蝉時雨に沈黙を聞く
梅雨入りしてそんなに間もない或る日、不意に懐かしい音に気がついた。
蝉時雨である。
既に喧しい鳴き声が聞こえていたのかもしれないが、朝、窓を開けたら耳に付いたのである。
「夏のことばⅡ・季語 蝉時雨 (せみしぐれ)」によると、「蝉時雨を演出してくれるのは、東日本では油蝉、西日本では熊蝉が主役」とある。
小生は富山。ということは、熊蝉なのか。今の所、きちんと確かめたことはない。
→ 27日の夕焼け。午後、雲行きが怪しい中、躍起になって草むしりしていたら、三時頃、雨がポツポツと。あっという間に風雨に。水のシャワーを浴び、お茶で一服して、さて夕食の準備をと思ったら、外の景色が綺麗。思わず、デジカメを手に庭へ。
ただ、我が家の庭の内外でも特に探そうとしなくても蝉の姿は垣間見られるし鳴き声を聞くことができる。
チャンスがあったらクロアゲハやトンボやバッタや(多分)コオロギやヤモリやクモなどと共に我が家の庭に棲息する生物ということで蝉の姿も写してみたい。
同上の「夏のことばⅡ・季語 蝉時雨 (せみしぐれ)」にはさらに、「蝉時雨は本来心地よい鳴き声の部類に入るのですが、炎天下の熊蝉や夜の油蝉の連鳴きは、やや不快音に属します」とも書いてある。
蝉時雨…数知れない蝉たちの一斉の鳴き声は、上で思わず喧(かまびす)しいと書いたが、実際、煩い。
それでいて、何かに没頭しているとその鳴き声は意識から消え去ってしまう。
ということは、心底、煩くて邪魔な<騒音>というわけではないようだ。
念のために書いておくと、「蝉時雨」は、晩夏(太陽暦7月、旧暦6月)の季語(動物)だという。
まさに今の時期の季語であり風物詩のようである。
先に進もうと思ったが、ふと、小生、セミに付いても雑文を幾つか綴ったはずと気付いた。
検索してみたら、下記が浮上してきた:
「もうすぐセミの鳴く季節」(2006/07/19)
「蜩…夢と現実をつないで鳴く」(2005/08/28)
「セミから空を考える」(2006/08/24)
小生のようにやたらとあれこれ書き綴っていると、あれ、この話題にはもう触れているなってしばしば気付かされる。
すると、書く意欲が萎えてしまう。
ここでは蝉時雨というくらいなので、鳴き声の煩さ(煩いか否かも含め)の周辺を少し触れる。
「アオガエルは瞑想を誘うけれど」の末尾でも扱っているが、「閑さや岩にしみ入蝉の声」という句についての素朴な疑問である。
それは、この句での蝉は一匹なのか、それとも蝉時雨のような蝉の集団での声なのかという、ある意味、どうでもいい疑問。
そもそも一匹だろうが森か林の中の数多くの蝉たちの同調する鳴き声だろうが、句の理解を左右するわけでもなかろう。
むしろ、無数と思えるほどの蝉たちの一斉の鳴き声が、全体として森に木霊するようで、森が蝉時雨にしとどに濡れる…音に痺れているようであっても、その実、ふと、その耳を劈(つんざ)くような音の洪水にも関わらず、一瞬、自分が静寂に包まれている瞬間を感じる。閑寂な無音の海の只中にポツンとあるように感じられる。
怒涛のような音の奔流に呑まれているのだけれど、音が何か異質な何かに変容してしまっていて、自分も異次元の世界に一気にトリップしてしまっていることに気付かされる。
喧しさの只中で沈黙の海に漂流している自分がいることを知る。
…いやもっと言うと、本当は蝉時雨の力を借りずとも、実は人は孤独の海を当てもなく漂っていると思い知らされる。
最後に、「世界は音に満ちている…沈黙という恐怖」でも一部を引用した言葉をここでも掲げておく:
沈黙のもつ恐怖についてはいまさら想うまでもない。死の暗黒世界をとり囲む沈黙。時に広大な宇宙の沈黙が突然おおいかぶさるようにしてわれわれを掴えることがある。生まれでることの激しい沈黙、土に還るときの静かな沈黙。芸術は沈黙に対する人間の抗議ではなかったろうか。詩も音楽も沈黙に抗して発音するときに生れた。
(武満徹著『音、沈黙と測りあえるほどに』より。)
参考:
「青松虫のことなど」
「秋の蝶」
「アオガエルは瞑想を誘うけれど」
「世界は音に満ちている…沈黙という恐怖」
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