「ブルームーン」…この酒は甘いぞ?!
先月末、あるサイト内で、「ブルームーン」のことが話題に上っていた(フルムーンではない!)。
「ブルームーン」とは、「みっちょんの ひとりごと ブルームーン」なるブログ(この頁には素敵な月の画像などが載っていて、読んでも観ても楽しい)の説明を参照させていただくと、「ひと月の間に2回満月があるとき、その2回目の満月が“ブルームーン”と呼ばれてい」るとのこと。
「この“ブルームーン”という呼び名は、天文の正式な用語ではなく、定義もはっきりしていないようで、「めったに起こらないような珍しい出来事」の意味で、慣用句として使われることが多いようですね」ともある。
その理由などは上掲の頁を覗いてみてほしい。
東京に付いて言うと、残念ながら土曜日の夜は曇天で、夜半近くには雨も降り出していた。
← 6月23日の夜、都内某所で撮ったもの。月影が撮れるとは期待していなかっただけに、嬉しい画像なので再掲。
幻の青いバラに「ブルームーン」という銘柄があるようだが、さて、どんなブルーなのだろう(小生には、「幻の青いバラと女心」などのエッセイがある)。
青い薔薇の画像というと、「ブルームーン - 花と実と魔女と」なる頁も素敵だ。
さらに、「ブルー・ムーン」という名のカクテルがある。「「カクテル夜話」 ブルー・ムーン」によると、「ブルー・ムーンとは「珍しい出来事」 「めったにないこと」という意味」だとか。
「また、この言葉には「できない相談」という意味」もあるのだとか。
「女性向けのカクテル」というが、男性には時にほろ苦いカクテルなのかもしれない。
「ブルームーン探偵社のページ」も参考になるかも(このドラマを昔、夜中に見ていたっけ)。
さて、これらのことを予備知識に、小生が四年ほど前に書いた「ブルームーン」という掌編をここに載せておく。
まあ、予備知識がなくとも読める、他愛もない小品である!
「ブルームーン」
祐介は弘美に問われて困っていた。
ブルームーンという言葉の意味は何か、というのである。
というより、弘美は、天の月を仰ぎながら、前、説明したじゃん、の一点張りなのである。だから祐介は懸命に記憶の箱をガサゴソ引っくり返すしかなかった。
でも、何も出てこない。
出てきたのは、再放送でやっている「こちらブルームーン探偵社」だけである。
祐介は、この番組の中のブルース・ウィリスが好きなのだ。
というより、「ダイ・ハード」以降のウィリスは乗っているようだけど、でも、まだメジャーじゃない頃のウィリスに初々しさを感じて、ああ、初めてテレビ放送をしていた頃に見れたなら、どんなに感激したことかと思っていた。
ウィリス演じるデビッド・アディスンを探偵として雇っている相方の女性の名前が、幾度、番組でのキャスト紹介で確認しても、祐介は覚えられなかった。
それが、デ・ニーロ主演の「タクシードライバー」に出演したことがあると、偶然、何かの機会に知って初めて、覚えることが出来た。そう、マデリン・ヘイズである。
しかし、今は、テレビ番組が問題なのではない。ましてブルース・ウィリスが問題なのではない。マディ・ヘイズの名前をやっと言えるようになったと自慢しても、弘美は馬鹿にするだけだろう。
ああ、ブルームーンってなんだっけ。そもそもこの俺に、そんな洒落た名前を一度くらい言ったからって、その意味まで覚えられるわけがない。
ただ、なんとなく、弘美が真剣に説明していたらしいことだけは、祐介にもうっすらと思い出されてきた。
夜空を見上げると、靄でも掛かっているのか、下弦の月が朧に見える。なんだか祐介の記憶の程度を象徴しているような、曖昧な空だった。
ブルームーン……。ってことは、青い月か。青い月……。そういや、お袋が、台所で「月がとっても青いから、遠回りして帰ろ」とかなんとか歌っていたな。でも、まさか、そんな懐メロを弘美が持ち出すわけないし。
もう、どれだけ頭の中を掻き削ってみても、何も出てきそうになかった。
ふと、去年の夏、弘美と一緒に歩きながら、月光浴のことで食い違いがあって、気まずい思いをしたことを思い出した。
どうも、月が絡むと、俺達の間柄は厄介なことになる…、そう思うと、祐介は恨みを月に持っていきたい気分だった。
あーあ、早く、つまらない会話は切り上げて、何処かの物陰で弘美を抱っこしたいものだ、でも、このままじゃ、埒が開きそうにない。今夜はダメかな。いや、決して諦めないぞ!
すると、弘美は、小さな声で、カクテル、花言葉、などと呟いた。
それらの言葉で一瞬にして、すべてがハッキリした。
いつだったか、弘美と何処かのバーのカウンターに向った時、バーテンが弘美に説明していたのを思い出したのだ。そうだ、ブルームーンという言葉の意味の説明は弘美じゃなくて、バーテンからしてもらったんだ。だから思い出せなかったんだ。
バーテンの説明の言葉が切れ切れに思い出されてきた。
ブルームーンというのは、月に二度、満月がある時、その二度目の満月のことを言う、そう、珍しい現象ということでめったにないことを意味する……。
それからなんだっけ。
ブルームーン……。そうだ、目の前にブルームーンという名のカクテルが出されたんだ。青色というより、水色、それとも薄紫色の透明な洒落た飲み物だった。ジンの苦味をレモンとかで口当たりを良くしていたっけ。
ところで、めったにないって、どういうこと?
そういえば、弘美はあの時、バラにもブルームーンという品種があると言ってたっけ。
よし! これで弘美に堂々と説明できる、そう思った祐介は弘美の顔を覗き込んだ。が、そこには何か恥ずかしそうな、それでいて不機嫌を押し殺したような表情が読み取れた。
祐介は、俺が思い出すのに時間が掛かりすぎたからなのかと思った。
でも、そのようでもない。
祐介は思い出したことを頭の中で復唱してみた。何か、抜けているものはないか。スラスラと説明できる! しかし、何か足りない。
その瞬間だった。バーテンダーの説明の言葉を思い出した。そうだ、あの時、バーテンの野郎、何か余計なことを言っていた。カクテルのブルームーンには、「できない相談」という意味がある。
つまり、男が誘いかけた時、このカクテルを注文すると、「あなたとおつきあいしたくありません」ということをスマートに表現したことになるのだ、と。
てことは……、てことはだよ、弘美は俺と付き合うのが嫌になったってことか。それを言いたくて、ブルームーンという言葉の意味を俺に思い出させようとしたのか!
でも、弘美の顔を覗き込むと、そんな切羽詰ったような表情にはとても見えなかった。そう、さっきも感じたけれど、何か恥ずかしげな、何処か悪戯っぽいような。
弘美は祐介の視線を感じたのか、俯き加減な顔をまた、月のほうに向けた。ほっぺが赤い気がする。
そして、祐介はやっと気が付いた。そうか! 今日は月の差し障りがあるから、寝床の付き合いはダメよと言っているのか!
祐介はガッカリした。これだけ苦労して思い出したのに馬鹿みたいだ。
大体、今日の月は満月じゃないぞ! そう、月に向って悪態を尽きたい気分だった。切羽詰っているのは祐介だった。祐介は、ガックリと肩を落として、弘美の後に付いていった。
今夜はお預けだー、という祐介の叫びが聞こえてくるような朧月夜なのだった。
(03/05/13 作)
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