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2006/05/26

タンブル・ウィード…風転草

 小生は、失業時代の94年に「スパニッシュ・モス」と題した900枚ほどの小説を書いたことがある。書き上げた分については300枚のまとまりで3部構成になっていて、あと1部300枚書いて4部で完成というところで、失業保険の給付も途絶え、時間切れに終わった幻の作品。
 手元には900枚の原稿が空しく残っている。

 この作品の題名の「スパニッシュ・モス」は、知らない人には珍しい名前かもしれないが、観葉植物に興味のある人だと、あるいは、ああ、あれか、ということになるかもしれない。

Salsola_tragus5_1

→ これは、「タンブル・ウィード (ロシアアザミ、回転草)

 念のために画像を示しておくと、「Spanish moss スパニッシュ・モス」がいいかも。
 冒頭に、「スパニッシュ・モスは木に着生する植物です。木の枝の至るところから白いボロ切れみたいにぶら下がるので、木全体をお化けみたいに見せます。昼なお暗い湿地などで、こういう木々に取り囲まれると恐い思いをするでしょう。」という説明がある。
 ホント、広い砂漠で一人、こんな光景の只中にあったら、心は荒廃するかもしれない(あるいは人によっては反ってノビノビするかもしれないが)。
「スパニッシュ・モスは木に着生する植物」ということで、「エアー・プラント」(又は、「エアプランツ」)という一般的な呼称で呼ばれる植物の一種である。
「「モス」という名にかかわらず、スパニッシュ・モスは苔(コケ)ではなく、寄生植物でもありません。根は無く、水分は空気中から、養分は漂う塵から採るのだそうです。湿気の多いところでないと生きていけないわけです。」というが、小生、「水分は空気中から、養分は漂う塵から採る」という点にイメージが掻き立てられ、小説の題名に採ったわけである。

 小説の舞台は東京、それも都心(銀座や芝浦、開発途上の台場など)なのだが、銅版画に執心する主人公は漂流する自分を持て余し、心の潤いを人からではなく、抽象的に、つまり、空中から摂取している、という設定だったわけである(根無し草のはずの彼は、その実、大切な人に気づかないままに意外な形で出会っていて、その人の影響を受けていることに徐々に自覚させられていく…)。
 この辺りのことは、以前、この季語随筆でも綴ったことがあるので(「苔の花…スパニッシュモス」参照)、ここでは略す。

 さて、では、ここに「スパニッシュモス」の話題を何故、再度、採り上げるかというと、ある事実が判明したからである。

 小生、「スパニッシュモス」なる小説の着想を得た時、実際に脳裏に思い浮かべていた植物、あるいは植物のある光景というのは、上で紹介したような情景ではなかった。
 もともとは、「株はボール状に成長し、秋に果実が成熟すると風によって茎が折れてしまい、丸まって原野の上を転がる。 この運動により種子をまき散らす」という、「タンブル・ウィード (ロシアアザミ、回転草)」という名のアカザ科の植物だったのである(和名では「風転草」とも)。

西部劇の決まった一つの風景として強い風に丸い枯れ草が転がっているのがあります。私も当然のように北米の植物だと思っていましたが何と北西部に入植の多かった東欧系ウクライナの人が持ち込んだ農作用種子の中にこの草の種子が混じりこんで1877年にサウスダゴダから繁殖が始まった外来の植物だった」わけである。
「西部劇の決まった一つの風景として強い風に丸い枯れ草が転がっているのがあります」……。そう、その殺伐とした光景がたまらなく刺激的で、当時、荒んだ心を持て余していた小生には創作の意欲を掻き立てるものだったわけである。

 画像で観てみたい。タンブル・ウィードそのものかどうか分からないが、「えるだま・・・世界の国から 沙漠の花(1)枝・棘・花」を覗かせてもらう。
[↑ 「えるだま・・・世界の国から タンブル・ウィード(アカザ科)」及びコメント欄を参照のこと。 (06/12/22 追記)]

 19世紀の半ば頃は、北アメリカ大陸の特に西部は、草原地帯も激減していて、強い風が吹くし、風が吹くと土埃が激しく舞う、そして濃い砂塵の煙の中をタンブル・ウィードが、日本語の回転草という通り、風に煽られ駆り立てられるようにしてコロコロ転がっていく、そんないかにも当時の西部(劇)を彷彿させる光景。
(老婆心ながら、念のために断っておくと、「tumble Weed」である。ローマ字表記だと、既出のように「タンブル・ウィード」。間違っても、「タンブル・ウィドー」と読んではいけない。転がるウィドー(未亡人)…。鬼気迫る光景だ!)

 ここまで書いたら、察しの良い方でなくとも事情は分かってきただろう。
 そう、小生、脳裏には、「タンブル・ウィード」(和名では「回転草」あるいは「風転草」)を思い浮かべていながら、図書館に行って調べても、「タンブル・ウィード」という言葉や写真を見つけることが出来ず、そのうち、「スパニッシュ・モス」(「フロリダ・モス」とも)という「エアー・プラント」(又は、「エアプランツ」)を発見し、これでいいかな、これが千切れて、地上を転がって円っぽくなってるのが、よく西部劇で目にするアレなのかなと、まあ、適当なところで探求を切り上げてしまったわけである。

 それがなんと随分と遅まきながら、数日前になって、ひょんなことから、「回転草」という言葉に出会ったのだ。それは、過日、読み終えたアーネスト・ゼブロウスキー著『円の歴史―数と自然の不思議な関係 Kawade new science 』(松浦 俊輔訳、河出書房新社)において。
 つまり、自然界において見出される球状の生物ということで、「果実、木の実、種子、げっ歯類の糞」などと共に、この「回転草」が例示されていたのだ(丁寧にも、「乾燥地で風に吹かれて転がる植物」とまで注記してある!)。これだ! と、ユリイカの心境だったのは言うまでも無い。

 尚、ネット検索していたら、「劇中に登場した転がる草は、俗に「タンブルウィード」と呼ばれ、日本では「おのころ草」の名で知られる。西部の乾き切った風に吹かれるまま転がり、風がやめば歩みを止めて、またつぎの風を待つ。まさしく根無し草だが、気候苛烈な地域で生存するためにこの植物が身につけた、それが術なのだ」といった記述を見つけた。
 が、別に疑うわけではないのだが、裏書してくれる別のサイトがネットでは見つけられなかったし、手元にも資料が用意できないので、そういった情報があったとだけメモしておく。
 一方、和名に関しては「回転草」が正解かどうかは別にして一般的のようだが、ネットで見つけた「風転草」は、検索事例は少ないものの、味わい深い和名だとは思う。

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コメント

TBありがとうございました。私のブログのものは、根付いているのでタンブル・ウィードではないと思いますね。イランにはないのかと思っていましたが、ウクライナが原産とあれば、ないことないという気がして来ました。イランの植物がほとんど出ている植物図鑑で探してみましょう。

投稿: えるだま | 2006/12/22 09:36

えるだまさん、逆TB、コメント、ありがとう。
確かに雰囲気はともかく、根付いているのでタンブル・ウィードでないのは明らかですね。
ネットでは、なかなかタンブル・ウィードの画像が見つからない。日本(語)のサイトではあまり知られていないってことでしょうか。

投稿: やいっち | 2006/12/22 13:01

タンブル・ウィードらしいものを探してみました。TBさせていただいたのですが、ちゃんとTBされるでしょうか。

投稿: えるだま | 2006/12/22 14:18

えるだまさん、調べてくれたのですね。
残念ながら、「タンブル・ウィード(アカザ科)」のほうはTBされていないようです。
念のため、本文に注記を付しておきました。

投稿: やいっち | 2006/12/22 16:39

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