« 花火大会と空襲の間に佇む | トップページ | 「漱石の白くない白百合」の色話 »

2007/08/16

プラント・ハンター! キングドン・ウォード

 過日より、F.キングドン・ウォード著の『植物巡礼 ―― プラント・ハンターの回想 ――』(塚谷 裕一訳、岩波文庫)を読み始めている。
 出版社の謳い文句は以下の通り:

植物探検家F.キングドン-ウォード(1885-1958)は,人生の大半を東アジアでの調査に捧げ,英国の寒冷な気候に耐える植物を数多く採集した.人々の周りを彩る,サクラソウ,モクレン,シャクナゲ,ユリ,リンドウ,そして愛好家の心をとらえてやまないシップ,青いケシや,茶,棺の木などとの出会いや様々なエピソードを記す.

41p13zhgfcl2

← F.キングドン・ウォード著『植物巡礼 ―― プラント・ハンターの回想 ――』(塚谷 裕一訳、岩波文庫)

 このブログもだが、この訳書は横書きの本。学校の理科などの教科書みたい。句読点も転記した紹介文と同じ。読みづらい。でも、興味本位で、そしてこんな奴がいたんだという驚きの念で読み続けている。

 まずは、「プラント・ハンター」とは如何。まあ、植物採集家なのだろうが、転記文にあるように、「植物探検家」と訳すべきなのかもしれない。
 でも、英語のままのほうが格好いいか。

EICネット[環境用語集:「プラントハンター」]」に的確な(などと小生が評するのもおこがましいが)説明があって助かる:

17世紀から20世紀中期にかけて、食料、香料、薬、繊維等の有用植物に加えて、庭園や温室を飾るエキゾチックな植物を求めて世界中に出かけていった者たちのこと。(中略)江戸時代末期に来日したシーボルト、ケンペル、フォーチューンなども、さまざまな日本に関する情報とともに、プラントハンターとして多くの植物標本をヨーロッパに持ち帰った。

514jc0ps6zl3

→ 塚谷 裕一著『カラー版 ドリアン―果物の王』 (中公新書) ドリアン、食べたことがない! この本も未だ読んでない! (画像は、「Amazon.co.jp 通販サイト」より)

 驚くべきは(と驚く小生がピント外れであるのだろう)、「現在においても、新たな園芸品種のみならず、新薬開発などのため、世界各地においてプラントハンターがしのぎを削っており、時にはバイオパイラシー(生物資源をめぐる盗賊行為)として非難されることさえある」という点。
「17世紀から20世紀中期にかけて」とあるが、大航海時代、帝国主義の時代、そして今世紀においても、ヨーロッパの人びとを中心にエキゾチックな植物を求めて(無論、動物を求めていたアニマル・ハンターもいたのだろう)世界中を駆け巡ったわけである。
 いろいろ問題があったろうことは容易に想像が付く。
 しかし、人類の世界制覇への夢は(それは帝国の領土の拡張に留まらず地上の、人間を含めた動植物の支配の夢でもあるのだろうが)、果てしない。ヨーロッパの人がやらなければ他の誰かがやった。

2007_0815070814tonai0054

← 梅は咲いたか♪ 桜はまだかいな♪

 むしろ、数知れない動植物の種を集め残したという<功績>を認めなければいけないのか。
 結果、世界に僻地も暗黒の地もなくなっていった。どんな山奥も荒らされるに至ったと非難することも容易なのだが。
 世界を支配する夢。それは天上天下の全てのものに命名することでもある。森羅万象に名前を与え、分類するという壮大な夢(それとも暴挙?)を特にヨーロッパの人びとは熱心にやってきた。
 そのためには命の危険を顧みることもない(顧みたのだろうけれど、結果として命を落とすことになった)。

 プラント・ハンターであるF.キングドン・ウォード(1885‐1958)とはいかなる人物なのか(本人は、プラント・コレクターとも自称している)。
 知る人ならば、『ツアンポー峡谷の謎』(金子 民雄訳、岩波文庫)や『青いケシの国』(倉知敬/訳 、白水社)などの著者として知っているかもしれない。
 あるいは、植物好きの方なら、植物の画像の説明など、何処かしらで名前を目に(耳に)しているのかもしれない。
アルムのフォトギャラリー Ericaceae ツツジ科」なる頁の最後に載っている「ロードデンドロン・フォレスティ・ツメスケンス 「タワー コート」」の画像説明などの形で。

2007_0815070814tonai0056

→ 八重桜…。そんなわけないね。14日、都内某公園で見つけた。君の名は? (花(木)の名前はコメント欄を覗いてください。)

 特に「青いケシ」については以下のような話が本書に載っている(画像も含め、「青けし5」参照):

1924年種子を採取し英国に青けしの移植を成功したウォードの植物探検旅行記はとても興味深い内容となっています。青いけしの発見には1886年中国雲南でのフランス人ドラヴェー、1913年・英国人ベイリーなど紆余曲折があるそうですがウォードによる青けしの種子採取と栽培によって、はじめて新種発見を認定されたとのことですね。

青いケシの花 Meconopsis sp.」の見事な画像が、「黄色アツモリソウと橙色サクラソウ」なる頁で見つかった(ホームページは、「エベレスト、カイラス、ブルーポピー、ゴールデンエーデルワイス」)。
黄色アツモリソウと橙色サクラソウ」なる頁は、プラントハンターやF.キングドン・ウォード、そして彼の著書や仕事についての良き紹介頁になっている。
 ここを読めば小生の駄文を不要かも!
 こんな頁(サイト)が検索結果の122番目にやっと見つかるんだから、疲れる!

2007_0815070814tonai0059

← 14日の営業も終わりに近づいた15日、未明。徹夜した目には朝日が眩しい。

大陸移動説 - Wikipedia」は、今日では基本的に受け容れられている説だと思っていいだろう。
 つまり、「大陸漂移説ともいい、ドイツの気象学者アルフレート・ヴェーゲナーが提唱した学説。大陸は地球表面上を移動してその位置や形状を変えるというもの」だ。
 キングドン・ウォードは、別にこの説を証明しようという意図はなかったろうと思うが(分らない)、ヒマラヤやチベットなどを歩き回ることで、長い時の中で大陸が移動し変化したことに連れて植生も変化したのだということを実地に見たと言う事ができそうに思える。

 本書の中で「サクラ」についての興味深いエピソードを見つけたのだが、もう、今日は疲れたので後日、機会があったら、紹介したい。 

|

« 花火大会と空襲の間に佇む | トップページ | 「漱石の白くない白百合」の色話 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

旅行・地域」カテゴリの記事

書評エッセイ」カテゴリの記事

科学一般」カテゴリの記事

コメント

 こうやっていろんな本を紹介していただくと、目移りがしますね。。。「植物巡礼」は、“いずれ”と思ってとってありますが。


 今回の「君の名は」=サルスベリですね。ツルリとした幹にさわってみてください。

投稿: かぐら川 | 2007/08/16 20:52

かぐら川さん、コメント、ありがとう。
小生、好きであれこれ読んでいるだけです。自宅では仕事の疲れを取るため、ひたすら寝るか椅子でボヤーとしている。
なので、読む(か飲む・喰う)しか能がないのです。

花の名前、サルスベリなのですね:
http://www.hana300.com/sarusu.html
「ツルリとした幹」、今度、触れてみますね。
教えていただき、ありがとうございます。
「2007/08/10 (金) 残暑のなかのサルスベリ」なる日記で話題にされていましたね。それは分ったのだけど、無精なので、「サルスベリ」を調べるのをつい怠ってしまっていた。

投稿: やいっち | 2007/08/17 08:20

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: プラント・ハンター! キングドン・ウォード:

« 花火大会と空襲の間に佇む | トップページ | 「漱石の白くない白百合」の色話 »