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2007/03/14

「沈 丁 花」余聞余分

今年も沈丁花が咲きました」にて、話の流れで旧作の「沈 丁 花」を当該記事の文末に載せている。
 その「沈 丁 花」にpfaelzerwein 氏よりコメントを戴いた。
 旧作だけあって、ホームページにアップした際にも別の方(S・Y氏)よりコメントを戴いていた(正確に言うと、本作は、数年前まであったニフティの文学(創作)のフォーラムにて最初に創作しつつアップ(03/09/30 )し、その後、ホームページにアップ(03/10/01)したもの。コメントは、フォーラムにアップさせた際にS・Y氏より戴いたものである。無精庵というは創作のフォーラムでの小生のハンドルネームである)。
 掌編の本文及び以前戴いたコメントは別窓に掲載しておいた。この時もS・Y氏に戴いた評にあれこれ思ったものだったが。

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← 今冬は東京には記録に残るような雪は降らなかった。その代わりというわけではないが、植え込みに小雪の降りかかったような情景などを……。

 今回、事情(ニフティにおける一部海外のIPアドレス規制か?)があってミラーサイトpfaelzerwein氏より戴いたものをここに転記する(本来は、ココログの当該の記事に寄せるはずだったという。pfaelzerwein氏のサイトは、「Wein, Weib und Gesang」)。

 浮き彫りにされている人称(自称・他称・不定称など)の混乱の問題は、以前にも他の方から(本作に寄せてではないが)指摘を受けたことがある。以下の問い掛けへのレスは、どうしたものか……。著作権者であろうはずの小生(創作時の小生は、若干、飛んでいるので、雲を摑むような存在だ!)らしく保留にしておく!:

オレはオレのオレ自身のもの  by pfaelzerwein

いつもながら若々しい感性に驚いています。東京都知事選出馬とはいかがしょう。日活青春映画のワンシーンのようですね。なので、これを俺シリーズでなくて三人称に読み変えてみますと、「何故?」にの効果が強まるようです。それとも「沈丁花」の香りも含めて一般化してしまうと、やはり趣旨に反するのか?

「オレははっきりと、いつのことだったかを覚えている」のオレと、「オレはあの時、どうして彼女を拒否した? 」のオレと、「オレは彼女が好き」のオレは各々違うオレですね。オレの混用は、最終的に語り手オレを浮き出させる事になりますが、すると最も興味を抱かせる「何故?」の問い掛けはオレのオレ自身のものになりますね。そこで自閉してしまうと、タイトルの「沈丁花」の香りも広がらずに閉じてしまう。このあたりの具合の悪さが、創作意図にもなっているように察しましたがどうでしょうか?

「沈丁花の小花の束に顔を埋めて」いるのは二番目のオレで正解と思いますが、どうでしょう。著作権者の反応が楽しみです。


沈 丁 花  by yaichi

                         (03/10/01 ホームページup)

 あれはいつのことだったろう。オレがまだ大学生になりたての頃だったと思う。
 いや、嘘だ。オレははっきりと、いつのことだったかを覚えている。ただ、曖昧にしてしまいたいだけなのだ。
 オレは、高校時代に付き合っていた彼女のことが忘れられなかった。遠い田舎の町で別れたままの彼女。卒業式の翌日だったか、オレの家の近くのお寺で待ち合わせ、一緒に田舎の町を歩き回った。彼女とは、ただバカみたいに歩き回るしか能のないオレたちだった。
 というか、そうさせていたのは、オレなんだけど。
 オレも彼女も、迫る別れを意識していた。オレなどは、意識しすぎて、何も喋れなくなっていた。彼女は、オレを促すように、時折、切ない目でオレを見る。 が、その時に限ってオレは、目を逸らし、芽吹く草や花の香りの漂う春の空を眺めやったり、何処かのビルの看板を意味もなく仰ぐのだった。
 いつしか駅前の噴水の傍にオレたちはいた。ベンチに二人腰掛けて、やっぱり無言のまま、間歇的に噴き上げる噴水の水を呆然と見ていた。

 すると、突然、彼女が話し出した。
「ねえ、手紙、書いてもいいでしょ。住所、教えて。」

 オレは、不意を喰らったような気分だった。付き合っていると言っても、オレがただ彼女を引っ張りまわしているだけで、彼女の気持ちを確かめたことは一度もなかったのである。オレは彼女が好き。でも、彼女は…、オレを…思っている …とは、思えないのだった。
 オレは嬉しかった。なんだか飛び上がりたい思いだった。ベンチの上から噴水を巡るオレの下半身ほどの深さの池に飛び込んでもいいくらいだった。
 なのに、オレときたら、相変わらず無表情なままだったのだ。どうして嬉しいなら嬉しいと言えないのだろう。いえないとしても、せめて住所くらい教えてやってもいいはずじゃなかったか。
 そう、オレは彼女に何も教えなかったのだ。何故? オレにも分からない。

  オレは、同じ大学に行く友人と一緒に列車に乗り、陸奥(みちのく)へと旅立った。列車の中で友人と他愛もないお喋りをしながらも、心は虚ろだった。悔恨の念で一杯だった。
 オレはあの時、どうして彼女を拒否した? しかも、オレの住む町に遊びに行ってもいい? とまで彼女は聞いていたじゃないか!
 列車は北へ北へと走った。心も闇の奥の奥へと沈み込んでいくようだった。
 そして、そう、入学して一年も経った或る日の夜、オレは、下宿を抜け出した。悶々とする鬱屈した熱気に我慢がならなかったのだ。杜の都の街は、春も終わりの頃とはいえ、夜ともなると冷たい風が吹いたりする。
 その夜もそうだった。

 どこをどう歩いたのだったろうか。無闇に歩き回ったから、自分でもどこを歩いているのか分からなかった。
 不意に何かの花の香りがオレの華を擽(くすぐ)った。
 臭いの元を辿ってみた。苦労することなく見つかった。そこには、何だかやたらと地味な花があった。生垣を覆わんばかりの枝や葉っぱ。月夜にもかかわらず、緑の濃さが際立っていた。その緑の海にともすれば埋もれそうに、あるいは健気に浮き上がるようにして、薬玉のような小花の塊たちが咲き誇っているのだった。

 オレには何の花だか分からなかった。オレなどに分かるはずもない。
 が、何処か懐かしい臭いに包まれているうちに、ふと、沈丁花という花の名が脳裏に浮かんだ。もしかしたら、これが沈丁花なのかも。
 そして、オレの胸をかき乱すように、彼女の話が鮮烈に思い出されてきた。そうだ、まだ別れには日にちがあったあの時、オレたちは沈丁花の前にいたんだった。

「わたし、沈丁花って、好き」
 そう言って、オレの元を離れて、花の香のするほうへと駆けていった。彼女の後ろ姿。
 しばらく彼女は、花を眺めて佇んでいた。オレは彼女の傍に寄り添いたくて、近付いて行った。オレの気配を感じたのだろうか、彼女は独り言のような口ぶりで続けた。
「沈丁花って、地味な花でしょう。ね、こんな傍で見ても、咲き誇っているような、でも、何処か恥らっているような、不思議な表情なのよね。」

「あのね、沈丁花って、香りが強烈なの。もう、知らない人が見たら、紫陽花のなりそこないみたいな花なのに、臭いだけは、もう、凄いの。まるで花の地味さを自覚しているから、それを匂いで補っているみたいね。わたしね、お茶、してるでしょ。沈丁花はお茶の席じゃ、禁物なのよ。そうよね、これだけ、香りが強烈だと、いくら気品があるっていっても、お茶の香ばしい香りを楽しむわけにはいかないわよね。」

「そうそう、昔ね、そんなこと知らないから、沈丁花の花の傍に近づいて、思いっきり、臭いを嗅いだことがあるの。そしたら胸が詰まったというか、鳩尾(みぞおち)の辺りが痛くなったというか、ひどい目に遭ったわよ。」
 オレは、彼女のエピソードを聞いて、彼女に一層、親しみを感じていた。花の香に目を回す彼女! こんな秘話を知っているのは、オレだけのはずだ。そして彼女はオレだけの彼女なのだ…。

 オレは、あの時の彼女に近づきたいと思った。訳の分からない別れをしてしまった彼女を取り戻したいと思った。彼女が無理なら、せめて、沈丁花に触れたい。馥郁たる花の香に埋もれたいと思った。
 近づいた瞬間、彼女の話の続きを思い出した。そうだ、沈丁花の花の話をした時、彼女はとても気落ちしていたのだった。あれは、そう、彼女のおじいちゃんのことと関係があった…。

「…そしたらね、その年は沈丁花が急に衰えだしたの。おじいちゃんの話だと、花にも寿命があるんだって。でね、おじいちゃん、あれこれ面倒を見てやったんだけど、でも、花はどんどん萎れていくばかりだった。そう、その年だった。おじいちゃんが死んじゃった。ガンだったのよね。おじいちゃんが丹精込めて世話した沈丁花も、うちの庭じゃ咲かなくなっちゃった。そう、ただね、葬式の日も、花は咲いてなかったけど、でも、沈丁花の花の香が庭に満ちてたな…。わたし、おじいちゃん子だったの。もう、悲しかった…。」

 そうだ、その時も、オレはただ、木偶の坊になって突っ立っているだけだった。彼女の肩を抱いてやるとか、そんな芸当など、思いつくはずもなかった。

 オレってどうしてこんななんだろう。オレは、沈丁花の小花の束に顔を埋めてみた。彼女が噎せたようにオレも花の強烈な芳香に息を詰まらせたいと思った。なんなら沈丁花の花であれ蕾であれ、オレの喉にも鼻にも突っ込んで、息絶えてしまえばいいと思った。
 が、オレは、ただ、そう思うだけだった。
 ただ、沈丁花の咲き誇る垣根の前を行き過ぎるだけだったのだ。

                               (03/09/30作)


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→ 雪の代わりに氷の粒々を被った植え込みだ!

[注意!: 以下のS・Y氏の評は、本作を読了の上、参考にしてください。当然のことながら、一つの読み方の可能性をS・Y氏が示してくれているものと思います。氏は、決して小生の小説のファンというわけではなく、あるサイトで目に付く全ての(虚構)作品に目を通し、且つコメントを寄せるという方なのです。その意味で一定の第三者的立場を確保された上での批評なのだと思っています。 (03/10/01記)]


S・Y氏の評

 無精庵さん、こん**わ。
 「沈丁花」拝読しました。

 若い主人公の優柔不断な恋愛模様を描いた作品。

 ちょうど半年前(03/ 4/30)に「沈丁花」が掲載されておりますが、作品的には全くの無関係といって良いでしょう。同じタイトルを使ってはいけないという作法があるわけでも無いし。
 むしろ、「星のない夜に」は、ぜひとも関連作品として押さえて置きたい所です。主人公の自称といい、そのイジイジした性格といい、予想される将来図がそのまま形になったような設定といい、まさに本編の主人公のその後が描かれていると思われますので、続き物感覚で読み進めていけそうです。

[改めて断りますが、本文を読んでから以下の評に読み進んでくださいね]

 やはり、「沈丁花」の使い方がキーポイントに当たると思われます。主人公の、彼女に対するあまりにも冷たすぎる態度が、このクライマックスに如実に現れているのであり、その事を今になって激しく後悔している様子が手にとるようによく判るのです。
 いくら田舎とはいえ、ただ歩き回るだけがデートになるのかどうか位、判断できない年頃とは思えません。
 しかし、そんなつまらない男に対しても、彼女はけなげに話題づくりに励み、なにかと彼の内面を押し開こうと務め、自分はどういう人間なのか、端的に示しています。 しかし、しかぁし。
 あくまでも頑に心を閉ざす主人公。なんで自分はこうなんだと自問自答してはいますが、その行動が全てを物語っています。詰まる所、彼女を好きでもなんでもないのです。
 いえ、それは言い過ぎなのかもしれません。こんなにも彼女のことが好きなんだと明言しているのですから。
 じゃあ、なぜその事を言葉や態度で表さないのか。これほどまでに、そう、沈丁花の匂いを嗅いたエピソードを語ってみせる位に彼の事を慕ってみせている彼女に対して、あまりにも不誠実なのです。
 手紙を書いても良い? とまで尋ねている彼女になにも告げなかった彼は、あまりにもはっきりと彼女を拒絶しています。そんなに厭なら付き合わなければいいのだろうけど、なんとなくズルズルと成り行きで付き合ってたけど、引っ越しするからちょうど縁が切れてああせいせいした、と捉えるのが一般的な感覚であり、きっと彼女も「美化」してはいますが、そのように彼の事を想っていることでしょう。つまり「青春の美しい思い出」として。
 だのに、未だに未練を覚えるという主人公。彼がどこまで「本気」だったのかは、あんとも言えない部分もあります。
 そう、なぜ、言葉や態度で表さないのか、なぜ、そこまで「拒絶」できるのか。
 それはつまるところ、彼は女性との付き合い方に関して、決定的に「不能」であるということなのでしょう。大体、人間同士がある程度ずっと付き合いを続けていけば、その人の人となりというものは判ってくるはずです。だのに、未だに彼女は自分のことが好きなのかどうか判らないというただそれだけの理由で住所を告げないというまぬけぶりは、あまりにも酷すぎます。
 もしも彼女が自分のことがキライだったら、「自分」がスゴク傷つくに違いない。
 結局の所、そういう理由になるのでしょう。
 しかし、自分が「拒絶」したら、彼女が「傷つく」という事には思いが至らない。
 だから、結局の所、彼女のことを愛してはいなかったのです、この主人公は。
 故に、別れて当然。その方がお互いのため。今更、未練ぶってんじゃネエと説教を垂れてやりたくなる位の優柔不断ぶりは。まさに自業自得でしょう。
 他の人を大切にしないというその態度は、まさに自身も大切に扱っては貰えないという結果に繋がるという事なのでしょうか。

 外見の地味さとは裏腹な、沈丁花の薫り。故にお茶の席では自己主張が激しすぎて禁物であるという疎まれ方というエピソードが、実に上手く主人公と彼女の関係を表しているように思えます。
 強い感情移入を覚える位に、強烈に「匂い立つ」、上手いなあと唸らせる作品でした。

                                 S・Y
                               ( 03/09/30)

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