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2005/12/23

読書拾遺(シェイクスピア・ミステリー)

 表題を「読書拾遺(シェイクスピア・ミステリー) 」と大仰なものにしてしまったが、まあ、相も変らぬ雑読メモである。
 車中では、小山 慶太著の『肖像画の中の科学者』(文春新書)を読んでいる。
(実際には、この年末は、タクシー業務に関しては恐らくは96年末以来の忙しさを味わっているので、今月初めまでのようには、何処かに客待ちのために車をつけて、待機している間に読むという時間がほとんど取れていない。仕事に関しては、嬉しい悲鳴だが、車中読書に関しては困る…。ああ、不謹慎!)

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← 昨夜の休憩時、お月さんを見た。月と街灯が明るさを競っている?!

 レビューによると、「コペルニクスから寺田寅彦、ホーキングまで、歴史に名を残す科学者二十五人の肖像画に眼をこらせば、そこには人間的な、余りにも人間的な素顔が炙り出されてくる。知らず知らずのうちに科学史を散歩できるミニ列伝。」というものだが、数年前に出版された本。
 科学の啓蒙書を読むのが好きで、科学者の伝記を読むのが読書などをするようになった端緒みたいな小生だし、しかも、そこに絵画や美術に関する話題が組み合わさっているとなると、食指が動くのは当然。
 本書にある肖像画の大半は、小生ならずとも馴染みの絵で、教科書やネットでもちょっとした年賦に付されている画像の形で大概、見知っているものである。
 肖像画ということで、画家が誰かということには、少なくとも小生はほとんど関心を寄せたことはなかった。本書の中で画家の名を初めて認識した人ばかりである。
 多分、本書を読了したら、まずは二度とその画家のほかの作品を目にする機会もないし、画家を意識することもないかも。
 なるほど、肖像画を描く立場になってみたら、仕事として相当程度に描かれる科学者の人物像を把握する必要があるし、描かれたモデルを納得させないといけないし、かといってモデルに迎合ばかりしていては、画家(肖像画家)としてのプライドにも響いてくるし、どのように描くかで悩むことが多いのだろうと察せられる。
 それどころか、描かれるモデル本人どころか、科学者を取り巻く関係者をも納得させないといけないのだとなると、厄介至極な仕事である。

 例えば、一九〇八年に「元素の崩壊と放射性物質の研究」でノーベル賞を受賞したアーネスト・ラザフォードのレリーフに関するエピソードなど話として面白かった。せっかく作られたレリーフも当初は非難轟々だったというのである。 
 ラザフォードは自身も優れた科学者だが、鷹揚で親分肌のところがあって、有能だと認めた弟子はドンドン引き立ててそれなりの活躍の場やポジションを与えたりした。
 なんとラザフォードの門下から12人のノーベル賞受賞者を輩出したのだ!
 そうした弟子の一人にロシアのカピッツァがいる。
 師に感謝したカピッツァは、ラザフォードのレリーフをモンド研究所の門に作業シートに覆ったりして密かに彫り付けた。 無論、実際の石彫の作業は彫刻家エリック・ギル。
 が参列者を集めての開陳の時には、まるで似ていないと不評の嵐だったのである。
 エリック・ギルに作業を依頼したカピッツァは断固、周囲の人たちに反論を開始。「肖像は写実性を重んじるべきとう凝り固まった偏見に対し、カピッツァは、モダン・アートでは芸術家がモデルから受けるインスピレーションで作品を作るものだという論陣を張って応戦し」たのだった。
 エリック・ギル自身、以下のような有名なエピソードを持ち出して、自信の程を示したという。つまり、「かつてロレンツォ・デ・メディチが自分の肖像画を依頼したミケランジェロに向かって、「ちっとも似ていない」と文句を言ったとき、ミケランジェロはすました顔で「百年後には、あなたそっくりになるでしょう」と答えた」というのである。
 騒ぎはこれで沈静化したという。
 話はここで終わらない。
 カピッツァに依頼されてエリック・ギルは、モンド研究所の外壁にもうひとつラザフォードゆかりの作品を制作していた。
 それはなんと、天に向かって大きく口を開けたワニである。本書の中の写真に見えるワニの像は、迫力があるが、どこかユーモラスな感も漂う。
「ロシアの伝承によれば、ワニは決して後ずさりしない動物とみなされているところから、偉大な家長の象徴であった。そこからカピッツァは、若い科学者を率いて掲げた目標に向かって邁進するラザフォードに「クロコダイル」というニックネームをつけたのである。」
 実は研究者の仕事ぶりを見守るラザフォードの話し声は、『ピーターパン』のワニを思わせたということもあっての、ワニのレリーフだったとか。

 カピッツァについては、「30年代帰国組ーカピッツァとランダウ」なる頁を読むといいかも。
 エリック・ギルについては、河野 三男著の『評伝 活字とエリック・ギル』(朗文堂)が面白そう。奇しくも、小山 慶太著の『肖像画の中の科学者』(文春新書)と同じ年に出版されている。
 
 このように、ちょっとしたエピソードを絵解きを通じて科学者の人柄や人生に触れてみるのも面白い。ただ、記述内容が少々簡潔すぎる感もある。車中で読むには助かるのだけど。

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