作曲家・市川昭介氏 死去…演歌とは顔で笑って茨道
訃報を初めて聞いたのは車中だったろうか。
作曲家の市川昭介氏が亡くなられたという。知ったのは9月27日のことで、「9月26日午前5時、肝不全のため都内病院にて死去した。73歳だった」という(「作曲家・市川昭介氏 死去 CONFIDENCE ランキング&ニュース -ORICON STYLE-」。あるいは、「メディア・【夕刊JanJan】さよなら市川昭介さん~名曲をありがとう」など参照)。
今時の若い人は市川昭介氏といってもピンと来ないかもしれない。演歌や歌謡曲の時代ではなくなったようだし。
ただ、影の薄くなったような演歌だが、今もドンドン、素晴らしい新人歌手が生まれていることは断固、明記しておきたい! 時流とは、直接重ならなくなったというだけのことであって、演歌というのは明治以来の歴史があり、これからも歌い継がれていくに違いない。
そうはいっても、波止場、北(何故か北へ流れる)、霧、海峡、カモメ、涙、酒、酒場、女(あるいは男)、煙草、捨てる(捨てられる)といった紋切り型の歌詞(言葉)は、ますます使いづらい、時代とは齟齬する傾向を強めていくのだろう。
市川昭介氏が亡くなられて既に十日となるが、演歌大好きで演歌・歌謡曲にドップリ浸ってきた小生としては、同氏とは直接の関わりは何もないのだけれど、簡単にでも触れておきたい。
仕事柄、ラジオが車中の友で、天気や交通情報などニュースは欠かさず聴くようにしているが、それ以外の時間帯は(勿論、原則としてお客さんが乗っていない間ということになるが)、ひたすら音楽番組を拾い捲って音楽三昧である。
ただ、なかなか小生好みの曲を掛ける音楽番組というのは少なくなっていて、小生が音楽(歌謡曲や演歌)三昧だった頃の曲を聴く機会に恵まれない。そもそも番組のDJやプロデューサーも小生より若く、また、ラジオの
視聴者というのも受験生など若い人が中心だから、小生のようなロートルは相手にされていないのだろう。
それでも、NHKは頑張ってくれている。幅広いジャンルの音楽を聞かせてくれる。小生は選り好みせず、それこそ邦楽(といっても、洋楽に対する邦楽ではなく、民謡から浪曲、琴、尺八といった類い)をも聴く。
民放、NHKを問わず、聴かないのは、今の若い人が聞きたがるような曲(ほんの一部を除くが)。
話を進める前に、例えば、「市川昭介 プロフィール」を覗いてもらうのがいいかもしれない。
ここに掲げられている代表的な曲だけ転記させてもらう:
曲 名 歌 手 メーカー 作 詞 発表年度
恋は神代の昔から 畠山 みどり 日本コロムビア 星野 哲郎 S37
出世街道 畠山 みどり 日本コロムビア 星野 哲郎 S37
アンコ椿は恋の花 都 はるみ 日本コロムビア 星野 哲郎 S39
涙の連絡船 都 はるみ 日本コロムビア 関沢 新一 S40
絶唱 舟木 一夫 日本コロムビア 西条 八十 S41
夫婦春秋 村田 英雄 日本コロムビア 関沢 新一 S42
大阪しぐれ 都 はるみ 日本コロムビア 吉岡 治 S55
さざんかの宿 大川 栄策 日本コロムビア 吉岡 治 S57
細雪 五木 ひろし 徳間ジャパン 吉岡 治 S58
夫婦坂 都 はるみ 日本コロムビア 星野 哲郎 S59
この中のどの曲も、発表されヒットしたリアルタイムでテレビで視聴しているし、歌っていたし、歌えた(人前では歌わないが)。
畠山 みどりさんの歌など、ガキだった当時の小生でさえも、時代がかっていると感じていたような気がするが、それでも、テレビというと漫画か音楽番組(ドリフターズなどのバラエティも好き!)を好んで視聴していて、音楽番組だと最初から最後まで熱心に、そう食い入るように見聞きする。
市川昭介氏というと、都 はるみさんで、二人の絆は強いものがあったようだ。
「市川さんは病室でもはるみのために作曲していた。はるみの所属事務所、中村一好代表(59)によると、亡くなる約10日前に中村代表が持ち込んだ2コーラスの詞に、小さなキーボードで曲をつけ、はるみを病室に呼び歌わせていた」とか(「asahi.com:作曲家市川昭介さん死去、73歳肝不全 - 日刊スポーツ芸能ニュース - 文化芸能」リンク切れ。惜しい。もっと読まれていいのに)。
大体、80年代の終わりごろまでは、テレビ(ラジオもだが)が音楽、特に歌謡曲や演歌については、流行の中心だっただけではなく、そもそもクラシックやジャズなどを除くと、日本の大方の人の聞く(見る、知る)音楽というと、テレビでヒットし活躍している曲であり歌手がほぼ全てという時代傾向だったように思える。
その意味で今から振り返ってみると、音楽的には狭かったと、看做せるかもしれない。
その代わり、自分が知っている曲は他の人も知っている。他人が口ずさんでいる曲は自分だって知っているし歌える。
つまり、音楽に限らないが、生活にしても、実態はどうだったか分からないが、一億総中流時代と言われていた時代で、高度成長の時期に当り、サラリーマン全盛の時代であり、経済は右肩上がり、年功序列の時代だったわけである。
大人はよりよい生活を夢見て家庭を多少は犠牲にしても頑張ったし、子どもも自分もいつかそうなるのだという幻想の中にいた。似たり寄ったりの人たちばかりが日本の何処へ行っても居るものだと思い込んでいた。
田舎は、そうした経済成長至上主義の中、一回の主も含め、多くの若い人材が都会へ流出し、農村部は3ちゃん(爺ちゃん、婆ちゃん、母ちゃん)農業の時代になったりした。
演歌や歌謡曲全盛の時代というのは、大雑把な時代背景としてとにかく、隣近所との比較が第一、世間体が大事ということが言えそうな気がする。
それが、一挙に崩れたのは、やはりバブル経済の発生と崩壊という八十年代後半から九十年代の初め頃だったろうか。
15年戦争の終わりを告げる昭和20年(1945年)の敗戦が第一だとして、日本は90年前後に第二の(経済的な)敗戦という憂き目に遭ったわけである。
経済に引きずられた異様な高揚とあっという間の奈落の底は、経済だけではなく政治も文化も、そもそも日本人の意識をも根底から変えてしまった。
その分析は未だ十分ではないように思える。
ここでは話を音楽に限る。
90年前後の頃から若手の自分で作詩し作曲し歌うという歌手群が輩出した。それまでのプロの作曲家、プロの作詞家が曲を作り、限られた数の音楽会社がプロデュースし、悪く言えばお人形さんだが、逆に言うとプロによって訓練され演出された専門の歌い手が歌うというスタイルが崩れ去ってしまった。
少なくとも後景に追いやられてしまった。古いタイプのものと感じられるようになった。
歌、特に若い人が歌う歌というのは、実際はどうなのかは分からないが、歌う人が自分で歌詞も含め曲を作る。その自作の曲を自分で歌う。演奏と録音、宣伝はプロに任せるのだろうが(但し、口コミで火が点くことも多くなった)、曲に関しては、プロではない作詞、プロではない作曲、歌もプロではない歌い手が担うものとなった。
演歌などは特にそうだが、作曲家のもとで発声法の基本から訓練する、だから、演歌(や歌謡曲)は、歌詞はラジオで聴いても聞き取れる。
が、90年前後から人気を博した若手のミュージシャン(あるいはアーティスト! こういう呼称!)は、発声練習は全くしないのか、ラジオで聴いていては何を歌っているのか分からない。テンポが速いことも聞き取りにくい一因なのかもしれない。曲というのは、歌って踊る。しかもバックダンサーが付いていて、演出が不可欠で、スタジオ録音が多いからか、地声ではちょっと離れた所からでは聞き取れないような声の小ささ、発音の不明瞭さが顕著なのである。
一体、今のプロデューサーは若手の売り出しの際に、発声法などの基礎を叩き込むようなことはしないのだろうか。明瞭な発音など論外なのだろうか。それより、等身大の曲、等身大の歌詞、誰もが自分も歌手になれるという幻想を若い人たちに持たせることが大事なのだろうか。
ある意味、等身大幻想は大事であろう。音楽は一部のプロ(の作詞家、作曲家、歌手)のものではなく、広く一般に開かれているものなのだ、という発想はあっていい(実際、小生はガキの頃は、音楽というのは作るのは特別な人であり、歌うのも別世界の人間だと思い込んでいた!)。
それだからこそ、多彩なミュージシャンが輩出してきたのだ。その全てを誰もが共有する必要などない。聴きたい人が特定の歌手を選り好みすればいいわけである。その歌手や曲を小父さん小母さんが知らなくたって、そんなことは関係ないわけである。
音楽のチャート番組でも積極的にリクエストしたり新しい傾向の曲に飛びつく行動力があるのは若い人なのだし。
その陰で、80年代の半ばまでの音楽シーンで育った、演歌や歌謡曲世代は、ドンドン、後ろへ追いやられていく。今やラジオでは演歌や歌謡曲はNHKを除くと、夜半も回った3時か4時台で細々と流れてくる。往年のヒット曲となると、聴けるかどうかも怪しい。
とにかく昼間から夜半過ぎまでは、特に民放は若い人のみが相手である。小父さん、小母さんもだが、その上の世代となると、ラジオからは排除されている、少なくとも相手にされていない気がしてならない。
でも、さすがNHKなどは昭和の前半の曲も流してくれる。小生の親の世代の人が懐かしいと思える曲を(時間帯が真夜中過ぎの3時台だが)聴かせてくれるわけで、感謝の便りが届けられたりする。
村田英雄、三橋美智也、三波春夫、春日八郎、大津美子、美空ひばり、鶴田浩二、松尾和子、二葉百合子、森山加代子、坂本九、西田佐知子……。アトランダムに名前を挙げても、リストは延々と続いていく。
クラシックもジャズもサンバも好きだが、演歌や歌謡曲を、小生、これからも聴き続けていくだろう!
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