文が解くベートーヴェンの不滅の恋
今週は、NHKラジオラジオ第一の「深夜便」で、評論家の青木やよひ氏による「ベートーベンのラブレター」と題された話が流れていた(月曜日から木曜日まで)。
← 5月10日、都内某所にて。午後の二時前だったろうか、休憩しようと路肩に車を止めて、さあ、仮眠だと思ったら、すぐ脇のツツジたちの異様な姿に目を奪われた。すっかり萎れている。まだ、元気な花もあって、その対比が気になった。
主な内容は、下記:
ベートーベンの研究家にとって大きな謎は、彼の死後発見されたあて先のない熱烈なラブレターの相手の女性が誰かということだった。50年にわたってベートーベンを研究してきた青木さんは、ある女性を指摘してきたが、近年その女性本人の手紙が発見されたことから、青木さんの説が確認された。
孤独で人間嫌いだったという定説とは異なる新鮮なベートーベンの姿を紹介していただく。
→ 青木やよひ著『ベートーヴェン“不滅の恋人”の謎を解く』(講談社現代新書)
生憎と、この放送があった時間帯(午後11:35~11:50)は、小生の仕事が一番忙しい(はずの)時間帯に相当し、まるっきりの聞きかじりになった。
というか、ほとんど聞けなかったといったほうがいいかもしれない。夜半前後にのんびりラジオが聴けるようだと、小生も廃業間近である!
青木やよひ氏の名は小生は、このラジオ番組で初めて知った。全くの初耳(多分!)。
「2007年度文化学会講演会 ベートーヴェン ~その愛、生涯、芸術~ 」にて同氏の紹介文を見つけた。
「20歳代よりベートーヴェン研究に取り組み、1959年に世界で初めて、ベートーヴェンの〈不滅の恋人〉をアントーニア・ブレンターノとするエッセイをN響の機関誌に発表した。68年には、その論考を深めた一章を含む『愛の伝説』を処女出版する。」とか、「2001年には、これらを原作とするTV番組「ベートーヴェン・謎の恋人」がNHKで放映されて話題となった」とある。
詳しくは上掲の頁をどうぞ。
調べてみると、青木やよひ氏著に『ベートーヴェン“不滅の恋人”の謎を解く』(講談社現代新書)があった(今は入手困難?)。
「ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン - Wikipedia」を覗くと、「死後、「不滅の恋人」宛に書かれた1812年の手紙が3通発見された。誰であるのかは、結婚話もあったテレーゼ・フォン・ブルンスウィックやその妹ヨゼフィーネが考えられていた。現在ではメイナード・ソロモンらが提唱するアントニア・ブレンターノ(クレメンス・ブレンターノらの義姉、当時すでに結婚し4児の母であった)説が有力。」とある。
← 青木やよひ著『ゲーテとベートーヴェン―巨匠たちの知られざる友情』(平凡社新書)
さらに引き続いて、「逸話」の項にて青木やよひ氏の名前が散見される。上掲の書で示される説が紹介されているのだ:
一方「不滅の恋人」に関連して、前述ヨゼフィーネ・フォン・ブルンスウィック(クリストフ・シュタッケルベルク伯爵夫人)の末娘ミノナ(1813年4月7日-1897年)は彼女がベートーヴェンとの間になした不義の子供であるという説がある。ミノナは伯母テレーゼによって音楽的才能を評価され、独奏者になることはできなかったがウィーンでピアノ教師として、生涯独身のまま暮らした。ミノナは母ヨゼフィーネからベートーヴェンが彼女に当てた熱烈な恋文13通(1804年-1807年)を委譲され、盗難を理由に生涯公開しなかった。(以上「ベートーベン『不滅の恋人』の謎を解く」より 青木やよひ著、講談社現代新書)
ラジオ深夜便では、やはりゲーテとベートーヴェンとのいわゆる不仲説についても語られていた(ようだ。「ケペル先生のブログ ゲーテとベートーベン」など参照)。
この不仲説に関連して、青木やよひ氏には、『ゲーテとベートーヴェン―巨匠たちの知られざる友情』(平凡社新書)がある。
「本書は、政治的・社会的状況を丹念に踏まえ、巨匠たちの交響する世界を臨場感豊かに描写する。手紙、日記、友人たちの証言など資料を駆使した、まったく新しい視点による芸術家像がここに誕生」といったような内容らしい。
→ 『不滅の恋 ベートーヴェン』(1994)
ちなみに、かのロマン・ロランの手になる『ゲーテとベートーヴェン』(新潮文庫)なる本があったらしいが、現在は入手困難のようである。
無論、青木やよひ氏は本書も踏まえている。
青木やよひ氏著の『ベートーヴェン“不滅の恋人”の謎を解く』(講談社現代新書)の題名に「不滅の恋人」とある。
これは、ベートーヴェンファンならずとも、クラシックファンなら、この逸話は知っておられるのだろう。
過去に映画にもなった:
『不滅の恋 ベートーヴェン』(1994)
この映画の「あらすじ」を読まれると分かるように、「1827年、ベートーヴェンが世を去った。その遺書には、「私の楽譜、財産の全てを“不滅の恋人"に捧げる」とあったが、それが誰を指すのか、誰にも分からなかった」のが眼目であり、映画の発端。
映画では、青木やよひ氏のベートーヴェンの〈不滅の恋人〉はアントーニア・ブレンターノだという説は採用されていないようだが。
ところで、「ベートーヴェンが世を去った。その遺書には、「私の楽譜、財産の全てを“不滅の恋人"に捧げる」とあった」というが、かりにそれが彼の最後の恋であったとしても、唯一の恋ではなかったようである。
かの有名な、「エリーゼのために」は、<エリーゼ>に捧げた曲であるのは言うまでもない。
では、エリーゼってどんな人。
← 『ベートーヴェンの日記』 (メイナード・ソロモン編、青木 やよひ,久松 重光訳 、岩波書店)
それが長らく謎だったが、「エリーゼ」とは誰なのか、「1923年頃、ドイツの音楽学者マックス・ウンガー教授が、ある論文を発表」したことで、謎が解けたとか:
「「エリーゼ」とは誰か?」
要するに、「エリーゼ」は、実は、エリーゼではなく、「テレーゼ」だというのである。
ベートーヴェンは「テレーゼ」と書くつもりが、悪筆の故に「エリーゼ」に見えてしまったというのである。
悪筆の小生には、忸怩たる思いなしにはこの逸話を読むことが出来ない。
青木 やよひ氏の諸著と共に、『ベートーヴェンの日記』 (メイナード・ソロモン編、青木 やよひ,久松 重光訳 、岩波書店)なんていう本も併せて読むと、一層、面白そう。巨匠の人生や悲恋を面白がっちゃ、いけないが、でも、ね。
ベートーヴェンの恋を採り上げておいて、不仲説もあったゲーテの恋を扱わないのは、不公平?! というわけでもないが、拙稿の「読書拾遺(ゲーテ・ファウストの周辺)」では、ゲーテの苦い恋の話題を扱っている。
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