像の使用を許可していただきました。
許可していただいた、「アクエリアスステージ」さまには感謝しております。
こうなったらいつかは本物の天然石、そして宝石となったムーンストーンを見てみたいものである。
なお、画像の著作権を持つ加賀谷 玲氏のCDサイトは下記:
「DREAM SIDE RECORDS」
http://members.jcom.home.ne.jp/dream-side-records/
[付記]:
本稿は10月4日に公表したものだが、上掲の画像の使用許可を戴いたため、再度、アップすることにした。
内容はほとんど変わっていないはず。
投稿: やいっち | 2008/10/06 20:03
これは本物を見せてもらうか手に入れて重みを実際、確かめながら、イメージを膨らませてみたいですね。写真で見てもこれだけ人を引き付ける力があるんですもの。本物を手にしてみたいですね。気のふれた女性と月長石、人間から理性とか常識とか全て余分なものを取り去って、純粋な結晶?上手く表現出来ませんが、混じりけの無いもの。無垢なものと月長石の妖しいまでの美しさが重なったのかしら。
投稿: ピッピ | 2008/10/09 13:23
ピッピさん
そう、月長石などは、画像ではやや地味な印象を受けるかもしれない。
やはり、実物を手にとって、あるいは目の前にして眺めて見たいものです。
水晶とかと比べてみるとか。
実物の月長石(宝石に加工されたもの、あるいは原石)を目前にして、瞑想に耽ってみたいです。
投稿: やいっち | 2008/10/09 21:37