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2006/04/12

私の耳は貝のから 海の響きをなつかしむ

高速船が衝突事故、49人負傷~鹿児島、クジラの可能性」といったニュースが、つい先日、マスコミを通じて流れた。
9日午後6時ごろ、鹿児島県・佐多岬の北西沖約3キロの錦江湾入り口付近を航行していた鹿児島商船(鹿児島市)の高速船「トッピー4」(281トン、赤瀬強一船長、乗員5人、乗客103人)から、「何かに衝突し、多数のけが人が出ている」と第10管区海上保安本部(鹿児島)に118番通報が入った」というもの。
「赤瀬船長は「船左後部の水中翼に何かが当たり、船が前のめりになった。目視では確認できなかったので流木ではなく、クジラのような海中生物の可能性が高い」と話しているという」のだが。
「鹿児島商船によると、トッピーは午後4時20分、屋久島・宮之浦港を出港し、種子島・西之表港、指宿経由で鹿児島港に午後7時20分に着く予定だった。事故当時は全速力に近い時速約80キロで航行していた」というが、そんな高速の船に鯨が衝突したのなら、被害甚大になるのも当然だろう。
「船にはクジラが嫌がる音波を出す「アンダーウオータースピーカー」を備えていたが、クジラの種類によっては効果がないという」。そもそも高速の船が運航していたら、スピーカーからの音だけじゃなく、船からの並を蹴散らす衝撃波(の音、高周波も低周波も含めて)が鯨には察知可能だろうと思えるが、実際には、そうでもないのか。

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→ 先週末、都内某大学の構内にて。数日前なら桜吹雪の中を走れたはずだが。

 今朝のニュースだと、会社のトップは、ぶつかった跡が見えるのが「船左後部の水中翼」や船底の一部だけで、前部の水中翼にはぶつかった徴候がないことなどを挙げて、衝突したのは鯨ではない可能性を示唆していた。
 実際、ぶつかった相手を確認(現認)していないようだから(夕方とはいっても、真っ暗だったのかどうか、視界はあったのかどうか)、正確な事故原因については、明日(13日)、海上保安庁による(警察も交えて行われるという)、衝突の相手や衝突の原因・メカニズムについての詳細な調査結果を待つべきなのだろう。

 鯨というと、過日も鯨絡みの事故があったばかり。
 二月の下旬からハーマン・メルヴィル著の『白鯨(上・下)』(講談社文芸文庫)をゆっくりじっくり読み続けている小生としては、他人事ではなかった。

 特に、今回の事故のあった日の前日、小生は『白鯨 下』の74章「抹香鯨の頭――対照的考察」や75章「背美鯨の頭――対照的考察」なる章を読んでいたから、事故の第一報をラジオで聴いたときは、胸がドキドキしてしまった。
 今は上記したように、直接の原因(衝突の相手)が鯨ではない可能性も一部で示唆されているので、この話題を採り上げるのは的外れかもしれないが、『白鯨』を読んでいることでもあるし、仮に船と鯨がぶつかるとしたら、まずは鯨の頭である可能性が一番大きいし、まあ、ちょっとだけメモしておく。
(尚、『白鯨』については、メモ(?)第一弾として「「白鯨」…酷薄なる自然、それとも人間という悲劇」を、第二弾として「白鯨と蝋とspermと」を既に書いている。これらのほうが、作品としての『白鯨』に即した感想になっている…かも。)

 先に進む前に、「背美鯨捕鯨絵図」(太地町 和田新氏所蔵)にて(ホームページは、「ここ」)、文字通り、「背美鯨捕鯨」の様子を絵図で見てもらおう。勇壮だ。
 小生、プールでなら(体力次第だが)泳げないことはないが、海は怖い。まして船で沖に出るなんて想像するだけでちびってしまいそう! 池のボートも怖いし。
 だから、捕鯨どころか、海に船を出しての漁は見るだけでも怖い。猟師さんたちは尊敬を超えて、ひたすら畏敬の念で見てしまう。まして遠洋漁業だなんて。
「白鯨」は、アメリカ大陸沖合いのみならずアフリカやインド洋を経由して遠く我が日本の周辺、そして太平洋まで鯨を追い求めて船を走らせるのだ。格闘シーンが何箇所かであるが、そうしたシーンだけを集めたら冒険活劇小説に仕立てることも可能だろう。
 ついでなので、「太地浦捕鯨絵図」(同上)も覗いてみてもいいかな。
 関連するサイトとして、「揺れる足もと、またたく光」(作・演出 楠本幸男)なる頁が参考になるし、面白かった。

 あるいは、「鯨絵・捕鯨史料」の中の、「鯨之図」などを閲覧するのも楽しいだろう。
 小生がたまたま事故の前日、読んでいた「背美鯨」や特に、「末鯤鯨」の絵に注目(『白鯨』では「抹香鯨」と表記されているが)。
 これらの絵図は更に拡大できる!

 本題には関係ないが、「スクリームショーについて」も、興味深いサイトだ。傍題に「アメリカ・マサチューセッツ州の鯨の歯の伝統工芸」とある。小生は、たった今、ネット検索していて遭遇発見したサイトなのである。迫力!

 やっと本題に入る。「マッコウクジラ」なる頁も参考になるし、写真を見ていて楽しいが、今回は「マッコウクジラ」なる頁を覗く。冒頭に、「マッコウクジラは世界の各大洋に広く分布する大きなクジラ。角張った大きな頭が印象的。1頭の雄が複数の雌と群をなす。捕鯨が盛んな頃は特に頭から採れる脳油(sperm)が工業用に重宝された」とある。
(この頁を最後までズルズルとスクロールして欲しい。迫力ある画像が拝める!)
 そう、画像を幾つか見てもらったと思うが、あるいはホェールウォッチングが盛んだし、動物としてのクジラは人気があるので、写真で、それとも実物を(!)見た事のある方も多いだろう、あの迫力のある断崖絶壁のような頭。そこには、脳油(sperm)が詰まっているのだ。
『白鯨』では、その脳油を取るために悪戦苦闘するシーンも描かれている。技術の粋を尽くしても、困難を極めたのがよく分かる。

 白鯨のモデルになったとされるマッコウクジラ。その巨大な頭には油が何トンも詰まっていることは上記で分かったことと思う。
 では、何ゆえ、頭部にこんなに油が詰まっているのか。寒さ対策なら体全体を脂肪分が覆っているはずではないか。
マッコウクジラ。デカイ頭の謎-ついでにゾウアザラシ」なる頁を覗く。
 結論から言うと、「マッコウクジラは頭に”脳油”という油がビッシリ入っていまして、海水を鼻から取り入れて冷やして頭の比重を高くさせ、深層まで一気に潜れるそうです」とのこと。「つまり深く潜る為にデカイ頭にオモリの役割をさせてるの」だとか。
「浮上する時は、海水を鼻から吐き出し、血液を送って暖めて比重を軽くし”浮き”の役割をさせ」るのだという。
 だからこそ、「マッコウクジラは2,500m以上もの深海まで潜れ」るというわけだ。
 しかも、どうやら一気に潜ったり浮上したりするらしい。潜水病に罹らないのだろうか。また、なんのためにそんなに深く潜る必要があるのだろうか(子供のクジラは深海には到底、潜れない。他のクジラたちがその間、子クジラを守ってくれているという)。

『白鯨』を読んでいると、ひたすらに茫漠たる思いに駆られる。私の耳は貝のから 海の響きをなつかしむ(コクトー)。海の響きは海の彼方からのように、脳髄の奥からも伝わってくる。眩暈のするほどに世界は不可思議に満ちているのだ。

 蛇足:雑学的知識となるが、「スターバックスファンサイト ★バ・リ・ス・タ・バ★」より、白鯨に関係する(?)情報を。
 それは、「スターバックスの名前はハーマン・メルビルの小説「白鯨」に登場するコーヒー好きの一等航海士スターバックに由来しています。ロゴマークは北欧神話に出てくるサイレンという名の美しい歌声を持つ人魚がデザインされています」というもの。

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