永沢光雄氏追悼:男女とは絡み絡まれ赤い闇
あるブログ(「天にいたる波 永沢光雄」)を覗いたら、今日の記事の題名が「永沢光雄」となっている。
おや、小生の敬愛する書き手・永沢光雄氏であり、永沢光雄氏というと、彼の出世作であり且つ小生も二度も既に読んだことのある本『AV女優』(文藝春秋)の題名をすぐにも思い浮かべてしまう。
これは読まずには居られない。
ブログの内容に付いては、リンク先へ飛んで確かめてもらいたい。
ただ、彼・永沢光雄氏が11月の1日に亡くなっておられたという厳粛なる事実だけは記しておく。
以下、彼に関連する…というより、小生らしく彼の周辺を巡るような一文を綴る。
← 永沢光雄著『AV女優』(文藝春秋)。文庫本版があるが、小生は単行本で出た直後に買った。『AV女優 (2)』(文芸春秋)も買ってすぐに読んだ。
ネット検索すると、「MovieWalker編集長ブログ 【追悼】永沢光雄「AV女優」「声をなくして」」なる頁が見つかった。
(この記事をショパンのCDを聞きながら書いている…。)
その頁の冒頭に、「インタビュー集「AV女優」('96)や、2002年下咽頭がんの手術で声帯を切除し、声を失ってからの闘病生活をつづった「声をなくして」('05)などで知られる作家の永沢光雄(ながさわ・みつお)氏が11月1日未明、肝機能障害のため死去した」とある!
さらに、「享年47歳。声を失ったストレスからアルコールに依存したことが原因との事。「インタビューの名手」が声を失う試練に向き合う日々の、本当の心のうちは、我々には、到底、想像もつかないです。機会があったら、「AV女優」(文春文庫)や、「声をなくして」(晶文社)を、読んでみてください」と続いている。
ほとんど、全文の転記になったが、小生としても同氏には(少なくとも同氏の著作には)関心を持ってきただけに、可能な限り、大事なことは我がブログにもメモしておきたいのである。
(余談だが、杉浦日向子氏も下咽頭がんで亡くなられたのではなかったか…。NHK「コメディーお江戸でござる」は、彼女がご存命で番組に出演されていた頃は欠かさずに見ていたっけ…。)
→ 永沢 光雄 著『声をなくして』(晶文社)
順序としては逆かもしれないが、上掲の転記文中に紹介されている、永沢 光雄 著『声をなくして』(晶文社)なる本の紹介文を読んでみる。
小生は、上記したように、永沢光雄氏の『AV女優』(文藝春秋)、『AV女優 (2)』(文芸春秋)、そして『風俗の人たち』(筑摩書房)と読んで来たのだが、本書は読んでいない。
同氏の著作に関心があるといいながら、続編も含めての『AV女優』など以外は読んでいない自分が居るのだ。
(ちなみに、『声をなくして』については、鷲田清一氏の書評が参考になる:「asahi.com: 声をなくして [著]永沢光雄 - 書評 - BOOK」)
『声をなくして』(の商品の説明文には、「『AV女優』などの話題作でインタビューの名手として知られる永沢光雄が43歳の或る日、下咽頭ガンの手術で声を失ってしまった。その闘病生活を1年にわたり赤裸々に日記に綴った。朝起きる。ひどい首の痛み。そして、呼吸困難。鼻につながる気管も切除され、呼吸は左右の鎖骨の間に空いた穴から行う。全身にどんよりとした疲れ。まず最初の日課は焼酎の水割りで大量の薬をのどに流し込むことだ。そんな日々でありながら、筆者の筆致はユーモアに満ち、声を失った自分を時にはおかしく、時には哀しく描いている。何があっても生きる。だから、みんなも、毎日がつらくても生きて欲しい。他者への暖かいまなざしを持ち続ける筆者のそんなメッセージが行間にあふれている」とある。
これは読まずには居られない。
さて、永沢光雄氏の出世作となった『AV女優』が世の中に如何にインパクトを与えたかを知るに便利な頁があるので、紹介しておく:
「AV女優(永沢 光雄・ビレッジセンター出版局)」
まあ、若干、手前味噌の気味があるが、随分と多くの書評サイトで採り上げられたかが分かる。小生にしても、思い入れもたっぷりに読んだのは事実である。
ここには本書に登場する女優たちの名前だけ、転記しておく:
冬木あづさ ・ 吉沢あかね ・ 希志真理子 ・ 藤岡未玖 ・ 森川いづみ ・ 幸あすか ・ 有賀ちさと ・ 白木麻美 ・ 川村弥代生 ・ 沢口梨々子 ・ 姫ノ木杏奈 ・ 小沢なつみ ・ 有森麗 ・ 卑弥呼 ・ 桜井瑞穂 ・ 片桐かほる ・ 藤田リナ ・ 沙羅樹 ・ 永嶋あや ・ 安藤有里 ・ 風吹あんな ・ 細川しのぶ ・ 倉沢まりや ・ 美里真理 ・ 水野さやか ・ 日吉亜衣 ・ 南条レイ ・ 桂木綾乃 ・ 森川まりこ ・ 宏岡みらい ・ 氷高小夜 ・ 白石奈津子 ・ 栗田もも ・ 中井淳子 ・ 山口京子 ・ 観月沙織里 ・ 白石ひとみ ・ 片山唯 ・ 刹奈紫之 ・ 松本富海 ・ 柚木真奈 ・ 川上みく
おおおーー、懐かしい名前が並んでいる。随分と(勝手に)お世話になったものだった!
← 永沢光雄著『AV女優 (2)』(文芸春秋)。前作ほどにはインパクトがなくて…。
「天にいたる波 永沢光雄」に紹介されていた、「永沢光雄にきく 栄谷明子 中沢佳子 *原卓也」なるインタビュー頁がいい。
中身を覗く前に、小生など、フリーライターの同氏が、「一九五九年仙台に生まれる。高校まで仙台で過ごし」という紹介文で引っかかってしまう。
ということは、一九七七年の春までは仙台に居たってことだ。
小生は学生時代を仙台で送っている。72年の四月から78年の三月までの6年間。
少なくとも72年の四月から77年の三月までは、杜の都・仙台の町(村かもしれないが)の何処かで擦れ違った可能性もあるということだ。
ちなみに、仙台には当時は(中央の資本が未だ流入しておらず)風俗の店がなかったような。
うん? ストリップ劇場はあったかな(あったとしても、とうとう入らずに終わった)。
小生はというと、苦竹(にがたけ)にあったポルノ映画館へ行くのが密かな(?)楽しみだった。ピンク映画だったのか、日活ロマンポルノだったのか覚えていないが。
濛々たる煙草の煙と、あの液体特有の饐えたような匂い。ガラガラの館内。足を前席の肩の部分に乗っけながら見ても、誰にも文句は言われなかった。
住まいが新宿二丁目だったというが、どうやらあるサイトによると、「二丁目のゲイたちに愛されてる感じがしたのよ」だって。
さて、上掲の(96年の)インタビューの中で同氏は「僕は来年から小説を書こうと思っています」と話されている。小説を書くのが念願だったのだ。
が、出世作の『AV女優』が世に出た直後から体調の不良を覚えていたという。皮肉だ。それでも、大酒を呷りながら生きた。
病魔は彼の夢を奪った…。
けれど、小説を書くというのは、これはこれでまた一つの病魔の為せる業(わざ)なのではないか。
そうした病魔に犯される以前に肉体の病魔に倒される。前門のトラ、後門のオオカミというのが、文筆という業(ごう)に乗り移られてしまった人間の定めなのだろうか。
どっちに転んでも地獄が待っているというわけだ。
是非にも、「心に残る一作 声をなくして/書籍/2005年/ オカマのカモちゃん」なる書評は読んで欲しい。
最後に蛇足として、過去に彼(乃至は彼の周辺)について小生が書いた書評やエッセイを抜粋の形で紹介しておく。
僅か5年や6年前の文章だけど、懐かしい!
「『AV女優 2』を読んで」:
感じるのは、『2』になって幾分、家庭事情というか社会的背景において荒んだものを感じた。社会がその刃を剥き出しで彼女達(男の子だって時には同じ)に突き立てられているように感じたのだ。彼女等を守るクッション的な装置が社会になくなったのかもしれない。経済的な苦境は人間に余裕を失わせる。笑いもコミュニケーションの余裕もない。癒しの余地がないのだ。
それでいて、カネを稼ごうと思ったら、世間体や常識的価値観に囚われない限り、若い女の子には呆れるほどに稼ぐ場がある。男の子は、愚連て落ちても、カネが自由になる女達が買うケースは少ない。が、女の子は、落ちるとなったら、止めどがないのだ。これが最低という次元がない。女の子を消費しようという装置や機会が無数に口を開けて待っている。
→ 小野一光著『セックス・ワーカー』(講談社文庫)
ところで、小生は中年の男として、旧い性道徳にどっぷり漬かっている。だから、永沢光雄氏の「AV女優」(ビレッジセンター出版局、最近文庫本が出た)を読んだりして、風俗に身を沈める女性、AV女優として働く女性は男に騙されたり、人間不信、親不信だったりして、苦界に飛び込んだのだ、なんて可哀相なんて思って、同情しつつ、実はそうした女性を甚振る快楽を味わいたいという屈折した暗い情念をしゃぶるのである。
小野一光氏著に『セックス・ワーカー』(講談社文庫)という本がある。この本を故・永沢光雄氏が解説している。
その彼の解説の中に、『セックス・ワーカー』のハイライト部分として以下の一文を永沢光雄氏が引用している:
あの、アナルを見せてもらえないかなあ。AFを毎日やってるアナルってどうなっ てるのか見てみたいんだ――。「あ、いいですよぉ」彼女は手相でも見せるように躊 躇なく席を立ち、ボクの前にやってきた。そして立ったままボクにお尻を向けると、 ジーンズと下着を一気に下ろし、両手でお尻の割れ目を開いてこちらに突き出した。 彼女自身と数多くの男たちを解放してきたその部分は、予想していたよりもはるかに つつましやかで、傷ひとつないきれいなものだった。
思うに時代は、この数年で更に荒んだ世相が露わになっている。保守層の一部がタカ派路線に走るのも、そうした連中特有の本能というか直感である種のヤバイものを嗅ぎ取っているからなのだろう(と小生は推測している)。
国旗・国歌への敬いを学校現場で強制するための法的整備も検討するとか。
実際、バブル経済の発生と破裂とは、パンドラの箱の蓋を開けてしまったのだ。出てくるものは出し尽くさないといけない。法で蓋をしようとしても、無理があるだけではないか。
ツケは、底辺を生きるものが蒙るしかない。
何が神武景気を超えただってんだ。頭の上を素通りしているという意味なら、越えたと言うのも分かるけど。
段々、支離滅裂になってきた。
永沢光雄氏の逝去に黙祷!
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コメント
哀しいね・・・。
投稿: 志治美世子 | 2006/11/23 02:27
「AV」という世界があるのは、知っていますが、現実にはどういう世界なのかはわかりません。推測だけでモノを語るのは、いけないような気がしますが、「興味本位」の男女のセックスをあおっているような気がします。
男と女がほんとうに精神と肉体が一体化するような、官能的な世界を美しい映像と音で表現されるような作品がほしいと思います。そこには、生きることのすばらしさや苦悩といったようなものまでが込められたものが・・・
投稿: elma | 2006/11/24 05:41
フリーライターの志治美世子さんには、仕事ぶりを含め、小生らには想像も付かないほどの思いがあるのでしょうね。
永沢氏としても、心残りだったでしょう。
47歳は、若い、若すぎる!
投稿: やいっち | 2006/11/24 07:14
elma さん、仰られるとおりで耳が痛い。
実際、AVは煽る文化の典型でしょうね。
昔のロマンポルノや独立系の若松孝二監督作品などは、社会性(政治的プロテスト)を持っていたような。
でも、世の欲望(ニーズ)は、社会性などをH映画に求めなくなっていった。
そのものズバリ、むき出しの現場が求められるようになっていった。
要するに女性の体を使った、コミュニケーションのない、自慰行為の延長のようなものになってしまった。
それでも(小生も詳しくはないのですが)AVビデオはプロが作っているらしいけど、世に横行する裏ビデオには演出の一切ないものがあるとか(盗撮や実際の犯行とか)。
数年前までのAVだと、出演している女優の多くは性的虐待や虐めなどを受けている、そんな心の傷を負っていたりする(永沢氏のインタビューもそうしたパターンには向いていたのかも)。
あるいは、男はそう思いたかったのか(また、インタビューされる女性も、男がそんな不幸な女性が堕ちて、こんな境遇になっているってふうなパターンを求め、実際、そのように装う返事をすると喜ぶことを知っていて、不幸を装ったり強調したりする)。
が、今は、そんな<古典的パターン>は少数派になっていて、自分を売るための手段になっているみたい。男以上に女性も積極的であり、好きでやっているのであり、あくまで演技だという発想を持っている<女優>さんもいるとか。
しかも、エロ雑誌もだけど、AVビデオも美人でスタイルが良くないと出演自体、ありえない。
現実は更に更に荒んだ状況になっているようです。
>男と女がほんとうに精神と肉体が一体化するような、官能的な世界を美しい映像と音で表現されるような作品がほしいと思います。そこには、生きることのすばらしさや苦悩といったようなものまでが込められたものが…
そのようであればと思うけど、実際、メジャーな映画はそういう発想法なのでしょう。
でも、マイナーな発想法もあっていいような気もする。
それでも、往年のピンク映画への回帰現象なのか、ピンク映画も頑張っているとかで、女性の客も多いらしい:
http://www.walkerplus.com/movie/report/report1486.html
女性のピンク映画監督に浜野佐知さんがいる。小生、観たいと思いつつ叶わないでいる:
http://www.lovepiececlub.com/interview/01.html
無精庵徒然草 浜野佐知って誰:
http://atky.cocolog-nifty.com/bushou/2005/08/post_a8b5.html
座談会「ピンク映画の可能性」を語る(上・下):
http://www.medical-tribune.co.jp/ss/2005-5/ss0505-2.htm
http://www.medical-tribune.co.jp/ss/2005-6/ss0506-2.htm
投稿: やいっち | 2006/11/24 07:58
TBありがとうございます。
僕も『AV女優』にやられたクチです(笑)。
恥ずかしいことに『声をなくして』は読んでいないのですが、ぜひ読まないといけませんね。
投稿: きぐるまん | 2006/12/11 10:03
きぐるまんさん、コメント、ありがとう。
『声をなくして』は、小生も読んでいない。
『AV女優』には感服したので、続の『AV女優』も買って読んだのだけど、明らかなパワーダウン。
不思議に思っていたけど(マンネリだったのかなとも思っていた)、彼は病気になっていたのですね。
いい奴ほど早く死ぬってことなのかな。
投稿: やいっち | 2006/12/11 14:13