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2006/04/29

久々の読書拾遺

 ハーマン・メルヴィル著の『白鯨―モービィ・ディック』(千石 英世訳、講談社文芸文庫)を29日、読了した。感動の一言だ。小生ごときが感想文を今更綴っても詮無いので、読了の報告だけしておく。
 ただ、アメリカの魂が表現されている、とだけ書いておく。
 やや古くはスタインベック著の『怒りの葡萄』 (大久保 康雄訳、新潮文庫など)や、ポピュラーな小説ということではマーガレット・ミッチェル著の『風と共に去りぬ』 (大久保 康雄,/竹内 道之助訳、新潮社。続編に『スカーレット』(森 瑶子訳、新潮文庫)がある。これも読んじゃったよ!)、あるいはマイケル・ギルモア著の『心臓を貫かれて 上・下』(村上 春樹訳、文春文庫)などに感じる殺伐とした茫漠たる魂を、『白鯨』で一層、凄みを増して感じてしまった。

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→ 4月30日、都内芝公園脇から春霞の東京タワー。春麗な日曜日だった。仕事も。

 海洋文学において名作という理解もあるが、とてもその枠には収まりきらないものがある。
白鯨 - Wikipedia」を読まれると面白いかも。
 特に、「この作品は象徴性に富み、モビー・ディックは悪の象徴、エイハブ船長は多種多様な人種を統率した人間の善の象徴、作品の背後にある広大な海を人生に例えるのが一般的な解釈であるが、サマセット・モームは逆に、全身が純白で大自然の中に生きるモビーディックこそが善であり、憎しみに駆られるエイハブが悪の象徴であると解釈している(『世界の十大小説』岩波新書)←これがまた面白い!」とある点が興味深い。
 一体、モービィ・ディック(小説の中ではしばしばリヴァイアサンとルビが振られたりする)は、そしてエイハブ船長は何を象徴しているのだろうか。

 まあ、単純にはアメリカの先住民を殲滅してまでアメリカという広大な大陸を開拓し西部に至る人間の営みの不条理さだと思っておくのが穏当だと思うが(その先住民も南北のアメリカ大陸の動物たちを多くは食べ尽くして量大陸に行き渡っていったのだった! 歴史は繰り返す、但しその装いを変えて、ということか)、小説はそうした賢しらな憶測を吹き飛ばす凄まじさに満ちている。海という砂漠、アメリカ大陸という混沌の海。
(これまで書いてきた「白鯨」関連の拙稿は末尾に記す。ところで謎なのは、この記事をアップしたのは4月30日だったのに、29日扱いとなっている! 何故?

 今は、アリエル・ドーフマン著の『世界で最も乾いた土地―北部チリ、作家が辿る砂漠の記憶』(水谷 八也訳、ナショナルジオグラフィック・ディレクションズ、早川書房)を読み始めている。
 余談だが、図書館でこの本と一緒にレスリー・ダントン=ダウナー/アラン・ライディング著の『シェイクスピアヴィジュアル事典』(水谷 八也/水谷 利美訳、新樹社)なども借りた。
 訳者に注目すると、水谷 八也氏が偶然ながら共通している。借りようかとペラペラ捲っていて気づいた。思えば、ほぼ同じ書架で共に見つけたのだから、驚くほどの偶然ではないのだろうが。

『世界で最も乾いた土地―北部チリ、作家が辿る砂漠の記憶』に戻る。
 偶然というと、29日のテレビ「世界・ふしぎ発見!」(TBS)での本日の特集は、「南米4000㌔!モンゴロイド大冒険」だった。その内容の一部は、「南米チリで1万3千年前の人間の足跡の化石が発見された。これを残したのは、氷河期にベーリング海峡を渡って南米の端まで歩いたモンゴロイド。彼らの旅を南米各地からリポート」である(「Yahoo!テレビ - 世界・ふしぎ発見!」より)。
 本書『世界で最も乾いた土地―北部チリ、作家が辿る砂漠の記憶』の内容はレビューによると、「ノルテ・グランデ―チリ北部の砂漠地帯は一滴の雨も降らない世界一乾いた土地。すべてを砂漠で覆い、過去をも腐食させることなく保っているそこで目にするのは世界最古のミイラ、南北アメリカ大陸最古の足跡、かつて権力者たちが覇権を争った硝石鉱山、一時の夢のように花咲いた工場街の跡、そしてピノチェト政権によって親友が銃殺された現場…。旅はいつの間にか、砂漠の近代史、人類の歴史、さらには生命の起源をも現在に重ねた時間を巡る壮大な瞑想となっていく。無尽蔵に貯め込まれた“砂漠の記憶”が紡ぎ出す過去と未来から垣間見える現在の意味とは…。 」で、まさに南米はチリの話であり、筆者のルーツを探す物語であり、遡っては人類の歴史を辿る話であり…。
「南米チリで1万3千年前の人間の足跡の化石が発見された」というが、南北アメリカ大陸ではチリでのものが人間の足跡の化石としては最古のものなのである。

 偶然とはいえ、29日のテレビ「世界・ふしぎ発見!」(TBS)なる番組(特集)は小生のために組まれたようではないか!
 
 はしゃぐのはこれくらいにして…閑話休題:

 本書の眼目は、「元・亡命作家自らのルーツを探る旅はまた、73年9月11日のクーデターで処刑され行方不明の友の遺体を求める旅でもあった。微細な調査により、チリの過去と現在が露わにされる反骨と情熱の紀行」のようだが、読み始めたばかりなので、感想文は後日、書くかもしれない。
 ただ、著者のアリエル・ドーフマン(スペイン語読みではドルフマンだとか)というと、『ドナルド・ダックを読む』(アルマン・マトゥラールとの共著。山崎 カヲル訳、晶文社)の著者として銘記されている方がいるかも。
 書評は読んだことがあるが、本については小生は未読。面白そう。

 モンゴロイドについては、あらましに留まっているようだが、「モンゴロイド - Wikipedia」や、やや怪しげな説がお好みなら、「グラハム・ハンコック 特集 謎の人達 最初のアメリカ人に関する新たな発見」なるサイトが面白いかも。
 でも、実際に南北アメリカ大陸を踏破した記録「グレートジャーニー 2001年人類の旅5万キロ」が一番かな。

 さて、さる方より、俳句(連句)関連の本を戴いた。小生は俳句を食い散らかすように楽しんでいるだけだが、俳句には連句という、これぞ俳句の醍醐味という楽しみ方がある。それを少しは勉強したらということかもしれない。小生も興味があるが、その相手が見つからない。もっと言うと、気が小さくて連句の仲間に入るのが苦手で手が出ないままだった。指を銜えて眺めているだけだったのだ。
 戴いた本の題名だけ、今日はメモしておく。
連句・俳句季語辞典 十七季』(東 明雅、丹下博之、佛渕健悟 編著 三省堂)
誹諧漢糅行 慈眼舎連籍 (八)』(赤田 玖実子著、緑地社)
『満天星』(水野隆著、沖積舎):ネットでデータが見つからず。満天の「満」はちょっと表記が違う。


(最後に:)
 これまで「白鯨」に関連してあれこれ書き連ねてきたけれど、一瞥すれば分かるように、いずれも感想というより派生的な事項を興味の湧いたその都度、気ままに周辺を辿ってみただけの記事ばかりだ:
『白鯨』余聞・余談
クジラ後日談・余談
白鯨とイカと竜涎香と
私の耳は貝のから 海の響きをなつかしむ
「白鯨」…酷薄なる自然、それとも人間という悲劇
白鯨と蝋とspermと

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