夜這いの民俗学!
前々日からの休みが今日も続いている。
なので、一気に読書も進んだ。
この数日間で読了したのは下記:
レスリー・デンディ/メル・ボーリング著の『自分の体で実験したい―命がけの科学者列伝』(梶山 あゆみ訳、紀伊國屋書店)
マイケル・モーガン著『アナログ・ブレイン 脳は世界をどう表象するか?』(鈴木光太郎 訳、新曜社)
鳥越 憲三郎著『古代朝鮮と倭族―神話解読と現地踏査』(中公新書)
勝海舟著『氷川清話』(講談社学術文庫)
赤松啓介『夜這いの民俗学』(明石書店)
↑ 「◆◆オペラ映画◆◆椿姫◆◆」
図書館から借り出した本は全部、昨晩のうちに読了したので、昨夜は寝入るに際して(睡眠導入剤代わり)の本を何にすべきか迷った挙句、以前、某所から戴いた本を読むことにした。
それは、『コレクターズ版 世界文学全集 23』(日本ブック・クラブ)で、デュマ・フィスの「椿姫」(鈴木力衛訳)とバルザックの「純愛」(安川茂雄訳)が所収。
「椿姫」を読み始めたばかりなのだが、これが案外と嵌る!
マイケル・モーガン著『アナログ・ブレイン 脳は世界をどう表象するか?』(鈴木光太郎 訳、新曜社)は、中途半端ながら、「ディケンズ…虐げしは何者か?」で触れているので略す。
久しぶりに読み応えのある脳科学の本だった。クオリアに若干の違和感を覚えてきた小生には、こうでなくっちゃ、科学じゃないよと改めて痛感させてくれた本。明快!
鳥越 憲三郎著『古代朝鮮と倭族―神話解読と現地踏査』(中公新書)は、古代史や考古学ファンの小生には懐かしい本。十年ほど前に読んだものを再読。倭族の淵源や広がりを丁寧に現地で調査された研究成果。
小生には特に鳥居の由来を教えてもらったことで印象に残っている。
← 勝海舟著『氷川清話』(講談社学術文庫)
勝海舟著『氷川清話』(講談社学術文庫)については、やはり中途半端な形ながら、「年経ても維新の息の今にあり」なる稿で幾分、触れているが、思考というか発想の潔さを感じる。誠を大事にする交渉。
今回(三回目)の読書で気付いたのは、明治維新以降での外交戦略。時の政府が欧米一辺倒に傾いていく中、勝海舟はアジア、特に中国や朝鮮との連帯を重視していたこと。
時の政権関係者はあまりに欧米の科学技術の先進性を高く買い過ぎて、アジアを見下してしまった。何処かで勘違いしてしまった。日露戦争や日清戦争に勝ったことも勘違いに拍車をかける結果になった。政権中枢の人物たちだけではなく、日本の国民の大多数も日本はエライ、ツヨイと思い込んでしまった。
そうして、結果、勘違いしたままにアジア(特に中国の広大さや思考のスケールの巨大さ)を見下し、見間違え、ついには悲惨な結果を招いてしまった。
勝の定見は際立っている。後代の我々が時の政権の視野の狭さ・頑迷固陋ぶりを慨嘆するのは簡単だが、明治の世にあって、全く違う見方を示していたこと、日清戦争に勝ったことを憂えている勝海舟に改めて脱帽だ。
日本はアジアの中の日本なのだということをもっと真正面から認識しておかないと、また勘違い外交してしまいそう。
赤松啓介著『夜這いの民俗学』(明石書店。小生は初版で読んだ)は抜群に面白かった。まさか二時間も要しないで読了してしまうとは計算違いだった。
柳田国男の役人的な、建前的な、含蓄と薀蓄はあるが、ある意味、刈り込まれたような民俗学とは大違い。
その故、正統な(?)立場にある人たちからは、胡散臭く見られるのだろう事は容易に想像が付く。
徹底して町や村の中に溶け込んで庶民の風俗を等身大の目線と体験で(!)聞き込み捉え受け止めていく。
→ 赤松啓介著『夜這いの民俗学』(明石書店)
「ニュース:赤松啓介先生逝く 性生活の研究に赤松民俗学の真骨頂を読む ◆鴻上尚史」が面白い。そう、「まさに普通の人たちの事実としての記録」なのである。
(そういえば、五木寛之氏の作品にも戦争前後までの日本の、特に山の民の蠢きを背景にしたものが少なからずある。「五木寛之著『風の王国』」などを参照願えたらと思う。)
あるいは、同じ頁に載っている「追悼「赤松啓介氏の残したもの」 ◆森栗茂一」も、「柳田国男と対立し、もうひとつの民俗学=非常民の民俗学を打ち立てた赤松啓介氏」という点への理解の上で、非常に参考になる。
森栗茂一氏は、「民俗学は、単なる庶民文化研究ではない。柳田国男は、一九三〇時代に、普通の農民=常民の生活の世相変化を解説することで、「民はなぜ貧なりや」を問う民俗学を創めた。しかし、実際の柳田民俗学は、性や差別といった人間の本質、階級を避けたと、一九三八年刊の『民俗学』(復刻あり)で糾弾したのが赤松氏である」という。
また、「貴族院書記官を歴任した柳田は上からの視点である。人力車に乗り、村長や地域の知識人に尋問し、類まれな文学として創作した。たとえば「遠野物語」は、柳田がいうような一字一句書き加えなき聞き書きではない。近代知識人・柳田による再構築である」とも。
その柳田派に対し、「徹底したフィールドワークに基づく非常民研究から、革命を志向する赤松派」があった。
「全国を旅した巨人・宮本常一は、赤松の意思を受け継いでいた。宮本は被差別の民俗文化である周防猿回しを復活し、離島振興法の基礎となった離島調査会を運営した。宮本こそ、赤松派である。初めての男女の交わりでの作法「柿の木問答」を究明したのも、赤松と宮本だけである。柳田派の調査項目を携えた調査では、人々は警戒して差別や性など本音を語らず、また語ったとしても報告されなかった。底辺の人々と膝を交えて耳を傾けた赤松・宮本のみ、性や差別民俗を究明できたのである」!!
(文中、「柿の木問答」なる、恐らくは多くの人には聞きなれない言葉が出てくる。これについては、「Passion For The Future 夜這いの民俗学・性愛編」が参考になる。気になる人は、覗いてみて!)
いずれにしても、赤松氏の記述を疑えばキリがない。そもそも、赤松氏に村人らが赤裸々に語ったかどうかも分からない。
けれど、結局のところは、人の琴線や機微に触れるところは、まさに風俗なのであって、風と共に変幻し変貌し姿や所を変える、つかみどころのないものなのではないか。
少なくとも、裃(かみしも)を着た(昼間の顔の)役人には実相は見せない。
でも、夜の接待を受ける役人やお坊さんや権力者らは、実はドロドロの欲とカネの世界に案外とドップリと、それこそ大概の庶民には窺い知れないほどに深ーーく浸かっているのかもしれない。
ただ、夜の実相や蛮行については黙して語らないだろうけれど。
← レスリー・デンディ/メル・ボーリング著『自分の体で実験したい―命がけの科学者列伝』(梶山 あゆみ訳、紀伊國屋書店)
レスリー・デンディ/メル・ボーリング著の『自分の体で実験したい―命がけの科学者列伝』(梶山 あゆみ訳、紀伊國屋書店)については、「自分の体で実験したい!」において、若干の紹介を試みた。中学生はもとより、小学校の高学年にも読めそうな、感動的な本だ。推奨。
但し、「訳者あとがき」の末尾にもあるが、良い子の皆さんは、真似をしてはいけない!
実は、今日は、「自分の体で実験したい!」の続きを書くつもりでいたのだが、前段(前置き)が長くなってしまって、もう、疲れた。
前回は、目次を示しておいたが、今回は、本書の訳者である梶山 あゆみ氏が「あとがき」で親切にも読者の参考にとまとめてくれている各章の内容を、(前回、紹介し切れなかった)第4章からの分ということで以下に示しておく:
第1章 あぶり焼きになった英国紳士たち
第2章 袋も骨も筒も飲みこんだ男
第3章 笑うガスの悲しい物語
第4章 死に至る病に名を残した男
……ペルー特有の原因不明の熱病。その謎を少しでも解きあかそうと、
自分の体に菌を感染させた若き医学生、ダニエル・カリオンの物語
第5章 世界中で蚊を退治させた男たち
……黄熱病の感染の仕組みを解明すべく、自ら実験台になったジェシー
・ラジアと、徹底した実験を通じて黄熱病対策の確立に貢献した黄熱病
委員会の物語
第6章 青い死の光が輝いた夜
……ラジウムの研究を通じて放射線療法への道を開いたキュリー夫妻
の物語
第7章 危険な空気を吸いつづけた親子
……炭坑、海底、高山など、特殊な環境で働く人々が安全に呼吸でき
るようにしたい。そのために何十年も危険な空気を吸いつづけたホール
デーン親子の物語
第8章 心臓のなかに入りこんだ男
……自分の体で世界ではじめて心臓カテーテル法を成功させたヴェル
ナー・フォルスマンの物語
第9章 地上最速の男
……航空機事故などの非常時に、パイロットはどれくらいの減速の衝撃
に耐えられるのか。スピードと減速Gの限界に挑戦したジョン・ポール・
スタップの物語
第10章 ひとりきりで洞窟にこもった女
……隔離された環境下では人間にどんな変化が生じるのか。それを調
べるため、洞窟に長期間ひとりえこもった(科学者ではない)ステファニ
ア・フォリーニの物語
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宮本常一 生誕100年 福岡フォーラム
5月27日(日) 13:00~17:00
アクロス福岡 円形ホール
フォーラム概要
主催者あいさつ[ 代表世話人 長岡秀世 ]13:00~13:10
ドキュメンタリー鑑賞[ "学問と情熱"シリーズから ]13:13~14:00
基調講演[ "家郷の訓"と私 原ひろ子 氏 城西国際大学客員教授 お茶の水女子大学名誉教授 ]14:05~15:20
パネルディスカッション[ コーディネーター 長岡秀世 ]15:35~16:45
パネリスト
武野要子 氏 (福岡大学名誉教授)
鈴木勇次 氏 (長崎ウエスレヤン大学教授)
新山玄雄 氏(NPO周防大島郷土大学理事 山口県周防大島町議会議長)
佐田尾信作 氏 (中国新聞記者)
藤井吉朗 氏 「畑と食卓を結ぶネットワーク」
照井善明 氏 (NPO日本民家再生リサイクル協会理事一級建築士)
作品展示
宮本純子[ 宮本常一名言至言書画作品 ]
瀬崎正人[ 離島里山虹彩クレヨン画作品 ]
鈴木幸雄[ 茅葺き民家油彩作品 ]
投稿: 宮本常一を語る会 | 2007/05/26 04:48
情報、どうもありがとう!
投稿: やいっち | 2007/05/27 07:44