知られざる宇宙 海の中のタイムトラベル
「水、海、と来ると、次は雲である!」の中で、「いつ、この本を手にすることができるだろう…」などと心細げに言及していたフランク・シェッツィング著の『知られざる宇宙 海の中のタイムトラベル』(鹿沼博史/訳、大月書店)を案外と早く手にすることが出来た。
← 本書で知った海の底の生物『カイロウドウケツ(偕老同穴)』 「カイロウドウケツには「偕老同穴」の字を充てるが、「偕老」及び「同穴」の出典は中国最古の詩篇である詩経に遡る。前者は邶風・撃鼓、後者は王風・大車に登場する。これらを合わせて「生きては共に老い、死しては同じ穴に葬られる」という、夫婦の契りの堅い様を意味する語となった。この語がカイロウドウケツ中のドウケツエビのつがいを評して用いられ、後に海綿自体の名前になったと言われている」。本書では、「カイロウドウケツ」についての記述もしっかり。(画像は、「カイロウドウケツ - Wikipedia」より)
そろそろ半年(あるいはそれ以上)になろうとする(多分、あと数ヶ月は続くはず)、ブログでのマイブームテーマである、「水、海、雲、霧、空、川…」の一環で、読書も記事も主にこれらのテーマを巡るものになっている(但し、緩やかに、ゆったりと)。
本書、「私たちの故郷=海のふしぎと驚異をビッグバンから近未来まで壮大なスケールとユーモアで描く型破りのノンフィクション」というものだが、ある意味、型破りな本である。
内容が?
ノンフィクションであり、基本的には科学の啓蒙書でありながら、図版がまるでない。一個もないのだ。
本文の中に小さく傍注が振られているが、巻末に注釈があるわけでもない。
まあ、関連するネット上のサイトが示されているので、もっと知りたければ、あるいは本書で筆者が文章で描写を試みている風景や生物の像を写真で見たかったら、サイトへ飛んで自分で調べろよ、である。
→ 『カイロウドウケツ』のことを本書で初めて知ったと思ったら、この「ヘッケルによるスケッチ」などで既に何度か目にしていたのだった。「右下にカイロウドウケツが描かれている」。 (情報・画像は、「カイロウドウケツ - Wikipedia」より)
まさにノンフィクションであるが、物語的なテクニックを駆使している。読者の想像力と理解力で宇宙の創世から生命の誕生の姿、海の誕生、大気の成り立ち、生命の進化の過程を想い描くように誘っている。
思えば、小説、物語ならば、そうだろう。ノンフィクション作品でも大方はそうなのだろう。
それでも、一個も挿絵(図版・写真)なしで、とにかく読む面白さと想像力への刺激で最後まで読みきらせようというわけである(尤も、筆者は掻い摘んで、そう抓み食い風に読んだって一向に構わないと言う)。
ならばというわけで、本書を読んでいる間は、叙述に導かれるがままに筆者が語る生物はこんなふうか、筆者がユニークな語り口で表現している風景はこんなふうなのかと、読み手たる小生もボンクラな頭を埃を払いつつ、時には錆び付いた部分に油を差しつつ、読み続けているのである。
ブログでは、小生はできるだけ本文に画像を添付するようにしている。
可能か限り本文に関係のある画像をと思うが、時には日々、日常の中で撮った写真を添えてみたりして、文章だらけのブログに少しでも華やかさ(?)を装うように試みている。
ネットで読む(眺める)のだから、改行も多めにする。
活字で(書籍の形で)読むのとは、PC上で読むのは事情が違うから。
← 『チューブワーム』 「発見当初、その様子のあまりの異様さと、しばらくはその分類学上の位置が決まらなかったことからそのままチューブワームと呼ばれ続けた」という。(画像は、「チューブワーム - Wikipedia」より) 「チューブワームは体の構造と生息環境の特殊性から多くの生物学者が関心を寄せている生物」だという。より詳しくは、「ハイパー海洋地球百科事典 チューブワーム」参照。
けれど、書籍となると画像があればあったで嬉しいが、物語というのは、本来は想像力で読むものだし楽しむもの。
古今の名作の主人公らの登場人物が映画やドラマになると、大概は陳腐になってしまう。風景や場面にしても。
無論、逆に成功する場合もある。
けれど、その成功が仇(あだ)となって、小説を読む際、ついついドラマ化された際の光景に影響されがちになることもあるわけである。
これだけの科学的な実績を織り込みながらも、図版がないという本の試みは珍しい気がする。
書き手の自信がなせるわざと思うべきか。
さて、本書に付いてのまともな(?)書評は他に任せることにする:
「知られざる宇宙 海の中のタイムトラベル [著]F・シェッツィング - 書評」(ホームページ:「asahi.com」)
この書評から肝心の書評部分を省いて転記する:
著者であるシェッツィングはドイツの小説家。2004年に出版した海洋もののSF大作『シュヴァルム(群れ)』(未訳)が大ヒットし、ハリウッドでの映画化も予定されているという。その内容は、深海で誕生した単細胞の知的生命体の群れがさまざまな異常現象を引き起こし、人類が危機に陥るというスリリングな超大作らしい。
(中略)
本書の主役は海である。最大で深さが1万メートルを超える深海の大半は未知の世界だ。人類は月面に到達したが、日本が世界に誇る有人潜水調査船「しんかい6500」をもってしても、6500メートルの深さまでしか潜れない。そこには著者が言うように、伝説の巨大ウミヘビが潜んでいるかもしれない。科学者だけでなく小説家の探求心を駆り立てるわけだ。
うーむ。海洋もののSF大作『シュヴァルム(群れ)』(未訳)が訳されたら読みたいものだ。
→ 「駿河湾深さ1,945mの海底泥から分離された石油分解細菌」 (画像は、「ハイパー海洋地球百科事典 海底地下生物圏」(ホームページ:「ハイパー海洋地球百科事典」)より) 「海底下の地殻内に、地球上の微生物の約6割が存在すると推定する研究者もい」るという。「深海底掘削による地下生物圏研究は、私たちが知らない驚くべき地球の姿を見せてくれるかもしれないのです」。
前半の宇宙の創世から生命の誕生、進化の展開などの話は小生は関連する本を読み漁ってきたので、目新しい話はこれといってなかった。
むしろ、「地球の歴史というのは、筋書きが何度も急展開し予期しない出来事でいっぱいの、ハラハラドキドキさせる物語にほかならない」。たしかに、面白い話を無味乾燥な語り口で語るのは、むしろ罪作りなだけだ」とか、「科学は絶対ではない。たとえば生物が進化した経路にしても、これまでに見つかっている化石や、DNAから得られるデータなどを継ぎ合わせることで、とりあえずの筋書きが作られている。これは正しい科学の方法だ。しかし、明日にでも予想を覆すような化石が見つかれば、それまでの筋書きががらりと変更される余地は大いにある。科学とは、そのように客観的な証拠を基に絶えず理論を修正していく作業なのだ」といった姿勢が一貫していて好ましい。
面白かったのは(新しい知見を得られたと感じたのは)、後半で、クジラの話や、特にサメの話は興味深かった。
サメについての認識を新たにした気分である(海の殺し屋だなんて、とんでもない! サメのヒレを捕る漁の残酷さ…)。
サメについては、機会があったら、改めて単独で記事に仕立てたいと思った(クジラについても)。
← フランク・シェッツィング著の『知られざる宇宙 海の中のタイムトラベル』(鹿沼博史/訳、大月書店) 「大月書店」刊の本を手にするのは何十年ぶりじゃなかろうか。多分、とうとう読破できなかったカール・マルクスの『資本論』以来…?
地上の世界は踏査し尽くされたわけではないが、かなりの地域に人の足が分け入っている。
その意味で目が宇宙へ向うのも自然な流れなのだろう。
一方、海にも目が向いている。
本書によると:
地球の全生物圏の九五パーセントは海の中にあるが、これまでに詳しい観察がおこなわれたのはその〇・一パーセントにも満たない。調査がおこなわれた海底の面積ということで言えば、その成果はもっと微々たるものだ。潜水ロボットや人間自身が降り立ったことがある泥だらけの海底は、その全地点の面積を足し合わせても五平方キロにしかならない。わずか五平方キロ! これは、広大な全海底の〇・〇〇〇〇〇一六パーセントにすぎない。
海の中の探査は始まったばかりと言ってよさそうなほどに未知の領域が広がっている。
宇宙の深部を探れば宇宙の創世を探れるように、海の底を探ると原始の生物に出会え、太古における生命の創世の秘密の扉を叩くことになるかもしれない。
宇宙像もこの数年で急激な展開を見せそうだし、この世界はまだまだ分からないことばかりなのだ。
[末尾にこっそり(?)書いておく。本日は、小生のホームページ「kunimi Yaichi's ROOM」開設(誕生)7年目。更新はしていないけど、ちゃんと生きています。]
[海に付いても記事を幾つか書いてきたが、一つだけ挙げておく。海の怖さを実感させられた本を読んでの感想:「はだかの起原、海の惨劇」]
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