大根…おでんだね
例によって、「季題【季語】紹介 【11月の季題(季語)一例】」を眺めて、あれもいまいち、これも興が湧かない、こんなのは宗教的行事で馴染みがない、などと迷った挙句、今日は、「大根」で決まり。
「大根」が冬の季語なのは、そろそろ雪でも降ろうかという気配の漂う畑に真っ白すぎて青褪めているような、立派な大根が育っていて、その大根を引っこ抜き、手が痺れるような冷たい水で洗い、幾許かは朝の食卓にそのまま上がるが、大部分は干し、やがて沢庵などの形で食される、そんな冬の典型的な風物詩だからなのだろう。
そう、「大根」のみならず、「大根引、大根洗ふ、大根干す、切干、 浅漬、沢庵漬く」全てが冬の季語なのである。
面白いのは、「蒟蒻掘る、蓮根掘る、泥鰌掘る」とは言うが、「大根掘る」とは言わないこと。大根は掘り出すのではなく、引っ張り出すからなのだろうか。
← 青梗菜さんに戴いた「昼間の月」なる画像です。「11月12日、旧暦10月11日、月齢10.1。夜になるのが楽しみな月です」とコメントにあった。どんな月を愛でることができたのだろうか。
と、行き過ぎようとしたら、「酢茎(すぐき)」も大根関連の冬の季語の一つなのに、漏らしてしまっている。
小生、「酢茎(すぐき)」が何なのか、分かっていないのである。
「茎屋」さんのHPを覗かせてもらう。そこには、「すぐきとは三大京漬物の一つです。塩だけで乳酸発酵させ。ラブレ菌を含んでおりとっても身体にやさしいお漬物です」と説明されている。
が、漬物だとは分かるが、原材料が何なのか、書いてない。
「京漬物 京都祇園藤村屋 千枚漬 壬生菜 すぐき しば漬」によると、「葉の部分は刻みで、株の部分は厚切りスライスにして、すぐ召し上がって貰えるようになっております」とある。原材料はというと、「すぐき」とあるだけで(塩もあるけど)、どうやら「すぐき」菜らしい。大根の一種なのだろうか。誰かご教授願いたい。
「大根の花」となると、春の季語のようだが、得心が行かないのは、「一茶の俳句集 【春の句】」の中に、「大根(だいこ)引き大根で道を教へけり」なる句が載っていること。「畑で大根を引き抜いている人に道を尋ねたら、今抜いたばかりの大根で道を指して示してくれた」という意の句だというが、「大根引」と「大根引き」とは、それぞれ似て非なる意味合いを持っているのだろうか。
もっとも、[ 花鳥風月 ]を覗かせてもらうと、「大根引(初冬)」とあって、「大根の収穫の事で、「だいこ引」ともいいます。大根は土に埋まっていますが、葉をつかんで引き抜いて収穫する事から大根引といわれます」と、あらかたの疑問は氷解と相成った。
しかも、その上、上掲した一茶の「大根(だいこ)引き大根で道を教へけり」という句が(初冬)の句として掲げられている。
「大根」の話題なのに、何か忘れてる…。そう、肝心の大根の雄姿を、それとも可憐で柳眉な姿を拝んでいない。「あさ天サタデー 2003年11月15日 「大蔵大根」」を覗くと、「東京で古くから栽培され、いまは「幻の大根」と呼ばれているのが、「大蔵大根」です」ということで、「大蔵大根」の画像を幾つか見ることが出来る。
「昭和40年ごろまでは、世田谷区内で広く栽培され、区の特産品として知られていましたが、病気に強くて栽培しやすい、青首大根の普及によって、自然に淘汰されてしまった」のだとか。
「おばんざい歳時記 第16編 (「新宿俳句ing 和」より) 第31回「大根」」を覗いたら、「大根は原産地はコーカサス地方だそうですが、何といっても日本の味です」とか、「京都の北の鳴滝にある了徳寺で陰暦十二月に行われる大根焚は有名で、季語にもなっています」といった情報を得ることができた。
ここには大根の調理法なども書いてあるが、「竹串のすっと通りて煮大根 弦鬼」なる句が載っていたりして、そうだ、大根というと何といっても「おでん」だなと、思い出させてくれる。
このサイトに、「大根役者」「大根足」などの話題が出るべくして出ている。
「「大根役者」は大根が食中毒をおこさないところから「当らない」役者ということでつけられたもののようです。「大根足」の女学生は最近みかけませんねえ」というが、それぞれについて調べてみたい。
「勉強さしてもらいます!」なるサイトの、「131. 大根役者」にこの言葉の由来について諸説がいろいろ載っている。
やはり、「大根はアミラーゼ(消化酵素)を含んでいるので、いくら食べても絶対に食中りしないことから、「絶対に当たらない(へたくそ故に人気が出ない)」役者のことを「大根役者」と言うそうです」といったところが代表的な説のようだ。
この説には、「大根ってね、消化を促進する酵素が含まれているせいか、食い合わせに間違いが無いんですよ」という意見が加味されてもいいかもしれない。
他にも、このサイトには、ある意味ヴァリエーションのような気もするが、「大根は白い→素人(「しろ」うと) という関係」とか、「大根おろし、ってありますよね。 すぐ、おろされる、から大根役者」だといった説が載っている。
最後に、「エンカルタからの引用」として、「煮物では、ふろふき、煮しめ、おでん、みそ汁の実などに、生食では、おろし、なます、刺身のつま、サラダなどにする。 また、たくあん、べったら漬、千枚漬、みそ漬、粕漬(かすづけ)など、漬物への利用が多いこともダイコンの特徴であろう。 切り干し大根も、漬物とともにダイコンの長期保存を可能にした利用法である。 葉も食用にする。 ダイコンには消化酵素のジアスターゼ(アミラーゼ)が多量にふくまれ、とくにおろしなどで生食すれば、消化、整腸の働きをする。 へたな役者を「大根役者」というのは「あたらない」ことにかけたものである」などとあって、この季語随筆であれこれ調べたことの集約になっているようである。
最後の最後に、大根役者について、「吉本興業の有名芸能人」に聞いたという説が載っているが、蛇足なのか芸人特有の持説なのか、判断は読まれた方に任せたい。
「「大根足」の女学生は最近みかけませんねえ」などともあったが、そんなことはないと思う。結構、若くして立派な、しかも、ついでながら新鮮な大根のように白い脹脛(ふくらはぎ)で闊歩している女学生はしばしば見かける。昔ながらの女性は健在なのである。
ネット検索していたら、昨年のほぼ今頃、この季語随筆で「大根」という季語に触れかけていたことを思い出した。「季語徒然」(November 30, 2004)がその記事なのだが、以下のような徒然なる思い出を綴っただけで、あっさり通り過ぎてしまっていた:
小生の家は、小生が物心付いた時には、兼業農家になっていたものの、それでも、家の目の前は勿論、歩いて数分、十数分というところに田圃が散在していて、荷車などを引いて農作業に向かった。多くは小生が大学時代までに手放され、今では田圃としては全く残っていない。僅かに庭先に畑が少々あるばかり。 それでも、軒先に大根に関わる風景を毎年のように見てきた、干された大根が晩秋の澄み渡った空に、のーんびり揺れていたり、もがれた柿が、これまた軒先にぶら下げられ、干し柿になるのを待っていた。が、蕎麦や蒟蒻、泥鰌は食べたりは勿論するが、植えたり育てたり収穫したり、まして大根や茄子やキュウリやジャガイモなどのように、朝夕に庭先で採ってきて、ササッと洗い、俎板の上で斬った切り口も新鮮なままに食べるという僥倖には恵まれていない。
秋も深まって明け方などロッキングチェアーでうっかり寝ていたりすると寒気で目覚めたりするほどである。こんなときは、大根などの「おでん」で暖まるのが一番だね。大根こそ、おでんの最高のおでんダネ。
大根は煮ても干してもうまいんだ!
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コメント
大根を薄く切ろうとして失敗したら、こんなふうになるのかな。
って、画像と文章をなんとか結び付けたくなったもので(〃^∇^〃)。
太陽と月、対照的なもの言いに使われることが多いけど、月は昼間も出てるのですよねぇ。きっと、昼間はのんきにやってるんです。この屈託のない表情、なにやら、ちょっとずるい気がしてきました。
投稿: 青梗菜 | 2005/11/15 01:58
青梗菜さん、笑わせてくれますね。
「大根を薄く切ろうとして失敗したら、こんなふうになるのかな」なんて、小生、到底、連想できなかったけど、まあ、確かに、こじ付けでもこの記事に載せている意味合いを考え出すべきでしたね。
昼間の月も、明け方ではなく、明け切ってしばらくまでの月も、仕事柄、よく目にします。
影が薄いだろうから、誰も気づかないだろうって、そうはいかないのです。
敢えて皮肉っぽく評すると、夜の煌々と照る蒼白き月は濃すぎる化粧が蛍光灯の明かりに白々しく反射して、その粗が露わになっている。
明け染めてからの、あるいは暮れなずむ前の月は、白粉が市中に舞い上がっているので、濃い化粧がその白々しさの中に紛れている…、だから、まったりしとした、屈託がないかのような表情に映るのでしょう。
って、こんな素敵な画像を見ながら、碌でもない談義でお月さんに申し訳ないです。
投稿: やいっち | 2005/11/15 02:24
大蔵大根なつかしい!
父が肺がんになったとき大蔵病院に入院しまして、あのあたり歩いていまして畑が結構残っているんですよね。大根だったのか。
おでん、コンビニで戦争が激しいですね、どこもおでんやっている。
ローソンなんかはレンジであたためるおでんうってますが、味がいまいち。
弥一さんはコンビニのおでんすきですか?
投稿: oki | 2005/11/18 00:24
大蔵の辺りは小生も懐かしい。
真というのも、夜中だったか仕事でそちらに向かい、住宅街を抜けると、真っ暗な中に畑などがあって、不思議な雰囲気を感じた。
なので、後日(数ヶ月以上、経ってからだけど)どうにも書き尽くしておかないと、という気分になり、掌編を書いたものでした。
コンビニのおでん、好きです。サラリーマン時代、バイクで通勤していて、帰宅時、家の近くのコンビニに立ち寄り、毎日のようにおでんを買って帰ったものでした。
その頃、そろそろ会社で窓際族となっていて、会社の中にも外にも仲間がいなくて、おでんで心は温められなくても、せめて体だけでもと、買って帰ったのです。
ある意味、それが楽しみだったし、その楽しみでサバイバルしていたような。80年代の終わりから90年代の初め頃の話です。
投稿: やいっち | 2005/11/18 08:00