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2008/05/29

『ねじれ』のねじれ

 志治 美世子氏著の『ねじれ ―医療の光と影を越えて 』(集英社)を読了したことは既に日記に書いている
 が、読了して三週間以上も経つのに、感想文が書けずにいた。
 何故か?

9784087813937

→ 志治 美世子著『ねじれ ―医療の光と影を越えて 』(集英社)

 出版社の内容紹介には次のように:

隣の病院で始まった〈人間復興〉の闘い
今、医療の現場では何かが起きている。「そのとき」我々はどうすればよいのだろうか? 闘うことで事態を変えようとした人々を丹念に描いた第5回「開高健ノンフィクション賞」受賞作。


asahi.com:ねじれ―医療の光と影を越えて [文]志治美世子 - 書評 - BOOK [掲載]2008年05月25日」には、下記のような宣伝文句が載っている:

 第5回開高健ノンフィクション賞の受賞作は、行動する作家の名を冠した賞にふさわしい入念な取材が光るルポ。なぜ医療ミスは起きるのか、なぜミスで愛する人を失った家族の「真実を知りたい」という思いがかなわないのか。組織防衛のために事実を隠す医療機関の体質、被害者も医療機関も互いが「傷つけ合うだけの訴訟」、ミスが起きても不思議ではない医師の過酷な労働環境などを報告。患者と医療従事者が対立してしまう「ねじれ」の正体にフリーライターの著者が迫る。

 この謳い文句に嘘はないと思う。
 実際、一気に読めてしまった。

「なぜ医療ミスは起きるのか、なぜミスで愛する人を失った家族の「真実を知りたい」という思いがかなわないのか。組織防衛のために事実を隠す医療機関の体質、被害者も医療機関も互いが「傷つけ合うだけの訴訟」、ミスが起きても不思議ではない医師の過酷な労働環境などを報告。患者と医療従事者が対立してしまう「ねじれ」の正体」を多少なりとも医療に関心のある者は知りたいと思っている。
 巨大な医療機関、複雑な(と素人には感じられてしまう)医療機構、知識においても経験においても立場においても圧倒的な違いや差を覚えてしまう診察や治療現場。
 医師の側からすると、常に訴訟の可能性に身を晒さざるを得ない現実。

 小生にしても、先天的な異常を抱えてきて、物心付いてからだけでも四回は一ヶ月程度の手術や入院を強いられてきただけに身につまされる思いで医学関係の本は年に何冊かは欠かさず読んできた。他人事ではないのだ。
 医療現場で感じたもどかしさや憤りや、逆に感謝の念も人並みに持っている。
 だから我が事としてこうした本は読んでしまう。

 ある意味、医療問題というのは、個人的な関心にやや過剰に引き寄せてしまいがちなので、冷静で客観的な感想は書けそうにない。

 少々印象に寄りかかりすぎた偏った感想になりそうなので、ずるいのかもしれないが、本書に付いて全般的なことを紹介しておく。

 章立てはかくの如し:

第1章 娘はなぜ死んだのか?
第2章 ある医師の決断
第3章 医師・患者・報道、「ねじれ」の構造
第4章 花束の伝えたもの
第5章 追い詰められた小児科医
第6章 それからを生きる
第7章 医療の光と影を越えて

ねじれ-医療のひかりと影を越えて」なる頁で試し読みもできる。

「【週末読む、観る】■『ねじれ』志治美世子著」本・アート‐書評ニュースイザ!」では、バランスの取れた書評が読める;

 第5回開高健ノンフィクション賞を受賞したこの作品では、医療の場で、真実や公正さを求めて、物を言い、行動した者たちの戦いが描かれる。

 愛する者の突然の死の真実を知りたいと、追い詰められるようにして裁判を起こした医療事故の被害者だけではなく、事故や不正があったことを内部告発した医師。難しい病気も簡単な病気も大病院に集中する制度下、患者に誠実であろうとすればするほど疲弊していく勤務医は少なくないが、消耗しきって自殺をした小児科医の夫の労災認定を求めて裁判で戦った遺族。

 彼らは最初、それぞれに孤独な戦いを強いられる。

 「クレイマー患者」と言われる。内部告発者となった医師は病院側から名誉棄損で訴えられる。巧妙なパワーハラスメントが実行される。「自分が弱いから自殺するのだ」と非難される。が、やがて、病院・医師vs患者・遺族のねじれ構造を超えて支援者が現れ、良心に基づいた医療を皆で実現しようとする流れとなる。その様は医療崩壊が叫ばれる現代に一筋の希望を提示する。

 それにしても、裁判で真実は得られるのか? との疑問を、第1章「娘はなぜ死んだのか?」を読んで抱く。下顎(あご)骨折の整復手術後に容体が急変して死亡したケースで、手術中、脳内にキルシュナーワイヤーが刺入するという医療事故はあったのか否か。2枚のレントゲン写真と何枚ものCT写真をめぐって双方から鑑定意見書が提出されたが、同時進行していた2つの訴訟で、事故の可能性は5度否定された。

 本書に登場する粂医師は、判決には反映されなかったが「全国の神経放射線科医33人と脳神経外科医22人に、これらの写真をどう読むかを尋ねたアンケート結果(本書52ページ)がこの本によって広く世の中に、初めて紹介される意義」を強調する。

 来年5月に裁判員制度が開始されるが、裁判員としてなら、の視点で自分に引き寄せた一読をぜひ勧めたい。(評論家 井口優子


[参考]:
 志治 美世子氏については、拙稿(「「逆癒しの口紅」をへそ曲がり解釈する」)で、同氏著の『逆癒しの口紅(ルージュ)』(社会評論社)の感想文を書いたことがある。

どこまでも散歩道」〈志治美世子オフィシャルウェブサイト〉

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