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2007/12/10

オランダ風景画の巨匠アルベルト・カイプ(後篇)

[本稿は、「オランダ風景画の巨匠アルベルト・カイプ(前篇)」の続きです。]

 アルベルト・カイプのことをもっと知りたくて、ネット検索を続けたら、下記の頁が浮上してきた:
古楽画廊-リコーダー(36)」(ホームページは、「西洋古楽(Early Music)関係の絵画画像を集めてみました」という「Early Music Art Gallery 古楽画廊」)

 この頁では、下記のような説明が得られる:

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← アルベルト・カイプ『釣り師と牛のいる風景 Herdsman with Cows by a River』(1650) (画像は、「アート at ドリアン 西洋絵画史・ギリシャ神話・聖書の物語」より)

オランダ南西部のドルドレヒト Dordrecht で生まれたアルベルト・カイプは、肖像画家であったヤーコプ・ヘリッツゾーン・カイプ Jacob Gerritsz. Cuyp (1594-1651/2) の息子として生まれました。彼は様々なジャンルの絵を描きましたが、今日では、1950年(1650年?)頃から描くようになったイタリア風の風景画によって知られています。

ところで、カイプはドルドレヒトから居を移さなかった上に、1660年代からはほとんど作品を残さなかったため、ターナー Joseph Mallord William Turner (1775-1851) やコンスタブル John Constable (1776-1837) らが活躍し、風景画が隆盛を極めた18世紀イギリスにおいて再評価されるまでは、ほとんど忘れられた存在でした。

ユトレヒトの親イタリア派風景画家、ヤン・ボト Jan Both (1610-1652) の影響を受けたと考えられるカイプの風景画は、オランダの風景に南国風の強い光のコントラストが加わり、早朝や夕暮れの光景は、ターナーの絵に大きな影響を与えています。

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→ アルベルト・カイプ Aelbert Cuyp 『牧草地の牛 Cows with the Pasture』(1650年頃制作 パリ,ルーヴル美術館 Musee du Louvre, Paris) (画像は、「古楽画廊-リコーダー(36)」より)

 同上頁(「古楽画廊-リコーダー(36)」)にはさらに、アルベルト・カイプの『牧草地の牛』という題名の絵を掲げ、この絵に付いて、下記の説明が続く:

『牧草地の牛』も、そのような風景画のひとつです。牛たちの傍らで、ふたりの子どもに見守られつつ、羊飼いは縦笛を吹いています。川向こうにかすんで見える、高い塔のある町並みはドルドレヒトのようです。

空は明るい青空ですが、夕暮れが近いのでしょうか。前景は人も牛も影の中に沈み、強いコントラストが空気の透明感すら感じさせるような気がします。


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← コンスタン・トロワイヨン TROYON, Constant (1810-1865) 『家畜の群れ Herd of Cattle』(油彩、カンヴァス 1850ー60年代 52.0×70.0cm 東京富士美術館) 「1847年、オランダでの1年間にわたる滞在は、彼の絵画の方向性を決定する重要な転機となった。トロワイヨンはオランダの画家パウルス・ポッテルやアルベルト・カイプの作品に触れ、大きな感化を受け、以後「動物画」の世界に独自の画境を拓いてゆくようになる

映画「オランダの光」」(ホームページ:「BLUE HEAVEN」…さすがにフェルメールやその周辺の絵画・画家となると、このサイトが登場する!)なる頁を覗くと、「長編ドキュメンタリー映画「オランダの光 Dutch Light」(監督ピーター=リム・デ・クローン)を見」ての、評論家・加藤周一氏の感想(『夕陽妄語』より)を読むことが出来る。

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→ リチャード・ウィルソン Richard WILSON (1714-1782) 『リン・ナントルからスノードンを望む』 (1765-67年頃
油彩,キャンヴァス 98.4×125.8cm 静岡県立美術館) 「晩年の作品には、アルベルト・カイプをはじめとする17世紀オランダ絵画の影響が見られる。(中略)ウィルソンの作品は長い間理解されなかったが、19世紀に入って再評価され、今日ではターナーやコンスタブルの世代に大きな影響を与えた、最初の偉大なイギリス風景画家とみなされている。」 念のために断っておくと、「世界中で多くの彫刻作品やインスタレーションを発表するリチャード・ウィルソン」とは別人。時代が違う。

 その中の一節を転記する:

 17世紀はオランダ絵画の黄金時代であった。そこで画家たちは題材を一新した。彼らは宗教的・神話的な場面や歴史的な事件ではなく、日常身辺的な環境を観察し、理想化し誇張することなく、対象の安定した秩序を描写した。肖像画のモデルは、もはや王侯貴族ではなく、アムステルダムの市民となる(フランス・ハルス)。屋内の光景は、画家の家族や隣近所の人物の日常生港である(フェルメール)。里の果物や食器は、それだけが独立した対象となり、無数の静物画が描かれた。屋外の風景も、深山幽谷でなく、見なれた田園の空と水と風に揺れる樹の繁みであり、王宮や城塞ではなくて、低い丘の上の風軍が見える(ロイスダール)。人物は見えないこともあり、たとえ見えても小さな点景にすぎない。いわんや神女や英雄の姿はない。屋内では静物画、屋外では日常的風景画、その緻密な写実的「イメージ」の中で、運動と変化を示唆するのは、歴史ではなくて、光である。

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← アルベルト・カイプ Aelbert Cuyp 『View of Dordrecht』(1650) (画像は、「Aelbert Cuyp paintings prints reproductions」より)

 スピノザのオランダ!
 やはり、新教の国、カルヴィニストが多数を占める国オランダならではなのだろう。
 ただ、加藤周一はさらに以下のように論じる。納得の行く点もあるが、どうだろうかという点もある:

 周知のように西洋の絵画史で風景画が一つの独立したジャンルとして成立したのは、17世紀のオランダにおいてである。東北アジアの水墨画の世界では、それよりもはるかに早い。山水画はすでに唐代の中国にあらわれ、宋元の画風は朝鮮半島や日本にも及んだ。なぜそれほどの時代のずれが生じたのだろうか。西洋の歴史は肖像画を生み、東洋の歴史は風景画を重んじた。そのことは世界観のちがいとの関連を示唆する。一方には人間中心主義があり、他方には道教の汎神論的自然主義があった。

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→ 『プルースト評論選 Ⅱ芸術篇』(保苅瑞穂編 ちくま文庫 筑摩書房) 言うまでもないだろうが、本書の装画は、フェルメール筆の『デルフトの眺望』である!

 最後に、同じ頁から以下の一節を転記するが、その頁は長くはないので、全文を通読することをお勧めする:

(前略)しかし17世紀の西洋で光を画面にとらえるために独特の手法を洗練したのは、フェルメールやロイスダールの世代のオランダの画家だけではなかった。彼らよりも早くフランスではドゥ・ラ・トゥールが蝋燭の火にかざす手を描いていたし、「ローマの光」に魅せられたクロード・ロランはその神話的風景画において逆光の効果を究めていた。レンブラントが「スポット・ライト」を駆使していたことはいうまでもない。レンブラントはやがて全ヨーロッパを圧倒するに至るだろうオランダ絵画のほとんどすべての特徴を、余すところなく予言してさえもいた。

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← 本書の入手方法などは、「【楽天市場】アルベルト・カイプ:アートブックショップ」で(本書の画像も、この頁より)

 最後に付記すると、「アムステルダム市内の通りの名前にまでなっている、オランダの誇る巨匠、アルベルト・カイプの画集」がある。但し、英語版。絵を眺めるのには支障はないだろう。
 実際、「Albert Cuyp」でネット検索すると、ほとんどが「Albert Cuypmarkt」や「アルベルトカイプ通り(Albert Cuypstraat)」関連だった。

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→ アールベルト・カイプ『橋を渡る牛飼いのいる河の風景』(1644年頃  板 50×75cm) (画像は、「Gallery Landschap /オランダ・フランドル風景画」より) この絵の解説頁(ホームページ:「オランダ・バロック絵画館」)には、「「逆光」様式の初期を代表するアムステルダム国立美術館所蔵の「丘陵風景の中の2人の馬上の人物」」との対比を通じての専門的な記述が見出される。

 …しかし、こうなると、レンブラントやフェルメール、ドゥ・ラ・トゥールらを採り上げることになる。でも、その前に、まずは、オランダ派の巨匠ロイスダールのことが気にかかる。

[ロイスダール(ライスダールとも)については、近く採り上げる予定にしている。(アップ時付記)]

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受信: 2007/12/11 10:02

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