レコーダー映像を捜査に活用…パノプティコン社会は必然?
「事件発生!タクシーは見ていた=レコーダー映像を捜査に活用-警視庁府中署が協定」(2007年9月29日(土)04:20 ホームページは、「goo ニュース」)というニュース記事が今日、ネット上の各サイトで載っていた。
短い記事なので、結果的に全文の転記になるが…:
← 「ドライブレコーダー」 データを記録する本体部分と、カメラやマイクなどを分離したセパレートタイプ。「【楽天市場】ECLIPSE イクリプス DREC1000 ドライブレコーダー:Car Parts Shop MM」より
タクシーに搭載されている「ドライブレコーダー」で撮影された映像を捜査に活用するために提供する全国初の協定が先月21日、警視庁府中署と同署管内の3つのタクシー会社との間で結ばれた。同署は「犯罪抑止や事件解決の糸口となる」と期待。問い合わせが相次いでおり、同庁のほかの署にも動きが広がっている。ドライブレコーダーは、フロントガラスに取り付けられた小型カメラが衝突や急ハンドルなどで衝撃を受けると、その前後約20秒の運転席前方の映像を記録する。
タクシー会社が事故原因の調査などのために自費で設置しており、これを無償で府中署に提供し、捜査に役立てるという計画だ。
このニュースでちょっと驚いたことがあった。
それは、文中に「タクシーに搭載されている「ドライブレコーダー」で撮影された映像を捜査に活用するために提供する全国初の協定が先月21日、警視庁府中署と同署管内の3つのタクシー会社との間で結ばれた」とあり、このことは、小生もタクシードライバーの端くれなので、車中で関連のニュースをラジオで聴いて知っていた(し、翌日か数日中には記事にしたいなと思っていた。結局は浅草サンバカーニバルが控えていることもあって、他の関心事に紛れて忘失してしまっていたが……。と思ったら、なんと「真夏の夜は怪談…でも怖い!」なる拙文で「ドライブレコーダー映像を警察に提供」という記事を載せていたのだった!)。
何に驚いたかというと、どうして一ヶ月も経ってネットでこのニュースが配信されるのかという点である。
まあ、「同署は「犯罪抑止や事件解決の糸口となる」と期待。問い合わせが相次いでおり、同庁のほかの署にも動きが広がっている」というから、一定の成果があり、また、その結果、動きが広がっているという新たな情報があったからということなのだろう(と思うしかない)。
「ドライブレコーダー」というのは、飛行機で言えば「フライトレコーダー」で、そのタクシー(車)版である。
この装置の取り付けの結果、事故が減ったり、さらには事故の映像があるので、事故で第一原因者・第二原因者(つまり、誰が事故について一番悪いのか、誰が犠牲者なのか)の特定が容易になり、事故原因を巡っての混迷やトラブルも減ったという。
バスなどに一部、設置され始めているのは当然として、一般のトラックやマイカーにも設置の動きがあるらしい。
大々的にマスコミでこの装置やその映像が紹介され効果について一定の評価が下されたら、もっと動きが広がるだろうし、場合によっては、装置の設置が義務付けられる可能性もあるかもしれない(既に取り沙汰されている可能性も感じる…)。
実はこれには大事な前段がある。
というのは、このドライブレコーダー映像が既に裁判でも証拠物件として採用され、証拠能力アリと認められた事例が出てきたのである:
「ドライブレコーダー映像記録が事故証拠 防犯監視カメラ」(ホームページは、「防犯監視カメラ」)
この記事からレコーダー映像記録が事故証拠となった「走る防犯カメラ活躍事例」を一つ示しておく:
<大阪府警の例②>
昨年の7月、堺市の交差点で右折中のタクシーと直進のオートバイが衝突、バイクの男性が意識不明の重体で事情を聞けなかった事件。レコーダーの記録から双方の速度などを特定することができ、タクシー運転手が業務上過失傷害罪で起訴され有罪判決が確定。
だからこそ、事件の際の証拠として使われるかどうかは別にして、「犯罪抑止や事件解決の糸口となる」として活用への動きが加速されたのだろうと思われるのである。
小生は関連の記事を既に書いている:
「ウィットネス( Witness)のこと」
「ドライブレコーダー」(あるいは「ウィットネス」装置の詳細などについてはこの記事などを参照してもらいたい。さらに、「タクシー事情」あれこれ」でも関連情報を載せている)
タクシーのドライブレコーダー装置とはどんなものか、より詳しくは:
「ドライブレコーダーで事故自己記録!カーナビ装備 ドライブレコーダー 登場!」
→ [mixi]で見つけたジャン・ミッシェル・バスキアの作品。パリのポンピドウー芸術文化センターで見つけたというが、小生はサイトを見つけることが出来なかった。
ドライブレコーダー設置の動き、さらに「レコーダー映像を捜査に活用」というニュースを目にすると、必ずと言っていいほどに、監視社会の様相を一層濃厚にし、不快感(あるいは警戒感か)を露わにする人が居る。
確かにそういう負の側面があることは否めない。
「パノプティコン - Wikipedia」参照。
一方、犯罪が地方都市でも稀ではなくなったことを思うと、監視カメラの多用というのは、避けることの出来ない必要悪(?)なのかもしれない。
働きながら子育てするお母さんには眠っている(はずの)赤ちゃんの様子をいつでも覗けるようでありたい。人気の少ない夜道を帰宅する女性らには防犯カメラの存在はありがたいだろう。
一人暮らしの人には、自室にカメラを設置しておいて、携帯電話でいつでも部屋の様子を伺えるようにしておきたい。
大雨の際、人里離れた崖などの状況を把握しておきたい…などなど。
病気の治療と同じで医学の発達が時に倫理的な問題を惹起することがあろうと、今、ここに治療を要する患者が居て、倫理云々より、とにかく直ちに治療が必要となれば、倫理性の問題は脇に置いても、技術の開発と治療が喫緊となるだろう。
監視(防犯)カメラも理屈は同じ(なのかどうか)?
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コメント
「パノプティコン」、
ご教示ありがとうございました!!\(^o^)/
現在の英国で監視カメラがあれだけ普及している裏には
ベンサムさんの思想があったのかあ?なんて...\(^o^)/
投稿: Kimball | 2007/09/30 10:00
Kimballさん
まあ、監視社会ってのは昔からあったわけです。
支配者の立場に立ってみると、敵が何処に居て何処から攻めてくるか分からない。
収奪している民衆がいつ叛乱するか分からない。
天候の変化(日照り、旱魃、洪水、地震、火事、噴火)や季節の変化の予測も支配者の責任。
そうした変化を常に見張り警戒しておく必要がある。
よって、城や砦には必ず展望台とか見張り台を設置しておく必要がある。
無論、民衆側だって、壁の穴から隣とかを覗いて居たりしたでしょう。
こうした発想や措置は昔からあったと考えるのが自然。
ただ、こうした素朴な措置や発想を洗練し近代化したのは、誰か思想家や政治家らの知恵や思索の結果で、「パノプティコン」もそうした賜物の一つなのでしょう。
こうした問題について、現代(20世紀)において思想的に明確にしたのは、何と言ってもミシェル・フーコーの思索によるもの。
『監獄の誕生―監視と処罰』(田村俶訳、新潮社、1977)は、この件について刺激的な書物ですよ。
投稿: やいっち | 2007/09/30 16:53