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2006/08/06

ダ・ヴィンチ…万物は波動して伝わる

 最近、読んだ本、あるいは読んでいる本の中で天才ダ・ヴィンチの「光」の性質についての図抜けた独創的な考えを説明する記述に二度までも出会った。
 一度は、既に返却していて、その箇所を確認できないのだが、確か、サイモン・シン著『ビッグバン宇宙論 上・下』(青木 薫訳、新潮社)においてだった(ちょっと記憶が定かではない)。
 次に出会ったのは、今、読んでいる最中のアンドリュー・パーカー著『眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く』(渡辺 政隆/今西 康子訳、草思社)において、である。
 というわけで、せっかくなので、ダ・ヴィンチの光の性質についての考えをメモしておきたい。

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 ダン・ブラウン著の『ダ・ヴィンチ・コード  上・下』(越前 敏弥訳、角川書店)が売れに売れ、映画化されて一定の興行成績を上げているようでもある。
 映画は観ていないが、小説のほうは、まあ、そこそこ面白かった(図書館で予約してようやく借りるまでに半年!)。
 しかし、ミステリアスの度合いというと、ダ・ヴィンチ本人の比ではない。天才の秘密も、まだまだ数世紀をかけて探られ続けるのだろう。

 さて、これまた小生の生来の怠惰で観ていないのだが、「科学者レオナルド・ダ・ヴィンチにスポット」を当てたという「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」が昨年の秋口、六本木ヒルズ森タワーの森アーツセンターギャラリーで開催されていた。
【レポート】レオナルド・ダ・ヴィンチ展 - 科学者レオナルド・ダ・ヴィンチにスポット (MYCOMジャーナル) 山田久美」がこの展覧会について、非常に参考になる。
 一通り、読むだけでも興味深い。やはり行っておくべきだったと後悔頻(しき)りである。

レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519年)というと、「モナ・リザ」や「最後の晩餐」といった絵画が有名なため、偉大な芸術家といったイメージが強い。しかしながら、今回の展覧会は、日本初公開となるダ・ヴィンチ直筆の「レスター手稿」の展示を中心に据え、芸術家としての側面よりも、科学者としての側面にスポットを当てた内容となっている」など、以下の記述は読んでも興味深い。

 が、ここでは、「彼は、地球を"呼吸する身体"として考え、観察していたといい、レスター手稿には、地球と月と太陽の関係についての考察が、挿図を交えて記述されている。それによると彼は、月には水があり、月の光は太陽の光、地球上に反射した太陽の光が月の水の波に反射された結果であると考えていた。イタリア人天文学者ガリレオ・ガリレイが望遠鏡で月観測を行う1世紀前、NASAにより月の水(氷)の存在が示唆される5世紀前のことである」という点、さらには、「彼は地球だけでなく、水や波に関する観察・考察にも多くの時間を費やしており、関連する実験も多数行っている。そのため、同展の会場には、レスター手稿の実物のほかに、手稿に記されている実験内容を再現したものや、考案した飛行機、揚水機の再現模型なども分野別に数多く展示されている。天文学、水力学、地球物理学に関する展示エリアでは、水流の中に障害物を置くと流れがどう変わるかなど、ダ・ヴィンチが行ったさまざまな実験内容が、同手稿を元に再現され展示されている」点にスポットを当ててみたい。

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 そもそもダ・ヴィンチは、水流や風の吹き方、そして波に(も)興味を持っていた。
 例えば、「松岡正剛の千夜千冊『ソリトン・非線形のふしぎ』渡辺慎介」を読むと、「波がもつ奇妙な性質はすでにレオナルド・ダ・ヴィンチも夢中になって観察し、研究をしていた」とか、「静かな小川に石を投げると、流れには大きな変化はおこらない。この石が落ちた点をアトラクターという。少し流れが速い小川であると、そこに小さな渦がおこる。これはリミットサイクルというもので、静かな小川のときは一点のアトラクターだったものが、変化して渦状のリミットサイクルになったわけである。これはアトラクターが点から円に変わったわけで、その変わり目にはなんらかの臨界点があるとおもわれる。これをホップ分岐というのだが、この変化こそレオナルド・ダ・ヴィンチが夢中になった現象だった」など、彼が興味を抱いた現象の一端を知ることができる。

レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519年)というと、「モナ・リザ」や「最後の晩餐」といった絵画」に結局は尽きるのだろうが、しかし、彼の絵のどうにも捉え難い不気味さというと、「洗礼者聖ヨハネ(San Giovanni Battista)1513-1516年 (一五一三―一六年ごろ、板に油彩、六九×五七センチ、パリ、ルーヴル美術館蔵)」なる絵画が小生などは、どうしても浮んできてしまう。
TransNews Annex レオナルドの眼(3)「顔」の発明(美の美)~「洗礼者聖ヨハネ」」で、是非、改めてみてもらいたい。

 なんという謎めいた笑み、図柄!
謎めいた図像は十九世紀のデカダン詩人に大きな影響を与えた。人差し指をさす手はレオナルド作品で繰り返し現れる。キリスト誕生を告知しているといった解釈がある」というが、影響を受けていくだろう人士は今後も途切れることなく現れ続けるだろう。

 文中、「絵の中の洗礼者ヨハネは暗黒の世界でまさに光を発している。画面の外から来る光を反射する。これは人物像でありながら、光の像でもあるのだ」という記述に遭遇する。
 その意味合いを知りたい方は、「TransNews Annex レオナルドの眼(3)「顔」の発明(美の美)~「洗礼者聖ヨハネ」」なる頁を覗いてみるしかないだろう。

 あるいは、同上のサイトには、「「レオナルドの肖像」(1510―15年ごろ、赤チョーク、33.3×21.5センチ、トリノ、王立図書館蔵)」も載せてくれている。
 肖像画であるが、皺(しわ)を描いているのか、髪の毛で気流の波を描いているのか分からないような絵でもある。

 さて、その上で、アンドリュー・パーカー著『眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く』(渡辺 政隆/今西 康子訳、草思社)において見出したダ・ヴィンチの「光」の性質についての図抜けた独創的な考えを説明する記述を転記する。小生の下手な要約など無用だろう。

 例によって(?)本書の話の流れを省いた形での、端的な引用となるが、ここでは、本書の紹介が目的ではないし、脈絡を欠いても十分に(関心のある人には)瞑想に誘う一文たりうると思う:

 先人たちのあとを受けて、一五世紀にはレオナルド・ダ・ヴィンチも光の正体を解明することに心血をそそいだ。しかし、彼の見方は先人たちとはちょっと違っていた。当時の哲学者たちは、光とは、眼から放たれて、見ようとする物体にぶつかって跳ね返ってくる何かだと考えていたのだが、レオナルドはそうした考え方に疑問を抱くようになった。光は、性質が音とよく似ており、音と同じように空気中や水中を「振動」として伝わるのではないかと考えたのだ。空気中や水中の障害物を介して次々と広がってゆく信号のようなものだと考え、それを「波動」として記述したのである。二個の石を川に同時に投げ込むと、それぞれの石の落下点から広がる同心円状の波がぶつかって互いに打ち消しあう。それを見たレオナルドは、光にも同じような作用があるのではないかと考えた。
 やがてレオナルドは、関心の対象を光から宇宙の万物へと広げていった。そして、「万物は波動して伝わる」と主張した。彼の念頭には、つねに光のことがあったにちがいない。ともかくも、光は太陽の属性であるとの結論に到達しているからだ。それ以来、哲学者たちは、きわめて単純化した話ではあるが、光を波動とみなすことができるようになった。

 以下、本書では、「光の波動説をさらに押し進めたのがクリスティアン・ホイヘンスルネ・デカルトで、通常はこの二人が波動説の提唱者とされている」云々と、説明が続いてくのだが、ここでは略す。
 とにかく、上で引用した文章を読むと、小生は、下手な詩より余程、イマジネーションを掻き立てられる。

 さすがの「光 - Wikipedia」にもデカルトは扱われていても、ダ・ヴィンチは一切、登場しない。
 実際上の光の科学史というと、ダ・ヴィンチは門外漢扱いなのだろうか。
 その意味で、『ビッグバン宇宙論 上・下』(青木 薫訳、新潮社)でのサイモン・シンの目配りはさすがである。

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コメント

ダヴィンチについてはかなり研究が進んでいるようで明治大学博物館で「レオナルドのもう一つの遺産」の展覧会が8/23から開催されますね。
レオナルド所蔵のアウグスティヌスの「神の国」も展示されるとか。
招待券はJuneさんに送ってしまってもうないですが、彼女のサイトの掲示板も外国サイトの宣伝?書き込みがものすごくて休止していますね、どこもかしこも大変ですねー。

投稿: oki | 2006/08/06 11:32

アッ、ちなみに入館料は六百円です。
森アーツセンター見逃した弥一さん、今回は行かれたらいかがですか。

投稿: oki | 2006/08/06 11:34

ダ・ヴィンチについては、ドンドン、研究が進んでいくのでしょうね。実際、成果の積み重ねも相当なものがありそう。
でも、彼の絵を見ると、その潜む不思議はとてつもなく深いと感じる。汲みつくせないものがありそう。
入館料は600円。でも交通費が出ない。
過日、帰省してきたし、当分、ダルマさんです。

投稿: やいっち | 2006/08/06 12:26

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