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2007/10/29

「種月耕雲」か「釣月耕雲」か(前編)

 さて、ようやく本題である。
 その言葉とは、「種月耕雲」か「釣月耕雲」かのいずれかだったと思う。
 掛け軸である。楷書体で書いてあるわけではない。まして、小野田官房長室の壁の掛け軸には、何々という文句が書いてありました、などと番組が終った時点で教えれてくれるわけもない。

Kameimiraku_chogetsu_400

← 高取焼陶芸家・亀井味楽書「釣月耕雲」(画像は、「亀井味楽・「釣月耕雲」」より。ホームページは、「聚雲堂ホームページ・京都・古今書画処」)

 電話でテレビ局に長官室の壁に掛けてあった掛け軸の言葉について教えてくださいって、電話する?!
 小生、電話するの嫌いなの!
 電話で訊くくらいなら、回り道でも自分で分かるところまで調べる!

 さて、崩し気味の(達筆な)文字だったが、とにかく、上掲(表題)のいずれかだったと思うのである。
 一応、二つの候補のうちのどちらかと断定はしないとしても、以下、とにかく、二つのうちのどちらかが掛け軸の言葉として書かれていたものとして話を進める。
(「種月耕雲」か「釣月耕雲」かのいずれが正解なのか、答えをコメントの形でいただきました。水月さんのコメントを参照願います。(08/06/29 註))

釣月耕雲」をキーワードにネット検索したら、下記のブログが浮上してきた:
きっさの旅 釣月耕雲ってなに?

 そので絶好の説明が得られた:

釣月耕雲は、ちょうげつ こううんと読み、禅宗 曹洞宗の開祖 道元禅師が言われた言葉なのです。

釣月耕雲

月を釣り雲を耕すとは どういう意味なのでしょうか。これは世俗を超越し、大自然のなかで月を釣り、雲を耕すようなゆったりとした心境をさしています。月を釣るような想像をはるかに超え、雲を耕すような思いも及ばないような心境。


釣月耕雲」が道元の言葉だと分かったので、次は「釣月耕雲 道元」でネット検索してみる。
 すると、以下の頁がトップに浮上してきてくれた:
東泉院 禅の書画展解説講演・維摩と在家仏教」(ホームページは、「境禅情報センター本館」)

 ありがたい説明が載っているが、せっかちな小生としては関係する箇所のみ転記させてもらう:

 その次の十番目「耕雲」は、余語老師の字であります。私は脇に、「月を釣り雲を耕す」と書いておきました。これは道元禅師の詩に「釣月耕雲」とあるからです。
 世間で言えば意味の通らないことです。魚なら釣れますが月は釣れるものではあり ません。雲を耕すもまたおなじです。これは文字通りのことを言っているのではない わけで、魚でなく月を釣る気持ち、畑でなく雲を耕す境地。これは大きな自然の中の 存在からすれば月であろうと魚であろうと一つであります。同じであります。雲も自 然であれば畑も自然であります。そうであれば、大自然も自分であるとすれば、月を 釣り雲を耕し、大自然の中で遊べるのであります。
 月を釣るという大きな釣りをやっている。雲を耕すというすばらしい真理の華を咲かせる心境になっている。この境地を「釣月耕雲」と表現しているのであります。

 さらに調べたら、「釣月耕雲」を含む道元の漢詩の全文(?)が見つかった。根気良く探すものである(あるいは、要領のいい人なら、あっけなく見つけ出しているのだろう)。
 見つかったのは、「法句抄」(「沙門 尾崎正覚のホームページ 坐禅」がホームページ)という頁である。
永平広録(各巻より)」として、その「巻十(山居)」に目当ての漢詩が載っている:
西来祖道我伝東
釣月耕雲慕古風
世俗紅塵飛不到
深山雪夜草菴中

 念のために読み下し文を示すと、下記のようである:
西來(せいらい)の祖道(そどう)我(われ)東 (ひがし)に伝(つた)う
釣月(ちょうげつ)耕雲(こううん)古風(こふう)を慕(した)う
世俗(せぞく)の紅塵(こうじん)飛(とべ)ども到(いた)らず
深山(しんざん)雪夜(せつや)草菴(そうあん)の中(うち)

 意味合い、味わい、それとも示す境地は、当該の頁(項)にて確認願いたい。


 こうなったら、この言葉に付いて、小生が説明する必要はもうないだろう。
 屋上屋を架すという言葉があるが、雲や月の上には、梯子などどうやっても架けようがないと思われるからである。

 さて、次は、「種月耕雲」である。
(というわけで、本稿はまだ続きます!)

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コメント

こんにちは。
永平寺の展示でこの漢詩を見つけ
心打たれてネットを彷徨っていました。
それでこの記事に辿り着き
興味深く読ませていただいた次第です。

せっかくなので、読んでいて気になったことを一つ二つ。

「釣月耕雲」というのを、みなさん
「月を釣り、雲を耕す」と書き下されていますが
これは「月に釣り、雲を耕す」の方がすっきり読める気がします。
月という池、雲という畑というイメージであります。
「月を釣る」というのはうまくイメージできません。
(ちなみに、永平寺に展示してあった書では「月に」とありました)


それから、文中に引用されている漢詩ですが
最後に「中」が抜けているようです。

西来祖道我伝東
釣月耕雲慕古風
世俗紅塵飛不到
深山雪夜草菴  ←ココ

草庵の中で過ごすっていいですよね……嗚呼。


最後です。こんな質問を見つけました。

種月耕雲とは、どういう意味ですか? - Yahoo!知恵袋
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1214041652

「出典はドラマ相棒・小野田官房長の部屋の掛け軸から」ということは……!

投稿: FF | 2008/03/21 10:51

FFさん

旧稿に目を留めていただき、ありがとうございます。

「釣月耕雲」についていろいろご指摘、ありがとうございます。
解釈に付いては、漢詩文を読まれる方たちに任せます。


深山雪夜草菴の最後に「中」が欠けている!
さっそく訂正させてもらいました。

「Yahoo!知恵袋での、」「出典はドラマ相棒・小野田官房長の部屋の掛け軸から。」ってのは、愉快ですね。
でも、長官室ではないことが分かったのは収穫です。
そねに、中国語に「耕雲播雨」という成語があるというのも収穫でした。

投稿: やいっち | 2008/03/21 17:10

こんにちは。
「釣月耕雲」を検索中の通りすがりの者です。

詳しく検索をされていて、興味深く読ませて頂きました。
どうもありがとうございました。

そのお返しに・・・と言っては、失礼なのですが、
疑問の答えになると思い、コメントを書かせて頂く事にしました。

私は、つい先ほど、
『相棒~シーズン6「複眼の法廷」』の再放送を見て、
小野田官房室長の部屋(官房室長室?)の壁に掛けてあった
「釣月耕雲」という掛け軸の出典・意味が知りたくなり、

検索をして、このブログに辿り着きました。

つまり、見えない掛け軸の「耕雲」の前の文字は「釣月」です。
それから、小野田さんの役職は「官房室長」だそうですよ。
http://www.tv-asahi.co.jp/aibou_05/i/sp-encyclop/02-kanbousituchou.html


半年以上前の記事ですし、既にご存じの事かもしれませんね。

投稿: 水月 | 2008/06/28 16:09

水月さん こんにちは!

『相棒~シーズン6「複眼の法廷」』の再放送!
テレビで放映していたのでしょうか。見たかったなー。

貴重な情報、ありがとう。
自分で確かめないといけないのですが、小生の怠慢で放置したまま。
これでスッキリです。

「相棒事典」があることを知ったのも収穫。
とても参考になりました。
訂正すべきところは訂正、乃至、註を付しますね。


「種月耕雲」か「釣月耕雲」かのいずれかを不明なままにずっと放置してきたけれど、敢えて関係者に問うことなく、あれこれ調べたのも、小生の詮索好きの性癖を満足させるためじゃなかったか、なんて振り返ってみて、ちと思ったりします。

投稿: やいっち | 2008/06/29 03:15

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