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2006/06/26

グリム童話…昔話の深層

手塚治虫作「雨降り小僧」」で民話風な話を採り上げたことが契機で、またまた昔話や童話、民話モノに興味が湧いてしまった。
 といって、今、大部な本を何冊も読み進めている最中なので、すぐには手出しできない。
 なので、ここでは、童話・民話といっても、やや裏読み的な本を(多分、大方の人が知っているだろうけど)を幾つか挙げておくことにしたい。

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 そういった関係の走りというか先駆け的な本を書いたのは、誰なのか、小生は知らない。
 ただ、小生を早くに関心を呼び覚ました作家の本というと、倉橋 由美子著の『大人のための残酷童話』 (新潮文庫)だったかもしれない。そもそも倉橋 由美子の『パルタイ』に刺激を受けたのは大学生になって間もない頃のこと。

 それが、こういう本で再会して、ちょっと戸惑った感もあった。
 本書は出版社の説明によると、「超現実的なおとぎ話こそ、同情も感傷もない完全に理屈にあったもので、空想ではありません。そこにあるのは、因果応報、勧善懲悪、自業自得の原理が支配する残酷さだけです。この本は、ギリシア神話やアンデルセン童話、グリム童話、日本昔話などの、世界の名作童話の背後にひそむ人間のむきだしの悪意、邪悪な心、淫猥な欲望を、著者一流の毒を含んだ文体でえぐりだす創作童話集です。 」で、あくまで創作童話集。
 決して童話論ではない。が、邪道ながら、幼い頃より読み(読み聞かされ)親しんだ童話は、このように読めるし、料理できるという観点・感想を抱かせたのだった。

 桐生 操著の『本当は恐ろしいグリム童話』(ベストセラーズ)も、大人が面白く読める形になっていて、ドンドン読み進んでしまった本。
 もともと、小生は、この書き手のファンなのか、桐生 操の本は粗方(あらかた)読んでいる。買って読んだものもあるし、借りて読んだものもあるけれど。根強いファンがいるようで、図書館で同氏の本を手に取ると、結構、手垢が付いている。

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 出版社サイドの説明によると、本書は、「実母を処刑した白雪姫、魔法の力を借りなかったシンデレラ、2つの禁断の鍵を開けてしまった青髭の妃…。封印された真実の物語が今、ここに開かれる」だって。
 まこと、大人向けの童話なのである。

 題名が似ていて紛らわしいのだが、桐生 操には、『本当は恐ろしいグリム童話』(ベストセラーズ)もある。シリーズ本(第3弾)なのだ。
 同じく出版社の説明によると、「「赤ずきん」は狼の娘だった!?少女を狂わせた「赤い靴」の誘惑、「マッチ売りの少女」を汚す魔の手…。語ることさえ拒まれた「禁断」の物語が今、目覚める! グリム、アンデルセンの童話集から5編を収録」だって。

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→ 本文中では紹介しなかったが、こんなも。読者の下種な(?)…じゃない、本音の好奇心を擽るんだね。

 仕舞いには、「希望をもって世界を転覆する。ブルジョワジーの礼儀作法を教える役割を果たしたペローやグリムのおとぎ話から、見慣れた世界を不気味なものに変える転覆・解放の芸術としての現代のおとぎ話まで、その社会的意味を鮮やかに分析して、世界中の児童文学者たちに衝撃を与えた本の待望の翻訳」という、ジャック・ザイプス著の『おとぎ話の社会史 文明化の芸術から転覆の芸術へ』(鈴木晶・木村慧子訳、新曜社)も読んでしまった。

 尤も、原書は従前より専門家筋にはその存在を知られていたし、読まれていたようだが、小生が本訳書を手にしたのは、全くの偶然で、近所にあった小さな書店にたまたまあったのを面白そうだと、即座に購入したのだった。
 その書店は、雑誌や参考書、漫画などを置いているごく普通な書店。
 だが、ある頃から、何かの営業の働きかけがあったのか、それとも書店の主人の好みや趣向なのか、書店の奥の目立たない棚に新曜社の本がずらっと並べられてあって、小生、雛にも稀なというか、近所の書店でこういった本に出合えるとは全く期待していなかったので、同社の本を片っ端から買っては読んでいったのだった。

 面倒なので内容紹介は抜きにして、書名・著者名(訳者名)だけを買った順番、刊行された順序も含め順不同で列挙しておく(但し、手元にあるものだけ。当然ながら出版社は全て新曜社):
 ジャック・ザイプス著『おとぎ話の社会史』(鈴木晶・木村慧子訳)
 小谷野 敦著『江戸幻想批判  「江戸の性愛」礼讃論を撃つ
土田 知則・青柳 悦子著『文学理論のプラクティス―物語・アイデンティティ・越境
 ランドルフ・M.ネシー:ジョージ・C.ウィリアムズ著『 病気はなぜ、あるのか 』(長谷川 真理子/長谷川 寿一/青木 千里訳)
 小熊英二著『単一民族神話の起源
 ダニエル・ネトル、スザンヌ・ロメイン著『消えゆく言語たち』(島村宣男訳)
 バリー・サンダース著『本が死ぬところ暴力が生まれる』(杉本 卓訳)

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 同社の本を出るたび購入していった。小生の興味をなぞってくれるような本の数々。が、その僅か数年後、かの近所の小さな書店はコンビニになってしまった。同時に、小生も不況に負けて(稼ぐ能もなく)一昨年の四月から本を一切、買わなくなった(買えなくなった)。
 なんだか、小生の台所事情の先行きを見透かされたような変貌振り。これで近所の古書店もなくなり、散歩で立ち寄る場所が皆無になってしまった。
 ま、その代わり、図書館(というか情報センターの中の一部に過ぎないのだが)が誕生してくれたのだ。

 さて、気を取り直して、ジャック・ザイプス著『おとぎ話の社会史』(鈴木晶・木村慧子訳、新曜社)に話を戻す。
 近頃(なのかどうか、小生は事情は知らない)、昔話や童話というと、父兄らの配慮なのか、中身に手が加えられて、童話の一見すると残酷な側面が緩和、乃至、拭い去られ、当たり障りのない、あたたかで優しい物語に改変されて児童生徒に読ませる風潮が(一部にか広くかも分からない)見受けられたりする。
 それは、運動会の駆けっこなどで一等賞も何もない仕組みにされたりするのと期を一にしているのか(どうかも知らない)。
 けれど、幼い子は想像以上に(想像力において、時に行為に及ぶ形でも)残酷な面もあると同時に、虫を殺したり、草花を毟り取ったり、踏みにじったり、あるいは弱い子を虐めたり虐められたりを通じて情の世界が醸成される面もある。
 まあ、さすがに時代は、歴然たる行為では残酷だったり、眉を顰めさせるような野蛮なことは為すことを許されない。
 それが、とうとう、想像力の世界でさえも、人間にひたすら優しさを求め(そのことは当然なのだが)、また、醜い面、残酷な側面から目を背けさせてしまう。建前や理念として優しさと行儀の良さは生まれながらに兼ね備えているに越したことはないのだが、そんなことがありえるはずもない!

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→ 本稿を書きながら、本書の存在を思い出した。その本とは、河合隼雄著の『昔話の深層』(福音館書店。講談社文庫版あり)である。高校時代から大学入学当初はフロイトに傾倒していた小生だが、次第にユングに引かれ、ユングと言えば当時は河合隼雄氏だったから、同氏の著書にも親しむようになった。
 本書は、河合隼雄氏の本を読んだ、ほとんど最後の本だったかもしれない。
 というのも、本書が出たのは小生が卒業する最後の年度だったと思うのだが、その頃には、ユングの呪縛圏から脱していて、フロイトの(一定の留保はあっても)透徹した心理劇風な著述に立ち返っていたのだった。
 いずれにしても、小生は、トリックスターの存在も含め昔話の深層を探るのは昔から好きだったってことだ。

 為したこと、せめて想像の中で仕出かしてしまった行為(その想像が現実と思えてならないほどにリアリティを持っていないと意味がない)に痛切なる悔恨の情を抱くことでしか、為していいこと為していけないことの区別は、あるいは為していけないことを自制する我慢の念は育ちようがない。
 そもそも、無難な物語など、子供の興味を繋ぎ止められない。

 残酷な面があるかもしれないが、昔ながらの童話や民話の中で思いっきり想像の翼、妄想の念を羽ばたかせ、膨らませて、時に一人っきりで、人間の夜の面に向き合い、やがて独力で昼の世界に戻ってくるしか、情操の深い世界に至りつけないのだと思う。

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← 「グリム兄弟 - Wikipedia」中の画像。
 その意味で、あれこれ裏読み的な本を読んだりするけれど、初心(?)に立ち返って、翻案されていない『グリム童話集』や日本の昔話集(かちかち山とか)を読むのが一番、という元も子もない結論に至ってしまうのである。
 実際、原型のほうが面白いんだよね、勝手に想像もできるし。

 余談で且つ蛇足。
 グリム童話…。グリムはグリム兄弟の名前だけど、全く脈絡なしに、音韻だけで英単語の「grim」を連想する。意味は、言うまでもなく「厳しい, 厳然たる; 不屈な; 冷酷な; (顔の)恐ろしい; 気味悪い; いやな; 体調が悪い」で、「the Grim Reaper」だと、「死神 ((大鎌を手にした骸骨))」なんだって。

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コメント

こんばんは、見慣れた本の写真が(^^ゞ
大人のための残酷童話と、本当は恐ろしいグリム童話、私もこれを持っています。
見てはいけない、聞いてはいけない、でも、その向こうにある恐ろしい話は、とても、見て見たいものです。
白雪姫の話を、今、思い出しています。
エッそうだったのかと目からウロコみたいな感がありました。

こんな書き方ができるのは、女性だからだなと、妙に納得したことも思い出しました。
大人の童話とは、恐ろしい題名ですね。

原作のグリムも読み出すと止まりませんね。

投稿: 蓮華草 | 2006/06/26 22:12

 グリム童話に限らず、昔から語り継がれてきたお話、童謡なんかは、実はとても残酷なものが多いですね。

 「かごめかごめ」、「とおりゃんせ」などや、「お馬の親子」。
 私もたくさん知っているわけではないのですが、これらは実はとても残酷話が隠されていると聞いたことがあります。

 残酷すぎて目をそらしたくなる反面、先人からのメッセージであると捉えると、真摯に受け止める必要があるのかなとも思います。

投稿: RKROOM | 2006/06/26 22:30

蓮華草さん
「こんな書き方ができるのは、女性だからだなと」
 そうですね。男にはこういった捉え方は思いつかないのかな。
 とにかく、倉橋 由美子さんの創作、桐生さんの<解説>はさすがです。
 面白い!

投稿: やいっち | 2006/06/27 01:49

RKROOM さん
童謡でも、「てるてる坊主」の歌詞は凄い残酷:
二番は、「わたしのねがいを 聞(き)いたなら あまいお酒(さけ)も たんと飲(の)ましょ」であり、三番は、「それでも曇(くも)って 泣(な)いてたら そなたの首(くび)を チョンと切(き)るぞ」となっている:
http://atky.cocolog-nifty.com/bushou/2005/06/post_534c.html
それでも、「残酷すぎて目をそらしたくなる反面、先人からのメッセージであると捉えると、真摯に受け止める必要があるのかなとも思います。」というのは納得です。
子供に思いっ切り想像の世界に入ってもらうためにも、こういった童話は大人が読み聞かせはしないほうがいいのかも。

投稿: やいっち | 2006/06/27 01:52

こんばんは
>高校時代から大学入学当初はフロイトに傾倒していた小生だが、次第にユングに引かれ、ユングと言えば当時は河合隼雄氏だったから、同氏の著書にも親しむようになった。

私もかなり似てます。最初河合隼雄に傾倒してユング(あと秋山さと子のゼミにでた)が大好きだった。その後フロイトに移りました。いまはどちらも意識しないけど。
でもアカデミックな社会史学などでは、最近フロイトがかなり低く評価されてるみたいでさびしいです。

投稿: jenny | 2006/06/29 20:42

フロイトもマルクスも、もう昔の人のように扱われている。まるで彼らの学説なんて、全貌が分かっているし、今更語ることなどないかのよう。
でも、美は細部にあり、じゃないけれど、彼らの文章に直接当れば、その凄さがひしひしと感じられる。理論の上で局所的に洗練されているのかもしれないけれど、骨太な洞察は得がたいものがあると小生は思っています。
ダ・ヴィンチも、フロイトの本で読むと、何度読んでも下手な推理小説よりドキドキする推理を感じます。

投稿: やいっち | 2006/06/30 07:14

やいっちさま
こんばんは。作品についての記事、拝見いたしました。
メモ書きとはいえない程の、たくさんのレビューありがとうございます。
他の方のブログにコメントした事がないので、いまいち操作がよく解らないのですが、お礼まで。
今描いている大作も、頑張ってしあげようと思います。

投稿: yuma | 2008/06/18 20:57

yumaさん
わざわざ馴れないコメント、ありがとう。

yumaさんワールド、見ていて(読んでも)とっても楽しい。
もっと広くいろんな方に見てもらって欲しいって思ってます。
大作、どんなものになるのか。生で見たいもの。
完成したら教えてね。

投稿: やいっち | 2008/06/19 15:55

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昔話というと、子供の頃に聞かされた、 日本のものしか知らない私にとって、 「グリム童話」は、大変新鮮であり、 また、昔話とはこういうものだったのかと、 改めて、気づきをえたように思います。... [続きを読む]

受信: 2007/09/17 15:11

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