雪女郎怖くて怖くて会いたくて
東京での30年ほどの滞在の間に買い求めた本の大半は帰郷の折に処分した。
それでも数十冊ほどは、処分の手の透き間から漏れ、今、郷里の部屋にある。
まとめて業者に本を出した際には、机の裏側や積み重なっていた荷物に覆われていた押入れなどに隠れていて、生きながらえた。
→ 3年前の帰省の折に撮ったもの。居間(茶の間)からの眺め。
でも、中には敢えて残した本もある。
寺田寅彦の随筆集であり中谷宇吉郎集である。
相変わらず荷解き作業が続いていて、家事もあるし、その上、昨日からはアルバイトの形だが、仕事にありついたこともあり、じっくり読書という時間は取れない。
そんな中でも、時間を掻き削るようにして、ちびりちびりと本を読んでいる。
一昨日から手に取ったのは、中谷宇吉郎集のうちの一冊である。
中谷宇吉郎集は全八巻だが、第三巻までしか読み終えていない。
中谷宇吉郎集を購入したのは、刊行された2001年。
楽しみはあとで、ということで、わざとゆっくりで、何かしみじみしたい時、懐かしさの感覚に浸る意味もあって手に取るのだ。
数学か物理学の研究を細々ながらでも淡々とやりたいというのが少年の頃の夢だったのだ。
見果てぬ夢。叶わぬ夢。
「雪祭り」から雪や物理に纏わるちょっとした思い出の記を転記する:
そんな豪雪も徐々に緩んでいったが、それでも屋根から落とした雪は二階にまで達しようかというほどに軒先に溜まる。そんな雪の小山の上に夜など家を抜け出して、雪の降るのも構わず、寝そべってみる。雪明りの町。何処までも深い藍色の空。天からというより、何処か魔法の国から闇のトンネルを潜り抜けて、不意に生まれ出るようにして現れ出る雪の結晶たち。
雪の上に仰向けになっていると、終いには雪が降ってくるのではなく、雪が舞っている世界に自分がふわりと舞い上がり、漂っていくような錯覚に陥る。
その不可思議な感覚は強烈な原風景として自分の中に残っているようで、大学生になって物理の試験の際、答に窮した小生は、その摩訶不思議な感覚をエッセイ風に書き綴ってしまった。答えは表面では足りずに裏面にまで綴られていって…。
雪の御蔭様とでも言うのか、物理の試験は赤点にならずに済んだのだった。あるいは、こっちのほうこそが不可解というべきなのか、先生の粋な計らいというべきか。
郷里の富山では、今週も雪がちらついたが、そろそろ雪の季節も終わりそうである。
雪というと中谷宇吉郎(そしてデカルト)という、高校生時代以来の紋切り型の連想が働く。
数年前に「季節外れとは思うけど雪のことなど」と題した雑文を5年近く前に書いたことがある。
イアン・スチュアート著の『2次元よりも平らな世界』(青木薫訳、早川書房刊)を読んでの感想文である。
が、本書に付いての感想文というより、「雪」を巡っての雑文というべき内容になっている。
そして、中谷宇吉郎を話題の俎上に載せている。
ちょっと懐かしさに浸りたい気分なので、ここに(一部割愛の上)掲げようと思った…が、既にブログに載せていたのだった:
「思い出は淡き夢かと雪の降る」(記事の後半部分参照)
雪の季節も終わりが近付いている…。
雪国では厄介者の雪だが、分かれるとなると名残惜しくなるってのは、もっと厄介というか摩訶不思議な人の情だろうか。
小生には、「雪女郎」と題した小文(季語随筆)がある。
雪女郎とは、「雪の夜に現れるという女性姿の妖怪。雪女郎、雪おんば、雪降り婆(ばば)などともいう」。
怖いけれど、淋しくてならない小生には、もう半ば自棄で雪女でもいいから現れて心を騒がせてほしいと思ったりもする。
いや、ホンマに。
← 今年の二月に撮った。今年の市街地での積雪はひどくはなかったようだ。
せっかくなので、「雪女郎」を書いた際に詠んだ句の数々を掲げておく:
雪の道足跡だけが付いてくる
見返れば来た道さえもはかなかり
雪女郎怖くて怖くて会いたくて
一人行くこの道の先雪の中
深深と降り積もる雪誰も見ず
雪道に消え行く影を追う我か
消えた影夢見に出ては朝悲し
雪女末期の枕濡らすのか
いつの日か現れ出でて消える人
雪に臥す恋しい人に添うごとく
みちのくの雪の音にも騒ぐ胸
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コメント
雪国の方だけあって、「雪女郎」で詠まれた句、余韻があって素敵ですね。
「雪女郎」に会うことが男性には夢の1つなら、女性は何を楽しみにすれば良いのかな?
私は「雪」というと、高橋喜平、延清・ご兄弟を思い出してしまいます。
投稿: 雫 | 2008/03/08 19:30
雫さん
「雪女郎」で詠んだ句、俳句でも川柳でもない、句。
まあ、実感句かな。
> 「雪女郎」に会うことが男性には夢の1つなら、女性は何を楽しみにすれば良いのかな?
ウーム。「雪男」じゃ、無粋すぎる?
野性味がタップリだし、毛深いから冬は暖かそう?!
> 私は「雪」というと、高橋喜平、延清・ご兄弟を思い出してしまいます。
勉強になりました。
雪氷学・氷雪研究の権威だとか。
エッセイストでもあるといから、今度、本を探してみます。
直木賞作家の高橋克彦は甥にあたるんですね。
投稿: やいっち | 2008/03/09 03:47