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2007/04/26

千の星生みしは辛苦の賜物か

 過日、ゆきつけの図書館で予約しておいた最相 葉月さん著の『星新一 一〇〇一話をつくった人』(新潮社)が届いたということで、早速、借り出しに向った。
 三年以上、書店へは(原則として)足を運ばない小生、新聞も取らなければ、雑誌も一切、購入しない小生が、本書が刊行されていることを知ったのは、全くの偶然で、これまた過日、図書館へ行った際、新聞の閲覧コーナーで新聞を読んでのこと。

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→ 最相葉月著の『星新一 一〇〇一話をつくった人』(新潮社)

 図書館へ行った際は、せっかくなので新聞の閲覧コーナーに寄ると決めている。
 その日は日曜日で、書評の特集がある日。
 どうせ買えないのだし、と思いつつも、目は書評の欄を飛ばすことは出来ない。
 まあ、情報だけは得ておこうと覗いてみたら、上掲の本の書評を見つけたというわけ。
 本書の刊行は3月。書評を読んだのは四月の中旬頃だったろうか。
 以前の小生なら、新刊本で気になった本は書店でチェックする。あるいは雑誌や出版社の情報で情報は摂取するようにしていた。

 気になるような本については、即座に購入し読了してしまう。
 その頃にようやく、新聞の書評欄に当該の本の書評が載るという流れが多かった。書評を担われている方も、多くの本を読まれていて、書評欄に載るまでに若干の歳月が経過してしまうということなのだろう。
 その書評を読んで自分の感想との異同を確かめるのも一興だったりする。
 そうか、この書評士は、こんな風に読んだのか。ちょっと持ち上げすぎじゃないのとか、ああ、そこは読み込んでいなかったとか、あれこれ思うところもあるし、理解も深まったりする。

 それも昔の話。

 さて、最相 葉月さんの本を読むのは、 『青いバラ』(小学館刊。何故か、新潮文庫版もある)や『絶対音感 』(小学館刊、小学館文庫版あり)に続いて、これで3冊目のはず(拙稿「薔薇の芽それとも青いバラ」参照)。
絶対音感 』は、テーマ的に小生には目新しかったこともり興味深く読めたが、『青いバラ』については、えっ、これがホントに青いバラなの? という当惑もあって、読後感がやや後味悪しといった感じだった。
 でも、星新一さんについての本ということになると、やはり手が出る。

 小生は、特にこの数年、掌編(ショート)作品を数多く書いている。小生の場合、SFではなく、まあ、思い出風なもの幻想風のもの、中には駄文系のものもあったりするわけで、星新一世界とはまるで縁遠い。
 とはいいながら、一方では川端康成の『掌の小説』を、一方ではあくまで長さに留まるのだが、星新一作品世界の雰囲気を思い浮かべたりしつつ書くこともあったりする。
 これまで幾つ書いたのか定かではない。三年前は一年間に百個の掌編を書くと年頭に誓い、なんとか目標は達成したが、そのきつさに辟易したというか、羹に懲りたというのか、翌年は数えるほどに。
 精根尽き果ててしまった。正直、精神的に尾羽打ち枯らしてしまったような気がする。
 一昨年、昨年とスランプが続き、今年になってようやく少し傷が癒えてきたように思える(感じるだけかもしれない)。
 尤も、年間百個の掌編を書いた頃は、強力なエンジンとなる存在がネットの彼方にいたから、でもあるのだが。
 その方が亡くなられて、そのショックもあり、片肺エンジンどころか、燃料が尽きたような気さえする(「梅雨の話じゃないけれど」参照)。
 
 少年の頃、多少は本を読んでくると、次第に自分の嗜好に気付いてくる。探偵小説も推理小説も少しは読んだが、ポー(や松本清張)など数少ない例外を除いては、そういったジャンルからは遠ざかり、SF世界に凝るようになった(拙稿「センス・オブ・ワンダー…驚き」や、特に「松本清張『顔・白い闇』」などを参照)。
 そのSFからもやがては離れていったのだが、大学生の頃になって、一時、SFと再会した。
 それが星新一さんの諸作品だったのである。

 さすがに星新一さんのファンは多く、ネットでも早々と読了され感想を書いているサイトが数多く見受けられる。
 小生は、昨夜からようやく読み始めたところだが、「最相葉月『星新一 1001話をつくった人』(新潮社) マッドサイエンティストの手帳」にあるように、「この大著、まったく知らなかった(あるいは気づかなかった)事実の連続で、今までの星新一像が大きく変貌させられる、まさにセンス・オブ・ワンダーに満ちている」ということなら、この先が楽しみである。
「星さんのイメージを大きく覆されたのは、大きくはふたつ」で、それは、「星一と星製薬がらみの「負の遺産」が晩年まで尾を引いていたことと、作家としての苦悩が意外にも深かったという2点であろう」という。

 実際、冒頭の数十頁を読んだだけでも、星製薬がらみの重しの重さをつくづくと感じさせられている。
 というか、小生、本書の書評を読むまで、星新一さんと星製薬(薬科大)との関係は全く、知らなかった。
 仕事柄、都内を車でうろつく。特に城南が走る縄張りとなっている。星薬科大の交差点の前も、週に何度かは通るのだが、これが星新一さんと深い縁がある大学(製薬会社)だったとは。
 これからは、その交差点を通るたび、星新一さんを思い浮かべてしまうのは必定である。

 星新一さんについては、つい一ヶ月ほど前、ちょっとしたことで世情をにぎわせた。というと、大袈裟になるが、「星新一の「発想」 見えた 出版トピック 本よみうり堂 YOMIURI ONLINE(読売新聞)」といったニュースが流れたのだから、関心ある人は耳を欹てるだろうし、目を凝らしたことだろう。
 一部だけ転記する:

 生涯1000編以上のショートショートを執筆したSF作家、星新一さん(1926~97年)の作品の下書きや着想メモが大量に見つかった。「ボッコちゃん」など代表作の制作過程が解明できる貴重な資料で、今日28日発売されるノンフィクション作家・最相葉月さんの評伝「星新一」(新潮社)でも内容が明かされる。

 尤も、「評伝執筆のため最相さんが4年前から静岡県内の星家別荘にあった遺品を整理。子供時代からの作文、日記、手紙など1万点以上が残され、膨大な数の作品関連資料を含んでいた。」というから、実際には関連の情報は関係者に留まらず多少は知られていたのだろう。
 
 上で、「星新一さんのファンは多く、ネットでも早々と読了され感想を書いているサイトが数多く見受けられる」と書いたが、「星新一の巻 未来予見した 奇妙な小宇宙 コラム 本よみうり堂 YOMIURI ONLINE(読売新聞)」という頁には、そうしたファンの声が載っている。

「大学生の頃になって、一時、SFと再会した。それが星新一さんの諸作品だったのである」などと書いているが、残念ながら、小生は、「星新一の巻 未来予見した 奇妙な小宇宙 コラム 本よみうり堂 YOMIURI ONLINE(読売新聞)」に載るファンのようには深く読解することができずに終わった。

 というより、できるだけポップな感覚を味わうようにしていたような気がする。深甚な世界を踏まえていても、決して仰々しくならず、サラッとデッサン風に描くのが星新一さんの作風であり、深刻に読み込みなど無粋なような気がしていたのである。
 いずれにしても、丁寧に読んでも、星さんが重いものを心身ともに内外ともに背負っていたことには小生は到底、思い至らなかったろう。

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← 最相葉月著の『あのころの未来 星新一の預言』(新潮文庫)

 ネット検索していたら、最相葉月さん著の『あのころの未来 星新一の預言』(新潮社)の刊行にちなんで行なわれたのだろうか、「波 2003年5月号より」として、「【対談】「未来」を生きる智慧  星香代子/最相葉月」なる対談が見つかった。
 星香代子(ほし・かよこ)さんは、故星新一夫人である。

 最相さんの「お仕事のことや小説について話されたりすることはありましたか」という質問に対し、星さんは「まずなかったですね。結婚前、書いてる最中にお茶なんか持ってこないように言われてましたし、邪魔しないようにこちらは気遣い、書斎はひとりきりの世界で、他人が入る余地なんてありませんでした」と答えている。
 実際、人気作家だった星新一さんは常に新作を書くというプレッシャーと常に闘っていたのだろう。
 目標だった1001編余りの作品を書き終えた後に感じたという気軽さ、といった星新一さんの話を本書の中で最相さんは紹介している。

 一番、興味深い話は、故星新一夫人の、下記のような述懐だった:

 星の物語は本当につくりもので、実際に経験したことや日常生活がそのまま出て来ることはなかったですね。思い当たる作品はたった一編だけで、娘の夜泣きがひどかった頃に書いた「あ~ん。あ~ん」。泣きだすと、どうしようもなくて、歌をうたったら、泣きやんだという話。同じ材料でも、味つけ次第で甘くもなれば、辛くもなるし、酸っぱくもなる。やはり星の小説はお料理に似てますね。魚をすりつぶして、かまぼこや竹輪にしてしまうと、もとが何であったかわからなくなるでしょう。それと同じで、なにを材料に使っていたのか、私にもわかりませんでした。

 夫人ならでは、女性ならではの、鋭く且つユニークな見方のようで、とても面白い。

 さてさて、まだ本書を数十頁も読んでいない。
 ウオーミングアップは終わったということで、さあ、読もう!

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