漱石とモナリザ・コード
通常なら小生は日曜日は営業の日に当たらないよう日程が組まれている。が、昨日、日曜日は連休での日程調整もあって営業の日となった。
が、土曜日の営業はかなり忙しかったらしいのだが、日曜日は都内はいつもの休日とは比べ物にならないほど閑散。
けれど、営業しているタクシーも極端に少ない。営業が忙しいかどうかはお客さんとタクシーの台数との比による。お客さんが少なくても、稼動しているタクシーが少なければ、相対的に忙しいことにありえる。
その意味で昨日は中途半端に暇なような忙しいような、つかみどころのない一日だった。
駅などに車をつけてお客さんを待つと、普通なら休日ならば空車のタクシーの列が延々と続くはずだが、案の定、休みを取っているタクシー(ドライバー)が多いらしく、列は数台。なので、タクシー乗り場にポツポツといらっしゃるお客さんを数人、待っていたら自分の番が来る。
感覚的には、駅に車をつけて実際にお客さんを乗せるまでの待機時間は普段とあまり変わらないような気がした。
駅やホテルなどに空車のタクシーが溜まりがちになる一方、街頭ではタクシーを待つお客さんもポツポツといる。流して走っているタクシーが、お客さんが見つからず諦めて駅や繁華街に向かってしまう傾向にあるので、お客さんの数は人数としては多くはない(はず)だが、結果的に空車のタクシーを待ちわびているお客さんが目立つようになる(のだろうと推測される)。
それでも真夜中過ぎともなると、車中での読書時間が増えてしまう。思い出したように流してみるが、お客さんとの出会いの機会に恵まれなくて、結局は何処かに車を付けてしまうようになるのだ。
そして……、朝方までに読了してしまった!
→ 勿忘草 ( わすれなぐさ )さんから戴いた「墨田区東白鬚公園の鯉のぼり」の画像です。ホントに五月の空を飛んでいるようで、爽快! 五月早々の頁を飾るに最高! 勿忘草さんはダンスのインストラクターをされています。「DANCIN' FUJI」へ飛んでみてください。
あの空は鯉の踊るステージさ!
それより、昨夜というか未明近く、NHKラジオで作詞家の丘 灯至夫氏の特集があった。恥ずかしながら、この名前だけ聞いてもピンと来ない。「あこがれの郵便馬車(岡本敦郎)」や「高原列車は行く(岡本敦郎)」の作詞(カッコ内は歌手名)をされた方だと言って分かったら、あなたは小生よりちょっと年上。
他に、「山のロザリア(スリー・グレイセス)」「東京のバスガール(コロムビア・ローズ)」…。
これでも分からないなら、「高校三年生(舟木一夫)」の作詩をされた方なのだ。
え? まだダメ? じゃ、極めつけ(?)だ。「ハクション大魔王のうた(テレビまんが「ハクション大魔王」から)」の作詞家であるぞよ!
→「Amazon.co.jp:あの青春(ゆめ)この詩(うた)~丘灯至夫作品集 音楽」参照。
ところで、わざわざ丘 灯至夫氏の話題を採り上げたのは、昨日、同氏作詩の「だめ(若羽ちどりとその応援団)」という実に楽しい曲を初めて聴いてちょっと発見したような気になったから。宴会向きの曲だね。世間では既に知られている曲なのだろうか。
さて、昨日、読んでいた本というのは、24日から読み始めていた半藤 一利氏著の『漱石俳句探偵帖』 (角川選書)である。
漱石好きで俳句に興味があり、且つ、なんとか半藤氏の本を読みたいと思っていた小生には、選書ということもあり、車中で読むには格好の好著(読む前から好著と決め付けるのも早計かもしれないが、図書館で手にとって手応え―読み応えかな―はあった!)なのだ。
半藤氏の本で読みたいのは、なんといっても、『昭和史』であり、『ノモンハンの夏』などだが、俳句を嗜む(嗜みたいと思っている)小生としては、漱石の俳句の味わいが好きだし、「妻の半藤末利子は、作家松岡譲と夏目漱石長女筆子の四女で随筆家」だという半藤氏の書いた「漱石先生ぞな、もし」などの漱石関係の本も読み浸ってみたい。
本書についてあれこれ感想や異論はあるのだが、ここでは自分が以前、一度ならず読んだはずなのに、まるっきり銘記されていない漱石の創作の小品を扱う。
表題にあるごとく、漱石の「モナリザ」である。こんな作品のあることを教えてくれた半藤氏(の本)に感謝である。
折りしも、ダン・ブラウン著の『ダ・ヴィンチ・コード 上・下』 (越前 敏弥訳、角川書店)が原作の映画が話題になっているところでもある。
← 勿忘草 ( わすれなぐさ )さんから戴いた「墨田区東白鬚公園の鯉のぼり」の画像です。小さな子が鯉のぼりを見つめるその構図がいいね!
あの鯉といつか一緒に泳ごうね
本書『漱石俳句探偵帖』には、以下のような章がある:
「モナリザの微笑」は気味悪い
連作の『永日小品』中の一つである。
例によって「青空文庫」で読める。「永日小品」全文を読んでもさほど時間は掛からないが、時間のない方は「モナリザ」という作品を探してみてほしい。読むのに一分あまりを要するだろうか。
それも面倒だという方のために、老婆心ながら(といってボケ始めてはいても老いてはいないはずだが…老いてないと自信を持って否定できないのが悲しいいけど)、親切にも本書から一部だけ転記する:
明治四十一年(一九〇八)暮から四十二年の春にかけて漱石は連作『永日小品』を書きあげている。長編『三四郎』を仕上げたあと息もつけぬ忙しさである。
このなかに「モナリザ」という"短篇小説"ともいっていい一篇がある。これは「日曜日になると、襟巻に懐手で、其所等(そこいら)の古道具屋を覗き込んで歩るく」井深という男が、ある古道具屋の店先でふと西洋の女の額入りの絵を見つけるところからはじまる。心をひかれるままに八十銭に値切って買ってきた。その絵をみたとき、細君が「気味悪い顔です事ねえ」といった。井深が額を欄間にかけようとすると、細君が、
「この女は何をするか分からない人相だ。見ていると変な心持になるから、かけるのはよすがよい」
と、しきりにとめたが、井深は「なあに、お前の神経だ」といってきかなかった。
その夜、井深はなんどもこの絵を見た。
「薄い唇が両方の端で少し反り返って、その反り返った所にちょっと凹(くぼ)みをみせている。結んだ口をこれから開けようとする様にもとれる。又は開いた口をわざと、閉じたようにもとれる」
だんだん変な心持になってきて、井深は「どことなく細君の評が当っている様な気」がしだした。
役所に出勤して帰ってみると、その気にかかっていた絵は突然に欄間から落ちたそうで、額のガラスが滅茶滅茶に割れていた。額の裏をみると絵と背中合わせに、四つに折った紙がでてきた。
「もなりざの唇には女性の謎がある。原始以降この謎を描きえたものはダ・ビンチだけである。この謎を解きえたものは一人もいない」
と紙にインクで書かれていた。
翌日、役所できいてみたがモナリザもダ・ビンチも一人として知るものはない。結局、井深はひどく薄気味悪くなって、細君のすすめるままにこの縁起の悪い絵を、五銭でくず屋に売り払ってしまう。
半藤氏は、漱石が幻想や超自然を好む性向のあったことをこの作品で再確認(こうした性向は、「幻影の盾」や「薤露行(かいろこう)」などで誰しも確認できている…)できて至極楽しいことだったとか、西洋の誰もが絶世の美女として(?)嘆賞されるモナリザであり、そのように絶賛される作品だと日本でも(明治の代においても)押し頂かれている「モナリザの微笑」だが、漱石は自分の目を信じ、世評に惑わされなかったとか、あれこれ書いている。
(モナリザは日本にいつ頃、どのような形で紹介されたのだろう? 登場人物の「井深」という名前には「イブ」が織り込まれているのだろうか? それとも「イフ」か…)
→ 勿忘草 ( わすれなぐさ )さんから戴いた「墨田区東白鬚公園の鯉のぼり」の画像です。大漁の鯉のぼり!
大漁の鯉の踊りに加わらん
本書は、刊行されたのは99年である。
だからというわけではないが、以下の記述にあるように、モナリザの絵は、実は「巨匠レオナルド・ダ・ビンチ自身であった」といった説(95年頃、公表された説のようだ)が、本書が書かれていた当時においては目新しい話題だったことは理解できる。
つまり、
「アメリカのベル研究所のシュワルツさんの発見で、ダ・ビンチが朱で描いたやや左向きの髭のある自画像を、コンピューターを使って裏返しにして、モナリザと重ねてみたら、なんと、顔の輪郭、目、鼻の位置、髪の生え際、すべてが一致したというのである。」
(この説に付いては、「 [教えて!goo] モナリザについて・・・」の「回 答 No.5」などを参照。「モナリザの微笑」には依頼者に渡した絵と、ダ・ヴィンチが手元に残した、顔を自分のものに置き換えた現存の絵との複数があった…?!)
小生も、この説が出た当時、日本でも話題になったのを覚えている。さもありなんと小生は勝手に納得してしまった。小生は「モナリザの微笑」(「La Gioconda 」あるいは「ジョコンド婦人」)を見て、女性を描いた絵だとは思えないできた(し、今もそう思っている)から、(当時としての)最新のデータ解析の結果に自説(ほとんど直感に過ぎない)が裏書されたようにも思えた。
若い頃、小生は、女性への(性的な、肉体的な)関心のなかったダ・ヴィンチだからこそ、また自分への執着心(ナルシズム?)が異常に強かった彼だからこそ(あるいは母親への鬱屈した思いがあったからこそ?)、大概の男以上に(自らを女性だと思い、そのことに疑いを持たない女性以上に)女性を<想像>し、女性像を<創造>したということかもしれない、そんなふうに思ったのだった。
あるいは、小生が高校時代より読み浸ってきたフロイトに毒されているのだろうか(「ダ・ヴィンチの幼児期の記憶」など)。
いずれにしても、芸術は謎が多いほど、見る側の思い入れも深くなるというもの。深情けなのかね。
ところで、本書『漱石俳句探偵帖』の「モナリザ」の章で、半藤氏は漱石に焦点を合わせているけれど、漱石は案外と女性(あるいは実話が背景にあって、細君がモデルなのか)の直観力の凄さを裏のテーマにしている小品なのではないかと思ったりもする。
つい、世評に囚われがちな男。一方、当時にあっては自ら情報を摂取するのが困難だっただろうし、自らの人を(男を)見る目に頼らざるを得ない立場にあった女性だからこそ、生きる知恵として物心付いた頃から涵養され鍛えられてきた観察眼への畏怖の念こそが主題ってことは、ないか。
先に進む前に、ネット検索していたら、懐かしいモナリザ絡みのアート作品に再会したので寄り道。
「「モナリザ」の自己相似形」という頁にある、福田繁雄の「世界への微笑」である(「切手で描かれたモナリザ」?「hirax.net」は面白い!)。
「東京都美術館」で(2000年に)開催された「モナリザ100の微笑 模写から創造へ」で(も)展示された作品のようだが、あるいは、こうした催しもコンピューター解析によるモナリザ=レオナルドの自画像説が話題になっていたからの企画だったのだろうか。
「hirax.net」サイトの「「文学論」と光学系」には『「漱石の美術愛」推理ノート』(新関公子 平凡社)が参照されているが、これも面白かった。懐かしい本にここでも再会だ。
それはともかく、肝心の「漱石とダ・ヴィンチの相似点」が考究されていないような。
だが、小生も寄り道。ネット検索していたら、かの有名なサイトで「叡智の禁書図書館 「モナリザ」も制作?伊でダビンチの工房発見か」という記事を発見:
「【ローマ=共同】ルネサンスの大芸術家レオナルド・ダビンチが工房として使ったとみられる部屋が、13日までにイタリア・フィレンツェ市の中心部で見つかった。トスカーナ州が発表した。絵画「聖アンナと聖母子」の制作場所と考えられるほか「モナリザ」が描かれた可能性もある。 部屋はサンティッシマ・アヌンツィアータ聖堂に接したセルビ・ディ・マリア修道院にあり、長年、部外者は入れなかった。陸軍地理院の研究者3人がこのほど、壁に描かれた鳥や天使など、ダビンチの弟子が描いたとみられる絵を発見した」などというもの。
案の定、中途半端な記述になったが、あとは読者が考察を深めてくれることを期待する。
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コメント
お久しぶりです。
丘 灯至夫氏の曲、極めつけを除けばすべて知っています。
そして歌えます。
という事は・・・。
GWはお仕事ですか。
僕も仕事優先になります。
投稿: 勿忘草 | 2006/05/01 22:32
勿忘草さん、こんにちは!
丘 灯至夫氏の曲(歌詞)は、日本語を大事にする素敵なものばかり。極めつけの「ハクション大魔王のうた」も、聴けば、ああ、あの曲か! と膝を打つかも。
GWは、もう、仕事は諦め気味。日曜日の営業で懲りました!
お仕事、頑張ってくださいね。
そうだ、鯉のぼりの画像、キュートです。借りることが許されるなら、拝借したいのですが。
投稿: やいっち | 2006/05/02 03:03
我がブログへんコメントありがとうございます。
鯉のぼりの画像ですが、
あんなものでよろしかったらどうぞお使いください。
子供の写っているもの以外でしたら、
他にも何枚もありますが、
どこかにお送りできるのでしたら、
そちらに送ってもいいですよ。
僕のメルアドはHPに載っていますので、
こちらにメール下さっても構いません。
どのようにでもご随意になさってください。
子供の画像でしたらそのままお使いくださっていいです。
投稿: 勿忘草 | 2006/05/02 07:32
勿忘草さん、忙しい中、コメント、ありがとう。
(メールの遣り取りは過去に事故があったので、最小限の利用に留めています。)
小生のホームページに画像掲示板があります。ブログサイトで載せても構わない画像などがあったら、そこに投稿してもらえると助かります。
投稿された段階で、掲載を了承してもらったということで安心して掲載できるのです。
ブログを運営するのも大変な負担だというのに、我がまま言ってすみません。
願望としては、三枚のどれもいいのですが、お子さんのが特にいいですね:
http://mav.nifty.com/ahp/mav.cgi?place=bushoan&no=16762
投稿: やいっち | 2006/05/02 09:32