不入斗のこと
[本稿は、4年余り前に書いた旧稿だが、「太田神社は市野倉にあります」で市野倉という大きくは入新井(いりあらい)も含む武蔵野台地の話題を書いたので、関連する記事ということでブログにアップする。本文に追記の形で書いておいたが、今回のアップに際し、本稿を書いた当時には生きていた頁が消滅していたという悲しい事実に気づかされたが、代わりに、後出する充実した頁を発見することができた。悲喜こもごもというところか。(08/01/05 アップに際し付記)]
→ 川瀬巴水『東京20景 「池上市之倉 夕景」』(昭和3年(1928) 版権所有・渡邊庄三郎 大田区立郷土博物館蔵) (画像は、「江戸時代の入新井町略図と川瀬巴水の新版画」より。後出する)
不入斗を「いりやまず」と、すんなり読める方というのは少ないのではなかろうか。
小生にしても、ともすると「ふにゅうと」と読みそうである。ただ、多分、この読み方では違うだろうとは思うので、喉まで「ふにゅうと」が出かかっても、なんとか出さないで我慢するとは思うのだが。
「斗」が厄介で、俗な表記での闘争の「闘」の代わりに使われることがあるので、「と」と読むのだろうと憶測はする。で「はいらずと」などと無理矢理な読み方も試みるが、やがて諦めて、ダンマリを決め込むしかなくなるのだろう。
唐突にこんな言葉を出した形だが、小生が仕事の途中でたまに休憩する場所の近くにこの名前の店がある。漢字で表記してあるが、平仮名も付されているので、小生でもさすがに読めるわけである。
ずっと気になっていたのだが、その場を離れるとポカッと忘れてしまう小生のこと、気が付いたら、その名前をいつか調べようと思い始めてから、数年が経過してしまった。
年の瀬の忙しい砌(みぎり)、ほとんど自棄になって調べることを思い立った次第である。これでも小生だって、忙しくて目が回ってしまっているのだ。
例によって「広辞苑」で調べようとしたが、データがない。そんなに珍しい言葉なのだろうか。
そこで、早速、ネットの登場である。
すると、検索に246件も引っ掛かった。但しキーワードは「不入 いりやまず」である。「斗」の字が仮名・漢字変換できなかったのだ。改めて、「不入斗 いりやまず」で検索しても、ヒットする数は同じである。
で、分かったことは、「不入斗」というのは地名なのだということ。地名変更されることが多く、「不入斗」が地名として現在も生きているのは、少ないようだということ。僅かに残っている、その筆頭(?)は:
「不入斗(いりやまず)公園」
その横須賀の不入斗にある「「不入斗中学」は、山口百恵の出身校。」だと、下記のサイトに書いてあった。
彼女の歌った「横須賀ストーリー」とは、まんざら無縁ではなかったのだ:
「坂の街・ヨコスカの古道を歩く(前)」
← 川瀬巴水『馬込の月』 (画像は、「渡邊木版美術画舗」より) 川瀬巴水については、「旅情詩人と呼ばれた版画絵師 没後50年展」参照。
「不入斗」という地名は、確かに珍しくはあるが、各地にあることも事実のようだ。神奈川県の横須賀もそうだし、千葉県の市原市にもある。
そんな中、小生がたまに休憩をする場所も、昔は不入斗という地名だったらしいが、幾度かの地名変更の末、今では店の名前などに名残を留めるのみとなっている事例の一つだというわけである。
さて、では「不入斗」という地名(名称)の由来はどんなものなのか。ネットで調べてみる。すると、「地名辞典」というサイトが見つかった。
その説明によると、「・谷間の入口を「入山瀬(いりやませ)」といったのが転化した。・斗は年貢のこと。年貢免除のところ。(大名のお狩場であった)」とある。
また、「いちはら地名辞典」 なるサイトでは、もっと詳しく説明されている。その説明によると:
「不入斗」の由来は諸説あるようです。一般的な由来は、古代の人々が谷間の入り口を「入山瀬(いりやませ)」と称していたところから。それが次第になまって「いりやまず」となったといわれています。山がちな地形ということなのでしょう。また、昔、神社への献用地とされていた土地のことで、税の対象にならないところから「不入計(いりよまず)」と呼ばれていたという説もあるようです。
ところで、小生が通りかかった時には休憩するその場所は、今は大森北という味も素っ気もない地名になっている。その前は、入新井(いりあらい)という地名だった。
この入新井も、作られた地名で、「明治22年、「不入斗(いりやまず)村」と「新井宿(あらいじゅく)村」が合併し、入新井村が誕生」したのだとか:
http://www.city.ota.tokyo.jp/ittemiyo/chimei.htm (← 削除されたようだ。代わりに、「江戸時代の入新井町略図と川瀬巴水の新版画」(ホームページ:「大田区史跡と歴史 デジカメ散策」)なる頁を発見した。この頁には、不入斗(いりやまず)村や新井宿、市ノ倉村など江戸時代の六郷領の模様を示す図面が載っていて興味深い。このような頁に今までどうして気づかなかったかと、我が身の不明を恥じるところだったが、この頁を良く観ると、「2008.01.02」のアップとなっている。これじゃ、さすがの(?)ネット検索魔の小生も気付くはずがない ? ! (08/01/05 追記))
→ 高橋松亭『新井宿(あらいじゅく)』 「Shôtei.com Shôtei Gallery 」より。高橋松亭については、「見逃せし美女の背中の愛おしき」参照。
上掲のサイトにも、「不入斗の名は、かつてこの地が磐井神社の社領であり、国守に対する貢租(税)が免除されていたためにつけられた」と書いてある。
また、新井宿(あらいじゅく)という地名については、「万葉集や続後 集などに、「荒藺(あらい)ヶ崎」「荒藺ヶ磯」などと詠んだ歌があり、「荒藺宿」、中世には「荒井宿」とも書かれていました。この「荒藺」が何をさすのかは、はっきりしません。ちなみに「藺」は「藺草(いぐさ)」、すなわち畳表にする草です。」とも。
(なお、引用文中の「続後 集」が意味不明である。)
地名を探り辿ると、昔の土地柄や土地の表情が見えてくるような気がする。
ちなみに、小生が居住している町の名前は、あまりに杜撰というか便宜上、都合がいいからつけられた地名であることが露骨で、町名を書く気には到底なれない。
ただ、近くに新井宿という名称が附せられた交番を含めた幾つかの施設があり、かすかに昔を偲ばせてくれることをわずかな慰めとするばかりである。
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コメント
やいっちさん、おめでとうございます。
今年も色々教えてくださいね。
不入斗、絶対読めないですね。
やはり地名、いわれを読むと”斗”は年貢とのこと、お米の単位で”斗”があるのって関係あるのかな。
入新井は大森周辺の古い言い方だということ知っておりました。夫の実家が近くですので。
古い町名にはその土地に関係が深い色々なことを知ることができ楽しいですね。
東京にも昔は材木町、箪笥町、日本橋牡蛎町などのように町の様子がわかりました。
新井宿も本門寺の門前町からかしら。
それからKYのことだけどK(今日も)Y(やる気充分)の意味にしてください。
ご健闘を。今年も宜しく。
投稿: さと | 2008/01/05 18:23
さとさん
明けましておめでとうございます。
不入斗、読めないですよね。小生も、表記にふり仮名が振ってないと、まず無理。
入新井という地名が不入斗と新井宿の合体名だってことも、この記事を書いたときに知りました。
地名、ドンドン、消えていきますね。しかも、味気ない方向に。地名の由来が消えるってことは、歴史が、先人の営みが忘れられ消えていくことのように思えます。
とっても残念。
KY、今日も、やる気充分!
いいですね。
ネット友が、今年も、宜しく! の略だと書いていましたっけ。
要は考え方次第なのでしょう。
お節料理、素晴らしいね。
一品くらいは食べてみたいものです。
小生は年越しソバは、カップ麺のソバ、正月もカップ麺と電子レンジ調理品で過ごしました。
家庭料理とは無縁な小生です。
気が向いたときには来訪して家庭の空気を感じさせてくださいね。
今年もよろしくお願いします。
投稿: やいっち | 2008/01/05 19:41
不入斗は、小学生の頃百恵ちゃんのファンだったので、読み方は知っていました(笑)
こちらに来て、同じような地名があるのには、ビックリしましたが。
>ちなみに、小生が居住している町の名前は、あまりに杜撰>というか便宜上、都合がいいからつけられた地名であるこ>とが露骨で、町名を書く気には到底なれない。
たぶんうちと同じだと思います…(笑)
私も気に入らないです、この地名。区施設があった名残でしょうが、どうにかしてほしいものです。
あと、○○通りで地名を分けてほしいです。よく道で○丁目へ行きたいんですけどと尋ねられるんですが、大抵通り向こうの住所なんですよね(笑)
投稿: サラス | 2008/01/09 01:01
サラスさん
なるほど、不入斗は百恵ちゃんのファンだったら、知っている人も多いんですね。
(「いりやまず」と入力したら「不入斗」と表記されることに感激した!)
小生は、百恵ちゃんのファンだった(今も?)のですが、「不入斗」は知らなかったし、まして読めなかった。
これじゃ、ファンとは呼べないか。
ただ、カセットテープは今も持っているし、仕事柄、目黒駅周辺や大鳥神社、目黒新橋付近は車で通ることも多かったので、通るたび、山口百恵さんが通っていた「日出学園高校」が近くにあるって、思っていました。
町名については、味気ないので話題に出す気にもなれないですね。町は愛せてもわが町ながら、町名はダメです。
投稿: やいっち | 2008/01/09 04:15