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2007/08/21

宇宙の神秘に対する畏敬の念

 拙ブログ「物理学界がいま最も注目する5次元宇宙理論」にて紹介(ただの言及?)していたリサ・ランドール氏の本二冊のうち、『NHK未来への提言 異次元は存在する』(リサ・ランドール 著/若田光一 著、NHK出版 Online Shop)を読了した。
 宇宙飛行士として有名な若田光一さんがリサ・ランドール氏にインタビューする形で話が展開する。

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→ 画像が一つもないと無愛想なので、今日は特別に小生の部屋を机の付近を中心に大公開。世間体もあるので、かなり整理整頓しました。それこそ、ベテラン大物女優さんがテレビに登場する際、顔に思いっきり強い光を当てるように!

 本というより小冊子というべき体裁のものだけど、理論の深みはどこまで理解できたかは別にして、なかなか刺激的だった。
 リサ・ランドール氏は比喩を使って、本来は高度に数学的な話を分るように(分ったような気になるように)説明するのがとても上手い。

 物理学や数学などの一般向けの本は、数式が一つでもあるだけで売り上げがガクンと減るという。まあ、一つや二つくらいあっても、一種のビジュアルだと思えば、洗練されたセンスがあるようで、いいような気がするが。
 数式でしか正確には表現も考察も難しい(あるいは不可能な)新しい概念や発想を喩えや図式で上手く説明する才能は、こうした啓蒙書の書き手には不可欠のものだ。
 日本にもそうした書き手が居るのだろうが、さすが欧米には少なからず居て、小生も相当にお世話になってきた(「黒星瑩一著『宇宙論がわかる』」など参照)。

 本書の解説は、東京大学ビッグバン宇宙国際研究センター助教(助教授? 助手?)の向山 信治(むこうやま しんじ)氏がされている。
 この向山 信治氏は、ハーバード大学(の博士研究員の時、「リサ・ランドールと理論物理学で難問とされる宇宙項問題に取り組み、共著論文を発表」という経歴があり、「専門は初期宇宙論、重力理論」だとか。
 また、小生が近いうちに読むつもりでいる、リサ・ランドール著『ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く』(向山信治/監訳 塩原通緒/訳、日本放送出版協会)の監訳もされている。

 せっかくなので、出版社による内容説明を転記しておく:

宇宙は、私たちが実感できる3次元+時間という構成ではないらしい。
そこには、もうひとつの見えない次元があるというのだ。
もし、もうひとつの次元が存在するのなら、なぜ私たちには見えないのか?それは、私たちの世界にどう影響しているのか?どうしたらその存在を証明できるのか?現代物理学の歩みから最新理論まで、数式を一切使わずわかりやすく解説しながら、見えない5番めの次元の驚異的な世界に私たちを導いていく。
英米の大学でテキストとして使われている話題の著書Warped Passagesの邦訳。

 この内容説明には出てこないが、『NHK未来への提言 異次元は存在する』の本文や本書に付されている向山信治氏の解説に拠ると重力波の検出や今年にも始まるスイスにあるLHCの加速器実験で「消えたエネルギー」が実証されるかもしれない、そうしたことを通じて5番めの次元や更なる謎が解きあかされるかもしれないという。
 なんといっても、「わたしたちが見上げる夜空のおよそ95%、つまりその大部分は、いまだ実態が謎とされている。そのうち、およそ70%はダークエネルギー(暗黒エネルギー)と呼ばれ、残りの25%はダークマター(暗黒物質)と呼ばれるものえ構成されている」のだ(若田氏の説明)。
 宇宙のおよそ95%について正体が謎なのである!

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← 20日の夜になって、とあるお酒の飲めるベリーダンスショーのあるバーへ。せっかくなので裏通りを歩いてみた。

 さて、本書は平易な、われわれ数式には門外漢なものにも楽しめる内容となっている。
 上記したように、本書は若田光一氏がリサ・ランドール氏にインタビューする形式になっているが、そろそろインタビューも終わりに近づこうという頃、逆にリサ・ランドール氏が宇宙飛行士の若田光一氏に質問する箇所がある。
 それは、「あなたは初めて宇宙から地球を見た瞬間のことを覚えていますか」という質問である。
 この遣り取りも全て紹介したいほどのものだが(それは小冊子である本書を読んでもらうとして)、さらに関連してランドール氏が若田氏に問う:

ランドール 地球が慈しむべき存在であることにわたしもまったく同感です。地球では感じることのできないような神秘的な体験もありましたか。

若田 印象深い瞬間は2度目のフライトのときでした。初めて国際宇宙ステーションのなかで眠ったのですが、すべての照明を消して寝袋に入って目を閉じたとき、これまで感じたことのない大きな孤独を感じました。大宇宙に自分だけがぽつんと浮んでいるような感覚を抱いたのです。(略)
 あなたも、5次元世界という概念を思いついてから、あなたの生活や研究の面で新しい人生観のようなものを感じることがありましたか。

ランドール おもしろいことに、わたしが5次元世界の概念から感じたことも、ある意味、今、あなたがおっしゃったことに、よく似ているような気がします。それは神を感じるような経験ではありませんが、目に見えない5次元に思いをめぐらせていると、「宇宙の神秘に対する畏敬の念」が湧きあがってくることがあります。
 (略)
 物理や科学という観点からではなく、もっとフラットな目で自分の取り組んでいることを見つめてみると、それがどれだけ奇抜な発想であるかということにハッと気づかされることがあるのです。そのときに、宇宙には観測可能なもの以外に想像を絶するほど多くの事象が存在することを改めて強く感じ、宇宙の神秘に対して、畏敬の念を抱きます。
(略)
 多少なりともそんな宇宙の総体的な概念を見出すためには、気が遠くなりそうな努力が必要だと思います。でも、だから人は想像するのだと思います。もし今の自分たちの考え方に根本的な影響を与えるような異次元世界が探求できるならば、それはいったいどのようなものだろうか、と。
(略)
 宇宙は、わたしたちが考えているよりもはるかに大きく豊かで、変化に富んでいるのではないかと思います。


 転記した文中、若田氏の、「すべての照明を消して寝袋に入って目を閉じたとき、これまで感じたことのない大きな孤独を感じました。大宇宙に自分だけがぽつんと浮んでいるような感覚を抱いた」という言葉がある。非常に印象的だ。
 われわれ地上に居る人がベッドか布団か畳に横たわる時、普段は意識しないが、体が下に、つまり床や板やベッドや…つまりは大地に、もっと言うと地球に引き寄せられている。
 つまり、どんなに孤独であっても大地が、地球が、架空の中心があなたを引き寄せている。あなたを抱いていると言っても過言ではないだろう。
 が、宇宙空間にあっては、どこにも中心がない。あるいはあらゆる場所が中心であるといっても同じことだ。
 若田氏の体感した孤独と浮遊感覚は究極で絶対的な感覚なのかもしれない。

 小生には、瞑想を誘う発言だ。
 この<感覚>については、いつか機会を設けて別個に採り上げてみたいものである。

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→ 同じく、バーのある町の裏通りをうろうろと。何故かこういう雰囲気って好きなのだ。酒も飲めないくせに。

 ここでは、この辺りの話を読んでいて、ふと、小生が何年か前に書いた文章を思い出されてしまったので、せっかくなので、その旧稿を紹介しておきたい。
 全文というわけにはいかないので、何箇所かを抜粋する形で示す:

 小生、この数年は特に虚構作品の制作に熱中している。その際、現実の体験には拘らないということを旨としている。
 その意味は、決して現実を無視するとか、現実離れした物語を構築するということではなく、現実が人間の(実際には小生の)限られた能力、想像力、妄想力、五感(感官)に制約されているのだとしても、取りあえずは、現実の背後の、現実を囲繞する、現実をその中のほんの極小の点にまで相対化させてしまうところの、想像を絶する空間の端緒であり入り口として大切なのであって、そこから先には、意想外の虚構空間が広がっているのだと常に思いながら虚想を練るようにしているという意味である。
 自分の中の規範や固定観念や常識や情念などクソ食らえと虚構の海に飛び込んでいくのだ。
(略)
 あるいは中間子の理論と、その発見。
 現実の時空においても、というか、人間の情念、生物の存在、あるいは物質についてさえも、恐らくは、まだまだ概念・観念・理論・情念の拡張の余地がある…。そう思うと、眩暈の生じそうなほどに官能的になり恍惚とさえしてくる。

 本稿の全文は、「複素数から虚構を想う」にてどうぞ。
 宇宙論も数学も古代史研究も音楽研究も、近年、とてつもない展開を見せているようである。
 きっと、文学の世界も同じなのだろう。想像力を働かせる余地は際限なくありそうな気がする。虚構の海の広さと深さは、今だ未知の質量が95%だという宇宙に匹敵するほどにあるのだろう。

 ってことで、表題を最初は、「虚構は(想像するエネルギー源は)、宇宙の神秘に対する畏敬の念に源を持つ」とか何とかにしようと思ったが、ちょっと無理筋なので今の表題に落ち着いた次第。

 例によって余談に流れてしまった。ランドールさんに関する情報の載っているブログを:
茂木健一郎 クオリア日記 ボクがもし地球だったら

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