読書拾遺…スコッツのこと少し
横川 善正著『スコットランド 石と水の国』(岩波書店)をちょびちょび読んでいる。このところ、自転車通勤での筋肉痛というか肉体疲労があって、ロッキングチェアーに身を沈める時間が従来にも増して多く、しかも、記事で浅草(テーマ)の話題を採り上げることも多く、読書に割ける時間が少なくなっている。
(念のために断っておくが、筋肉痛だ坂がきついなどと愚痴ばかり零しているようだが、自転車、乗っていて実に楽しい! そのうち、自転車を巡るエッセイなど書きたい!)
幸いなことに(読書には不都合なことに)、仕事のほう、日中は比較的忙しく、車内に持ち込む本も、ほとんど捲る暇がない。夜半を回ると一気に暇になるが、室内灯で読むのは薄暗くて辛いし、そもそも目も既に疲れていて、読むより窓外の夜景をぼんやり眺めたりして、目を休めるようにする。
ということで、車内に持ち込んでいるジェーフィッシュ/著 久保田信/監修 上野俊士郎/監修『クラゲのふしぎ 海を漂う奇妙な生態 知りたい!サイエンス 001』(技術評論社)など、小中学生相手の本だし、写真が満載なのにも関わらず、六回の営業の中では読みきれなかった。
内容説明によると、「クラゲの揺らめきを見るとなんだか気分が癒される。クラゲの傘の拍動は6億年もの間、止まることなく動いていた。イルカやクジラが波を切り魚やイカが忙しく泳ぎ回っていてもクラゲはいつでも同じ動き。海中で鮮やかな傘を広げてゆらり揺らめくクラゲ。その揺らぎには未知なる不思議が詰まっている。クラゲの神秘のベールをはいでみると…。」というもの。
刺胞動物門に分類されるというクラゲの話、実に面白い。クラゲがイソギンチャクはともかく、プランクトンの仲間だなんて初耳だし、クラゲについて科学的に不明なことが実に多いことが分かって、そのことに興味を持った。ということは、これから生物関連の研究を志される方は、クラゲが穴場でいいかも、ということだ。
(クラゲ関連記事では、日高敏隆氏による「大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 要覧・ジャーナル」の「動物という文化――そもそも文化とは何か >> 口から入れて口から出す、肛門のない動物」という頁が面白い。
クラゲの雄姿(!)を今すぐ見たいという人には、ネット上では数知れずサイトが見つかるが、たとえば「クラゲ」や、より多くとなると「クラゲ目次」など。)
実を言うと、上掲の二冊は、クリス・マッガワン/ヒカルド・ペサーニャ著『ブラジリアン・サウンド―サンバ、ボサノヴァ、MPB ブラジル音楽のすべて』(武者小路 実昭/雨海 弘美訳、シンコーミュージック)と一緒に借りてきたもの。『ブラジリアン・サウンド』はともかく、二週間のうちに『クラゲのふしぎ』と『スコットランド 石と水の国』とを車内で読み終えられるだろうという目算があったのだ。
でも、どうしてどうして、自宅でちびりびちりと読み進めていた横川 善正著『スコットランド 石と水の国』は、なかなかの好著。
暇つぶしに呆気なく読み終えられるかなと思ったが、結構、中身が実に濃かった(というか、まだ読了していないの)。
以前にも転記したが、横川 善正著『スコットランド 石と水の国』(岩波書店)の内容紹介には、「イギリスのなかでも地味で,知られることの少ないスコットランド.しかし石と水に象徴されるその国の文化は豊穣で強靭だ.古代ピクトの石像からバーンズの詩やマッキントッシュのデザインに至る芸術と精神史,カーリングやウイスキーに代表される生活文化-イングランドの陰に隠れてきたスコットランドの本当の形を明らかにする」とある。
例えばトリノ冬季オリンピックに出場して活躍し話題を呼んだカーリングの日本女子チーム(テレビ中継での絶妙のカメラワークが人気と理解に大きく預かっていたようだ)。一気にカーリング暢気が高まった感があった(小生はそう感じた。もう熱は冷めたのだろうか)。
一見すると滑稽なようにも思えるカーリングという競技の面白さは、テレビなどの解説を通じて一定程度には伝えられた面もある。
しかし、本書『スコットランド 石と水の国』を読むと、カーリングというスコットランド発祥(少なくともこの地で育まれ競技としての熟成が成った)の奥の深さを溜め息が出るほどに痛感させられた。
小生には到底、卒なく要点を纏める自信がない。
「カーリング - Wikipedia」を覗く。
途中、「15世紀にスコットランドで発祥したとされ、当時は底の平らな川石を氷の上に滑らせていたものとされている。氷上で石を使うカーリングの元となったゲームの記録は、1541年2月にさかのぼる。場所はスコットランド、グラスゴー近郊のレンフルシャーである。「カーリング」という名称がいつ頃になって出来たのかははっきりとしないが、1630年のスコットランドの印刷物ではすでにこの名称が使われている」とある。
文中、「「カーリング」という名称がいつ頃になって出来たのかははっきりとしないが」とある。
はっきりしないのもさることながら、「カーリング (curling) 」という名称に注目。
カールするってことは、縮れるとか捩れるという意味なのだろう。
が、この競技、カールすることじゃなく、逆に真っ直ぐに狙ったところに距離感も忘れることなく滑らせることが肝要だからこそのカールなのであって、氷の面の滑りやすさ、あるいは石の底面の(当初は)必ずしも磨き抜かれていなかった、そうした両面が擦れ合うという、そうした(やや大袈裟に言えば)逆境にも関わらず狙ったところにピンポイントで置く(届かせる)その細心のコントロールとチームワークと戦略・計算が試合の結果を左右する競技なのである。
力ずくで真っ直ぐに走らせる(滑らせる)のなら、あるいは腕力と方向性だけが眼目だろうが、そうではなく他チームのストーンもある中で、逸る心猛る心を自制して一定の地点に静止させるのが難しい。
実はこの背景には、スコットランドという地のイングランドによる圧迫や政略、あるいは有史以前からの他の民族による侵略の深甚な経験の積み重ねがある。
辛酸を嘗め尽くして雌伏を余儀なくされ、時には反抗して逆に圧伏され、豊かだったはずの森の木々もイングランドの都市づくりに侵奪され、石と水だけが財産の地に成り果ててしまった。
だけれど、その石や岩がまた、スコットランドにおいてドラマの舞台であり歴史の焦点になる。
何もなくなった土地。だけれど、水があるではないか、石(岩)があるではないか。
石の文化を持つ他国からの侵略者には魅力的な土地に映ったりする。石と水とがあれば、もう文化が土着しえる。
例えば、岩を気長に砕いて土に変え(子どものごく日常的な仕事だった)、いつかは豊かな実りを夢見る堅実(?)で諦めない気質。
カーリングのルールそのものはカナダで確立されたようだが、競技で使用される石(ストーン)は、スコットランドのものに限定されているとか。
「その石はスコットランドのアルサクレッグ島という場所で産出したものだけを使用しているそうです。カーリングストーンは、約20キログラム同士がぶつかるという事からかなりの強度が求められ、さらに氷上という低温環境がさらにストーンに影響を与えるとか。時にはぶつかりあった衝撃で、ストーンが割れてしまう事もあるそうです。そこで最も重要とされるのが石の密度で、アルサクレッグ島で産出される石が一番適しているそうです。この島の石が加工されてカーリングストーンになり、今では五輪など様々な国際的な大会で使用されています」というのだ(「カーリングストーンの秘密 エキサイトニュース」より)。
スコットランドの地を舞台にしての民族間の政争は、イングランドの介入もあって、血で血を洗う凄まじいものになった。シェイクスピアの『マクベス』の舞台となるのも自然だったのかもしれない。
長くなったのでこれ以上はやめておくが、スコットランドというとヒース!
小生は以前、「ヒースの丘」という雑文を書いたことがある。
このヒース(エリカ)、「スコッチウイスキーや梱包資材、家屋、はちみつ、薬と、イギリス(スコットランド)とは切っても切り離せない密接で身近な植物である」。
[参考]
小生には到底、読みきれないが、「観光ガイド・紀行」なる頁には、ケルトやストーンサークル、エディンバラ城のスコットランドなどを扱っている本が多数、紹介されていて便利かも。
また、スコットランドの歴史など全般については、ここでは参照できなかったが、「scotland スコットランド」が詳しい。但し、見たところ、この数年、更新されていないと思われる。勿体無い!
「ようこそロンドン憶良のホームページへ」の中の、「STONE OF SCONE」は、漫画が挿入されていて読んで楽しい。この話も本書『スコットランド 石と水の国』の中で扱われている。
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