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2007/05/15

轢き逃げ?!

 早朝、最後のお客さんを降ろして、会社へ一路、車を走らせていた。
 いつもなら6時を回ると最後のお客さんを意識するが、昨日は営業的には暇で、5時40分近くに仕事を切り上げた。
 まあ、こんな日もある、無事故・無違反が何よりと(といった慰め方としては最低限の仕方で)自分を納得させ、帰庫の道を、それでも、回送にはせず、あるいはお客さんが付くかもと淡い期待を抱きつつ走らせていたのだった。

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→ 17日、早朝、雨の中の帰宅の途上、自転車を止め、この事件があった場所を撮ってみた。バス通りの坂の下から画像の奥の方に見えるはずのバス停付近を撮ったのだが、さて。

 それは、とある片側一車線の対面交通となっている、その地域では幹線でもある、バス路線でのこと。
 長い緩やかな坂は、同時に緩やかなカーブになっている。坂を上りきりしばらく直線に近い道になり、視界が開けた…、と思ったら、遠くのほう、小生とは対面する車線側のバス停付近の路上に、なんと、人が倒れている。

 猫の死骸ってのは、珍しくないのだが、明らかに人。男性。反対車線を斜めに塞ぐように倒れているのだ。

 何があったのか? 酔っ払いが路上に寝込んでいるという風ではない。
 まさか、轢き逃げ? それとも、当て逃げ?  
 少し動いている…ような。

 小生はタクシーをそのバス停より十メートルくらい行き過ぎた、こちら側の路肩に寄せて止め、降りて、その方のほうへ走り寄って行った。
 十メートルほど車を先に進ませたのは、その昏倒している人の真向かいに車を止めると、その時間では通行する車も少ないとはいえ、交通を遮断する恐れがあるし、それ以上に、車が通行する余地がなくて、ご老人と小生のいる場所に車が突っ込んでくる可能性だってあるから。

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→ 14日、日比谷交差点で信号待ち。その間に、チラッと皇居のほうにカメラを向けて、パチリ!

 なんたって、早朝は車が少ないから、一般車の人たちは飛ばす!
 長い上り坂の終わった地点、緩やかながらカーブとなっていて、坂の下からはバス停も何も見えない。
 車が突っ込んできても、楽に抜けるルートは確保しておく必要がある。

 近寄ってよく見ると、その方は、年齢は七十歳をとっくに越えているようなご老人。
 小生の接近を見て、うつぶせのその男の人は、顔を少し上げて小生のほうを見る。
 顔が上気している(ように見える)のは、少しはにかんでいる?  それともうつぶせの状態でいたから(何分、そんな状態だったのか分からない)、血液が顔面に集まっている? それとも、誰かが来てくれたことに安堵の念が頬を幾分、緩ませた?
 やはり、含羞の念か。

 杖がそばに転がっている。
 事故ではなさそうだが、あるいは車がぶつかりそうになって、慌てて避けて通り去った車に驚いて、思わず倒れたのか。

――事故ですか、どうしました?

 と伺うと、腰痛で、起きれなくて、と弱々しい声で言う。

――救急車、呼びましょうか?

 ご老人は、いえ、大丈夫と気丈に言う。

 先ほどのはにかみは、自分でも倒れて不甲斐ない、恥ずかしい、自尊心が傷ついた、でも、自分じゃどうしようもない、そんないろんな感情が交錯したものだと思えた。
 でも、含羞の表情だというのは、小生の勝手な見方に過ぎないのかもしれない。
 情けない自分が歯がゆくて、頭に来ていて、頭にカッと血が上っていたのかもしれない。真っ赤なのは自分への怒り(と口惜しさ)なのかもしれないのだ。

 小生、ご老人の両脇に腕を差し入れ、抱き起こす。結構、重たい。それとも、小生に力がない?
 実を言うと、小生も長年のタクシー稼業の故か、それともロッキングチェアーで夜明かしする悪習の故か、まあ、日頃の怠惰な生活のツケが回ってきているようで、腰に爆弾を抱えている(ギックリ腰で徹夜し、そのままゴルフへ行ったこともあったっけ)。

 男性は、ダラーンとした感じで、本人も自分で体に力を入れられないようだ。腰痛だというが、年齢的なものもあるのか。 それとも精神的な脱落感もあるのかもしれない。

 とにかく、片側一車線(対面交通のバス路線)の一車線を斜めの状態で横たわったままではまずい。
 小生、自分の腰などの体勢をしっかりさせて、もう一度、気合を入れて抱き起こそうとする。

 ステッキが…とご老人。

――とにかく、ベンチに腰掛けてから。

 そう言って抱き起こし、自分が支えに成る形で立ち上がってもらって、数メートルほど離れた場所にあるバス停のベンチへ。
 若い頃、柔道か何かやっていたのか、ガッチリした体躯の持主。上体を持ち上げても、なかなか足が踏ん張れないので、やはり、重い。
 それでも、なんとか腰掛けてもらうことに成功した。

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← 同じく14日午後。青山墓地で信号待ち。遠くに六本木ヒルズの雄姿が。

 ふと、田舎でお袋が福祉施設への迎えの車への送迎の際に、あるいは、何処かの家を訪れる時などに、車への乗り降り、玄関での靴の脱着などの際に、お袋の体を支える感じを連想した。
 お袋は今年、誕生日を迎えると、八十歳になる。体はすっかり軽くなっていて、支えた時の重みはまるで違うのだけれど、体のダラーリ感というのか、踏ん張りがまるで利かない感じに同じものを感じたのである。

 急いでステッキを拾い上げ、ご老人に渡し、

――大丈夫ですか、救急車、呼ばなくていいんですか。

と訊く。 ステッキを持つと、幾分、男性は安心したような表情を見せ(ありがとう、と言ったような気がし)た。

――大丈夫です。バスに乗って病院へ行くつもりでいたんです。

 ステッキを支えにして手を乗せ、上半身をしっかり起こし、小生を見る。
 自分は大丈夫だと、背筋を伸ばしている姿勢で示そうとしているような気がする。昔気質の方なのだろう。

 最後に、もう一度、大丈夫ですねと声を掛けて、手を振って、ご老人から立ち去ろうとする小生。
 小生、声が小さいし、表情もボヤッとしている風に見られがちなので、挨拶の際は、手を振る癖が付いている。

 ご老人は、小生の背に、ありがとう、と言ってくれた。
 男性は、大きくはっきりと、ありがとうと言おうとしていたような気がする。

 小生が男性を抱き起こした際に、その脇をタクシー(法人)が一台、通り過ぎる。
 さらに、ベンチから去り際にも別の一台の(個人)タクシーが通りかかった。
 最初の一台は、小生が老人をベンチに腰掛けさせる様子を見たはず(つまり、路上に転がっている老人のもとへ駆け寄る小生の姿は見ていない)。
 まして、二台目のタクシーは、ベンチに腰掛けさせてから老人に手を振って立ち去る小生しか見ていない。

 要するに、二台のタクシー(共に空車)のドライバーには、まるで小生が自分のタクシーでぶつけたか何かのトラブルを起こし、示談でもして、急いで事が大事(おおごと)にならないうちに立ち去ろうとしているように見えたかもしれない。
 その二台目のタクシー(個人)が先を走る、そのあとを小生の車が追いかける形になって、なんとなく気まずい。
 その運転手さん、誤解していないかなって、余計な心配したり。

 さて、そのご老人、バスに乗って、無事に病院へ行けたのだろうか。
 そもそも、あの様子じゃ、バスに乗るのも大変なんじゃなかろうか。
 小生がそこまで心配する必要もないが、まあ、多少なりとも縁を持ったからには気になる。
 
 あるいは、男性がバスに乗るのを見届けるべきだったのか。始発のバスが何時に通りかかるか正確には分からないが、六時前ってことはないだろう。
 20分余り、あるいは半時間以上も、その場で様子を伺っているべきなのか。

 それから約一時間後、会社への営業報告などが終わってから、同じバス路線を自転車で走って帰った。
 例のバス停に老人はいるだろうか…。
 が、いなかった。
 ってことは、無事、バスに乗って病院へ行ったんだよね?!

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→ 14日、そろそろ暮色の予感が漂ってきた芝公園にて。木立越しに東京タワー。あと一時間もしたらライトアップされるのだろう。

余談
 さて、余談だけれど、たとえば、男性が起き上がれず、臥したままだったら、あるいは何とか抱き起こしてベンチに腰掛けてもらったとしても、そのままベンチで崩れ折れたりしたら、ひと悶着となるのだろうか。
 つまり、誰も男性が倒れたところを見ていないわけだし(多分。断言はできない。見て見ぬふりをした人が小生の前に居たのかもしれない)、男性があのまま昏倒してしまったとしたら(意識を失ってしまったとしたら)、たまたま通りかかったはずの小生の車が男性にぶつかったか、そうでなくと(ぶつかったかどうかは、外見などからすぐに判明すると期待できるだろうが)、男性の傍に急接近する形で通り過ぎたので、男性が倒れた、などといった疑いだって掛けられる。
 
 誰も目撃者がいない。
 最初の法人タクシーは、小生が男性を抱き起こし、ベンチへ移動する途中で通りかかってきた(正確には、通りかかるのに小生が気付いた)のだから、抱き起こす前の状況は知らないはずだ。
 小生だって、男性が何故に倒れたのかは分からない。腰が…と言っていたけれど、倒れて起き上がれないのは腰痛のせいだとして、そもそも倒れた原因は聴いていない(そこまで訊く?)。

 体がもう、弱っていて、杖を突いてでないと歩けないのを、無理を圧して(家族の見送りも断って?)、一人、家を出て、バス停に向った…。いつものように…。
 その途中、道路を横断するのがいつもより手間取ったか、道路の細かな凸凹に足が取られたのか、それとも、小生の車が通りかかる以前に、他の車が通り過ぎていったのか。
 真実は、きっと分からない(警察沙汰にもなっていないから、倒れた真相は男性だけが知っているということになるのか)。

 今日の昼前後、急な雷雨があった。その前は穏やかに晴れていたし、その後も雷雨がウソのように穏やかな日和となっている。
 なんだか、今朝未明の<事件>が夢の中の光景のようだ。

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コメント

今晩は~無事(そうで)良かったですね
そのまま見過ごす訳にはいきませんから。
しかし早い時間帯!。。ボケておられるようでも無いし
きっと大丈夫だったのでしょう。そういう事にしておきましょう♪

投稿: ちゃり | 2007/05/16 23:40

ちゃり さん、そう、終わりよければ全て善し、なのですが、結末が分からないのがもどかしい。
もう、良かったことにしておきます。

そもそも倒れた理由も分からない。あまり突っ込んで訊ねて、体が弱って倒れたなんて、男性にしては不本意な返事を引き出すのも野暮かと思い、事故でないなら、深追いはしないことに決めました。
武士の情け。
矍鑠(かくしゃく)としているのが自慢だったのだろうから、本人のショックは相当にあったに違いないだろうから、尚更ですね。

投稿: やいっち | 2007/05/17 07:45

9月26日の営業も終って会社へ戻ろうとした27日の朝、五時五十分頃、同じバス停で件(くだん)のおじいちゃんの健在な姿を見た。
バス停のベンチに背筋をピンと伸ばし、両手でステッキを突いて、まっすぐ前を向いている。
矍鑠(かくしゃく)、毅然。
やはり、病院へ向うため、朝一番のバスの来るのを待っているのだろう。

健在ぶりを見たいと思っていたけど、ようやく思いが果たせたよ! 

投稿: やいっち | 2007/10/02 13:03

こちらもお爺さんでしたか…(汗)
ご苦労様でした。

早朝で他に人がいないっていうのが、きついですね。
これは○田坂の上あたりでしょうか?あの辺は○霊の目撃談も多々ある場所ですね(違っていたらすいません)

投稿: サラス | 2008/01/13 12:38

サラスさんも大変でしたね。危機一髪。

早朝で、一人で助け起こすしかなかったのですが、そのうち、他の車などが通りかかる。
ちょっと見たら、まるで小生が事故を起こしたような誤解をされそうな状況。

そう、お察しの通りの坂の上です。

○霊の目撃談ってのは初耳でした。
サラスさん、いろんな情報をお持ちですね。

投稿: やいっち | 2008/01/13 16:24

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