アダム・エルスハイマー:夜の静謐と幻想の人(前篇)
今日はちょっと寄り道して、異色の画家にスポットライトを当てる。
それは、アダム・エルスハイマーという名の17世紀のドイツの画家。
まあ、大きくは風景画(家)というテーマの一環である。小生には発見だった。
→ Adam Elsheimer 『Der Brand Trojas』 (画像は、「Adam Elsheimer - Wikipedia」より)
ネットではあまり情報が得られない(あるかどうかも分からない)。
「西垣の上級者用楽天探求2006-09-19」なるブログ記事が参考になる。
なんたって、冒頭近くに、「今日はナショナル・ギャラリーでのエルスハイマー特別展 に張り切って出発」とあるのだ。
← Adam Elsheimer 『Flucht nach Ägypten(エジプトへの逃避)』 (画像は、「Adam Elsheimer - Wikipedia」より) この画像だけは、是非、クリックして拡大してみたほうがいい。というか、実物をじっくり眺めてみたいもの。
「エルスハイマーは日本ではあまり知られていないので簡単にご紹介」とした上で、以下のような記述を与えてくれている:
Adam Elsheimer(独)1578~1610
フランクフルトに生まれ主にローマで活躍。初期にはマニエリスムの様式が見られるが、1598年にイタリアに渡ってからは「エジプトへの逃避 」に見られるように細密描写的でしかも詩情豊かな夜景表現にすぐれ、名声を得る。小型の銅板に油彩で描かれた作品の多くは、彼自身や弟子たちの手で銅板画にされ、17世紀の風景画の発展に重要な影響を与えている。レンブラントや友人であったルーベンスも「エジプトへの逃避」↓に触発された。
32歳 で夭折。<西洋絵画作品名辞典より>

→ Adam Elsheimer 『Philemon und Baucis(フィレモネとバウシスの家にて休むジュピターとマーキュリー)』 (画像は、「Adam Elsheimer - Wikipedia」より) 尚、「トスカーナ 「進行中」 In Corso d'Opera Devil in the Detailー細密画の巨匠」なる頁の中の同作品と見比べると面白い。色調が全然、違う。
ドイツ語に不自由しないのなら、「Adam Elsheimer - Wikipedia」が参考になるはずだが、小生、もう、綺麗さっぱりドイツ語は忘れた。とにかく32歳という若さで夭逝している。
夭逝のゆえもあってか、現存している作品の数は40点ほどだとか。
彼の作品を個々に観ていくのもいいが、美術史などの専門家ならまだしも、やはり、彼の中でも極めつけというべき「エジプトへの逃避」に着目するのが妥当だろう。
それには、下記のようなうってつけの頁がある:
「「エジプトへの逃避」 アダム・エルスハイマー (1609年)」(ホームページ:「mariのページ」)
「「マタイ福音書」の第2章にある聖家族のエジプトへの逃避を描いた作品なのです。ヘロデ王が幼児キリストを捜し出して殺そうとしていることを夢の中で知らされたヨセフは、幼な子イエスとマリアを連れて安全なエジプトへと向かう途中なのです」以下、当該頁で続きを読んでもらいたい(決して、長くはない)。
← Adam Elsheimer 『Verherrlichung des Kreuzes, Mitteltafel des Kreuzaltars』 (画像は、「Adam Elsheimer - Wikipedia」より)
ここでは、同上頁より以下の記述に注目しておく:
聖家族の背後には満月を映す穏やかな水面、広い夜空には満点の星々、画面と水平に配されたこんもりとした森、そして彼らの行く手には薪を燃やして野営をしている羊飼いの姿も見え、エルスハイマーが本当に描きたかった主題が、聖家族の逃避行というよりは、この美しく静謐な夜景そのものだったのではないかという気もします。
是非、是非、同上頁を覗いてみてね。
ネット検索していたら、下記の頁が見つかった:
「ヴェレダ ドイツ・野中博士のコラム Vol.32 天文画家エルスハイマー 2006.2.1」
→ ピーテル・パウル・ルーベンス(Pieter Paul Rubens, 1577年6月28日 - 1640年5月30日)『シュザンヌ・フールマンの肖像』 (1622頃 ナショナル・ギャラリー(ロンドン)) (画像は、「ピーテル・パウル・ルーベンス - Wikipedia」より) ルーベンスもエルスハイマーに影響を受けた一人。…この絵だけを何の説明もなくポンと目の前に示されたなら、少なくとも小生には、1622頃に描かれたとは、到底、思えない。19世紀の誰か……。
上掲の『エジプトへの逃避』という作品だが、「この31cm×41cmという小さな名画の中に1200以上の星が記されているというのでドイツの識者の間で大きな反響を呼んでい」るという:
この絵に描かれている満月、天の川、星座にドイツ博物館の天文研究チームが焦点を当て、地平線に対する天の川の角度(35度)、天の川に対する満月の位置、および月面の3つのクレーターが非常にリアルであり、この光景は1609年6月16日か17日のものであると発表しました。
興味深いことは以下の点:
肉眼では見えない部分まで精密に天文画を描いたエルスハイマーはひょっとして望遠鏡を使用していたのではないかという疑問が出てきます。望遠鏡はオランダ人のハンス・リッペルスハイが1608年に発明し、これをガリレオ・ガリレイが改良して夜空を観察し1610年に『星界の報告』を発表して一躍有名になりました。一方、エルスハイマーですが、この絵を1609年にローマで描いていますので、もし彼が望遠鏡を用いたのなら、リッペルスハイの手になるものでしょう。

← ピーテル・パウル・ルーベンス(Pieter Paul Rubens) 『Birth of the Milky Way』 (もっと、発色のいい画像が「Prado Rubens Juno Hera Heracules Breast Feeding Lactic Galactic Galaxy Milk Visual Fine Arts」の中で観ることができる) 上掲のエルスハイマーによる作品『Flucht nach Ägypten(エジプトへの逃避)』と見比べるべし。まあ、<背景>の描き方では、さすがのルーベンスもエルスハイマーのかの作品にはまるで太刀打ちできない。だからこそ、今以てエルスハイマーの名は残っているのだろう。
エルスハイマーは、彼の画業もさることながら、『Flucht nach Ägypten(エジプトへの逃避)』などの作品の後世の画家への影響という点で銘記される画家のようである。
(07/12/09作)
「アダム・エルスハイマー:夜の静謐と幻想の人(後篇)」へ続く。
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