君影草…鈴蘭
『十七季』(東 明雅、丹下博之、佛渕健悟 編著、三省堂)を何気なく捲っていたら、初夏(植物)の季語に鈴蘭があることに気づいた。
けれど、近頃、実際に鈴蘭の花を見た記憶がない。見ているかもしれないが、地味な花なので印象に残らないのか、それとも、高原の花というから、あまり山間の道を歩いたりしない小生には、名前ほどには馴染みの花ではないのかもしれない。
『十七季』には、鈴蘭(初夏・植物)については、「白い壺状の花を総状につける。同類=君影草」とある。
今日はせっかくだから、鈴蘭のことをもう少し、調べてみたい。
ならばとネット検索してみたら、いきなり「毒草:スズラン」といった頁をヒットしてしまった。
素敵な画像が豊富に載っているし、鈴蘭についての説明も詳しい。
冒頭に、「高原とかに結構自生しています。春から初夏に白い可憐な花を咲かせ香りもよいですが、毒の主成分は水に溶けやすく生けた花瓶の水でも危険なので、家庭では十分に注意したほうがいいですね。花の部分がもっとも毒性が強いそうです。ヨーロッパではこの花で作った水薬を「黄金水」と呼び、片思いの相手にふりかけると気持ちが通じる媚薬としても用いられたといわれます。」とあるが、以下に続く記述も併せると、もうこれ以上、ネット検索する必要がないようでもある。
「「ラン」と付いていますが本当は「ユリ」の仲間」というのはともかく、『鈴蘭畑で眠ってはいけない・・・』という。花などに毒性があるからなのだろう。
なのに、「ヨーロッパではこの花で作った水薬を「黄金水」と呼び、片思いの相手にふりかけると気持ちが通じる媚薬としても用いられたといわれます」というのは、どういうことなのか。
相手を殺したいほどに愛しているということ? でも、水薬って、この花に限っては危ないはずじゃないの?
「FLOWER PHOTOGRAPH」も魅力的な画像が豊富だ。
その中の「FLOWER PHOTOGRAPH:スズラン(鈴蘭)_Convallaria keiskei」なる頁を覗いてみる。
画像も素敵だが、記述も充実している。
「とても美しい姿ですが有毒で、牛や馬に食べられずに残るため、牧草地に群生していたりします」とあり、「※注意しましょう!」という項には、「スズランはどこを取っても毒になります。成分の特徴として心臓に作用し、最初むかつき・悪寒から始まり、ひどいときには痙攣などで死に至るそうです。外国ではベリーやガーリックと間違えて食べる子供が多く、中毒患者はめずらしくないそうです。 スズランの花瓶の水で実際に死亡事故が起きていますので、小さいお子様をお持ちの方は絶対手の届かない所におくべきですし、危ないということもしっかり教えておかなければなりません」とある。
名前ほどにはうっかり馴染めないし、「俳諧では、リリー、君影草の名とともに夏の季語として使われます」と言いながらも、花の可憐さに油断して近づくわけにはいかないようだ。
この頁には、「《 ス ズ ラ ン 伝 説 》」という項目が立ててある。「セントレオナードの森の守護神セントレオナード」の伝説のようだ。
この項を読めば話の概要が分かるが、もっと詳しく知りたい。
「essay...α」なるサイトの「essay...α 5月の、ミューゲ。」という頁がより詳しい。
「大毒蛇との死闘は、三日三晩続き、セントレオナードは残された力のすべてを使いなんとか大毒蛇を倒した。しかし、壮絶な格闘はセントレオナードの全身に無数の傷を負わせた。その傷あとから鮮血が滴り落ち、緑の草を深紅に染めた。しかし、不思議なことにセントレオナードの深紅のあとは、いつの間にか白くて可憐な香りを漂わせたスズランが咲き乱れている。」というし、百蛇の化身が登場したりもするのだが、そうした話の悲劇性や劇的な側面にもかかわらず、鮮血、緑の草、白い鈴蘭と、絵的には鮮烈であり美しい。
鈴蘭という名前も、Lily of the Valley「谷間のユリ」という名称も床しく素敵だが、君影草もまた誰が名づけたのか分からないが、なんと切なく慕わしい名前なのだろう。
花以上に、この名前が想像力を掻き立てる。琴線を掻き鳴らす絶妙なネーミング。
ところで、あれこれ調べてみたら、君影草(時に君蔭草とも)とは、あくまで日本の在来種の鈴蘭の別名であって、今の日本にはドイツ鈴蘭に席捲されていて、日本種の鈴蘭は稀になったという(「坂東第9回」なる頁の「坂東第9回サロントーク ”花博士「花12ヶ月」を語る” 金田 和友」という項を参照)
花壇などに植えられるものも、ドイツ鈴蘭がほとんどのようで、確かに鈴のような白く小さな花々は眩しくもあり綺麗でもあるが、ドイツ鈴蘭からは決して君影草と呼称したくなるような面影は浮んでこない。
もう一度、「毒草:スズラン」なる頁に戻ってみよう。
「園芸種で多いのはドイツスズラン(Convallaria majalis LINN.)という種です」とした上で、「日本スズラン」の画像が載っている。
「ひっそりと咲きました。ドイツスズランと違って葉に隠れるようにしています」という。
別のサイトによると、「葉の影に隠れるように可憐な花をつける様を、殿方の影に寄り添う伝統的な日本女性の風情を見立てた命名」だとも。
なるほど、これならば君影草というのも、納得である。こうした花の風情を君影草と名づけるセンスに改めて脱帽だ。
小生の好きな歌手の一人に川中美幸がいる。彼女の持ち歌に「君影草~すずらん~」という曲があったっけ。小生、この歌で「君影草」という名称を覚えたのだった。
さすがに歌詞はネット上では見つからなかった。メロディは浮ぶが、正確な歌詞までは覚えていないし、書くわけにもいかないのが残念。
ドイツ種の鈴蘭も見てみたいが、在来種の君影草になんとか出会いたいものである。
鈴蘭の打ち出の小槌の花床し
鈴蘭の夏呼ぶ鈴の音の涼し
募れども君影草の恋なるや
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コメント
数ある好きな花の中でも、5指にかぞられる花、それが鈴蘭です。
君影草というネーミングもまたいいですね。
基本的に白い花が好きな僕は、カスミソウ、ユキヤナギ、白いジンチョウゲetc.と楚々とした花が好きです。
そういうことから、鈴蘭も大好きです。
各サイトの情報も興味深く読ませていただきました。
イタリアのファッションカラーの話も面白いです。
イタリアンファッションは大好きで愛用しています。
最近は拘らなくなりましたが。
「募れども君影草の恋なるや」
この句、いいですね
投稿: 勿忘草 | 2006/05/09 23:51
昨日だったか、北海道から皇室へ鈴蘭の花が届けられたというニュースがありましたね。例年のことだとか。
北海道はこれからスズランが見頃になるのかな。
やはり外来種のスズランなのか、知りたいものです。
いずれにしても、スズランの楚々とした風情、可憐さは切ないですね。
投稿: やいっち | 2006/05/10 15:51