団扇に絡むエトセトラ
夏である。未だ、梅雨明け宣言が出たわけではないし、未だ晴れの日が続くような気圧配置になっているわけではない。
でも、最低気温が25度ほど、最高気温が32度の日が続いたりすると、夏と思いたくなる。
いや、思いたくはないが、そう感じるしかない。
→ 「丸亀のうちわ」(105.露草ホタル 100本 裏面・黒一色名入れ加工) 「手貼り 竹の骨、竹の持ち手 裏の柄が透けて見えてい」る。(画像は、「丸亀の名入れうちわと丸亀の団扇の通信販売」より。)
小生、今春、富山に帰郷した。
帰郷したはいいが、いよいよ恐怖の夏の時期を迎えてしまった。
何が恐怖って、小生の居住する部屋、寝泊りする部屋にはエアコンがない。
そもそも、家屋自体が古くなったからなのか、隙間風が凄い。
冬は寒く、夏は暑い。冬は冷たい風が、夏は熱い風が容赦なく吹き込んでくる。
我が家では昔から(炭炬燵などをやめてからは)父の方針で灯油ストーブが暖房のメインなので、隙間風が遠慮会釈なく吹きすぎる居住空間というのは、空気が悪くなって気がついたらガス中毒ってことには到底ならないという意味では安心できる。
でも、冬は寒い。
夏は西日が当たる。部屋の窓には沈みゆく太陽の日中の名残りの熱線がこれでもかと突き刺さる。
壁や庇や屋根瓦も茹ってしまう。
中に暮らす人間は、萎れてしまう。
隙間風が入り込むんだから、夏は涼しいんじゃないかって?
とんでもない! 吹き込むのは暑い空気。
この点は夏のオートバイと同じ。
夏の日にバイクを飛ばすと、涼しげに見えることもあるが、実際は路面でヒートアップした熱波をまともに喰らっているから、事情を知らない人には想像もできないほどに暑いのである。
さて、小生が居住する部屋の冷房は、これまで扇風機に頼ってきた。
冷房のための機械はこれしかない(茶の間にはエアコンがある。いっそのこと、茶の間で寝るか)。
その扇風機だが、昔は、思い返すと我が家には一台しかなかった。
昔、もう、四十年の昔の話である。
一台の扇風機が茶の間の隅にあって、首振りなどして、一定の間隔で風がやってくる。
やってくると、一瞬、ホッとする。
が、つれなくも扇風機は首を振り続ける。
行き過ぎた風がまた、自分の方に向くまでの数秒間が辛い。そして、待ち遠しい。
← 「うちわ(団扇)の部分名称」 (画像は、「うちわ - Wikipedia」より。)
我が家に扇風機がやってきた頃、まだ団扇(うちわ)は必需品だった。
扇風機は居間(茶の間)に一台あるだけで、寝室にあるはずもない。
よって団扇が頼りである(外出の際は、父などは扇子を持参していたような)。
確か、家人一人ひとりに一本は団扇があったはず。各人に専用だったかどうかは覚えていない。
その団扇が、やがて家からいつともなく消えていったのは(棚の隅っこなどに追いやられてしまったのは)、いつ頃のことだったか。
我が家にエアコンが入ったのは近隣を見渡しても、比較的遅いほうだったような。
扇風機が居間にも寝室にもあるようになってから、団扇は用済みになっていったのかもしれない。
他の家のようにエアコンが入ったから、という流れではなかった。
団扇というと、炭火を起こすための必需品でもあった。竈(かまど)があった頃は、母が団扇でバタバタ扇いで、火を起こそうとしていた、その後ろ姿が懐かしい。
団扇は体の熱を奪うための用具であり、同時に火を起こすために用具でもあった。
そのほか、「寿司飯などを作る際に米飯の余分な水分を手早く飛ばしたり、熱のこもった食べものを冷ましたり」と、八面六臂の活躍だったわけである。
→ いろんな機会に貰って溜まったプラスチック(ビニール?)製の広告団扇。窓には先日、取り付けた簾(すだれ)が。風流。でも、やっぱり部屋の中は暑い!
今の我が家の中を家捜ししても、団扇は一本か二本、見つかるかどうか。
それも、味も素っ気もないプラスチックの団扇である。
表面には風流な絵が描かれていた昔の団扇とは違って、プラスチックの団扇は大概が企業・商店などの広告のために町角などで配布されるもの。
多くの人は、貰ってもありがたいと思うのかどうか。
小生はありがたい。
実を言うと、小生、プラスチックの団扇を十本ほど所有している。
多くはサンバカーニバル(パレード)でもらったもの。
商店街で催されるサンバパレードには、祭りの雰囲気が濃厚で、実際、縁日めいた雰囲気もあった。当然、人もたくさん集まるということで、それを当て込んで、不動産屋さんなどの会社や商店が広告を印刷したプラスチック製の団扇を配るのである。
小生は、その団扇で火照る顔や首筋や胸の辺りを扇ぎつつ我がチームのサンバパレードの追っかけをやっていたのだった。
← 団扇は、これはこれでいいのだが、小生としては広告扇子が欲しい。折り畳めて収納も可能だし、置き場に困ってあっさり捨てられるより、しばらくは持ち運びし使って呉れそう。宣伝効果も高まるのでは。ファッション性の面でも良さそうに思える。…って催促したりして。
思い返すと、サンバのパレードで踊るメンバーの方と、ネット上の知り合いだったが、リアルでの顔見知りではなかった。
パレードを見物に行って、その人物のパフォーマンスに感激し、挨拶したくなった。知り合いになりたくなったのである。
しかし、小生、喉が弱い。気が弱い。
声を張り上げてその人物に声を掛けるのが難しい。
なんてたって、パレードの沿道には黒山の人だかりである。サンバの打楽器がメインの音楽がアンプで増幅されて商店街一杯に溢れ返っている。
そこで小生は、団扇を使うことにした。
団扇を使った訳は、団扇……英語で(round) fan……丸っきりのファンですって、洒落ようと思ったわけじゃない(こともない)。
部屋の片隅(多分、書棚の奥だった)に仕舞ってあった団扇を探し出し、その表面に名前(ハンドルネーム)を書き込んだメモ用紙を貼りつけたのである。
せっかくなので、団扇は、古典的なもので、竹の骨に紙を張ったものを使いたかったが(記憶の中ではそのはずだったが)、実際には有り触れたプラスチック製の黄色い団扇を使った。
その団扇をパレードの際、その人物が真正面に来た機会を狙って思いっきり振った。
その名前を見て、その人物は気付いてくれて、挨拶してくれ、しかも、カメラ小僧をしていた小生にシャッターチャンスをも呉れたのだった。
まあ、小生に限らず、団扇に絡む思い出は、ある年代以上の人なら、プラスチックの団扇しかしらない世代よりは、幾分、あるはずである。
団扇や扇子は、別にエコの時代だからというわけではないが、形や機能を多少は変えながらも、これからも愛し続けられるものと思う。
何となくだが、団扇か扇子に関して画期的なアイデアが近いうちに生まれそうな気がする。
例えば、骨の中に冷気を発するガス(無論、安全なもの)が封入されていて、ちょっと扇ぐと、団扇(扇子)の風が巻き起こるだけじゃなく、冷たい風に恵まれる、といったような。
ま、アイデアはいろいろありえるのだろう。プラスチック素材の団扇は色気というか、味がないので、もう少し材質に工夫があってもいいように思う。
……ああ、ここまで書いてきて…、やっぱり、ダメ。暑い!
エアコン、欲しいー!!(← 悲鳴)
→ 文中で話題にした黄色い団扇。紺色の団扇の下の奴。白いメモが今も張られたまま。
もう、風流人ぶっても、お里の知れる結論(?)でした。
せっかくなので、夏の季語としても俳句に織り込まれたりする団扇なので、幾つか関連する句を掲げてみる。
「季語一覧夏の季語生活」
母親に夏やせかくす団扇かな 正岡 子規
南方の赤き団扇を使はれよ 山口 青邨
「日刊:この一句 バックナンバー」
仏壇に尻を向けたる団扇かな 夏目漱石
「日刊:この一句 最近のバックナンバー 」
桃美なり団扇の上に置いて見る 富安風生
火照る日は団扇も風を恋しがる (や)
(08/07/06作 08/07/18追記)
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コメント
やいっちさんに団扇を振ってもらった方、嬉しかったでしょうね。
コジャレた連絡法ですね。
富山の最高気温は32度なのですか?
涼しいですね(笑)。
こちら、ヤフーの「今日の天気」で最高気温・36度です。
もう、戸外へは出られません・・・
投稿: 雫 | 2008/07/19 21:38
雫さん
団扇に名前を書いたメモを貼る。苦肉の策です。
気がついてくれ、その上、特別にその場でノペ(サンバ特有のダンスのステップ)を踏んでくれました。
嬉しかったなー。
以来、チームのメンバーのいろんな方々を知って、敬愛の念を深め、追っ駆けになったわけです(ホンノ数ヶ月だけ、楽器の練習をしたっけ)。
富山の気温もだけど、我が家の中の小生の居住する部屋が蒸し暑い。辛い。
この部屋にいるだけでバテちゃいます。
といって、買物などで外に出ると炎天で辛いし、困ったものです。
そちらは、盆地だし、冬は寒く夏は暑いんですよね。
そちらで冬や夏を一ヶ月ほど、何度も過ごしましたから、体験で(体で)理解できます。
でも、乗り切ってくださいな。
投稿: やいっち | 2008/07/20 03:29
やいっちさんのお部屋には、やはり、「ゴーヤの緑のスダレ」が最適のようですね。
そう、盆地にあるウチは、もう既に、エアコン、掛けています。
投稿: 雫 | 2008/07/20 06:47
雫さん
>やいっちさんのお部屋には、やはり、「ゴーヤの緑のスダレ」が最適のようですね。
今夏は間に合いそうにないので、来年こそ、何か風情のあるモノを考えたいです。
古くて朽ちた竹垣を多少、手直しするとか。
>そう、盆地にあるウチは、もう既に、エアコン、掛けています。
あてずっぽうで書いたら、やはり盆地にお住まいがあるんですね。
山間なら夏でも少しは涼しいのかしら。
投稿: やいっち | 2008/07/20 10:13