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2006/05/31

展覧会カタログの愉しみ…

 今橋 映子編著の『展覧会カタログの愉しみ』(東京大学出版会)を読了した。
詩人の眼 大岡信コレクション展」を見に行った際、つい本や雑誌は当分買わないという禁を犯して(?)カタログを買ってしまった。帰り際、売店に並ぶカタログ類を見てしまっては、入手したいという誘惑には勝てなかったのである。
 そのわだかまりがあったのだろうか、図書館でカタログについての本が目に付いてしまった。それが本書である。

Imahasizuroku

 が、「読書拾遺…樹の花にて」でも書いているが、カタログは本(や雑誌)の扱いをされていない、本来は、「一般書店で購入することも図書館で閲覧することもできない」類いの冊子なのだということを遅まきながら知ったのだった。

Anan1513

 余談続きだが、「恒例! 年に一度のSEX特集! 女の子のためのエッチDVD付き。倖田來未も登場!」というキャッチコピーに負け、初めて「anan 1513号」を衝動買いしてしまった。カタログを買ったことで、財布の紐が緩んだのか、もともと箍が緩んでいるだけなのか…(このananの感想も時間があったら、掻いてみたい…、じゃない、書いてみたい。さて、ここで問題です。小生は上記のコピーのどの言葉に誘惑されたのでしょう?!)。

 本書(本冊子『展覧会カタログの愉しみ』)を読んでの収穫はいろいろあったが、その前に、今、話題になっている盗作騒ぎに触れざるを得ない。

 関心のある方は、テレビ・ラジオ・新聞その他で既に情報を得ているものと思うが、ネットでは例えば、「Yahoo!ニュース - 産経新聞 - 芸術選奨画家、盗作か 洋画の和田氏 文化庁調査」などで大よその事情を知ることが出来る。
「今春の芸術選奨の美術部門で文部科学大臣賞を受賞した洋画家の和田義彦氏(66)が、受賞理由になった展覧会にイタリア人画家の作品と酷似した絵を多数出展していたことが二十八日、分かった。イタリア人画家は盗作だと指摘、和田氏は「一緒にデッサンしたためだ」と主張している。文化庁は、芸術選奨の取り消しも視野に事実関係を調査している。」というもの。

 実際、テレビで見る限りは、指摘されている十数点については、素人の勝手な印象として、「和田氏がイタリア留学中に交流があったローマ在住の画家、アルベルト・スギ氏(77)の作品」と、構図など、非常に似ている。
 内輪の話でなら、基本的にコピーした作品で、最小限、上塗りの仕方を変えたり、色合いを変えているに過ぎないと断定してしまうだろう。
 しかし、所詮は素人の目に過ぎない。また、実物を見ていないので、安易な決め付けは早計であろう。
 両者の作品を並べての展覧会を行ったら面白いのではないかと思う。
 和田義彦氏も自信があるなら、堂々と展示して見比べてもらえばいいのだ。
 案外と芸術選奨に推奨した先生方の目がさすがだった、慧眼だったと分かるかもしれないのだし。

 思えば、これら、今、盗作が疑われている作品の数々はローマ時代の勉強の成果なのだろう。仮に盗作だった場合であっても、問題は和田義彦氏がその後、どのようなオリジナリティを発揮されたかどうか、なのだと思う。
 後年(近年)、和田義彦氏ならではの画境を示されているならば、一連の話題の作品の数々は若い頃のエピソードであり、模写研究の成果に過ぎなかったということになるわけである(模写したと認めたならば、であるが)。
 全貌を一覧して初めて和田義彦氏の画業の意義が見えてくるのかもしれない。

 恥ずかしながら、小生は洋画家の和田義彦氏のことは今度の件で初めて知った。芸術選奨画家ということでその際のニュースは横目で見聞きしたはずだが、印象にはまるで残っていない。
 調べてみたら、昨年(2005年8月2日(火)~2005年9月19日(月))「渋谷区立松濤美術館」で「ドラマとポエジーの画家 和田義彦」という題名で展覧会が行われていたのだった(情けないことに、松濤美術館へも一度も足を運んだことがない。松濤という地名に負けてしまっている…)。
 ここには、「三重県海山町で生まれ、愛知県立旭丘高校美術過程を経て、1959年東京藝術大学油画科に入学しました。1964年に初の個展を開催。翌年から6年にわたってイタリア政府給費留学生としてローマに滞在、主にローマ中央修復学校で、イタリア古典絵画の模写研究を行いました。その間、スペインにも滞在して西洋古典技法を修得しました」といった紹介が載っている。

 小生は見ていないので、ネットでの情報を参照すると、「弐代目・青い日記帳 「和田義彦展」が詳しい。温厚な人柄に接し、また本人と実際に話もされたとか。
 実作家と直に話をしたことの無い小生は、それだけでも羨ましい。
 ここには、「神社の神職を父に生まれている」以下、杓子定規ではない紹介が載っていて参考になる。

 さすがにこのブログでは、今、話題の件でコメントがいろいろ寄せられているようだ。実物を見ていない小生には議論の輪に付け入る余地も無い。
 ただ、「森村誠一氏の本の装丁や挿絵も手がけている」などとあって、ああ、あの絵を描いた人なのか、という発見があった。だったら、絵にも疎い小生だが、森村誠一氏の小説は若い頃、結構、読んだだけに、和田義彦氏の絵画の世界に知らない間に接していたのだと、今更ながらに気づかされたのだった。

写真館「著名人・芸術関係」35写真館「著名人・芸術関係」35」を覗くと、「和田画伯松涛美術館個展開催記念パーティ、シェ松尾にて」の模様が数々の写真で確かめることが出来る。
 錚々たる人物群の凄さに驚くだろう。どうやら森村誠一氏のサイト(頁)らしいが、ホームページへのリンクボタンが見つからず、断定はできない。
 あるいは、「森村誠一公式サイト」の中の頁なのかもしれない。

 肝心の今橋 映子氏編著『展覧会カタログの愉しみ』(東京大学出版会)に触れる余地がなくなった。
 トミ・ウンゲラーTomi Ungerer 1931~)とか、「江戸時代後期に出島にやって来たオ ランダ商館医師シーボルトのお抱え絵師」の川原慶賀のこと、前々から一度は大雑把にでも調べてみたいと思っていた薩摩治郎八のことなどに触れたかったが、稿を改める。
 中でも、「黒田清輝ら明治の日本洋画壇に新風をもたらした画家たちの滞仏中の師であった、ラファエル・コランを再発見したことは収穫だった。
 もう少し言うと、ラファエル・コランの画業を垣間見て、黒田清輝の仕事を素直に見直そうと思わせてくれた、ということになる。このことは、一言では纏めきれないので、これまた別の機会を設けて、ということにする。
 いやー、絵の世界も奥が深い!


[ 「スギ氏ががこの件に関して声明文を発表」しています:
Alberto Sughi 30 May 2006
 本文で参照させていただいているサイトの当該記事(弐代目・青い日記帳 「和田義彦展」)へのコメントの中に紹介されていたものです。そこには概訳が示されていました:
 私は、まず、在ローマ日本大使館によって、つぎに、東京の関係者から直接、「和田イオシヒコ[義彦]の疑惑に対する文化庁の調査」について知らされました。和田は最近大変重要な文化庁による賞を受賞したそうですが、この和田に対して、私の作品を盗作した疑惑がかけられていると言う事です。私が、彼の作品のカタログおよび写真を調査したところ、和田の作品のほとんどが私の作品の完全なコピーであるということを確認しました。大変に遺憾です。
 この著作権違反は、アーティストが作品の唯一の所有者であるとする権利を傷つけるものであり、これは大変に重大な国際法違反であります。和田は、個人の利益のために、この国際法違反をおかしました。
 同時に、私は、関係者はこの最終的な犯罪者(和田)に対して賞を与えた事は、大変な不注意であったと考えます。
 この数日間、私は日本のメディアやジャーナリストに文字通り取り囲まれたことから、この件は大変な騒ぎを巻き起こしていると想像します。 (記事上梓当日追記)]

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コメント

TAKさんのブログ収拾がつかなくなってますね、困ったことです。
僕のブログにも検索してこられる方がいるようです、気さくなのは良いが内容に深みがないという記事を書いたのでー。
さて松涛美術館は「骨董誕生」の展覧会をやっています、ガラクタでも好き者には「骨董」になるという展覧会ーこんなこといっちゃまずいかしら。

投稿: oki | 2006/06/01 23:18

話題が話題だから、しばらくは仕方ないですね。
相変わらず、盗作じゃないと言い張っているようですし。
oki さんのサイトに、今回の件で、和田氏を擁護するかのような(少なくとも結果的に)意見を書いている人がいましたね。
専門的なことは分からないけど、人間の直感や第一印象って結構、大事。それなくして鑑賞などできるはずもない。
ピカソとか模写は徹底してやったけど、模写なのにピカソになるのが凄いね。
和田氏は模写でも盗作でもないのに(本人の弁だと同じ幹から違う枝葉を付けたということのようだけど)独自性という印象が薄いのが残念。

それより、TAKさんのホームページが先月、20万アクセスだったようですね。
我が無精庵徒然草も火曜日の未明に15万アクセスとなりました。

松涛美術館、一度は行きたいけど。ちょっと敷居が高い。

投稿: やいっち | 2006/06/02 07:13

こんにちは。
TBありがとうございました。

色々あって…お返事おそくなりましたが
こちらからも送らせていただきます。
嵐は過ぎ去ったようです。

拙掲示板にもお祝いのお言葉いただき
ありがとうございました。

これからもどうぞよろしくお願い致します。

投稿: Tak | 2006/06/11 14:19

Tak さん、アラシ、凄かったですね。やったことは拙いけど、話題にするほどの画家だったのかどうか疑問に思ったりもしますが。
小生のホームページは更新が二年間、滞ったまま。貴サイトが眩しいです。中身のあるサイトで、20万ヒットは、とにかく凄い!

投稿: やいっち | 2006/06/12 07:06

ふと思うのですが、これで全国的知名度を得た和田画伯、この人の画集や展覧会カタログは美術館側も発売中止にするでしょうが、逆に古本屋やネットでは高値がついているんじゃないかと。
あと知名度を得たスギ氏、この人の展覧会を開催する美術館なんてないのかしら。

投稿: oki | 2006/06/19 22:47

okiさん、何処かの掲示板でも書いたけど、つまるところ、その作品に魅力があるかどうか。
仮に和田氏の画が盗作でも、その作品に人を惹き付けるものがあったら、それはそれでいいと小生は思う。
で、正直なところ、全く、和田氏の作品には魅力を全く感じません。
一時的に高値が付いても、アダ花で終わるのは必至でしょう。
で、スギ氏についても、似たり寄ったり。つまらない。
ま、きっと何処の美術館というより、テレビのワイドショー的な番組で企画するかもね。

投稿: やいっち | 2006/06/20 03:33

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» 「和田義彦展」 [弐代目・青い日記帳]
渋谷区立松濤美術館で開催中の ドラマとポエジーの画家「和田義彦展」に行って来ました。 松濤美術館までは渋谷の駅からかなり「坂」を上って距離を歩きます。 弱虫な自分は井の頭線で神泉駅まで…暑かったんです。今日の午後。 (帰りは坂を下って歩いて帰りました) 目的は現在開催中の和田義彦展。 1940年生まれの和田氏は現在65歳。 現役で活躍されている画家さんです。 名古屋芸大教授や武蔵野美術大学などで 教鞭を執っている(いた)画家さんでもあります。 『芸術新潮』... [続きを読む]

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