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2008/02/21

第7回国際アビリンピック:誰にも秘められた能力がある

 年のせいなのか、どうも涙もろくなってきているような気がする。
 話をテレビ番組だけに限っておくが、「「フルスイング」にフルウルウル!」も「人間国宝3人が弥生の木器の復元に挑む」も番組を見ている最中に、涙ウルウル。
 何かの番組を見てウルウルするたびに記事にしていたのでは切りがないほどである。

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← 「第7回国際アビリンピック」 (7th International Abilympics Shizuoka, Japan November 13 - 18, 2007)

 それでも、特筆したくなるような番組を水曜日にまた観てしまった。
 ふつうなら観ていない時間帯なのだが、引越しの作業があるので、ついテレビをつけっ放しにしてしまう。
 そのうち作業の手が見入ってしまうというわけである。

 小生の目と耳を釘付けにしたのは、下記の番組である:
NHK クローズアップ現代 誰にも秘められた能力がある」(司会:国谷裕子

 小生、最初はこのテーマを観ただけでチャンネルを変えるか、いずれにしても早々にCD(今、手元にあるのは、ヴァイオリニストの庄司紗矢香さんのCDと、竹内まりや さんのCD)で音楽を聴きつつ、のんびり荷造りなどするつもりだった。

 NHKにしては珍しく人間の潜在能力の話を話題にするんだな、それなりに面白いかもしれないけど、いまさらそんな話を聴くのもかったるいな、でも、NHKさんだもの何か目新しい知見か発見を紹介してくれるやも…。

 少々のためらいや迷いのままに、ダラダラと流れのままに「クローズアップ現代」が始まってしまった。

 するとすぐに分かったのは、どうやら知的障害のある方々の話のようである。
 今、引越しの作業やら手続きやら、ある意味人生の転機にあって頭が痛い。とてもじゃないけれど、もうしわけなくも聞き入る心の余裕などない。

 が、幸か不幸か、連日の<労働>で体が疲れきっていて(今日は、部屋の片付けのほかに外出の機会も多かった!)、テレビの下まで行ってチャンネルを切り替えるのがとても億劫になってしまっていた。


 何となく見聞きしているうちに、知的障害者の問題ということで予想されがちな話とはどうも様子が違うことが分かってきた。
 また、「知的障害者」と「秘められた能力」で予想されるような、所謂「サヴァン症候群」の話でもなかった(当然ながら、「知的障害がない自閉症」とされている「アスペルガー症候群」の話でもない)。

 冒頭で日本がアビリンピックでメダル独占という事実が紹介される:
第7回国際アビリンピック

国際アビリンピック」とは何か?
障害のある方の職業的自立の意識を喚起するとともに、事業主及び社会一般の理解と認識を深め、さらに国際親善を図ることを目的として」おり、「およそ4年に1度世界各国で開催されてい」るという。

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→ 庄司紗矢香『チャイコフスキー、メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲』(フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団、指揮: チョン・ミュンフン 録音:2005年10月 パリ〈デジタル録音〉)

 昨年は、「技能五輪国際大会」と「国際アビリンピック」とが史上初の同時開催となったという。また、「国際アビリンピックを日本で開催するのは、1981年(昭和56年)に東京で第1回大会を開催して以来2度目」なのだとか。

「技能五輪国際大会」はテレビでも採り上げられ、小生も日本の好成績を知っている。
「国際アビリンピック」のほうは、初耳。
 日本がアビリンピックでメタル独占!

「クローズアップ現代」では、「国際アビリンピック」で優秀な成績をあげた知的障害のある若者の仕事ぶりを紹介する。
 というよりその前に、就職活動での苦戦の事実を伝えていた。

 アビリンピックで金メダリストとなった豊川さんなのだが、なんと60社もの会社に断られてようやく就職できたのだった!
 彼は知的障害のある子だったが、親、特に母親が彼を生かす道を決して諦めることなく模索し続けた。
 彼はどうやら記憶力がいいらしい。
 でもその秘めた能力はなかなか開花しない。
 彼の適性ににあった道が学校側も分からないのだ。

 情操が豊かで記憶力がよくても周囲が彼に良さに気づかなければ宝の持ち腐れである。

 が、あるとき、彼はパソコンに出会う。
 彼はたちまちキーを覚え操作に慣れていく。
 パソコンの操作・入力に魅せられあっという間にパソコン検定の級を駆け上がっていく。
 記憶力がよく、一つのことに夢中になり、辛抱強く、飽きることなくやり続ける彼の秘められた能力や性分にパソコンの性格にピッタリだったというわけである。

 そして獲得していった輝かしい資格。

 その彼が就職の高いハードルに苦しむことになったのだ。
 何故か?
 要は、会社の側が彼の適性や活かし方が分からなかったのである。

 これは小生の推測になるが、知的障害のある者の問題点は、自分で能力や長所を人事担当者にうまくアピールできづらいことにあるように思われる。
 つまりは、会話能力でありコミュニケーション能力という問題に帰着するわけである。
 この辺りは、雇う側、人事担当の側も悩ましいところなのではなかろうか。
 能力がいくらあってもコミュニケーション、つまりは人間関係で会社側も雇われる側も苦労するのは目に見えていると、躊躇う心理が働いてくるわけである。
 改めて指摘するまでもなく、意思表示が人並みに出来るなら、理不尽にも知的障害者という呼称に甘んじてきているはずもなかったわけなのだ。
 人を見抜き、人を生かす、一層懐の深い人事が企業にとっても戦略的に非常に重要になってくると言えそうである。

 しかしこれも、つまるところは、社会的認知度の如何にかかっていると言えそうな気がする。

 うまく人材を使いこなすことが出来れば、如何に生き生きと働くか、如何に真面目に熱心に働くか、会社にとって如何にメリットがあるか、そういった実績が積み重なってくれば、人事担当者の姿勢も認識も変わらざるを得ないだろう。

 豊川さんに限らず多くの知的障害者が適所をさえ得れば、例えば会社で、人材がないばっかりに高い費用で外注に出したり、これまで社内のほかの部門に使えばいいはずの人材を適性が合っていないのに無理にも担当にさせ、結果的に非効率な組織運営を強いられていたものが、その人にとっての本来の仕事に携わることが可能となり、組織全体が再生したりする。

 銀メダリストになったY電気の橋本さんの、パソコンを使っての素早く間違いのない名刺作りの話や、ユニクロで働く東川さんの件も興味深かった。
 ユニクロの東川さんの場合、几帳面さと丁寧な接客が顧客に好評なのだという。お客さんが何を求めているかを敏感に感じ取る能力に長けているからだとか。
 コミュニケーションに日頃難儀している彼だからこそ、こんな時こんな風にして欲しいという気持ちを表情から的確に嗅ぎ取れるのではなかろうか。
 彼の几帳面さは、在庫管理の面で生きていたようだ。
 ちなみに、ユニクロには数百人の知的障害者が働いているとか!!

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← 竹内まりや『LONGTIME FAVORITES』 一体、何度、借りたことやら。

 さて昨日の番組で小生が不覚にも目頭が熱くなったのは、老人介護施設で働く山本さんの話だった。
 知的障害者のなかには、機敏な動作が苦手な人が多いという。

 コミュニケーション能力とは、KY、つまりその場の空気を読むことであり(但し、適度に!)、読めることで自分がどう振舞えばいいかが判断できるわけである。
 分からなければ、まごまごするばかりで、それが外から見れば往々にして動作の緩慢さと誤解されてしまう。

 豊川さんも橋本さんも東川さんにしても、業務を離れ日常に戻ったなら、街中の人混みに紛れたなら、あるいは依然として動作が緩慢と看做されがちなのではと、懸念される。

 が、所謂、健常者の目から見て動作の緩慢さと感じられることが、時にメリットとなりうることもある。
 そう、老人介護施設で働く山本さんの場合である。
 ある意味、誤解されかねない表現を敢えてするなら、年を取るとは、知的に身体的に障害を背負っていくこととも看做せなくはない。
 若い頃には駆け上がれた階段か、見るだけでもう億劫になるし、目も弱まれば、考えるのも億劫になる。
(但し、逆に感受性や理解力は高まる。若い頃には分からなかったことが、経験を重ねて、他人の喜怒哀楽が我が事として共感できるからなのかもしれない。ゆえにまた、他人の優しさか身に沁みるし、強く欲するようになるのだろうが。)

 そうなってしまうと、機敏さは遠目には眩しくとも、間近で素早く且つ急かされるかのように動かれると、辛いし、時に怖くなったりする。
 そこに<動作が緩慢な>山本さんの登場である。

 山本さんは、スローペースな老人のペースで世話をする。駆けたりしないし、急かしたりもしない。
 同時に細やかな心配りも出来る人なのである。
 山本さんの表情が実によかった。同時に、世話されている老人たちの表情も実に穏やかなのだ。
 まさに水を得た魚であり、老人介護施設という水槽をゆったり緩やかに、しかもにこやかに泳いでおられるように見えた。
 山本さんは世話をしているというより、自分も楽しんでおられるように見受けられたのである。

 その光景を見ていて、小生、思わず涙してしまった。
 一体、どういう点に、感情移入してしまったのか、実は分からないでいる。
 自分のことのようだったから? 自分には山本さんのようには到底、できやしないのに。
 あるいは、定期的に老人介護施設でお世話になっているお袋が、施設で山本さんのような方たちに出会っていたらいいなと思ったからなのか…。

参照:「アビリンピックでメタル独占、パソコン入力 障がい者の就労 - こもれび日記


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(以下は、別の方から某コミュニティサイトで戴いたコメントへのレスです。)

地味で微妙な内容の話しにコメントをいただき、嬉しく思います。
Aさんのレスに共鳴しちゃいます。

以前、才能は使命であるという題名で雑文を書いたことがあります。

将棋や囲碁やテニスや数学や音楽やパフォーマンスに幼い頃から非凡なものを示すと、それは才能であり、天才だ、○▲王子だと持て囃される。
それはたまたま、既存の価値体系の中に上手くはまるからに過ぎないのに。
同時に、人間的に普通の生き方を送りづらくなることをも意味しがちだったりする。
才能があるがゆえに、独自の生き方を選ぶしかなくなってしまう。
使命を背負った生き方。
本人が喜んで選ぶ場合であっても。

彼らの場合は、それでも親だけでなく、周辺が騒ぐだけでなく応援もしてくれる。
既存の価値体系があるからでしょう。

いわゆる知的障害者と呼ばれる方にも、実は往々にして隠れた才能や適性を持っているかもしれない。
ただ、既存の価値体系ではその素質を捉えきれない可能性が大きい。

一番の難点は、本人が知的障害者と呼称される要素であるらしいコミュニケーション能力、特に自己アピール能力や理解力などにに欠けること。
つまり、彼には世間に何があるのか分からないのだ。

絵画に才能があるのに教科書を詰め込ませても、あるいは、パソコンの操作や入力に向くのに、楽器の練習を強制しても、本人が苦しむだけだし(違うジャンルの何かを試させて、とも本人は言えないし)、ああ、やはり彼は知的能力に欠けるからってことで片付けられてしまう。

誰にも秘められた能力や適性がある…。社会の側に根気強い取り組みが求められるところでしょうね。
                         (08/02/22 追記)

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コメント

こんにちは~
お引っ越し作業は順調のようですが、慣れない疲れが溜まりますからご自愛ください♪
パソが新しくなりましたので、慣れたらボチボチお邪魔します。

番組は見てませんが、各自の能力の活かせる社会だと、ホント良いですね。
雇用は一時的なのではありませんから、晴れる日もあれば嵐の日もある。
一人一人に合わせて会社が対応しないと雇ってるのではなく「細切れの
仕事の外注」って感じになりますよね(それでも出来る方が良い)
学校はあるけど、卒業後の人生の方が遥かに長いんだし。

投稿: ちゃり | 2008/02/22 16:52

国際アビリンピックに関し、トラックバックを付けていただきありがとうございました。立派なBLOGを拝見し、感心しました。障がい者の就労支援は実際には難しく、TVで紹介されたようにはなかなかまいりません。

投稿: tosifuru | 2008/02/23 15:40

ちゃりさん

パソコン、新しくなったんですね。
羨ましい!
最初は手間取るでしょうが、これからが楽しみですね。

ご推察の通り、引っ越し作業は順調で、あと一息のところまで来ていますが、もうヘトヘトです。

「各自の能力の活かせる社会」は理想ですね。健常者でも時に難しく使い捨ての傾向が目立つけど。

「学校はあるけど、卒業後の人生の方が遥かに長い」!
そう、時間を掛けてでも会社側も働く側も働くあり方を真剣に考えないとね。

投稿: やいっち | 2008/02/23 17:18

tosifuru さん

貴ブログの記事を参照させていただきました。
ありがとうございました。

> 障がい者の就労支援は実際には難しく、TVで紹介されたようにはなかなかまいりません。

そう、現実は障害者でなくとも厳しい。

「退職後約12年、地域で精神障がい者に関連する活動のボランティアをしている」とか。

現実には、tosifuru さんを初め、いろんな方が地道に頑張っていくしかないのでしょうね。
こうして紹介することも一助になればと思います。

投稿: やいっち | 2008/02/23 17:27

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